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冒険者ユウラス

思いついた伏線を思いつく限りに張り巡らせる癖をやめたい今日この頃

 これほどに全力で走ったことがないと断言できるほどに、オレは急いだ。


 何度も通った森はもうオレの庭のようなもの。迷うことなく村に向かった。


「頼む‥‥‥!」


 エリサが来た時点でもう村にはユウラスたちが来ていたと考えるべきだ。でも、被害が最小限であれば‥‥‥! 頼む!


 オレは行き場のない願いを唱えながら、走った。

 そしてたどり着いた。村に、村があった場所に‥‥‥。


「どうしてこんな‥‥‥」


 オレは直視できずに目をそらす。ほとんど全壊した村。その中には血を出し倒れているゴブリンが大勢。この村のゴブリンは全員知っている。

 マーレン、カノ、エルン、ライナ‥‥‥。ピクリとも動かない彼らの前にはユウラスの姿があった。


「ああん? 今更来たところでもう終わってんだよ」


 ユウラスが足元に居たゴブリンを蹴飛ばす。その顔が見え、オレは声を上げた。


「ガブ!」


 滑り込むようにガブに近寄る。すると微かながら息がある。


「アキラ‥‥‥か? どうして‥‥‥」

「どうしてもあるか。エリサが呼びに来たんだ」


 ガブがオレの視線を追ってエリサを見る。


「おれっちは逃げろって言ったんだっちゃ。これは種族間の問題だ。アキラはこっちサイドに来ちゃだめだ。いくら人間でも、ゴブリン側に付けばアキラも例外なく殺されてしまう。それはだめだ」

「そんなことするわけないだろう。言っただろう。助けがいるなら協力するって、次はオレの番だ」

「おれっちより弱いアキラに何ができるんだっちゃ」


 ガブはニコリと笑った。そしてすぐに、その体は脱力していった。もう動かない。もう二度とあのおかしな口調でオレと話をしてはくれない。


「なあ、もういいか? それで、お前は何がしたいわけ? ゴブリンを庇うのか?」

「ゴブリンとか、人間とか、今はそんな話は関係ない!」

「ああ関係ないな。関係なく、すでにお前は俺の駆逐対象だ!」


 ユウラスが大剣を大きく構える。予備動作の大きい一振り、流石に避けられる‥‥‥が。


「くっ‥‥‥」


 先ほどまでオレが居た場所。その場所に作られた大穴。その衝撃波だけでオレの体は地面を転がった。


「おいおい、簡単にはくたばるなよ? もう森の魔物は刈り尽くして暇なんだよ。せめて暇つぶしくらいにはなってくれないと‥‥‥な!」


 さらに動作の大きい攻撃を繰り出すユウラス。その場で横に振った剣。その斬撃がオレのもとに一直線に飛んでくる。


「うわっ‥‥‥斬撃が飛ぶとか、ありかよ‥‥‥ッ!」

「逃げ回るだけか? ああん?」


 ユウラスはぶんぶんと剣を振り回す。オレはそれをよけるだけで精いっぱいだ。

 何とか打開するすべはないのか‥‥‥! オレは思考を巡らせながら、辺りを見回す。すると近くにユウラスと一緒に居たティルという女がいた。同じ場所には武装をした冒険者が数名。オレとユウラスの攻防を遠目に、どうすればいいのかわからないという感じだ。ティルも含め戦闘に参加するつもりはなさそうに見える。


