ギルドと得意技(スキル)Ⅲ
お疲れ様です。
今回は現状登場しているメンバーの得意技紹介です。
とにかく解説が多いです。
ボク、スグルの故郷ルアンコロール村は、牧畜が特産の貧しい村だ。
都市ベルヘイムには一般用乗合馬車で約十日、いくつかの町や村を経由してこれぐらい離れている。
村、と呼ばれる場所は何処も貧しい。
大陸は領主制が普通で、余剰生産物という名目で多くの税を納めないとならない為に、蓄えがそれ程に多く無い。
勿論不平不満は積もっていくのだが、税の利用先が町村を守ってくれるハンターや冒険者、騎士団の賃金に一部割り当てられるので、表立って文句を言う人は少ない。
加えて農村部に農業支援として政府から駆り出されている猫族達の恩恵もあって、人口が少ない農村部でも問題無く生活が送れるのだ。
冒険者だった父は、ボクがまだ幼い頃に遺跡の探索中崩落に巻き込まれて死別している。
残された母と妹のハナと一緒に、元冒険者でこの村で畜産を営む祖父に世話になっていた。
祖父の家には父の遺品と、祖父が冒険者だった頃の書籍や、思い出が沢山詰まったメモや手帳が沢山仕舞い込まれて、ホコリを被っていた。
ボクは幼い頃からの日課と言えば父と祖父の手帳を読み解く事だった。
なんでも父は冒険者としてはランクが高く、冒険者ギルドの団長として活躍していたのだそうだ。
ある日、ボクは父の手帳で気になるものを見つけた。
大陸の端にはベルヘイムという大きな門がある場所があって、そこには邪悪な竜が封印されている。
ここまでは何処にでもある絵本に描かれている。
“かつてこの地で人間と亜人種が大きな戦争を100年続けた。
それに眠りを遮られ、怒った竜は戦地へと赴いては大虐殺を繰り広げた。
戦争は治まったのだが、竜は邪悪な邪竜となって尚も人々を襲い続けた。
人類と亜人類は共に手を取り合い竜を倒して、この地の果てベルヘイムへと邪竜を封じ込めたのだ”
この話は作者も登場人物も不明なのに、何処でも誰でも知っているお伽話だ。
そして
問題は父が書いたとされる手帳に挟まっていた古い羊皮紙に書かれた言葉なのだが——。
「成る程、それを確かめたくて冒険者になったのですね?」
「はい......実はその羊皮紙に書かれた文字が判読出来なくて、この街で調査すれば分かると思ったんですが、まずハンターさんを雇う為にも生活するにしてもお金が無くて......」
「それで......ふむ、話は大体分かりました」
トビさんがボクの話を事細かくメモ書きしていた。
「トビぃ、ええ所なんやから話止めんといてやぁ」
「すみません、スグルさん、その手帳を今でも持っていますか?」
「はい、父の形見ですので」
「少し、見せてもらっても?」
「どうぞ、最後のページに羊皮紙が挟まっています」
「ありがとうございます、後でお返ししますね、フブキさん、ちょっといいですか?」
「あいビンビン、見るのね? いいよぉ♪」
「そのビンビンって呼び方いい加減やめてもらえませんか?」
「いいじゃ〜ん♪ 可愛いよビンビン」
「あのですねえ......」
トビさんは恭しく手帳を受け取ると、フブキさんと言い合いをしながら部屋の端で何か話し込み出した。
それにしてもビンビンって......。
「ちょっとお花摘んでくるわねえ」
「ええよ、んじゃ当面スグルは調査の為に金を稼ぎたいんやな?」
「はい、それと......」
「なんや? 言うてみ」
ボクは一呼吸すると意を決して言った。
「強く、なりたいです」
「ほぉ......強く、か」
今日一日で痛感した、何よりもボク自身が強くならなければ。
上位ハンターが集まるこのギルドで活動するにしても、遺跡を調査するにしても、今のままでは装備をちょっと良くした程度じゃ生きていけるとは到底思えない。
サヤさん達みたいな得意技がボクにもあるとするならば尚更!
