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借り物の冒険者  作者: Ny
9/15

商業区画Ⅱ

 お疲れ様です。


 新キャラがどんどん出てきます。




    ✳︎


——居住区北側。


 サヤとコウの受けたクエストの報告と、新規クエストの確認の為、トビとフブキは中央部にあるハンターギルド管理所へと移動していた。



「んねえビンビン」


「どうしました? フブキさん」


「どうしても徒歩じゃなきゃダメ?」



 フブキの身長は150センチ無いぐらいで、トビは180センチを越えている。

 当然歩幅に差が出来る訳なのだが、トビはフブキの歩調に合わせて歩いている為、結果的に徒歩だとやや遅いのだ。


 街はとても広いので、半分にしたホールケーキを四分割にした様な大通りには、都市中央部が管理する乗合馬車が運行している。

 フブキはコレにのればいいのでは、と訴えていた。



「ダメです、節約の為です、他に理由なんてありません」


「うーん、まあそうなんだけどさぁ、ダルいってゆーか、ビンビンもアタイに合わせて大変でしょ? だからさぁ——」


「ダメです」


「えーん! ビンビンのケチ!」


「何とでもどうぞ、それにしてもフブキさん、今回はあそこに行くの嫌がっていませんね?」


「あー、まぁ、ね、あのジジイに会うのはマジ嫌なんだけどぉ、あそこで調べたい事があるかんね♪」


「スグルさんの得意技(スキル)の事ですか?」


「そっ♪ ビンビン察しがいーねっ」



 ハンターギルド管理所の奥には研究棟があり、その地下には遺跡や遺物、未確認の生物や文化、文明等の蔵書が保管されている図書館があり、都市中央部管轄の元、管理されている。


 そこには過去に確認された得意技(スキル)のリストや研究資料などが多く存在している。


 フブキが調べたいのはスグルの鑑定中に聞いた声の主である。



【ヨコセエエエエ!!】



「......っ!」


「どうしました?」


「い、いや何でも無いよビンビン♪ あ〜、そんなにアタイが気になっちゃうのかなぁ、アタイってば罪な女ねぇ〜」


「下らない事を言ってないで、管理局長に挨拶するんですから、シャキッとして下さいね?」


「あいあーい♪」


(今朝のスグルんの様子だと、あの声は聞こえてない感じだった、だとするとあの声はどういう事なのか、加えて団長とコウさんと同じく、アタイがショートする程の情報量......なーんか......)


「嫌な予感、しちゃうんだよねぇ」


「フブキさん?」


「んーん! 何でもない! 早く行こ♪」



    ✳︎




「もうらめぇ〜、歩けにゃあい」



 突然地面にへたり込んで喚くユズハと呼ばれた有角の少女。


 髪は黄色、頭部側面から顔へ向かって内側に生えた角が特徴的な、フブキさんよりも小さな少女である。

 服装は一時期ベルヘイムで流行した東のファッションの一つ「ヤマブシ」というスタイルだと思う。


 先程の大立ち回りとは一転してまるで欲しい物をねだる幼児のようにボクの脚にくっ付いて離れない。



「あ、あのー」


「......妹よ、離れないと」


「もういやー、あるけなぁい」


「あらあらあ、スグル君にべったりねえ」


「はっはっは! すまんなスグル少年! ユズハは得意技(スキル)を使った後しばらくこうなんだ! おぶってやってくれ!」


「ええっ?!」


「いーやー、もう起きれなあい」



 そんなこんなで一先ずはボクがユズハさんをおんぶする事になった。

 ボクのリュックはキドウさんというユズハさんのお兄さんが持ってくれるので安心だ。

 というか、キドウさんが背負えば良かったのでは......?



