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怪談話忘備録  作者: かなとか
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誰もいないよ

 あの日は夏の暑い昼間でした。外の陽射しが無神経に入り込んで来て、否応なしに蝉の声が遠からず聞こえてくる。

外の気配は耳に遠い。俺は畳の上で寝転がり、エアコンの音だけを聞きながら、夜勤明けの体を休めていました。

 24歳の実家暮らしでシフト制の工場勤務だったため、昼間に帰ってくると誰もいないことが多い。寂しい部屋の雰囲気が僕は好きでした。


 というのも、以前までは実家を離れて暮らしていたのです。彼女との二人暮らし。都会の真ん中で身を寄せ合って生活を共にしていたのですが、彼女からの結婚話を切り出されて別れてしまったのです。

不甲斐ない事に、僕はまだ遊び足りないという気持ちが勝って、一方的にでてしまったのです。

 それからというもの携帯にはひっきりなしに非通知番号やよくわからない電話番号からかかってくるようになりました。着信にでると「お前、佐藤やろ…死ね…殺すぞ…」

寝ているときも、移動中も関係なし、僕の元には得体のしれない悪意を受け取ってしまうのです。


「電話なぁ…」

 畳の上に横たわる暗い画面のスマホ。俺はこの画面が明るくなり、着信音がなるだけで恐怖感を覚えてしまっていました。

 手近な所に置いたスマホが気になって手にとってみると、このスマホが襲ってくるわけもないのに、やはりどこか他人と繋がっているという恐怖心が湧いて来て、どうしても電源を付ける勇気がありませんでした。


 どこからか聞いたことがある話ですが、世の中にはインターネットに匿名で、個人情報を載せて嫌がらせの代行をしてもらう掲示板があると聞きます。

それは、所謂闇金業者などが利用する債務取り立てに使われる事があるそうです。

たった一回、掲示板に打ち込むだけで人を疲弊させる世の中。デジタルが生み出したのは、ある意味では呪いなのかもしれません。



 少しだけ微睡みが現れた頃、時計が目に入りました。時間は2時13分を指していました。

「あっ…しまった…」

母親の言伝を弟に電話で知らせることを忘れていたのです。

「…」

スマホを睨んで考えました。またかかってくるかもしれないと、でも、ほんの一瞬だけなら大丈夫…だろうと。


 すこしうだうだと悩みながらスマホに電源を入れました。再起動画面が流れて、ロック画面が映ります。それからまたスマホを畳の上に置きました。すぐ非通知がかかってくると思ったのです。ですが、なぜか着信はありませんでした。

「……こないな…」

鬼の居ぬ間に洗濯とはいい言葉です。僕はすかさずスマホをフリックして電話帳を開きました。

すると背景が急に暗くなり、文字が浮かび上がってきました。


着信

大阪

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電話番号が出てきました。恐れていた着信でした。指の中で震えているスマホを握って固まっていると、向こうから通話が切れました。

「くそ…なんなんだよ…」

煩わしい。妬ましい。鬱陶しい。得体のしれない感情をぶつけられるもどかしさと言ったら、なかなかに筆舌に尽くしがたいものです。

するとまた


着信

大阪

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また着信がかかってきたのです。

恐怖心よりも、何故か怒りが湧いてきましました。俺は意を決して着信をタッチして一言叫びでも入れてやろうと思い、スマホに耳をつけました。


「ダレ、ダレ、ダレ…」


聞いたこともない低い男の声。繰り返し、繰り返し俺にダレっと聞いてくるのです。

流石に絶句しました。今までにない嫌がらせかと思い、俺はすぐに通話を切ろうと画面を見たのです


着信

大阪

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この電話番号は市街地局番から始まるもので、自宅の固定電話からの着信でした。

俺の部屋から廊下挟んだ先の静かな台所、そこには影に落ちて座っている固定電話がいます。誰もいない。家には俺以外は出払っていて、固定電話を使う家族は誰一人いませんでした。

「…誰もいないのに」

背筋を悪寒がなぞっていて、筋肉が固まったまま動きません。


スマホのスピーカーからは、繰り返し俺の事を質問する声が聞こえていました。




現在俺は電話番号を変えています。お陰様で迷惑電話はぴたりとやみ、実家からの連絡もあれきりで終わっています。


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