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冒険者ユウラス2

全部読まなくても、些細な感想は待ってます

 村民の大半は若いゴブリンで構成されていたが、数割は老人と子供もいた。襲撃の際に老人と女、子供は優先して避難させ、ガベとガボを含め数名のゴブリンは生き残っていた。

 しかし、殺されたゴブリンは30名弱。みんなにお世話になったからと、エリサは全員の蘇生を行った。でも体力の消耗が激しいのか、蘇生は数日に分けて行われた。


§


「蘇生は一人に対して一回まで。一回蘇生された人はもう生き返らせることはできません。蘇生は奇跡と呼ばれるくらいの魔法。何度も使えるわけではないんです」


 オレはエリサの説明を聞いて頷いていた。

 確かに何度も蘇生ができるならゾンビアタックができるようになる。死んでは生き返ってを繰り返して戦わせるなんて、恐ろしい話だけど。


「エルフが蘇生魔法を使えるってことは有名な話なのか?」

「いいえ。エルフが回復魔法を得意としているのは有名な話だと思いますけど、蘇生魔法は限られたエルフにしか使えません。だから私はかなりレアですよ」


 エリサがふんっと胸を張る。

 横になりながら。


「一日4,5人が限界だけどな」

「この分だと一週間はかかりますね」


 エリサは蘇生は奇跡と言った。そしてその奇跡を現実にする魔法だ。体力の消耗は激しいのだろう。5人人というのも、かなり無理をしているように見える。こうしてしゃべっているのもそろそろ限界かもしれない。


「じゃあゆっくり休んでおけ」

「なんだかアキラさん今日は優しいですね」

「オレはいつも優しいんだよ。まあお前にはしっかり働いてもらう必要もあるしな」

「あー、酷いですね」


 オレの軽口に返事を返すと、エリサは目を閉じた。少し息も荒い。一人にしておいたほうがいいだろうと、さっさとオレは外に出た。

 本当は無理をさせたくはないが、本人たっての意向だ。尊重はしてやりたい。


「あの‥‥‥」


 オレが外に出ると、一人の男が声をかけてきた。ユウラスたちと一緒に来ていた冒険者の一人だ。ほかの冒険者も後ろに付いている。


「どうした?」

「私はウェルスと言います。冒険者をしています。偏差値は53です」

「オレは榎並アキラだ。偏差値は‥‥‥40くらいだ」

「くらい? 計測には行っていないのですか?」

「計測?」

「はい。町の最南にある協会に行けば、偏差値を測ることができます」


 なるほど、偏差値と言うのは感覚的な数字だと思っていたけど、ちゃんとした計測方法があるんじゃないか‥‥‥受付のやつ、オレには何も教えなかったけどな。


「それに関しては今度行ってみるよ」

「ええ。まああの強さで40なんてことはないと思いますけど‥‥‥それにしても」


 男、ウェルスはオレの顔をまじまじと観察する。すると必然的にオレもウェルスの顔を見ることになる。少し歳を食ったダンディな容姿は、なるほどこれが53の偏差値なんだと納得する。


「お言葉ですが、やはりあなたにユウラスを上回るほどの実力があるとは思えません」

「顔を観察されて言われるのはやっぱり慣れないな」


 オレは苦笑を漏らす。自分がイケメンだなんて思ったことないが、実力に直結してしまうという限りは評価され続けるのだろう。


「気を概してしまったのなら申し訳ない。ただ、ユウラスに立ち向かうあなたは勇敢でイケメンでしたよ」


 男にイケメンって言われるのは嫌じゃないけど複雑な気分になる。この世界で言うイケメンは強さ的な意味なんだろうが。


「でもいいのか? あんたたちはユウラスに付いて来てたんだろ?」

「確かに付いて来ていましたが、ユウラスには無理やり連れてこられていたようなもの。今回のクエストは報酬を人数で割るのではなく、一人の配当が決まっているのです。ですから適当な冒険者を見繕って、報酬を自分のものにしていたのです」