「おらおら! どうしたぁ!」


 視線を巡らせ、思考をしながら攻撃を避ける避ける。ただの一つも当たらない攻撃に、ユウラスはさすがに疲れを見せ始めている。


「くそっ‥‥‥どうして当たらないんだ‥‥‥!」


 ユウラスとしてもここまで空振りに終わるのは想定外だったようで、攻撃の手が一瞬緩んだ。


「こいつ、息も切らしてやがらねぇ‥‥‥何か秘密があるのか‥‥‥? ティル! ちょっと手伝え!」

「えぇ‥‥‥手を出すなって言ったのはユウラスじゃない」

「それはゴブリンの相手だけだ。こいつ、ちょこまかと面倒なんだ」

「わっかりましたー。報酬上乗せだかんね」


 ティルも戦闘に参加してきた。ティルはユウラスのように武器を持っていない。魔法を使うのか、だとしたら知識がないオレには厄介になる。


「どうする‥‥‥」


 ちらっとエリサを横目で確認する。陰から様子を伺っている。本来なら逃げてほしいところだが、今は離れられる方が心配だ。

 最優先はエリサの安全の確保。そのためには、この戦いを終わらせる!


「ティル!」

「はいはい。『バインド』!」


 ティルが声を張ると、両手両足を縛られる感覚に陥り、そのまま磔のように拘束される。


「いっちょ上がり、さっさと殺してよね」

「わかってる」


 絶対絶命。相手の能力を図らずに特攻した結果がこれだ。無様な‥‥‥!

 ユウラスが剣を振り上げる。


「アキラさん!」

「馬鹿! 出てくるな!」

「『ウィンドランス』!」


 オレが静止するよりも早く、エリサは魔法を放った。オレを殺そうとしたあの風の槍だ。全開の魔法は前よりも鋭く、早い一撃。しかし、ユウラスも手練れだ。頬を少しかすめながらも、エリサの全力の攻撃を避けてみせる。