「んふふ、お薬飲んでもいいのよ?」


「......いえ、コウの姐御の薬は貴重品、おいそれと使う訳にはいきません」


「相変わらずキドウ青年は硬いな! アタシなんて散々飲んでもらってるよ!」


「......うっす、サヤの姉御はいいんす、ウチら兄弟はここぞという時に使ってくれればそれで」



 ここでの「飲む」というのはコウさんが薬を飲んで相手を癒す事を言うのだけれど、キドウさんは頑に応じない。



「......ウチら鬼は人間よりは回復力が強いんで、大丈夫っす」


「オニ......」


 鬼。

 その昔、東諸島に多く存在し、古代の大戦の時代に活躍したという。

 大陸では「オーガ」とも呼ばれる亜人種。

 長命で身体能力も普通の人間より高いが、反面繁殖能力が低く、今では姿を見る事が少なく、「絶滅危惧種」と揶揄される事も間々ある。

 東の島国には少数からなる部族が存在すると父の手帳に書いてあった。


 本物を見たのは初めてだ。



「......ところでサヤの姉御、その童は?」 


「ああ! そうだ紹介しよう! 万華鏡の新しいメンバーのスグル少年だ!」


「森の中でサヤを助けてくれたのをスカウトしたのよお、二人ともよろしくねえ」


「......姉御を?!」


「たしゅけた?!」



 おぶった背中にへばり付いて今にも溶け出しそうなユズハさんが飛び起き、背中から降りた。


 地面を這いずってキドウさんと並んでボクの前に片手を付いて平伏する。



「......キドウとユズハと申します、この度はサヤの姉御を救っていただいた御仁とは知らず妹の数々の無礼、失礼致しました」


「しちゅれいしました!」


「あ、あのいやボクはそんな大層な事は......」


「......サヤの姉御は我ら兄弟の大恩人、その方を救ってくれたとなれば我らの恩人と同義に御座います、どうか、御容赦を」


「ごようしゃを!」



 下げた頭を地面につけている所為で二人とも角が地面に刺さっている。



「いやあの、どちらかと言えばボクもサヤさんとコウさんに救われたほうですので......」


「はっはっは! この二人は義理とか誓いとかそう言うのにうるさくってな! 付き合ってやってくれ!」


「と、とりあえず頭をあげてください!」


「「御意!」」



 なんだろう、何処ぞの城主にでもなった気分だ。


 ボクのここまでの経緯を説明し、二人はホームに戻ってもいいと言ったのだが、荷物持ちをしたいと聞かないので、ユズハさんが回復するまで少し待つことにした。



「んふふ、スグル君、はいこれえ」


「あ、クレープですね、ありがとうございます」



 待つ間、サヤさんとコウさんが買ってきてくれたクレープを食べる事にした。


 貿易の都市とも言うだけあって、この町では香辛料や甘味料の取引も多い。

 砂糖などの甘味料は産出量がそれ程多くないので本来であれば甘いお菓子は高級な諸侯品とされているが、ベルヘイムでは流通が多く、他国よりも比較的安価で仕入れる事が可能となっている。


 その最たる例がこのクレープだ。


 贅沢にギッシリ詰まったホイップクリームは冷えていて、鮮度の高い果物の酸味が甘味をより引き立てる。

 遺物の技術を流用した冷蔵の技術と、貿易の繁栄を象徴する甘味が、この街の発展度合いを否応無く理解させる。



「あそこのクレープは人気でねえ、お昼には売り切れちゃうのよお」


「ユズハ少女とキドウ青年も来るとわかっていれば買ったんだがな! 残念!」



 ちなみにこのクレープを考案したのはフブキさんだと言う。

 彼女のレシピ本はベルヘイムでは有名な著書で、ファンも多く、都市内の菓子専門店では引く手数多なのだそうだ。

 サヤさんとコウさんはわざわざ人気店に並んで買ってきてくれたらしい。



「......勿体無い御言葉です」


「滅相もありません姉御!」



 あ、ユズハさんの体力が回復してきたみたいだ、さっきよりも口調がしっかりしてきた。



「......姉御達の今日の買い出しは何を?」


「ん......ゴク......食料と、装備品の素材ねえ、あとスグル君のお洋服」


「では! 我らは食料品と素材を買い出します! 姉御達はスグル様の御召し物を選んでいただければ!」


「え、あの「様」って」


「......大恩あるお方を気安く呼ぶ事など我らには出来ませぬ」


「兄者の申す通り! 我らは呼び捨てて戴いて結構に御座います! どうか!」



 また地面に角を突き立てて平伏する二人。



「いやあの、お二人はギルドでボクの先輩なんですから......」


「「どうか! この通り!」」


「参ったなあ......」


「はっはっは! アタシも散々言われて困ったもんだ!」



 サヤさん曰く。

 数年前に、大陸に移住した彼ら鬼の部族の集落にモンスターが襲来。

 依頼を受けたサヤさんとコウさんとでこれを討伐、戦う姿を見て人の身でありながら鬼よりも鬼らしい『角の無い赤鬼』と称賛されたのだとか。


 サヤさんの『鬼人化』を見たのなら、その話も肯ける、怖かったもの。


 それ以来、鬼の一族の猛アプローチを受けたのだが、サヤさんがコレを拒否、仕方なく集落でも唯一得意技(スキル)を扱えるユズハさんとキドウさんを奉公に出すという事で治ったのだとか。

