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怪談話忘備録  作者: かなとか
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誰の車?  29歳男性 会社員

小学校5年生の夏休み。僕は鹿児島のおじいちゃんの家に遊びに行ったんです。


古い日本家屋で、庭に砂利を引いてあり、家に通じる一本道を残して当たりは高い木々が囲む林になっていました。

辺りは夜になると真っ暗で静か。一本道を抜けると砂利なので、もし誰かが来ても砂利の擦れる音でわかります。僕はコレが嫌いでした。



ある夜、母親の隣で寝ていると砂利の擦れる音が聞こえました。

その音は親達も聴こえたようで起き上がります。

「なんだこんな夜更けに…」

「おかあさんじゃない?」

携帯を開いて時刻を見ると、夜の3時頃。二人は夜廻りでもしてたんじゃない?と適当な理由を言い合って布団に潜りました。でも僕は知っていました。祖父母が家の奥の寝室で寝ていたことを。

「なんやこんな夜更けに。」

襖の向こうからギシギシと床を歩く音ともに、おじいちゃんの声が漏れてきました。

足音は遠く過ぎ去っていき、玄関の施錠が外れる音が聞こえると

「あぁこらまた…エライ数で…ささ…納屋においでください。」

おじいちゃんの足音の他に、また誰かの足音が追いかけていきます。

僕は恐れ知らずなのか、好奇心が湧いてきて布団を脱出し、家から少し離れたボロボロの納屋に向かいました。


玄関を開けると、そこには何もない。車も、人も、おじいちゃんもいない。夏の夜の暗がりと静けさが僕を待ち受けていただけでした。ただ吹き抜ける風が嫌に冷たかったのを覚えています。

砂利の上に出て辺りを見渡すと、ボロボロの納屋を見つけ、ゆっくりと忍び足で近づきました。


納屋のそばまで来ると、背丈より少し高いところにある窓から明かりが灯っているのがわかりました。僕は手近に落ちていた大きな石を積んで、中を覗き込みました。

心臓が小さく跳ねる。幼心の冒険心を、今では恨んでいます。

「嘘っ…」

中ではおじいちゃんが一人、車を解体していました。

車のボンネットは凹み、サイドミラーは脱落、フロントガラスは蜘蛛の巣を貼っていました。なによりも車の黒色のボディがなにかの血で赤く塗装されていたのです。

「ほんに…鹿様を引きよって…罰当たりめ…」

おじいちゃんはただ無表情で呟きながら作業をしていました。僕にはそれがとてつもなく恐ろしかった。いつも優しい祖父がただ無表情に呪詛を並べて何かをしている光景が、いやに恐ろしかった。


「それはいかん。」

背後に現れた声にビクついて、恐る恐る振り向くと、父が立っていました。

「おと___」

声を出そうとしていた所で大きな手が口を抑えました。お父さんは冷や汗かいていて、微かに振るえていたのです。

積み上げた石から降ろされて、僕にこう言いました。

「お前が乗ってるのは自然界を奉るための石や。」

はっとしました。納屋の近くに積み上がる一番上の石を見やると、丸く誂えており、なにやらよくわからない文字が沢山かいてありました。

石を拾った付近を見ると、小さな赤い屋根の社がありました。

「ええか。こんなことはもうしたらあかんで。」

「…ごめんなさい」

「それはそれでええ。でもどうしてこんなボロ納屋なんかのぞいたんや。」

「だって…おじいちゃんが納屋に入っていったから。」

「……ええか。おじいちゃんは一昨年死んだやろ。覚えてないか。」

お父さんの言葉を聴いた途端、胃が締まる。気づくと服の端を握っていました。

「誰もおらんでこんな納屋なんかに。」

なぜなら、お父さんの後ろにおじいちゃんが立っていたからです。笑顔で僕を睨みながら。




夏の終わり頃、お盆に起きた話です。未だに誰も僕の話を信じてくれませんが、おじいちゃんは未だにお父さんの後ろにいます。

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