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仕方なく私を娶ったのであろう辺境伯閣下に今日も嫌味を言われていますが、優雅過ぎる奥様ライフにどうしたらいいかわかりません。  作者: 砂臥 環
『婚姻の儀』と『思い出の少女』

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④呪われている上に、毒されている

 

 ──そうは言っても、エルフィンは()()エヴァンの息子。

 偏愛純血種(サラブレッド)の呪われし血を脈々と滾らせた彼が、オルフェ伯爵邸に()()()()は既出の通りやっぱり早かった。




「か……閣下?!」


 コンラッドと会うや否や、『お義兄様』等と宣っただけでなく……エルフィンは『いきなり土下座(ドゲザ)』を敢行していた。


『いきなり』のあとに入るのは食物ではない。『土下座』だ。某飲食店名のようにあとに入る単語に対する、自らの行動前提がない。

 いきなりもいきなりだ。


 いきなり現れた妹の夫になった……と思われる、隻眼の英雄・美貌の辺境伯(※歳上)からいきなり『お義兄様』と呼ばれた上に、いきなり土下座されたコンラッドの困惑たるや。


 コンラッド的には、(ヨランダ)のことは気にしつつも様子を見ていた、というのが半分、後半分は、領地を含む自分のことでいっぱいいっぱいだった、というのが正直なところ。


 また、美貌の英雄がわざわざヨランダを指名する理由も考え付かなかった。

 辺境伯家との確執は知っていても、情報で知り得る限りではあるがグローリアやエヴァンがわざわざそんな相手を息子の嫁にするとは思えない。つまり、彼の意思。


 そこから『(ローランド)の勇み足とエルフィンの嘘』という真実は勿論のこと……『辺境伯家を舐めた報復にヨランダを名目上の妻にし、捨て置く』という想像を膨らませられるのは、ロマンス小説大好きな少女か、旅行前にフレデリカの店でそういうのを読みすぎた()()()()()()()()()()()だろう。


 ──そう、既にところどころでその片鱗を垣間見せているが、エルフィンはロマンス小説に毒されている。


 そんな彼は、オルフェ家からの手紙のことなど知らないが『(ヨランダ)の実家に挨拶してない』ことに気付き……その道中で、そんな妄想が膨らんでしまっていた。

 それ故の土下座である。


 これは彼にロマンス小説を勧めたフレデリカすら想定の外と思われる。




「申し訳ない、お義兄様……!」

「ど、どうぞお顔をお上げになってください……というか、なにを謝っておられるのか判りかね──はっ!」


 コンラッドが手紙を送ったのは勿論ヨランダを心配してのことだが、上記の通りそこまでの悪い想像などしていなかった。


 ……なのに謝罪。しかも土下座。

『お義兄様』と言われただけに、夫婦であることに疑いはなさそう。他に考えられる土下座謝罪理由とは……


「……まさか、ヨランダの身になにか?!」


 コンラッドはエルフィンの土下座謝罪による、ごく普通の反応として、ごく普通に悪い想像をした。


(やはり酷い目に合わされているとお疑いか……!!)


 だが、エルフィンはそう思い、苦渋に満ち満ちた表情で声を発する。


「そう心配されるのはごもっとも……! 全て私の不徳の致すところ!!」

「辺境伯閣下の……不徳の……」


 その態度や言葉からのコンラッドの更なる想像──それは、


(もしや、愛人に刺されたのか?!)


 こ れ で あ っ た 。




(ああ……妹よ……なんて不憫な……)


 ──思い返せば、なんてタイミングの悪い娘だろう。


 父だけでなく叔父の企みも知りながらも、まだ少年だったコンラッドに為す術もなく……その欲が些細なものであることに感謝すらしていた。少なくとも、生活は保証されたのだから。


 控え目で目立たないヨランダだが、それは容貌などが冴えない、というようなことだけではない。確かに皆に無条件で愛されるような愛嬌こそないものの、当たり障りなく周囲に溶け込むことに長けていた。

 それがそうならざるを得ない環境から培ったものであれ、きっと市井に出ても貴族として残ったとしても妹ならやっていける、と甘えていたのだ。


 なのに奇跡的にもデビュタントとして参加することが出来た初めての夜会で、その後の貴族紳士との出会いは閉ざされてしまい……

 ようやくそこから解放されたと思った途端に、辺境伯領という僻地へ。


 それでも辺境伯閣下がヨランダを見初めたという噂に、信じられない気持ちを抱いていたというのに『それならば』という希望的観測を以て放置してしまった──


(挙句の果てに愛人に刺されて死ぬなんて……!!)


