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楽園の魔女  作者: 金星
1.森
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(1) 森-1

環境に大きな変化は無く、小さな起伏が繰り返される毎日だった。


草木の成長や風の匂い、日常に溢れる小さな変化に幸せを見出して、与えられた役割をこなしながら過ごしてゆく。私には才も魔力も無かったが、薬草学と薬学に関する知識を持つ事が唯一の救いであり、それが今を生きる答えだった。



先へと続く道は鬱蒼としており進む事すら躊躇う様であったが、意に介さず、迷うことなく進んでいく。道中に根付く薬草や山菜等を採取しながら歩いてゆき、通り掛かった小動物や獣達に挨拶を返しながら、やがて進み続けた先に拓けた土地が顔を出す。



森の奥部に切り開かれたそこには一本の巨樹と並んだ小屋が建っており、見渡せる限りの空が広がっている。




────いつからかその場所は、魔女が住むという"森"と呼ばれていた。



*



「ただいま戻りました」



そう言って私は小屋の扉を開き、採取した素材を空き瓶へ詰め終えると使い古した椅子に腰を落とした。続いて鍔の広い三角帽子を脱ぎ掛けると、肩口まで切り揃えた白髪が微風に靡く。


黒いミドル丈のケープコートに身を包んだ姿と合わせて、何処か静謐な雰囲気を感じさせるそれは、まさしく魔女としての一端だった。



天井を仰ぎ見ながら目を閉じた後、頭の中の予定を反芻して目を開く。


家屋には幾つもの器具が並び揃えられた一室が存在しており、そこは薬草で生計を立てている私にとっての作業場だった。



瓶詰めされた薬草類を必要数取り出すと、丁寧に下処理をし終えた後、分量や配合に気を配りながら慎重に仕上げていく。


時間を費やした分だけ、確実な成功が約束されているというのはなんと心安い事なのだろう。培った経験がものをいうに至ったのは何時頃だったか、試行錯誤を重ねた日々も、今ではもう懐かしい。それらに裏付けされた余裕と自信が、時折顔を覗かせる。



私は目標量である作業を終えると屋外のテラスへ向かい、いつものように開けた空を仰ぎ見る。優しく髪の毛を撫でる様にして、穏やかな風が吹き抜けて去っていった。



お母さんが遺したこの場所はとても温かったが、日々を重ねるほどに寂しさだけは積もってゆく。



私は何を為せるのだろうか。


────今はここだけが、私に与えられた、たった一つの世界だった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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