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仕方なく私を娶ったのであろう辺境伯閣下に今日も嫌味を言われていますが、優雅過ぎる奥様ライフにどうしたらいいかわかりません。  作者: 砂臥 環
『婚姻の儀』と『思い出の少女』

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⑧『婚姻の儀』と『思い出の少女』

 

 エルフィンはヨランダに、外出から戻ってきたバイオレットを紹介されたり、先の旅行の思い出を切なげに語られたり──と暫くの間おちょくられていたが、とうとう耐えきれずに自ら嘘だと暴露し、皆の前で土下座した。




「すまないッ、ヨランダ……!!」


 すぐに土下座しがちに見える、辺境伯閣下。

 ──だが実はとても希少(レア)であり、その土下座を金銭価値に置き換えた場合、べらぼうに高いと思われる。


 本来彼の自尊心(プライド)は厨二病を拗らせる程に高く、土下座どころかそう簡単に他人に下げる頭すら、持ち合わせていないのだ。


 総司令官としての教育は充分でも貴族教育は不充分であり、それでいて地位も高いエルフィンだ。実生活でも空気など読まないし、大して他人に(おもね)ることなく生きてきた。

 ──ヨランダが嫁いでからは、ちょいちょい周囲に迷惑を掛けつつ生温かい視線を注がれていた彼だが、これまで培ってきた自らの努力とスペックによる実績、及び鉄壁とも言える厨二力(※これまでと変わらない一人の時のカッコつけ)により、周囲のイメージが大幅に崩れているわけではない。

『あの閣下も、嫁には夢中なんだな~』くらいのものである。


 だから今まで、彼が目上への挨拶以外で頭を下げるのは、本当に悪いと彼自身が思っている時だけだ。

 勿論今もそういう時同様、謝罪の気持ちはある。


 だがヨランダへの土下座の理由はそれよりもっと、打算的で臆病でカッコ悪い。コンラッドにしたのだって、ヨランダの兄だからこそ。

 とにかく彼女に嫌われたくないのだ。


 それは通常、彼が絶対に見せない姿。

 だからこそヨランダは、それが嬉しかった。


「エルフィン様」


 すぐにしゃがんで、土下座する彼の手を取ると、言葉を遮るようにそっと耳打ちした。


「あとで教えてください……私だけに、全部」


 真実をエルフィンの口から聞きたくて、彼の嘘に乗ってしまったことに反省はあまりない。

 けれど、嘘を長引かせることで他の者にもそんな姿を晒させていることを、ヨランダは反省していた。


 エルフィンが情けない姿を晒すのは、自分の前だけでいい。


 だって、この嘘も謝罪も、ヨランダの為。

 これは、ヨランダが貰ったものだから。




 ──翌日『婚姻の儀』は行われ、ふたりはようやく神に認められし正式な夫婦となった。


 ヨランダのドレスは慣習に倣い、地味なもの……結局のところ『馬に妻となる女性を乗せて神殿に向かう』ので、安全性を考慮するとどうしてもそうなるのだった。


 駆け付けたグローリアはそれを見越していたようで、ドレスの代わりにとっておきのベールをプレゼントしてくれた。

 美しく透ける、繊細な刺繍の大きなベールだ。



「──そもそも辺境(こちら)の男は、悋気と独占欲が強く、喪服も『死の覚悟』以外に『闇夜に忍ばせて、妻となる女の顔を見せない』という側面があったようですよ」


 辺境伯夫人が目立たないのが常だったのも、安全への考慮もあるが、そういう部分が強かったのではないか……グローリアと共に祝いの挨拶に訪れたフレデリカはそう語る。


 地元ヤーレンではこれから盛大に祭りが行われるが、これまで同様に、そこに新しい辺境伯家夫妻が顔を出すわけではない。

 神殿が行う民への報告の際に、辺境伯家が納めた祝儀を一部使用し、祭りは行われるのだ。


 自分の時、悪意のある間違った情報を与えられたグローリアは、少し前にそれを知ってショックを受けていた。

 祭りが行われていた時点で()()()()()()()()()()()()ことに。

 まだその頃はとんがっていたエヴァンとは、祭りへの不参加が原因で揉めていたので知らないままだったのである。



 そして、エルフィンもまたショックを受けていた。


「祭りに出ることはない……だと……?!」


 庶民の祭りだから華美なドレスは着させられないにせよ、祭りには出るものだとスッカリ思い込んでいたのだ。

 隠したい気持ちの反面、自慢したい気持ちは消えない。

 幼少期やんちゃだったせいで、ウッカリ隻眼になったくらいに屋敷を頻繁に抜け出していたエルフィンは、民との距離が近いというのもある。


 なにより彼は、これまでの辺境伯と『妻を迎える経緯』が一人だけ違う。


 エヴァンをはじめこれまでの辺境伯らは、保守派の娘から気に入った娘を選んでいた。(※勿論その中から選ばないことも出来たが、これまでそういうことはなかったようだ)