 だけど奉公に来られても特にやる事なんてないし、得意技(スキル)を持っているので、折角だからそのまま万華鏡のメンバーとして活動してもらっているのだそうだ。


 サヤさんの呼び方も「サヤ様」「赤鬼様」だったのをコウさんが諫めてやっと「姉御」となったらしい。

 コウさんはサヤさんを救ける存在としてまた別に崇められていたのを「姐御」と呼ばせて落ち着かせたのだとか。


 結局、折衷案として「スグル殿」に落ち着いた。

 呼び方一つでこんなに言い合うなんて初めてだ。



「......我ら鬼の一族にとって約束事は絶対に御座います」


「然り! 兄者の言う通り、違える事は死を意味します!」


「呼び方一つでそんな重たい......」


「はっはっは! それも一興だと思って大目に見るさ!」


「鬼たちはあ、真面目な子が多いのよお、今日みたいなお使いとかしっかりやってくれる良い子達よお」


「然らば早速! 体調も戻りましたので買い出しに行って参ります!」


「......姉御達もご無理のないよう」



 結局、ボク達三人のリュックとメモを受け取って、二人は行ってしまった。



「さあ! 気を取り直して! スグル少年の服を買いに行こう!」


「んふふ、サヤ張り切ってるわねえ」





    ✳︎



——ベルヘイム都市中央ハンターギルド管理所、最奥。



 ハンターギルド管理所は、入口からすぐにある受付で大抵の事は済む。

 新規登録、クエスト斡旋受付、報告、報奨金受け渡し等、多数のハンターに迅速に対応出来る様に、沢山の受付嬢が勤務している、その大半が猫族で、勤勉で的確だ。


 トビとフブキは、サヤとコウのクエストの手続きを終わらせると、受付の奥にある局長室へと案内された。


 万華鏡のメンバーはクエストの度にこの部屋に入るようになっている。


 皮張りのソファーが配置してあるこの部屋は、防音加工がされていて、傍聴などができないように窓すら無い。


 部屋の奥にはデスクがあり、一人の銀髪で、右眼が赤、左眼が青のオッドアイの女性が座っている、隣りには白髪の老人が立っていた。


 彼女は酒を呑んでいたらしく、部屋に米で造られた酒特有の香りが漂っている。



「ほう、今日はトビとフブキが来たんか、呑める相手がおらんと張り合いないで」


「お久しぶりですアンさん、といっても月に一度は会っていますけど」


「相変わらずクソ真面目そうな面やなトビ、フブキも元気そうで——」


「フブキたん!! このシイナに会いに来てくれたんじゃな!!」


「寄るなキモジジイ! アタイはジジイの相手しにきたんじゃないの!」


「んもう、ワシに向かってそんな事言えるのはフブキたんとユズハたんとアンだけじゃぞっ! と、く、べ、つ! なんじゃぞ!」


「やかましいわジジイ、いい歳こいて指でハート作らんでや、恥ずかしい」


「アンもつれないのう、じいじ寂しい」


「シイナ老もお元気そうでなによりです」


「誰じゃっけのう、小さな娘っ子以外は興味なくってのお」


「トビですこの小児性愛者」


「褒めるなってえ、シイナ照れる」


「褒めてません」



 銀髪オッドアイの女性はアン、リューの同郷で、リューがこの地に来てから色々と万華鏡に良くしてくれている。

 ギルドホームの助成や特殊なクエストの斡旋、その他にもギルド万華鏡が活動していく上で欠かせない人物である。


 シイナというこの老人は、前ハンターギルド、及び冒険者ギルド管理所局長であり、現遺物研究所局長を務める重鎮だ。

 元老院という政府互助組織の一員でもある。

 一般には情報を公開していないが、一般に流用可能な遺物による技術は、フブキのような鑑定能力を有した人間がこのシイナの管理の元、研究、選定などの作業を行っている。



「リューは息災なんか、トビ」