「っつぅ‥‥‥いてえなぁ」


 つぅ、と流れる血。その血が地面に滴ると、ユウラスの目がエリサを射抜いた。


「ひっ‥‥‥」


 人間に向けられる敵意、エリサには一番効果的だ。今ユウラスが攻撃すれば、間違いなく避けられない。


「後に取っておこうかと思ったけどな。先に死ねや」


 剣を横に構える。斬撃を飛ばす気だ。


「あっ、う‥‥‥」


 エリサは立ち尽くして動けない。


「死ね――――」

「うおおおぉぉぉおお!」


 ユウラスが剣を振る瞬間、オレはありったけの力を籠める。すると、全身に高速で力が巡る感覚。拘束されていた体に自由が戻った。


「うっそぉ。自力で『バインド』を破った!?」


 ティルが驚きの声を上げる。

 ユウラスの斬撃はもうすでに飛んでいる。オレはありったけの力で地面を蹴る。その脚力は斬撃を追い抜き、エリサを抱きかかえて後から追いついた斬撃を避けた。


「いや、は? 今こいつ何をした?」


 斬撃を飛ばしたユウラスは、その光景を信じられないと目を丸くした。それはティルも同じで、自分の魔法が強制的に解かれたことに困惑している。


「大丈夫か!?」

「えっ‥‥‥はい」


 オレの腕の中で縮こまるエリサ。大丈夫と言うが、その頬は赤い。


「おい、頬が赤い。それに体温が上昇している! 一気に魔力を使いすぎた反動じゃないのか!?」

「だ、大丈夫ですから! もう離れてください!」


 心配をしたのだが、エリサは体を無理やり引きはがしてきた。直前はまだ赤かった頬だが、次第にその色は落ち着いていった。


「大丈夫ならいい。でも一つ約束してくれ」

「はい‥‥‥?」

「オレを信じてこの場から動くな。お前はオレが守ってやる」

「‥‥‥ッ!?」


 エリサの顔がまたも赤く染まる。やっぱり体調が悪いらしい。早く終わらせて医者に見せなければ。

 でも、体調の悪そうなエリサとは反対に、オレはすこぶる調子がいい。湧き上がる力、はっきり言って負ける気がしないくらいだ。


「いいか、ティル。あいつは何か特別な力を持っている。フツメンだからって油断するなよ」

「わかってる。一気に決めるよ!」


 どうやら作戦が決まったらしい。ユウラスが剣を構え、インファイトに持ち込むべく特攻してくる。


「死ねヤァァァアアアア!!!」

「『ブラックアウト』!」


 ユウラスの特攻に合わせるように、ティルが魔法を放つ。それによってオレの視界は完全にシャットアウトされる。


「おるぁぁぁあああ!」


 激しく殺気を纏った一振り。目に見えなくてもユウラスの一挙手一投足が手に取るようにわかる。

 オレは斬撃が来る場所に手を置く。勢いよく振り降ろされた剣を、片手での白羽どりで受け止めた。


「なっ、はぁ!?」


 視界を遮り、念を入れた死角からの攻撃。避けられる要素などないと思っていた攻撃をいとも容易く受けられ、ユウラスはただただ狼狽えた。

 ユウラスが全力で剣を引きはがそうとするが、オレの手から離れはしない。もたつくユウラスが完全に無防備だったので、その腹に蹴りを入れる。すると、そのままの勢いで遠く飛ばされた。


「ちょ、ユウラス!?」


 ティルが焦って声を荒げるが、ユウラスは動かない。気絶している。

 オレは倒れた倒れたユウラスを一瞥すると、ティルを睨みつける。


「ひぃっ‥‥‥!」

「まだやるか?」

「ちょっと待って! あたしはこいつについて来いって言われただけで、魔物を殺すことも、お前と戦うこともあたしの意思じゃない!」


 オレは返事をせずに睨み続ける。

 すると、ティルは一歩あとずさった。


「うっ‥‥‥て、『テレポート』!」


 オレの威圧に耐えられなくなったティルが転移魔法で姿を消した。

 これでこの場の脅威は去った。


「はぁ~‥‥‥‥」


 オレはその場に座り込む。


 ————めっちゃ怖かったぁ‥‥‥。

 どうしてか、アドレナリンなのか、興奮物質が過剰に分泌されたような感覚にかなりテンションが上がっていた。それが緊張が解けたことによって平常心に戻った。


 あれぇ? なんかオレ恥ずかしいことを口走った気がするんだけど?


 オレは妙なハイテンションからか、超キザなセリフをエリサにかけていたことを思い出す。こんなものはオレのキャラじゃないんだが‥‥‥。ノリで言ってしまった。


「アキラさん!」


 へたり込んだオレのもとに、エリサが駆け寄る。自分の言動を思い出していたので、エリサの顔が直視できずに目をそらす。


「大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。特に怪我もしてないし、ちょっと疲れただけだ」


 正直疲れもほとんどないのだが、ホットして座り込んだと言うのはちょっとかっこが付かないと思って見栄を張った。

 エリサが少し笑う。彼女が心から笑う姿を、オレは初めて見たかもしれない。オレもそれにつられて笑みをこぼす‥‥‥が、その笑みは瞬時に塞いだ。

 この惨状で、笑顔など作れなかった。


「‥‥‥」

「あの‥‥‥」

「どうした?」


 オレの表情から悟ったのか、エリサが声をかけてきた。


「あの、私ってエルフなんですよ」

「知ってるよ」

「エルフについては知ってますか?」

「寿命が長い代わりに繁殖能力が低い。それ故に希少な種族だって以前に‥‥‥はっ! エリサ、実は300歳越えのロリババアだったのか!?」

「違います! そんな話してません! 私はまだ17歳です!」


 人間の見た目的には2,3歳は若く見えるが、エルフ的には誤差だろう。若い時期が長いというからには、あと数十年か数百年は容姿は変わらないのだろう。


「なんだよ。衝撃のカミングアウトだと思ったのに‥‥‥」

「まああながち間違いじゃないですけど‥‥‥」


 エリサは困ったような顔をしながら、すっと立ち上がる。すると、鋭い目をした。決意の目だ。

 そしてエリサは言った。それこそ、衝撃のカミングアウトかもしれない。


「エルフには蘇生魔法が使えるんです」

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