「とんだクソ野郎だな」


 オレは今だ伸びたままのユウラスに目を向ける。ティルは姿を消したが、ユウラスはまだ目を覚ましていない。


「確かに彼の取った行動は賛同しかねますが、私たちもそれを黙認してついて来ていたのは事実。お言葉ですが、あなたはゴブリンたちの何なのですか?」

「オレか? そうだな‥‥‥まあ友達だな」

「友ですか‥‥‥魔物と人間がそうして友人と言い切ることには違和感は否めませんが、あなたがゴブリンのために戦ったあの姿を見たのも事実。私たちにできることを手伝わせて頂きたい」

「申し出はありがたいんだけど‥‥‥」


 オレはちらっと振り向く。そこにはエリサが横になっている。オレに対しては普通に接することができるようになったが、ギルドにオレを呼びに来たときも顔色が悪かった。まあゴブリンのこともあったから原因は一つではなかったろうが、あまりオレ以外の人間が近くにいるのは精神的苦痛に繋がりかねない。


「すまないけど、ユウラスを連れて帰ってもらっていいか? ゴブリンたちも、事実はユウラス一人が手を出したとは言え、あんたたちがいたことは覚えているだろうから」

「そうですね‥‥‥それでは私たちはおとなしく帰らせてもらいます」

「そうしてくれ」


 後ろについていた四人の冒険者もそれで問題はないのか、ウェルスの決定に異議は立てない。


「それでは、失礼します」

「ああ」


 こうしてユウラスは回収されて行った。


§


 ユウラスの騒動から数日。ゴブリン全員の蘇生が終わり、村も元通りとはいかないが、住めるようには戻っていた。


「それじゃあちょっと行ってくるな」


 オレはまだ修繕が続けられている村に目を向ける。


「行ってくるっちゃ。とは言っても、冒険者のアキラはここが居場所じゃないっちゃ」

「そんな寂しいこと言うなよ」

「まあいつでも来るといいっちゃ。あと、あの子も連れて行ったほうがいいかも」


 ガブの視線の先にはゴブリンの束。その中心には埋もれたエリサの姿が。

 蘇生を行った女神として崇められている。


「アキラさん、助けてください!」

「もうちょっと崇められてろ」

「そんなぁ‥‥‥」


 まああのまま放っておくのはかわいそうだし、あとで助けてやるか。


「おれっちを優先して生き返らせてくれたのは、やっぱりガボのためか?」

「まあ一番付き合いがあるしな」

「別に隠してたわけじゃないけどな、おれっちの両親は昔人間に殺されたっちゃ。だからおれっちがガベとガブの親代わりをしてる。ガボは親が殺されるところを見てたから、人間にはすごく怯えてる。だからおれっちが殺されたって聞いたらどうなるか‥‥‥それを心配してくれたんだろ?」

「そこまで深くは考えてないよ。私情が出ただけだよ」

「そういうことにしとくっちゃ」


 オレはまとめた荷物を持って立ち上がる。


「おいエリサ、行くぞ」

「はいぃ‥‥‥」


 オレが声をかけたことでゴブリンたちが道を開けてくれる。


「大丈夫か?」

「心配するならもっと早くに助けてください」


 エリサがむくれる。初見で殺しに来た時に比べたら普通に話ができるようになった。

 それでもやっぱり人間は怖いだろうと思う。


「今からギルドに行くけど、本当に付いて来るのか?」

「い、行きます。大丈夫です」

「行く前から顔色悪いのに説得力ねぇな」


 今回付いていくと言ったのはエリサ本人が言い出しだしっぺだ。オレとしては村に残る選択もありだと思ったのだが、それだと迷惑をかけるからだそうだ。オレにはかけてもいいらしい。


「じゃあな」


 オレが手を振ると、それに呼応するようにゴブリンたちが手を振り返してくる。今生の別れではないけれど、エリサも引き取って頻繁には来ることはなくなるだろう。それに当分は復旧で忙しいだろうし。


