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夕日の後味

作者: 月見 もち


鴉が鳴く声、壊れかけた信号機の音、ボロボロに朽ち果てた祠、古ぼけた文字の看板。


逢魔時にはそんな景色を見ると少し気味悪く思うことだろう。




ふと後ろを振り返ると僕が先程まで参拝していた神社が見えている。


遠くで鴉のようなモノが鳴く声がした気がして辺りを見渡す。


しかしいくら見渡しても鴉はおろか、生き物が見当たらない。


自分の荒い呼吸音が聴こえるくらいに、辺りは不自然なくらいに静かすぎた。


不気味でどこか非日常を感じさせるベタついた空気を感じて背筋が凍り付いた。


そうだ。だって可笑しいじゃないか。

さっきまで沢山人がいて、友達と笑い合ってお祭りを楽しんでいたのに、こんな、そう、



まるで僕ひとりが神域に取り込まれたかのような。



ふと湧きあがってきた疑問が頭の隅を掠めて、震えながらも絞り出した掠れた声が吐息と共に吐き出された。


「...僕は、いつから神社の前にいるんだ?」


口から漏れ出た呟きは、鬱蒼と生い吸い込まれているような感覚を覚え


いつから記憶がない?

神社に参拝した事は覚えている。

いつ、何時だ。




...巫女さんが神さまに神楽を捧げる催しを見てからの自分の行動が一切思い出せない。



僕は冷や汗をかきながら暫くの間、山に沈んでいく夕日に見惚れていた。


ふと薄寒さを感じて、なんとも言えない嫌な雰囲気の後味をこびり付けたまま僕は両側を田んぼで挟まれた砂利道を真っ直ぐに歩いていった。





神隠しを知っているだろうか。


気に入った人間を神様が自分の元に隠してしまうことだ。

誰にも取られないように、誰にも渡さないと。


僕が住んでいる村には大きな神社がある。


樹齢1000年もの大樹は人々の生活を見守るように聳え立っていて、何度見ても圧巻だ。


とても立派な朱色の鴨居が何本も並んでおり、

辺り一面に気が狂いそうなくらいの赤、朱、赫、紅。


枯れることのない朱色の彼岸花が一年中咲いており、その神社は周りと比べても空気すらも異常だということがすぐにわかる。


彼岸花が咲き乱れる道を抜けると、奥には趣のある社殿があり、祭りの時期になると屋台の活気が良い声や、賑やかで楽しそうな声、鈴の音色がまるで神社全体を包み込むように優しく響き渡る。


村から直々に選ばれた少女たちは清らかな巫女装束を着て神様へ神楽を献上する。


少女達が神楽を舞うたびに、神聖な空気が場を満ちていくのを感じながら何とも言えない興奮が身体を駆け巡るのを僕は感じていた。


神楽が始まると少しずつ外界の音が聞こえにくくなっていくのが子供の頃から不思議で仕方なかったのが、今では慣れてしまって大人達もいつからか誰も気にしなくなっていた。


神隠し、というと神様の気まぐれとされているが、本当にそうだろうか?


現状から離れたい人、常世に居たくない人、神様に魅入られた人。


彼らは合意の上で神様に攫われることを望んだのではないだろうか?



だがまぁ、真相は本人にしか分からないのだけれど。


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