絶対絶命
はじめまして。
こういう創作物は初めてなので
生肉の様に暖かく見守ってあげてくださると幸いです。
ゆるりと更新していこうと思います。
「「グルァアアアア!!!!」」
耳を劈く咆哮と共に、3メートルはあるだろう熊に鱗が生えたような怪物が大木を薙ぎ払う。
草ではなく、大木を、だ。
「ひぃいいい!!誰か助けて!!」
情け無い声を上げて森を全力で駆けているのがボク
スグルです、なんとも恥ずかしい。
なぜこんな森でモンスターから逃げ回っているのかって?
それは少し長い解説が要るだろう。
ボクが住む街ベルヘイムは、研究と貿易の街。
遥か昔、大陸の端に封印されたという竜種が居るとされている場所の入り口に作られた大きな街だ。
そこでは多種多様な民族、種族が入り乱れ、人種の壁を越えて過去の遺物について日々研究がなされている。
遺物は人類の宝であり、かつてないエネルギーを生み出すとされ、各国で長年注目を集めている。
実際、生活の一部に遺物による技術が流用されている例もある。
この街の周辺では遺物がより多く発見され各国首脳陣の判断の元、研究チームが派遣されて、発見された遺物等の運搬から始まり、大きな貿易都市が築かれた。
遺物の探索には危険が伴う。
今ボクを追い掛けている怪物もその一つ。
封印された竜種の持つ何かしらのエネルギーが原因で、周辺の動植物に影響が出ている、らしい。
らしい、というのはこれらの研究がまだ未解明だという事で、この街ではその研究が一番儲かる......もとい、一番重要視されているという事。
シールドベア。
このベルヘイム一帯に近年姿を見せ始めた全身に鋼のような鱗を持つ巨大な熊の様なモンスター。
近年発見されたばかりの新種で情報があまり無く、森の奥で存在が確認され、複数の冒険者がその被害に遭ったという。
ベルヘイムに出現するランクの高いモンスターは
大抵都市中央部から直に上級ハンターに依頼を出して討伐しているため、街周辺の森は草食モンスター等のランクD以下しか居ないはずなのだ。
当然低ランクの冒険者やハンターしか周囲にはおらず、このモンスターのせいでここ一週間森は侵入制限がかけられていたのだけれど。
......って。
今はそんな解説している場合じゃないだろ!
「「グルォオアアアアアアア!!!」」
怒り狂った怪物がいつの間にかすぐ背後に迫って来た。
もうだめだ......母さん、ハナ......ボクダメだったみたいだ......遺物で一獲千金なんて考えたボクがバカだったんだ......。
あ、ハナって言うのはボクの妹のことで、研究以外何も出来ないボクに代わって家事炊事何でもこなせるパーフェクトなシスターなわけで、怪物がさっきから静かだけどハナの作った料理はまた絶品なわけで......あれ?
さっきから頭部を腕で覆い蹲っているので状況が見えない、見たくない訳なのだけど、あんなに怒り狂っていたモンスターが攻撃してこない?
代わりになんだかギリギリと金属を擦り合わせるような音が聞こえて来る。
「ははっ!こんな状況でペチャクチャ独り言なんて、変わってるね少年!」
突拍子もなく聞こえて来た涼やかな女性の声。
なんだ、何事?女の人?
恐る恐る覆っていた腕を解いて背後を見る。
「少年!見た所若いけど、普段大人しいシールドベアに追い掛けられるなんて一体何をしたんだい......んもう!邪魔だなあ!」
目の前の光景が信じられなかった。
体高で3メートルはあるだろうモンスターの攻撃を、身の丈ほどある巨大な鉄板の様な大剣で防いで、いや、むしろ押し返している女性がそこに立っている。
髪はカラスのように漆黒、瞳は真紅、まるでボンテージのような素肌があちこち剥き出しの漆黒の革鎧を着ている。
軽装備過ぎて目のやり場に困る。
そしてやたらに顔が整っている、厳しい武器に似合わない綺麗な顔。
しかしこんな軽装備(武器だけは重装なのだけど)で一人......? まあボクが言えた立場ではないのだけれど。…
よく見れば全身傷だらけだ、まるでさっき戦闘を終えてからこの場に立っているような?
「今日は大漁だ!全くアイツは何処をほつき歩いてるんだか!」
漆黒の痴女は巨大な大剣を小枝のように片手でブン!と降り下ろし、空いた手でシールドベアと呼んだ怪物に向かって手をこまねく。
「おいで、遊んであげるよ!」
「「ブルォアアアアアアアアア!!」」
大木を草のように薙ぎ払う一撃を防ぎ、弾かれた事で動揺したシールドベアがまた激昂して襲いかかって来る。
ドガァン!!
まるで馬車が鉄の柱にぶつかった様な派手な音と共に、シールドベアが宙を舞った。
どう言えば良いのか、この言い方しか表現出来ない、巨大な怪物が中空にのけぞって飛んでいる。
彼女がさっき降り下ろした大剣をシールドベアの顎に向けて振り上げたのだ。
一体全体どういう膂力があればそんな芸当が出来るのか、見当もつかない。
「はっ!もうダメになったかぁ、全く......武器屋に文句を...言わないと」
ドシン!とシールドベアが落ちると共にガクリと膝をつく漆黒の痴女。
信じられない光景の連続だがおおよその検討はつく。
あんな巨大な剣を振り回す戦闘スタイルで、今だけではなくきっとここに来るまでに戦闘を幾度もしてきているのだ、どんなに膂力があろうともガタが来てしまうだろう。
それが今だったのだ。
不運だったのは、それだけじゃない、彼女は頭部を斬り飛ばすつもりで攻撃したはずなのに、硬い鱗に阻まれて顎を殴打しただけになったのだ。
よく見れば大剣には刃こぼれが酷い。
どういう使い方をすればそうなるのか、刀身がひしゃげている。
「大丈夫ですか!?」
咄嗟に謎の痴女に声を掛けてしまった。
「ははっ......っ!疲れただけさ。
それよりも、人の心配をしてる場合かい、少年の方が深刻...だっていうのにさ」
「......えっ?」
恐怖と驚きの連続で、気がついていなかったのだ。
気がつかなかった方が幸せだったかもしれない。
ボクの右腕が、肩から先が無くなっていたのだから。