§


 何日ぶりか。オレはエレキネルに向かっていた。

 とはいえ、村がある森からエレキネルの入り口まで、距離にして一キロ程度。十数分もすれば入り口が見えてくる。


 もう少しで町の中だという手前で、エリサがオレの裾を引っ張る。今は深くフードを被り、特徴のある耳と奴隷の紋章を隠している。


「やっぱりやめとくか?」

「‥‥‥(ふるふる)」


 首を大きく振る。

 前は一人で入ってこれたのだが、あれは緊急事態だ。そう恐怖を乗り越えることもできないだろう。


「ほら、手握っとけ」

「‥‥‥うん」


 背丈はオレの胸辺りまで、こうして手を繋いで歩いていると兄妹にしか見えないだろう。


「行くぞ」

「(こくり)」


 無言で頷いたのを確認して町の中に入った。


§


 町の中は静かだった。オレがこの世界に来てから一か月程度は経つが、ここまで静かな町は今日が初めてだ。全体が緊張に包まれている。


 人通りは少ない。いや、それどころか一人として見当たらない。オレはそんな風景に違和感こそ覚えたが、目的を果たすためにギルドに向かった。


 きぃ、と音を立てて扉が開く。別段立て付けが悪いわけでも、古びているわけでもない扉が軋んだ音をオレは初めて聞き取った。ほんの小さな音。その音が聞き取れるほどにギルドも静まり返っていた。


「妙だな‥‥‥」


 いつも騒がしいギルド内。それが今日は人の姿が見えない。

 オレは受付に行く。そこにはいつもの受付嬢だ。


「久しぶり」

「久しぶり‥‥‥ですね」


 受付はオレの登場に少し困惑した表情を見せた。が、すぐにそれも取り繕う。


「今日はやけに人がいないな。どこかに行ってるのか?」

「どうでしょう? 私は特に聞いてませんが」

「そうか‥‥‥。なあ、今日は相談があって来たんだ」

「相談‥‥‥ですか」


 オレの目的は簡単なことだ。ゴブリンたちについて。

 森の生態系をこれ以上崩すのは問題があるから、検討をしてほしいということだ。さすがに魔物であるゴブリンの討伐を完全に止めるように言うことはできなくても、緩和することはできるかもしれない。


「ああ、森の魔物が減りすぎていて、これ以上減ると生態系が壊れてしまうかもしれない。だから一時的にでも森の討伐クエストは止めてほしいんだ」

「その子‥‥‥」


 受付はオレの言葉より、オレの隣のエリサに視線を向けた。

 視線が向けられたことにエリサは少し肩を震わせるが、頭をなでてやると落ち着いた。


「そうだよな。この前見たもんな」

「エルフ‥‥‥ですよね」

「そうだな」


 オレは事実なので肯定する。


「確か首のところ‥‥‥」

「ああ‥‥‥紋章か? あれは奴隷の証らしい」


 エリサも知られていいものではないだろうが、知られているのなら隠しても仕方がない。それに、こいつはそんなことで偏見してくるような人間じゃない。

 オレは反応を確かめるように視線を上げると、辛そうな表情を見せた。


「どうした? 具合悪いか?」

「ごめん‥‥‥」

「なにが――――」

「風の加護を!」


 オレの声を遮ったのはエリサの詠唱。瞬時に放たれた魔法は、オレとエリサの周囲に障壁を作った。

 どうして? という疑問が入るより先に、飛んで来たのは攻撃魔法。風の障壁を前にして無効化されていく。


「はっ、なッ!?」

「アキラさん、囲まれてます」


 エリサの言葉に反応するように、ぞろぞろと冒険者が姿を晒す。そして、その先頭に居たのはユウラスだ。


「あーあ、一撃で殺されておけば苦しまずに済んだものを」

「ユウラス‥‥‥!」


 死んでなんていないのはわかっていたし、逆襲も考えていたが、この手数は想定外だった。


「そこのエルフ」


 ユウラスが剣でエリサを指す。エリサが怯えるように縮めた体を、オレの体で隠す。


「蘇生魔法が使えるらしいな」

「どうしてお前が知っている?」

「直接見た奴に聞いただけだよ」


 ユウラスの隣から出てくるのはウェルス。

 にやりと卑しい笑みを讃えている。

 寝返ったのか、いや、もともと敵だっただけか。


「お前はゴブリンを討伐に行ったオレを止めたな?」

「それがどうした?」

「認めるんだな。魔物を擁護する行動は大罪だ。そしてそこのエルフ。奴隷らしいじゃないか。奴隷の所持は当然のように犯罪だ。よって、お前は極刑は免れない。ここでオレが殺しても問題ないってことなんだ‥‥‥よ!」


 ユウラスは大剣を構え、振り下ろした。オレがそれを躱したことで地面に穴が開く。


「第二ラウンドと行こうぜ」

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