「スグル、得意技の話はサヤ達から聞いたんか?」
「はい、サヤさんとコウさんの得意技は聞きました」
「反動の事もか?」
「はい......」
「そうか、せやったら今ここにいる俺達の得意技も教えとこか」
リューさんは紙とペンを取り出してボクに分かりやすい様に教えてくれた。
サヤ
得意技『鬼人化』
身体能力向上系、アクティブ能力
効果、攻撃力強化
反動、筋組織等の破壊
コウ
得意技1『効果転移』
特殊系、アクティブ能力
効果、任意対象に経口摂取アイテムの効果付与
反動、アイテム副作用の残留
得意技2『超回復』
身体能力向上系、パッシブ能力
効果、自己回復
反動、渇き、身体内部バランスの崩壊
「ここまではええんやんな?」
「はい......あ、でもそのコウさんの「身体内部バランスの崩壊って......?」
「ありゃ? アイツらと一緒に風呂入っとったのに気ぃつかへんかったんか?」
「はっはっは! 改めて見せようと思ったら団長が来たのさ!」
「カカカ! そりゃ悪い事をしてもうたな! まあじきに分かる事やろ」
「そうなんですか......?」
「せやで、んで、ここからが俺達の得意技やな」
トビ
得意技『全能』
知覚強化系、アクティブ能力
効果、アイテム使用効率強化
反動、能力使用中呼吸不可
トビさんの得意技『全能』は、集中する事で装備した武器等何でも経験関係無しに、最高のポテンシャルで扱える様になるらしい。
代わりに集中してる間呼吸が出来なくなるのだそうだ。
それと......。
「得意技を発動させるのに、ちぃと面倒があってやな」
「面倒、ですか?」
「せや、アイツ周りに必要とされへんとスイッチが入らへんねん」
「......といいますと?」
「まぁ見ててや......サヤ」
「おう! どうした団長!」
「ちょい耳貸しぃや」
リューさんがサヤさんに耳打ちして何やらゴニョゴニョと話している。
遠目から見ればガタイの良い男性が長身の女性と秘事をしている様な、魅力ある光景にも思えるのだが、表情を見ると子供が悪戯を企てている様にしか見えない。
「トビを——してな?そんで——」
「うんうん! っぷ! はっはっは!」
「な? おもろいやろ?」
「うん! よし! やってくる!」
話を聞いたサヤさんが、相談しながらメモを取っているトビさんとフブキさんの前で、手に紙とペンを持ってわざとらしくウロウロし始めた。
「はぁ〜! あー!困ったなー! トビ青年がーいないとー! 困っちゃうなー!」
「どうしました?」
「トビ青年がいないと——」と言った時点でトビさんはフブキさんとの会話を一時中断してサヤさんに近づいてきた。
サヤさんがリューさんの様にニィっと笑顔を見せている、どう見ても怪しい。
「クエストの報告書を書きたいんだけどー! ほらー、アタシペン握り潰しちゃうからー! 困っちゃってー!」
「ふむ、成る程」
鉄製のペンを握り潰す握力ってどれぐらいなんだろう......。
いやでもサヤさんならやりかねないな。
「トビ青年ならこのぐらいすぐ出来ると思うんだけどなー! こういうの青年にしか出来ないなーなんて!」
「......! 少々、お待ち下さい」
なんだか、トビさんの目の色が変わった気がする。
サヤさんから紙とペンを受け取ると、一度目を閉じて深呼吸をしている。
「......サヤさん、では報告書に書きたい文言を口頭でお願いします」
「はっは!そうこなくっちゃ!それじゃあ——」
「ふぅー......!」
トビさんが目を開くと急に無口になり、ペンを持って紙を真剣に見つめている。
まるで彼には紙以外が見えないかのように。
「うん! それじゃいくよ——」
「............」
サヤさんは今回のクエストのあらましを事細かく喋る。
「——つまり河川で発見されたシールドベアは人間を威嚇しに来ていたわけではなくて——」
「............」
喋る速度が明かに早いので、普通ならば聞き直すなりしてメモしていくはずだが、トビさんはというと。
「............」
凄まじい速度でペンを走らせている。
ペン先だけ見ていると、まるで声に反応して自動で書記しているかのようだ。
成る程、武器だけではなくて、アイテムでも応用が効く得意技なのか。
驚いてリューさんの方を見ると、「どや?」とでも言いたげな顔で笑っていた。
リューさんはトビさんに聞こえない音量でボクに伝える。
「こっからがおもろいとこや、まあ見ててや」
クエスト内容を全て口頭で伝えたサヤは、一仕事終えた面持ちでトビさんから報告書を受け取る。
トビさんはまだ得意技が発動したままのようで、ペンを持ったまま停止している。
まるでトランスしているかの様な状態だ。
「はっはっは! ありがとうトビ青年! 後は中央部にコレを出せば大丈夫だ!」
「......はっ! もういいんですか? なら僕が後で持っていきますから——」
「ああいいのいいの! そのぐらいアタシでもできるし! トビ青年じゃなくても出来るでしょ?」
「そ、そうですか......ではよろしくお願いします、素材等の鑑定もありますので、その書類が纏まり次第一緒に提出して——」
「わかってるって! トビ青年じゃなくてもそれぐらいの仕事はするさ!」
「うっ......よ、よろしくお願いします」
トビさんの様子がおかしい、何があったんだろうか?