 グローリア程ではないにせよ、選ばれた娘達はそれなりの家柄で、社交界の華。自慢するよりも、隠したい気持ちの方が強かったのだろう。


「出たいなら、出たらいいじゃないの。 なにか問題があるの?」


 完全に余所者である筈のバイオレットだが、相変わらずのマイペース。空気や慣習など一切気にせずそう言った。


「そうですわ……今は平和ですし。 ……ローランド様、出ては不味いのですか?」


 意外にもそれに賛同しローランドに意見を述べたのは、古参の侍女フローラ。


 新婚旅行で別邸に赴き、グローリアの件の誤解や外と本邸周辺の考え方の違いを知った彼女は、その周知の為に尽力した。

 そこで一部のもっと古い者や、当然ながらローランドが知っていたことを知る。

 それがエヴァンの意向だけでなく、グローリア自身の配慮から、敢えて誤解を解くのに積極的でなかったということも。


 余談だがそれ以来、フローラはグローリアにかなり心酔している。


 結局警備を強め、皆で祭りに出た。

 ヤーレンでのエルフィンの人気は凄まじく、しかしそこには『隻眼の英雄』のような畏敬の念とは違う、親しみがあった。


 ヨランダは民に好意的に受け入れられた。

 ……なにしろ、エルフィンのデレが凄い。


 これで好意的に受け入れられない筈がない、というくらい、ヨランダは誰が見ても、領主(エルフィン)に望まれた花嫁だった。




 その夜ヨランダは初めて、自分のこれまでの気持ちをエルフィンに告げた。


 ずっと、この婚姻に疑問を抱いていたこと。

 せめて役に立ちたかったのに、やることがなくて不安だったこと。

『思い出の少女』が自分であるように周囲に見せかけたこと。


「──だからローランド(や皆)に、刺繍のハンカチを?」

「ええ……特にローランドさんには『思い出の少女』アピールを強くしておかなきゃ、と思って」

「なんだ……」


 エルフィンは脱力した。


「……呆れましたか?」

「いや……」


 ローランドは線が細く、中性的な美形だ。

 体格だけでなく顔も幼少期だけ見るとふたりは似ていたが、育つにつれエヴァンに似てきたエルフィンと、グローリアによく似たローランドは今や、全く違う。


 前辺境伯夫妻の培った年月やローランドの身体の弱さもあるが、エヴァンがグローリアの言うことを素直に受け入れてローランドを本邸にやらなかったのは、グローリア似の息子が可愛かったからだ。

 それに薄々は気付いていたものの、エルフィンはあまりなにも思わなかった。それ以外にも、特にローランドに嫉妬したことはない。


 だがあの時……生まれて初めてローランドに対して嫉妬したのだ。羨ましい、そう思った。

 そしてエルフィンは何気にそのことをずっと、引き摺っていた。


「……ああいうのが好みなら、私は、その……大分違うから」

「……」


 あざとくて、浅ましいと言われても、仕方ないと思っていた。

 きっとそんなこと言わないともうわかってはいても、ヨランダ自身がそう思っているから。


(狡い)


 ──『それでも貴方の妻でいたかった』、と言いたい筈なのに。

 そんな風に恥ずかしそうにそんなこと言われては、こちらも恥ずかしくて言えない。


 渡しそびれたままの刺繍のハンカチを渡すタイミングと、伝えるべき言葉を考えていたのに、全部ふっとんでしまった。

 

 結局ヨランダはグダグダな感じでハンカチを渡したが、エルフィンが彼女の想像以上に感激したのは言うまでもない。




 改めてモダモダしつつ、ふたりの終わらない会話は明け方まで続いた。



ちなみにグローリアの時は、エヴァンが王都でくっそ派手でありながらグローリアに似合うドレスを作らせており、それを着ています。

尚、エヴァンは慣習を一切無視して自ら馬に乗りグローリアを抱え、神殿まで一気に駆け抜けた(※本来は妻となる女性を乗せた馬を引く)ので、民の不評は買っていません。……少なくとも、グローリアは。


当時のエヴァンは殺伐俺様系モラハラ男子です。

グローリアは攻防の末、調教にやや成功したと言えます。(あれでも)

ただし、ヤンデレは拗れました。変な風に。




多分、次最終話……な筈!

よろしくお願いします!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] それが的外れであっても、己の価値観を前面に押し立てて行動するエルフィンと、自分に自信が持てず受動的にならざるを得なかったヨランダだからこそ結ばれた。 恐らく、そう言い切っても間違いではない…
[良い点] いいね、いいね、いいね!!! (連打したい気持ち) ✧(๑•̀ㅁ•́๑)ノシ
[一言] 終わり良ければすべて良し( ˘ω˘ )
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