 コンラッドは自らの愚かさを呪いながら、膝から崩れ落ち号泣した。


「うぐ、おおッ妹よ……!」


 刺されただけでなく死んだことにまで発展したのも仕方がない。なんせ、わざわざ辺境伯閣下(※30歳・美丈夫)が(おん)自らやってきて土下座するくらいである。


 それがロマンス小説に毒された恋愛音痴な偏愛純血種の暴走だなんて、誰が思うというのか。


 コンラッドは激しく勘違いしてしまった。

 そして互いの誤解を解くのにはそれなりの時間を要した。





「だが、それはほんの序章に過ぎなかったのだ……」


 ──今、コンラッドは辺境伯邸にいる。


 勘違いした結果、『せめて妹の亡骸に』というつもりで『今までのことを謝りたい、一目見るだけでも』と彼もこちらに赴き、ようやく到着したのだ。


 無論これは、『今までのことを(せめて妹の亡骸に)謝りたい、一目(死に顔を)見るだけでも』の意である。


「お兄様、領地は大丈夫なんですか?」

「ああ。 丁度ひと段落ついたところで、暫く空けるくらいは大丈夫だ。 本当にお前には申し訳なく思ってはいるが、そうでなければそんなことは言わない……そもそも早目にお前と連絡を取らなかったのも悪い」


 彼の言う通り、積極的にとは言えないだろうがヨランダを犠牲にしたのは領地や民の為。

 死んだのなら尚のこと、会うのを優先すべきではない。


 まあ、途中で生きていることも判明し、エルフィンがなにをしにオルフェ家に来たのかもわかったわけだが……

 コンラッドは『これもいい機会だ』と考えることにしたようだ。


(それだけ持ち直したのね……)


 矜恃や責務、ましてや領地や家への愛などないと思っていたヨランダだったものの、自分に会いに来てくれた嬉しさや感謝よりも、そちらへの安堵と感謝の気持ちの方が不思議と強かった。


 なにもしていなくとも『辺境伯夫人として役に立ちたい』と思った気持ちは、ほんの僅かにだが自分を変えていたのだ。


 それに気付いて、ヨランダは嬉しくなった。


 の、だ が 。




「──で、エルフィン様は何故あんなことに?」


 エルフィンは、いつかのエヴァンよりもボロボロな恰好で、倒れたまま運ばれて戻ってきた。

 皆驚いたものの、疲労困憊によって眠っているだけだったのでこうしてコンラッドから話を聞いているのだ。


「ええと…………」

「?」


 コンラッドは少し微妙な顔をしたあと、あからさまにソワソワとしだした。


「そ、それより妹よ、少しその、手洗いにいっても?」

「え、ええ、それは勿論……」


 戻ってきたあと、コンラッドは用を足してきた筈なのにスッキリした様子のない、神妙な面持ちでヨランダに尋ねた。


「──ヨランダ……まずは聞きたい」

「は、はい」

「お前は今……辺境伯閣下に娶られて幸せか?」


 突然なにを、という気持ちはなくもない。だが、


「はい、勿論です。

 ……私は、旦那様が大好きなので!」


 そこに以前のように言い訳的な投げやりさはない。

 ヨランダ自身それが嬉しくて、ハッキリとそう答えた。


「……そうか」


 コンラッドは妹の表情に思うところがあったようで、力が抜けたように、安堵の溜息のようにそう言う。




 ──そう、実際それは溜息だったと言っていい。

 割合にして、安堵8割:他のもの2割位の。


「ヨランダ、これから俺が言うことは俄には信じ難いかもしれないが……」

「はい」


 そこでようやくヨランダが耳にしたここまでの経緯は、俄にはどころか、大分信じ難いものであった。



【謝罪】

申し訳ございません……!!(土下座)

アーネストに続き、兄の名前も間違えました……!!

しかも33話に三箇所も出とるのに……


誰 だ ブ ラ イ ア ン て 。


コンラッドです。兄はもう……コンラッドです!!

ブライアンは忘れてください!(自ら首を絞める)


コ ン ラ ッ ド で す !


そのう……もしまだブライアンが生き残っていたら、コンラッドと誤字報告を……(忘れろと言っておいて)


よろしくお願いします!!

。゜:.・(°ε°((⊂(^ω^∩)ダマレ

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― 新着の感想 ―
[一言]  コンラッド殴った? 殴った?  殴らないよね。きっと自滅だよね。
[良い点] 言葉は足りないくせに行動だけは行き過ぎる……これだからザンネン脳筋は………………最高ですな。(笑)
[一言] ○ンジャッシュがああなってしまい、行き違いをここで満喫させていただいております。
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