絶体絶命Ⅱ
お疲れ様です
見ていただいてありがとう御座います。
今回は前回より長めにしてみました。
「っ?!!...う......うぁあ......!!!?」
右肩の関節部から先が無い。
切れた、というよりも引きちぎれたみたいだ、何処へ行ったかも分からない腕の骨に付いていた肉が、筋がだらし無く垂れ下がっている。
気がつけば流血で血みどろになっていた。
きっとシールドベアの一撃をかわしたと思っていたあの時だろう、逃げれはしたが右腕を持っていかれたんだ。
生き物は極限の状態に陥ると、緊急的な措置として痛覚を脳から一時的にシャットダウンする事があるらしい。
シャットダウンしていた痛覚が、傷口を見た途端戻っていく。
痛みのショックで意識が飛びそうだ。
「うっ...ぐ......ぎゃあああああああああああ!!!」
思わず叫び出し自分の血で作った赤い水溜りにビシャリと倒れ込む。
まずい、血を失い過ぎた。
このままではモンスターの餌食になる前に失血死だ。
「少年!名前は?!」
「っぐぅ......ス...スグル」
「よし...スグル少年、これを飲め!」
唐突に名前を尋ねられて反射的に答える。
意識がなくならない様にしてくれているのだろう。
彼女はおもむろに腰のポーチに入っていた緑色の液体が入った瓶をこちらに投げる。
「......これは?」
「いいから早く飲め!飲んで私の仲間を呼んできてくれ、何処かにいるはずなんだ!」
森で出会った名前も知らない容姿のおかしな怪力の女性から受け取った緑色の液体。
普通であればそんな怪しさ満点の薬なんて飲む気になれないのだが、現状でそんな事を考える余裕も猶予もない。
何よりも、身を挺してシールドベアから守ってくれたんだ、そんな人がこんな時に毒薬なんて渡すわけがない。
そうこうしている間にも
大剣の衝撃に意識を刈り取られて仰向けに倒れていたシールドベアがむくりと上体を起こし始めていた。
「急げ!私は上手く身体が動かない!」
「......っ!」
「早く!!」
意を決して瓶の封を切る。
酷い刺激臭がする、どう見ても毒薬にしか見えないそれを泣きながら一気に呷る。
......ゴクリ。
......。
「ううっ?!......うっぷ!!?!」
不味い!
とにかく不味い!
緑色だったので想像してはいたが、想像を遥かに上回る苦さと酸味が口の中に広がる。
その辺にある雑草を塩酸とレモンで煮詰めてキノコと生クリームでマイルドにした様な味だ。
今すぐにでも吐き出したい気持ちだが
「吐くな!飲み込むんだ!!」
「うっぐ!?......っんぐ......っはぁ!うっ......はぁ!」
ボクは口を手で覆って無理やり飲み込んだ。
胃が七転八倒している、やっぱりこれは毒薬ではないのだろうか?!
熱い......。
胃からどんどんと全身に向けて熱が広がる。
熱は傷口に到達すると、より強く熱を発した。
「あっつ!!!」
傷口から火が噴き出したのではないかと思った。
ボクは地面を転げ回る。
そして驚愕すべきは味でも熱でも無く、効能。
千切れた肩の断面から血が止まっているのだ。
この世界にお伽話に出てくるような魔法なんていう都合の良いものは無い。
遺物による謎のエネルギーで動くカラクリなどは少数では有るが、それは遺物あってのもの。
医療においては遺物を研究してそこから作り出した回復薬があるが、多少の切り傷や疾病を癒す程度の効能となる。
使用される薬草なども希少で広く普及されておらず、僅かな高価なのにやたらと高額なため、一部の好事家がコレクションしているに過ぎない。
だからこそ今起こっているのが異常な現状だという事は分かる。
今千切れたばかりの腕の出血が止まっているのだ。
そればかりか、少しづつではあるが......。
「再生し始めてる......」
失った腕が生えてきたわけではないが、ミチミチと小さく音を立てて失ったはずの骨や肉が徐々に傷口から生え始めている。
凄まじい痛みと熱だが、今までの常識を覆す効果にそれどころじゃなくなった。
「ははっ!アイツ味付けは最悪だがやっぱり調合の腕は凄いな!......よっこらしょ」
黒い痴女がヨロヨロと起き上がり、歪んだ大剣を杖代わりにする。
「よし、元気が出たなら早くアイツを探してきてくれ!」
「貴女も満身創痍じゃないですか!」
「どうにかする!」
「どうにかって?!」
言い合いをしている間にもシールドベアが今にも起き上がろうとしている。
こんな森の中で何処の誰かも分からない「アイツ」を探すなんて無謀過ぎる。
だがこの人をここに置いていくのはもっと無謀だ。
「「ぐるぉおおおあああああ!!!」」
もう時間がない
シールドベアが咆哮し、動き出した。
「スグル少年!早く......?!」
「......」
「少年!!」
「うわあああああああああああ!!!」
ボクは何をしているんだろうか。
勝てっこないシールドベアに向かって疾走している。
互いの力量差なんてさっき痛感した。
信じられない事に治り出してはいるが千切れた右腕の痛みはまだある、お前に勝ち目はないと痛みが警告する。
それでも、目の前の人を放ってはおけなかった。
こんな助ける価値もないボクを助けてくれたのだ、それだけで充分じゃないか!
一矢報いてでも!
武器はない、渾身の力を左拳にこめて。
一撃だけでも!!
名前も知らないその女性の力が少しでも借りられれば......!
そう思った瞬間
身体が少し軽くなった気がした。
グシャア!!
シールドベアには強固な鱗が全身に生えている、その強度は騎士団のフルプレートを凌駕するだろう。
であれば素手で狙うべき有効な場所は何処なのか。
鼻先、口腔?だめだ、有効とは言えない。
であれば!
