001 プロローグ
今日は4月8日で私立天ヶ崎学園の高等部の入学式が行われた。綾坂湊は中学から私立の天ヶ崎学園に通っていたので外部試験ではなくエスカレーター式に高等部に入学できた。
校舎の中庭でクラス発表が行われている。湊は自分のクラスを確かめるために掲示板近くに行く。湊の身長は男子の中では低く153cmしかない。男子生徒の平均身長よりも10cm以上も低い。
そのため前の方に行かないと掲示板が見えない。湊の周りには背の高い同級生がひしめいている。湊は同級生の間を縫って掲示板の前までたどり付くことが出来た。
「何組かなー」
掲示板を1組から順序良く確認していくと湊の名前は4組に名前があった。その組には湊と仲がいい鈴木康弘の名前と相川朱音の名前もある。
学校側が仲の良い生徒が同じクラスになる様に調整してクラスを組んでいるのでそういう結果になった。そういう気配りが出来る学校なので都内では天ヶ崎学園は評判がいい。
「湊、また同じクラスだな。今年もよろしくな」
「康弘、今年もよろしく。朱音も同じクラスみたいだぞ」
「そうみたいだな。俺たちの腐れ縁も3年も続くとなにか特別な運命を感じるな」
康弘は朱音のことが好きだった。露骨に態度に出していないのでそのことを知っているのは湊くらいなものだ。康弘はいわゆるクラスのカーストの上位に君臨するイケメンで朱音も美少女で学校でも人気がある。
背が低くて子供みたいな容姿の湊が二人と友達になったのはちょっとしたトラブルに湊が巻き込まれたときだった。湊は中学生の時でも小学生に間違われるほど背が低かった。そのせいで良く虐めを受けていた。
その虐めをやめさせるように動いたのがカースト上位の康弘と朱音だった。その時の縁で今も三人の仲は良い。でも康弘と朱音にはクラスのカースト上位との付き合いがあるのでそれほど頻繁に話をすることはない。
湊自身が陽気な性格をしていないのでクラスの誰とも仲良くできることが出来なかった。それを見かねて二人がちょくちょく湊の面倒を見ているといった感じだ。湊はそんな二人に感謝している。
クラスの確認が出来たので湊と康弘は一緒に1年4組の教室に向かった。康弘が湊を気遣ってくれるので1年の時以来湊は虐めにあったことが無い。でも、心無い者がたまにいて女性顔で背の低い湊のことを『オカマ』と呼ぶような奴がいる。
湊はそのおかげで随分と人見知りになり男らしく振舞おうと努力している。家では腹筋、背筋、腕立て伏せを30回の3SETするように心がけている。
「春休みに湊のパラザイムのコンサートを見に行ったぞ」
パラザイムとは湊の父親と母親が所属している音楽グループの名前だ。パラザイムは10代から40代まで幅広くファンのいるグループで出す曲はすべて40万枚のCDを売り上げるトップグループになっている。
「見に行ってくれたんだ。ありがとう。お父さんに言っておくよ」
「ああ、サインも貰って来てくれるとありがたい」
「今度だす新曲のCDが家にあるからサインをもらって持ってくるよ」
康弘は湊と仲良くなるまで湊がパラザイムの綾坂啓介と綾坂詩織の子供だとは気づいていなかった。湊を助けた後に友達になってしばらくしてから湊の家に行くことで湊の両親がパラザイムのボーカルとキーボディストだと分かったくらいだった。
以前から康弘はパラザイムのファンだったが湊と友達になり啓介や詩織と仲良くなってファンクラブに入り今では都内でコンサートやライブがあると出かけるようになった。そのときは勿論、康弘は朱音を誘っている。
そこらへんはちゃっかりしている。湊はこっそりと二人が上手く付き合うことが出来るように応援をしている。そのことは康弘も朱音も気づいていない。湊は康弘の思いに気づかないふりをしているからだ。
二人が教室に着くと朱音が近寄って来た。
「二人ともまた同じクラスだね。今年もよろしくね」
「俺のほうこそ宜しく。また康弘と朱音の世話になります」
「朱音、今年もよろしくな」
「湊そう卑屈にならないでよ。私たちは友達でしょ」
「ありがとう。でも朱音と康弘がいるから俺は楽しい学園生活を贈れているんだよ。感謝しているよ」
湊にそういわれて康弘と朱音は嬉しそうな顔になる。
「今年もお世話してあげるわ。今年1年楽しもうね」
「俺も仲間に入れてくれよ」
「康弘がいないと始まらないよ。三人んでまた飯でも食べに行こうよ」
「そうだな、湊の驕りな」
「それでもいいぞ」
「冗談だよ。朱音近いうちにファミレスでも行こうか?」
「そうね。時間を空けておくわ。連絡頂戴」
朱音はそう言って女子が集まっている方に行ってしまった。
「湊がカラオケとか行けたらクラスで遊びにいけるのにな」
「ごめん、カラオケだけは行きたくない」
チャイムが鳴りそれぞれ出席番号順に席に着いた。窓際から三列目の中間の位置が湊の席になっていた。一番後ろの席でなくて湊は良かったと思った。一番後ろの席だと前の生徒の背中しか見えなくて黒板が見えないのだ。
教室のドアが開いて担任の先生が入って来た。先生は30代くらいで綺麗な女性だった。男子生徒が騒がしくなった。先生は教壇に立つと。
「静かにしろ。うるさい奴は廊下に出すぞ」と脅しをかけた。
顔に似合わず怖い性格の先生のようだ。
「私の名前は斉藤里香だ。私の見た目だけで判断するなよ。厳しく指導していくからな」
後から湊が先輩に聞いた話だが斉藤先生は空手の国体選手に選ばれるくらい強い人だと言う事だった。
「みんな揃っているな。体育館に移動するぞ。出席番号順に並んで移動しろ。さあ、直ぐに動け」
斉藤先生の一言でクラスメイトはきびきびと動き廊下で並んで体育館い移動した。そこで入学式が行われて、またクラスに戻って来た。
そして席に着いて自己紹介が始まった。ほとんどの生徒は中学からエスカレーター式に高校に進学しているので顔見知りが多い。湊の前の席には赤川浩二という生徒が座っていた。
浩二は自己紹介が全員済んだ後に後ろを振り向いた。
「お前、湊っていうんだな。ちっこいから前からお前のことは知っていたんだぞ。俺は浩二だ。これから一年宜しくな」
「俺は湊です。一年間宜しく」
今日の行事は全て終わった。一年生は入学式だけで授業はない。それでクラスのカースト上位のメンバー立ち上がった。
「おい、みんな。これからカラオケに行こうぜ」
「いいねー。俺も行くぜ」
「私も行くわ」
クラスの殆どのメンバーがカラオケに行くことになった。前の席の浩二と康弘に朱音もカラオケに行くらしい。しかし湊はこっそりと教室を抜けて先に家に帰った。