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楽園の魔女  作者: 金星
3.知恵の実
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(27) 知恵の実-4

居館の螺旋階段を4階まで上ってゆき、最初に入るその部屋は"控えの間"と呼ばれている。階段に面し、天井に向かって弧を描くような形状をしたその部屋は、中央に吊るされるシャンデリアの光に照らされながら、不思議な雰囲気を醸し出していた。壁には伝承上の生き物や、神々と英雄達の姿が描かれており、美しい天井の模様と合わせて、印象的な部屋だった。



待ち合わせに約束したその部屋で、私は設けられた机に備わる椅子に腰掛ける。

私はそわそわと落ち着かない様子で、双子の魔女の訪れを待っていた。



*



双子の小さな魔女は、静静とした美しさで、厳かな面持ちで影の中から現れた。

お喋りに夢中であった彼女達は先程とはまるで様子が異なっており、魔女達が発する威圧感に圧倒され、私は言葉を詰まらせる。



「────お待たせしました」



ナツコイの声音が、澄んで美しく響いてゆく。

魔女達は部屋に設けられた椅子に威儀を正して静座すると、掌程の大きさの水晶球を取り出して机の上に鎮座させた。



魔女の占いは、主に2種類に分けられる。

1つめはカードや水晶球といった、道具を用いるもの。

2つめは事象や動植物等の様子といった、自然界から何らかの先触れを読み取るもの。


双子の魔女達は、物体や物理現象を見つめることで眼に入った視覚や形象といった幻視を得て運命の流れを予見する。その技法は古くからの手法として用いられ、水や水晶球、魔法鏡といった光学特性を持つ物が主に使用されている。



「さあ、始めましょう」



ハツコイは恐ろしく厳粛した表情で、まじろぎひとつせず呟く。

私は彼女達が時折垣間見せる熟練者としての片鱗や、何気のない所作の美しさに、ただただ感心しきりだった。



小さな魔女達は、姉妹の力を一つにして、魂の記憶を紐解き、未来を見通してゆく。双子の魔女達は、それぞれ、緋色と翡翠色の目で水晶球をじっと見つめながら、手の平で魔力を通わせて温め続ける。気持ちを落ち着かせるように大きく呼吸をし、精神を集中させていく。


水晶球に視線を定め、眼に入って来る形象をハツコイは読み解きながら、


「────────暫くは"学園"に目立った変化はないわね。感情が揺さ振られる訳もなく、予期せぬ感動がある訳でもない。とりわけ日常と地続きの、静かで心地いい穏やかさといったところかしら」


凝視する時間が過ぎてゆく。



しばらくして魔女達は水晶球から手を開放し、緊張の糸が途切れた様に、堅苦しい態度を捨て去っていったのだった。



*



息を呑む私は彼女達が自分と同世代であることを再認識すると、やっと気持ちを緩めるようにして言葉を発した。



「ハツコイもやればできるじゃないですか」



ナツコイは苦々しい記憶を思い返しながらもしかたなく笑い、


「古い伝統手法らしいですけれど、師匠に散々叩き込まれましたからね」


「あんたはもう少し言葉を選びなさい。────まあ、感情と未来の断片を拾い集めて、点と点を線で繋げていくようなものよ。目に見える範囲から予測できる未来は簡単ではあるけれど、言動だけからは見えない感情や、それに至る経緯も重要になってくるわね」


ハツコイは気の抜けた様子で口を開く。


そして彼女は強い覚悟を感じさせる様な、真剣な眼差しへと表情を変えながら、


「これから何が起こるか分かってしまうという事は不幸でもあり、先の見えない不安の代わりに、先が見えているという緩やかな絶望がある。

けれど、万物は常に変容を遂げている。変わらないものなど決してない。だからこそ私達は、その先に待っているであろう、希望を失わずにいるのよ」


双子の魔女達は、


「それに、────永遠の時を生きる訳でもないんだから、出来る限り楽しまなければ損じゃない」


「だね、お姉ちゃん」


そう言って笑った。



*



"森"の魔女は双子の魔女達と別れの挨拶を交わし、控えの間を去ってゆく。

ハツコイはその様子を確認したのち、彼女が向かって行った方向へ視線を向けるようにして言葉を放った。



「────ねえナツコイ、あんたには何が視えた?」


「え、どうしたのお姉ちゃん」


「────────何でもないわ」



────それは、漠然とした予感だった。


雛が卵から孵るように、蛹が蝶に変態していくように、

そして、時代の門が大きく開いてゆき、新たな魔女達が台頭してゆく。



ハツコイには、そんな予感がしてならなかった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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