「な?おもろいやろ?」
「トビさんはどうしたんですか?」
「『トビじゃなくても出来る』、これな、アイツの前じゃタブーやねん」
「タブー?」
「『今自分が必要とされている』っていう実感がトビの原動力でな?その真逆の事をトビに言うと......」
ニヤニヤしながらリューさんはトビさんを指差すと、そこにはあのクールそうなトビさんがテーブルに突っ伏して項垂れていた。
小さな声で何かぶつぶつと呟いている。
「ですよね、僕なんて書類を書くだけ書いて任せてもらえないお荷物ですよねそうですとも、そもそも僕なんてぶつぶつぶつぶつ——」
「あ、あの......トビさん...?」
「ええそりゃ僕だって忙しいんですよ? 会計にクエスト情報管理にメンバーのスケジュールも管理してるのにでもそれでもそれぐらい僕にだって出来るんですよ任せてくれたっていいじゃんぶつぶつぶつぶつ——」
「うわ!めんどくさ!」
「カカカカカ!な?おもろいやろ?」
どうやらトビさんは持ち上げてあげないとダメになってしまうタイプの人らしい。
それでさっきお風呂に入る前に手伝いを断ってきたのか。
これはちゃんと覚えておかないと面倒な事になりそうだ。
「んまあトビはそんな感じや、次はフブキな」
「なにー?アタイの事呼んだ?」
「おう、スグルにフブキの得意技教えたってや」
「なになに? アタイの事知りたいんだ♪ んとねぇ、料理と鍛治が得意でね、街でアタイのレシピ本も売ってるんだよ! ね、凄いでしょ♪」
「せやせや、食べて分かったやろうけどな、コイツの作った卵焼きがほんまに美味くてなぁ......ってちゃうわアホ!」
「アホってなによぉ! 褒めてんのか馬鹿にしてんのかどっちかにしてくんなぁい?!」
「得意技の話をせぇっちゅうとるんじゃ!」
「うるさい片面ハゲ!」
「ハゲちゃいますぅ〜! 編み込みっちゅーお洒落ですぅ〜」
急にコントが始まった。
やいのやいの言い合いながら、フブキさんの得意技を教えてもらった。
要約して書くとこんな感じだそうだ。
フブキ
得意技『全知』
知覚強化系、アクティブ能力
効果、対象の鑑定及び解析
反動、情報量に応じた頭痛
フブキさんの得意技『全知』は、触れた任意の対象の情報を読み取るという能力らしい。
物質であれば生物、非生物問わないのだそうだ。
これって中央都市部の遺物研究に活かしたらとんでもない技術革新が起こるんじゃ......。
「ああ、遺物は頭痛が酷くて嫌なの♪」
「反動ですか?」
「そう、遺物に触れて見ようとすると、大昔から蓄積された情報とかが一気にドバーッ! って来ちゃって、頭がオーバーヒートしちゃうんだ♪」
「無理にやったらどうなるんですか?」
「良くて廃人、最悪脳死するんじゃないかなぁ」
「脳.....死」
なんて危険な能力だ......うっかり興味本位で中を覗いたら爆弾でした、みたいな感じか。
「にへへ、冗談冗談♪ アタイも自分の事は解析出来ないから、詳しくは分かってないけど、あんまり情報が多いとストッパーが働いて、気絶するようになってるみたいなの」
「コウの得意技を解析しようとしたら気絶したんやったな」
「団長の時もだよぉ! 覚えてないの?」
「あぁ?! あん時お前俺の事覗いとったんか! スケベ!」
「違うもん! 得意技二つ持ちなんてレアケースが二人もいるんだよ?! 見るに決まってんじゃん!」
そういえばコウさんが、リューさんも得意技を二つ持ってるって言ってたっけ。
「それで? 結局何かわかったんか?」
「気絶しちゃってなぁ〜んにも」
「使えへんなぁ」
「あ、そんな事言っていいんだ?! もう団長にだけ卵焼き作ってあげないんだから!」
「おま! それだけは堪忍や! アレめっちゃ美味いねん!」
「いー! だ!」
「神様仏様フブキ様! この通りや!」
神に祈るように大の......特大の大人が小さな狐娘に縋る姿は滑稽でしかない。
「......プリン」
「ほへ?」
「調理場にプリンが冷やしてあるわよ」
「ほんまか?! よっしゃ!!」
「みんなの分まで食べたら容赦しないからね!」
「カカカ! おおきにな!」