「「ゴァアアアア!!!」」
「はははっ!眼球か!考えたねえ!」
渾身の力を込めた一撃を、シールドベアの右眼に打ち込んだ。
片目でも目潰しなら少しでも時間は稼げるだろう、そう思った。
だが結果は違った。
どういう事なのか打ち込んだ拳は奥まで進み込んで、入り込んだ腕は肘まで埋まっていた。
眼球を潰すだけでは無く、頭蓋を砕いて脳まで達していたのだった。
このまま掴まれて殺されてしまうかとも思ったのだが、ピクリともしない。
シールドベアは咆哮を終えるとそのまま絶命したようだ。
「はぁっ......はあっ......っ!」
「はっはっは!やるなスグル少年!」
「はは......もうこのまま身体が動きませんけどね......」
シールドベアの眼窩に腕を差し込んだまま、身動きが取れない。
それにしてもボクにこんな力が?火事場の馬鹿力というやつなのだろうか?
どうにか腕を引き抜こうとした瞬間、絶命したかと思えたシールドベアが動き出した。
「「グルルォオオオアア!!」」
ああもうこれはダメだ、もう打つ手がない。
右腕は無くなり、左手は眼窩に埋め込まれたまま、身体は動かないし、もうどうしようにも......
「あらあらあ、随分な叫び声が聞こえたと思ったら、何してるのお?」
唐突に少し遠くから声が聞こえてきた。
いやこんな時にそんな質問に悠長に答えてなんかいられないのですけど!
......と。
ヒュンッ
ズガッ!
突如何処からともなく目の前のシールドベアの潰れていない左眼に、少し大きな矢が突き刺さった。
どうやらそれがトドメの一撃になったようで、シールドベアは息の根を止めた。
「遅いぞコウ!」
「んもう、サヤが突っ走って迷子になるからあ、こっちは補給しながらだから大変なのよお?」
随分間延びした口調のコウと呼ばれた女性がやっと姿を現した。
この人も外見に似合わない大きな弓を担いでいる。
サヤと呼ばれた黒い痴女とは対照的な、白髪のショートボブに青い瞳、白銀の胸元だけさらけ出ているタイトな鎧に白い腰布が巻いてある。
腰布でよく見えないが、先ほど飲んだ緑色の液体が入った瓶がチラチラと見えている。
こちらに向かって歩きながらそれを一つ飲んでいる、あの劇物を飲んで顔色一つ変えていない。
味が違うのだろうか?
「コウごめん!回復おねがい!アレ使ったから身体がもう限界なんだ。」
「もう飲んだわよお?」
「あとそこのスグル少年が怪我をしていてね!」
「トリアージはあ?緑い?切創かしらあ?......あらまあ、腕が取れちゃったのねえ?」
「さっきアタシのをひと瓶飲ませたけど赤!」
「やだあ、あれサヤ用に調整したやつよお?それでダメなのお?」
「アタシはいつも通り緑!少年はから赤!」
「仕方ないわねえ、赤は高いのよお?」
この人達は何を言っているのだろうか。
コウという女性はおもむろに腰布をまさぐり、赤い液体が入った瓶を取り出して封を切る。
それなりに離れた距離にいるのに物凄い刺激臭がする、緑の液体の比ではない。
あれを飲めと......?
と、絶望したのだが違うようだ。
ボクには勧めもせずに、自分で飲み出した。
「ゴク...んっ......ぷはぁ。喉越しさいこお」
「ははは!味は想像もしたくないな!」
「いいからあ、彼の腕ぬいてあげなさいよお」
理解が追いつかない事態があまりにも多くて、自分がモンスターの眼窩に腕を突っ込んだままだった事を忘れていた。
ついでに右腕が無くなっていた事も忘れてしまいたかったが、最早後の祭りだ、ともかくこの痛みに耐えなければ......あれ?痛くない?
というか......。
「あれ...腕が......ある」
とっくに諦めていた。
隻腕の冒険者もこの世には珍しくないらしいのだが、苦労することはまず間違いない。
引退して、片腕で農作業をする者だって珍しくも無い。
「ははは!良かったねえ!」
いつの間にやら先程の傷も、疲労した様子がまるで無いサヤに子供の様に抱き上げられたボクは、驚きと嬉しさ、先程の恐怖や苦悩とが全部ないまぜになって、泣いてしまった。
「うっぐ......ひぐ......」
「はっはっはっは!良い男が泣くもんじゃないよ!
......怖かったろうに、よく頑張ったね!」
「あい...すびばぜん......ひぐ......」
まるで親に宥められている子供だ、美女二人に微笑まれてなんとも恥ずかしい。
「......っく。改めてお礼を言わせて下さい
助けてくれて、本当にありがとうございました」
濡れた頬を拭いもせずに、ボクは二人に向かって深々とお辞儀した。
「討伐のついでさ!ついで!」
「サヤの方向音痴もお、役には立つ時があったのねえ、知らなかったあ」
「私は迷子じゃないぞ!狩りの途中でだね!」
「はいはあい」
「二回の『はい』は聞いてない『はい』なんだぞ!」
「んふふ、はあいはい」
きっと彼女達は上級ハンターか、高ランクの冒険者なのだろう。
あんな死闘があったにも関わらず、シールドベアの死体の前で笑い合う姿に、自分の非力さを痛感した。
そして、更に痛感する事となる。
彼女達が只者ではないことに。
「おかわりが来たようねえ」
「はっ!コウが居ればアタシは最強!」
茂みの奥からシールドベアが三体現れた。
拙い文だと自分でも思いますが如何でしょうか?
次はかなり短くしてみます。
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