「変わらずですね、女漁りが面倒なので、今度アンさんが直接言ってやってください」


「昔の男の素行に興味あるかいな、元気でやっとるんならそれでええわ」


「......素直じゃないんだから」


「フブキ、なんか言うたか?」


「わかってるくせに♪」


「......あほちゃうか、まあええわ」



 アンには『真実の瞳』という得意技(スキル)がある、パッシブタイプで、右眼で虚偽を、左眼で真実を見抜く力がある。

 それ故に彼女は『閻魔』という二つ名を持ち、日に一度裁判にも判定役として出席している。

 酒を呑まないと能力が発揮されないという問題がある上に、彼女はそれ程酒に強くないというデメリットがあるが......。



「今日は何の用で来たんや? 言うてみい」


「コレを見てもらおうと思いまして」


「ほぅ、羊皮紙......大戦後のじゃな、字体を見るに二百年は前のか、面白い、ワシらに取引でも持ち掛けるつもりかの」


「流石はシイナ老、御慧眼恐れ入ります」


「世辞は良い、そうじゃな......フブキたんの前じゃし、紙媒体は珍しい、ワシが5ゴールドで買い取ろうかの」


「三十」


「三十ゴールドじゃと?!」


「あほちゃうか!」


 この大陸での金銭は、最小の単位がカッパー、千カッパーで一アイアン、一万アイアンが一シルバー、千シルバーで一ゴールドとなる。

 一般庶民の平均的な月収がおよそ23シルバーであり、収入の多いAランクハンターでも月収で100シルバー、年収でやっと1ゴールドと200シルバーである。

 シイナの言う額ですらAランクハンターの約五年分なのにトビが提示した金額はそのさらに上だ。



「いくらお主らの持って来た物だとしても、ただの羊皮紙の紙片でそこまでの金は出せぬぞ......」


「ボクら万華鏡が()()()()()()を持って来るとでも?」


「ぬぅ......それもそうじゃが......10ならどうじゃ」


「28」


「ワシの年収じゃぞそれ、......13!」


「シイナ老ともあろうお方がそのぐらいなのですか? 25」



 トビとシイナの競り合いが始まった。

 至って冷静なトビと、中の情報が気になって値を上げていくシイナ。



「ぐむう、20! それ以上は無理じゃ!」


「ではこうしましょう、フブキさん」


「うぅ、どうしてもやらないとだめぇ?」


「ダメです」


「うぅう......」


「な、なんじゃ? フブキたんが何かしてくれるのか?」



 フブキがモジモジしてシイナを焦らす。

 握った両手を甲が外側になる様にして顎の下に寄せ、上目遣いにシイナに訴えかける。



「し、しいなおじいちゃんがお小遣いくれたら、おじいちゃんのくれたお洋服着ても、いいよぉ?」


「?!」


「あかん! トビ! フブキそりゃ反則やぞ!!」


「ユズハさんもセットです」


「ぐはぁ?!」


「さあ、シイナ老、如何しますか!」


「30! いや! 40出しちゃう!」


「おいクソジジイ! いい加減に——」


「うるせえ! こちとら齢70にして悲願が叶うんじゃ!! 貴様はだまっとれえ!!」


「ボケたんか?! 未確認の情報にそないな金出せるかあほ!」


「推しに貢ぐ事になんの躊躇いがあろうか!」



 荒ぶる老人を羽交い締めにするアン、老体のどこにそんな力があるのか、背中にしがみ付くアンを振り回して喚くシイナ。



「チャンスなんじゃ! 今生一番のチャンスなんじゃあああ!」


「先程言った通り、30ゴールドで構いませんよ」


「なんじゃと?! お主天使か? いや、フブキたんはそもそもワシの天使——」


「その代わり、ですが」


「......なにが望みじゃ」



 トビが提案を出すとそれまでニヤついていたシイナの眼光が鋭さを増した。

 それは耄碌した老人の眼ではなく、歴戦狩人の眼であった。

 