「聞いてんのか! 半分ハゲ!」
「カカカカ!」
あれだけ食べてまだ食べるのか......。
ダッシュで調理場へと駆け込むリューさん。
一番大きな人が一番子供っぽいんだよなぁ。
フブキさんがお茶を淹れてくれた。
「それでぇ? 後は団長の得意技だっけ」
「あ、はい! 二つあるんですよね」
「そうそう♪ コウさんも凄いけど、団長はもっと凄いのよぉ」
リュー
得意技1『威圧』
特殊系、アクティブ能力
効果、対象の能力低下
反動、飢餓
「これは直接見たのよね?」
「はい、視線だけであのサヤさんですら『鬼人化』しても立ち上がって喋るのが精一杯みたいでした」
「聞いたけど、その後ろに立ってて平気だったんだって?」
「よくわからないんですけど、怖かったです」
「怖かった、かぁ、にへへへ、スグルんは面白い子だね♪」
そんなにおかしな事だったんだろうか、確かにリューさんもトビさんも余波を受けて立っている事に驚いていた。
「余程面白い得意技を隠し持ってるのよねぇ、きになるう♪ 覗きたあい!」
「ははは......あ、それでリューさんのもう一つの得意技なんですけど」
「そうそう、......まあ人前で使う事はもう無いとは思うんだけどね」
「ん?」
得意技2『憤怒』
身体能力向上系、半アクティブ能力
効果、自身の全身体能力超向上
反動、破壊衝動、及び憤怒状態の解除不可
誰よりも単純で誰よりも強い能力、それが彼のもう一つの得意技。
怒る事がトリガーになって発動し、力、防御能力、素早さ、回復力等、全ての身体能力が持続的に跳ね上がるらしい。
力だけで言えば『鬼人化』状態のサヤさんと互角か、それ以上なのだそうだ。
はっきり言って最強。
......でもこの反動ってもしかして......。
「そう! スグルんかっしこーい♪ 『憤怒』は、怒りによって発動するんだけど、自分で『憤怒』状態を解除出来ないの」
「怒りが暴走する感じ......ですか」
「せやな、俺の、このギルドの切り札みたいなもんや」
バケツを抱えてスプーンを持ったリューさんが厨房から出て来た。
もしかしなくてもバケツの中身はプリンだろう、全員分食べるつもりらしい。
「えらいじゃない♪ ちゃんと自分の分だけ食べて」
「俺を猿か何かだと思うてはります? いやぁそれにしても美味いわあ!」
......あれで一人分、食べたばかりで胸焼けしそうだ。
「話の途中ですみません、ちょっとお手洗いに......」
「いっといれ〜♪」
「出てすぐ左側が男子便所や、右は女やから気ぃつけや!」
ボクは扉を出るとトイレに向かった。
「あれ?そういやコウはどこ行ったんや?」
「あ〜コウさんならお花摘みに......」
「「あ......」」
ボクはトイレに行く前にドアの前で考え事をしていた。
全員にはまだ会っていないが、ギルド全員が得意技を持っている、しかも全部が強力だ。
考察するに、何かしら運動能力や、知覚能力、身体に影響する効果がある。
ボクが得意技を持っているのはフブキさんが鑑定したのできっと間違い無いのだろう。
だとするならば
シールドベアの頭蓋を砕き、余波とはいえサヤさんさえ身動き出来ない能力に対抗し得る
ボクの得意技ってなんだろう......?
............。
ダメだ!考えてもしょうがない!
後でちゃんとフブキさんが見てくれればわかるだろ。
取り敢えず用を足そうとトイレの扉を開くと。
「あらやだあ、スグル君って強引なのねえ」
頭の横に可愛らしくピンクの花を添えたコウさんが立って用を足していた。
「ご!!!ごめんなさああああい!!」
バン!
と、ボクは謝りながら勢い良くドアを閉めた。
ああああああ!!
やってしまった!!
コッチが男子トイレじゃないのか?!
アハハハ〜、コウさんったら〜、お花を摘んでくるって言ってたじゃないか〜。
んもうどうしよう!!!
よりにもよってコウさんが用を足している時に......。
............。
......ん?
立って用を足していた......?
読んでいただいてありがとうございます。
さり気なくここまででこの世界で1日経ってないんですよね。