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沙羅双樹  作者: 十六夜
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全ての怪異は存在する

第一話「公園」

「ほんとに出たらどうする?」

「そんなの知るかよ。だから確かめにいくんだろ」

高校生の少年二人が原付をゆっくり走らせていた。

一人はやや大柄で、一人はやや小柄な少年だった。

そこは夜の県立公園だった。

季節は七月半ばで夜とはいえかなり蒸し暑い。

面積30万平米の大きな公園だ。

24時間開放されているこの公園には、三つの大きな池が有り、

サッカー場、テニスコート、野球場、プール等も有り、

春は桜の名所としても知られていて市民の憩いの場になっていた。

公園内には必要最低限の外灯しか無い為、かなり暗い。

20時位までは散歩やジョギング等をする人間もいるが、

少年たちが来た時間は23時を優に超えていて、人影はなくなっていた。

この県立公園に「人面犬」が出るという噂が立ったのは、2か月程前からだった。

最初の噂のきっかけは、近所の中学生が見たとの話しで、

その後にインターネットのオカルトを扱う、ローカルな掲示板サイトに掲載された。

掲示板サイトに掲載後は、自分も見たという書き込みが増えた。

少年達は暇つぶしにサイトを見ていて、噂を確かめに来たのだった。

噂によると、公園内に設置されているごみ箱を犬が漁っていて、

この近辺では野良犬等は見かけない為、物珍しさに近寄ってみると、

ごみ箱を漁っていた犬が振り向き、

「放っておいてくれよ」と言って、走り去ったとの事だった。

少年たちはこのサイトを見て笑った。

そんな訳はないと。

地元で育ち、公園も何度となく利用しているが、そんな物は見た事も聞いたことも無い。

嘘の書き込みだと思い、自分達も書き込みをして煽った。

ソースを(情報源)出せ、と。

すると今度は、二人の書き込みに対してお前らこそ、

「居ない」というソースを出せとの書き込みが相次で書き込まれ、

確かめる度胸も無い、臆病者物のチキン野郎の癖に等とも書き込まれた。

二人は憤慨した。自分達は、臆病者のチキン野郎なんかではない。

それで二人で確かめようとなった。

掲示板サイトに嘘を書くなと、記録をつけて公園の写真を付けて書き込んでやるつもりだった。

その為に二人は一日だけではなく、可能な限り公園を回り記録をつけるつもりだった。

出没場所は既に把握している。

公園の中ほどに売店が有る。

その売店の、すぐ横に丸い鉄製の大きなゴミ箱がある。

そのごみ箱の場所に、目撃情報は集中していた。

二人はほどなくして、売店のそばまで来た。

すると、原付のライトに照らされた10メートルくらい先に、

ぼんやりと白い動く物が見えた。

二人は同時に原付のブレーキを掛けた。

きいっ。闇夜にブレーキの音が響いた。

原付を停め、二人は顔を見合わせた。

同時にライトの先を見る。

居る。

大きさは地上から1メートル位で、先ほどはもぞもぞと動いていた様に見えたが、

今はぴたりと動きを止めていた。

大柄な少年の方が、声をひそめていった。

「あれ・・かな」

「分かんない」

小柄なほうの少年も声をひそめて答える。

「何に見える?」

大柄な少年はもう一度聞いた。

原付のライトの明かりが照らす範囲と明るさでは、

もう少し近づかなければはっきりと視認出来ない。

「この距離じゃ分からないよ。少しだけ近寄ってみよう」

小柄な方の少年が言った。本当は近寄りたくはない。

だが引き下がるような言動は、臆病で有ることを証明してしまう。

すると一瞬、大柄な少年が嫌な顔をした。

大柄な少年も正直帰りたかった。

だが、ネットの書き込みは無視出来ても、

目の前に居る友人はそうはいかない。

後で他の友人達に、あいつは体が大きいだけの臆病者だと吹聴されるのは、

目に見えていた。

お互いが同じ理由で引けなくなった。

二人は意を決して少しずつ原付に乗ったまま、足で地面を蹴りながら距離を縮めた。

数歩も行かない内にはっきりと見えた。

薄汚れた、白っぽい犬が。

二人は足を止めた。

犬は後ろ向きでごみ箱に足を掛け、二本の後ろ足で立っていた。

異様だった。

犬は微動だにしない。

多少の距離はあるものの、ライトに照らされているのは十分に分かるはずだった。

だが、何の反応もしないのだ。

肝心の頭の部分はごみ箱に頭を突っ込んでいるのかこちらからは見えない。

少年達は迷った。

お互いが、お互いを置いて逃げたかった。

そう二人が思った瞬間だった。

犬がゆっくりと振り向いた。

「・・・・」

二人は息を呑んだ。

ライトに照らされたその顔は、まぎれもなく中年の男の顔だった。

中年の男の顔をした犬は、二人を見た。

ゆっくりと、二人に近づいてくる。

二人は恐怖で動けなかった。

人面犬は、二人からほんの数メートルのところで止まり、ぶるっと体を震わせて、

口を開いた。

にやっと笑っている様だった。

何年も磨いていない様な黄色い歯が見えた。

「放っておいてくれよう。なあ」

人面犬が喋った。

その瞬間、小柄な少年は弾かれた様に原付を回れ右させて、猛スピードで走り出した。大柄な少年も、僅かに遅れて友人の後を追った。

すぐに友人に追いついた。二人は無言で目一杯アクセルを開け原付を走らせた。

だが、その二人のすぐ後ろから、

「ㇵッ。ㇵッ。ㇵッ。」

荒い息遣いと、犬の駆けてくる音が聞こえる。

「・・・おいてくれよう。なあ。」

並走して走る二人の間に、いつの間にか人面犬が入っていた。

「放っておいてくれよう。なあ。なあ。なあ。なあーー!」

「ぎゃあー」

少年二人は原付で逃げながら、絶叫した。



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