「事と次第によっちゃあ、分かっとるんじゃろうのう......ん?」


「羊皮紙は元々所有者が居るので、書かれている情報をお売りするという事で如何でしょうか」


「お前らウチらに喧嘩売りに来とんのか? そんな情報確証ないやろが!」


「あるじゃないですか、アンさん、貴女という保証が」


「成る程......」



 トビが言うことが真実であるか否かをアンは見定める事ができる。

 それが情報に対する保証、つまり、アンとシイナ二人を呼んだのは——



「ふん、初めから全部計画通りっちゅうことやな、あん時の青二才が言うようになりよったわ」


「お褒めいただき恐縮に御座います」


「っふ! ふぁっふぁっふぁ!! 気に入ったわい! 良いじゃろう! 情報とやらを寄越せ!」


「もう一つ」


「まだあるのか! ふぁっふぁ! 業突く張りよの! 嫌いじゃ無い、言うてみい!」


「ランクSの『図書館』の鍵が欲しいの♪」



 フブキはまたおねだりポーズをとってシイナに訴える。



「フブキたん、いくらなんでもセキュリティSランクの鍵は——」


「ちゃんと下着も言われたの履くからぁ」


「はい! あげちゃう!」


「おいこらロリコンジジイ! 大概にせぇや!!」


「ふぁふぁふぁ、アンよ、そもそも技術支援として色々なアイテムを鑑定してくれているフブキたんは、とっくにSランク許可は降りとるんじゃよ? 知らなかったんかの?」


「え......じゃあ——」


「言質は取った! トビとアンが証人じゃ!」


「えー! アタイおねだりし損じゃなぁい!」


「ふぁふぁふぁ! 幼女万歳!」


「そもそもアタイだってアンさんと同い年なのにー!」


「ふぁーっふぁっふぁ! 合法ロリ万歳!」


「あほかいな......あかんわこのジジイ」



 取引が成立し、必要書類にサインを交わす。

 原則、金額の大きな取引は、不正が起こらないように書面に残すのが決まりである。



「さあ、そんなら肝心の羊皮紙の情報を聞こうやないか」


「分かりました、この羊皮紙をフブキさんが鑑定したところ——」



 トビがフブキの鑑定結果を伝える。

 古い言い回しで邪竜が既に眠りから醒めた、という言葉。


 アンとシイナの二人は聞くなり深刻な表情を浮かべた。



「それはほんまの事なんやろな? フブキ」


「アタイの鑑定に間違いが無いの知ってるでしょ? それとも疑うの?」


「せやったな、ウチの眼を使うまでも無かったわ」


「フブキたん、遺物の鑑定でショートは大丈夫じゃったんかの?」


「うん、ショートしないようにコウさんの薬を少し貰ったの、でも......」


(それでもスグルんの得意技(スキル)は鑑定出来なかったんだよねぇ、あれ以上薬を飲めば毒性が出ちゃうし......)


「どうかしたんかの?」


「ううん、何でも♪ じゃあアタイは早速『図書館』に籠るから、ビンビン、夜には帰るからご飯の準備お願いね」


「分かりました、フブキさん、くれぐれも得意技(スキル)の使い過ぎには——」


「わかってる♪ にへへ、あんがと」


「僕も今日はこれで失礼します、後日、改めて団長含めてお話ししましょう」


「せやな、ウチはこれから各高位ギルドに根回ししてみるわ、ったく、これから忙しくなりそうやわ......」


「ワシもちょっくら上層部に探りを入れてみようかの」


「よろしくお願いします、では」



 トビが去ると、部屋には静寂が残った。



「............。」


「アンよ」


「なんや、親父」


「そこはパパと呼んでくれんかのう」


「るっさいわクソジジイ、んで、なんや」


「わかっとるじゃろ」


「ああ、あの羊皮紙に関しては何も嘘は無かったわ、せやけどな」


「うむ......やはりか」


「......最後の薬の件でフブキは何か隠し事をした、何でやと思う?」


「ふぁふぁふぁ、気になるのう!」


「......ニッコウ、ゲッコウ」


「「ここに」」



 アンが呼んだのは真っ黒な忍装束の男性二人。

 アンの背後に並んで立っていた、まるで最初からそこに居たかのように。



「『万華鏡』の動向をしばらく監視せえ、何かあれば逐次報告や」


「「御意」」



 返事をするなり二人の忍は姿を消した。

 最初からそこには誰も居なかったように、風も無く。



「......リュー、まだ、なんもせんでくれな」




 ベルヘイムの街は、この日から、少しづつ変化し始めるのだった。






    ✳︎




 御覧戴きましてありがとうございます。


 次はスグルの衣装を選ぶ所から始めます。

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