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つくってみた魔剣

 急上昇


「魔剣つくってみた!」


 再生時間――4:25


 再生回数――4,456,000


 0:00

 白衣を着た人物が登場する。顔は見えない。声から男性と思われる。


 0:45

 丸めた新聞紙やカレンダー、トイレットペーパーやラップの芯、割り箸、木の棒、定規、ダンボール、モップやほうきなど、「素材」として使用可能な材料が次々並べられる。新聞紙の日付は2021年10月17日となっている。


 1:00 

 加工開始。詳述は省くが、工作の難度は極めて低く、とても単純で、何らかの援助があれば5歳児にも製作可能と思われる。


 2:54

「魔剣」完成。人気のない屋外にて、丸めた新聞紙を素材とした魔剣が振るわれる。凄まじい衝撃波が放たれ、地面が激しくえぐり取られているのを確認。


 3:32

「魔剣」制作に関していくつかの注意事項を白衣の人物が述べる。内容はいずれも「ちゃんと後片付けをする」等の他愛ないものである。最後に「魔剣」の視聴者個々人による制作を推奨する主旨の言葉を述べた後、動画は終了。


 ――かくて、魔剣は世界に解き放たれた。


□ □ □ □ □ □ □


 この魔剣には、いくつか不思議な性質があった。もちろん、ありふれた材料が、ごく簡単な工作によって、いかなる検証をもってしても解明できない性質のエネルギーを放つようになるのも十分謎であったが。


 第一に、魔剣は決して人を傷つけることがなかった。


 ある小学校の校庭で、小学生同士の魔剣によるチャンバラが数十人規模で行われたにも関わらず、戦闘に参加した小学生は誰も重傷を負わなかった。

 

 怪我をした児童自体はいたが、魔剣によってというよりは、興奮してどこかに体をぶつけたり、転んで足を擦りむいたりしたことが原因だった。


 ただし、校庭そのものはめちゃくちゃになり、砂が丸ごとどこかに吹き飛んでしまい、しばらくその街では外出の際のゴーグル着用が気象庁により推奨された。


 第二に、魔剣は魔剣以外のいかなる攻撃をも無効化する力を持っていた。


 ある国の学校で、麻薬中毒者が銃を持って侵入するという事件が起こった。辺り構わず乱射されたにも関わらず、誰一人として重傷を負うことなく、犯人は確保された。


 その理由は、生徒の1人がこっそり学校に持ち込んでいた魔剣にあった。


 犯人が銃を取り出すのを見た瞬間、恐怖にかられたその生徒は、思わず手に持っていた魔剣を振り回したそうだ。


 するとあの衝撃波が犯人を吹き飛ばし、さらに発泡された銃弾のことごとくも絡め取られ、誰に当たることもなかったという。


 魔剣が魔剣以外に及ぼすこの力には、際限がなかった。


 銃弾も、ナイフも、暴走車も、爆弾も、地雷も、空爆も、大砲も、ガスも、それどころかミサイルさえも、ただトイレットペーパーの芯から作られた魔剣の一振りの前には、ただのごてごてした石つぶてに過ぎなかった。


 しかも、魔剣同士で争ったところで、やたらと派手な光や衝撃波や火花が飛び交うだけで、お互い同士にまったく傷つけ合うことはできないのだ。


 やがて世界の誰しもが、自宅の材料でこしらえた、オリジナルの魔剣を携えて外出するようになった。元々の素材が何であれ、一年は軽く持つほどの耐久力を帯びるのも、魔剣の不思議、というか意味不明な特性の1つだった。


 いかなる兵器をも無効化するということで、あちこちの軍も重火器をほっぽりだし、魔剣が支給されるようになった。それを見て、さらに他の勢力も先を争って魔剣に手を付け始めた。


 そしていよいよ誰も彼もが魔剣を持つようになると、もはや誰も彼も、まったく人を傷つけられないし、傷つけられることもなくなった。


 どんなに殺意を込めて魔剣を振り回そうと、まったく人には怪我ひとつさせられないのだ。いつの間にか、人が病気や、魔剣でも対応できないほど唐突な事故以外の死因で死ぬことは、まったくなくなっていた。


 魔剣にはまだまだわからないことが、というよりわかったことのほうが少なかったが、人類はとりあえず、この結論を受け入れることにした。


 痛い思いをして死ぬ人が大勢いた以前より、ずっと今はマシな世界じゃないか――この事実を否定できる者は誰一人としてなかったからだ。


□ □ □ □ □ □ □


 ある通学路を、小学生たちがチャンバラをしながら帰っていた。もちろん、魔剣同士によるチャンバラである。


 定規から放たれた真空の刃が、丸めたカレンダーによって弾き飛ばされて天空へと逸らされ、空にできつつあった入道雲を真っ二つに引き裂いた。


 ラップの芯を槍のように突き出すと、その先端から光線が放たれたが、割り箸がそれを吸い込み、輝く刀身に変化させ斬り返した。


「君達、なかなかいい剣持ってるね」


 少し離れてその戦いを見守っていた中年の男が、少年たちに声をかけた。少しくたびれたようにも見えるが、目はきらきらと光っていた。


「ぜひひとつ、お手合わせ願えないかね?」

 

「ええー?」


 少年たちはいぶかしげに顔を見合わせた。


「おじさん強いの?」


「もちろん強いとも。ほんのお遊びで()()()()()()()()を見てみるかね? これ一振りでも、君達全員を相手取るのには十分すぎるほどだと思うがね……」


 自信ありげににやりと笑い、男は懐から長い刀身を持つ筒状の新聞紙を取り出した。


 その日付には、2021年10月17日と記されていた。


<つくってみた魔剣>

 ある一本の動画をきっかけとして、全世界に爆発的に普及した、取るに足らないものより生み出されし魔剣。かつて生産されたいかなる兵器の攻撃をも無効化せしめたため、世界中の国々がこぞってこれを求め、トイレットペーパーやラップ等の生産会社がいちやく最大の軍需企業となったほどである。最近、ほうきやモップ等の長い柄を持つ道具も魔剣の素材として活用可能であることが発見されたとか。

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