(77) 月と塔-5
溢れんばかりの赦しと優しさが、青い春を満たしている。
魔女、コタダは心を幾重にも重ね合わせながら、窒息しそうな程に、今日を満ち足りていた。
小さな魔女は両の手の指先にゆっくりと魔力を通わせて、丁寧に自分の色を乗せてゆく。魔力のかたちを保ちながら、か細い指先で崩れない様に揺れ動く想いを整える。それは宵闇の波間に浮かび上がりながら、見上げる彼女の瞳に反射する様に煌いた。
主塔4階の居室の中、魔女、ロゼ ロワイヤルは少し離れて佇みながら、その様子を眺めて微笑を洩らしている。細部にわたって精巧に表現された一羽の鳥を見詰め、
「細部まで拘って時間を掛け過ぎてしまうのは性格でしょうけれど、────それでも、良い出来ね」
魔女、ロゼ ロワイヤルは発した言葉の意味を飲み込んで思案する。
成功は何時だって、手掛かりを残している。
他の誰でもない自分が、自分の事に気付いている。
整然と巻かれていた糸が、途中で絡まってしまったとしても、
無理に引っ張る事はあれど、切ってしまう事は無く。
それでも煩雑に縺れて解けなかった糸が、ある一本を引っ張った瞬間に全て解けていく。そして解けた糸は手繰り寄せられ、いつかまた結ばれる。
きっとそれこそが、魔女をして、魔女たらしめるもの。
魔女、コタダが広げた両手を掲げると、飛び立った青い鳥は本来の魔力へと戻っていき、そして自由になってゆく。水面が揺らぎ、輪を広げる様にして、今宵も魔女は願いを託す。
仄暗い闇に佇みながら、 魔女、コタダは余韻を残す魔力の残滓を憂いを含んだ瞳で見詰めている。それでも彼女は静かに、けれども力強く叫ぶようにして、
「探す事をしなければ、見付ける事すら出来やしない。こんなにも簡単な事に、何故気付かなかったんでしょうね」
魔女、ロゼ ロワイヤルは気持ちに寄り添うようにして、
「────好きな事はいつだって、自分達で作り上げていくものだもの。それに好きな事に終わりが訪れるなんて、きっと無い筈でしょう?」
そして不安をかき消す様に呟いた。
小さな魔女が、一体何処へ行くのかは分からない。
けれど小さな魔女は、今も何処かへ向かっている。
失敗した玉止めはそのままに、
ちょっとした綻びは、縫い合わせるようにして。
彼女は静かな笑みで満足を示しながら、
「別れた事に泣くよりも、出会えた事に笑うんだ」
確かな決意が背中を押した。
そして、差し伸べられた手に絡まるその日まで、
小さな魔女は、高鳴る鼓動と旅に出る。
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