(24) 知恵の実-1
魔女は大釜を用いて、併存するものを統合し、新たな物へと作り変えてゆく。
大釜は異界への入口を表しており、それは母の如く、全てを包容するものと云われていた。
魔女にとって特別な器具である大釜には、魔力が宿っていると伝えられており、先達たちの膨大な知識と、数え切れない程の試行錯誤を経て、今でも発展を続けている。
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私は本腰を据えて物事に取り掛かる前に、予め必要な物を用意して並び揃えてゆく。物事を滞りなく進める為には下準備が不可欠であり、手順と態勢を整えておく事は結果の質へと直結する。
私は器具類を手にしながら、
「使い古されているけれどこれ全部、最高級品だもんなあ」
物欲しげに、羨むように、そう口にした。
続いて私は原料や素材を必要分取り出して、調剤する前の下拵えを進めてゆく。
魔女にとっての調剤は、素材の持ち味を最大限に引き出すという特徴を持っている。適切な下処理は調剤の根幹を担うとされ、疎かにしがちで地味な作業であったが、それは素材を劇的に変化させていくことに他ならなかった。
素材の欠点を消し、または目立たなくする事で、本質を更に引き出していく。
それは効能や品質といった完成度に、大きな影響を与えていく。
私は、細部までしっかりと意識を注ぎながら、慣れた手つきで下拵えを進めていったのだった。
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私は大釜で、くつくつと内容物を煮込んでゆく。
静寂の中、煮え繰り返る大釜の音に、耳を傾け続けてゆく。
大釜に向ける眼差しは真剣そのもので、額には汗が滲むが気持ちを緩める事無く意識を向ける。
私は、何度も練り上げては、無駄を削ぎ落して磨き上げていった。
要素分割の細かさや、煩雑な手順を踏む流れも、今ではもう意に介す事はない。
その極限までに磨き上げられた動作は、余計なものが一切ない程に取り除かれ、それ以上高める隙が無い程に美しかった。
それは長い年月や試行錯誤を積み重ねた上に生まれたものであり、洗練された動きによって、優雅で品位の高い物が生み出されていく。
そうして生み出された完成品は、逸品と言い換えても過言でない出来だった。
「────ま、取り敢えずこんなものでしょう」
私は汗を拭いながら、納得したようにそう頷いたのだった。
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