嵐は突然に
めっちゃ短期スパンで更新してますが、完全に深夜テンションです。寝て起きると自分が展開している設定の収集をどうしようか頭を抱える未来しか見えません。助けてください
一日開けて帰ってきた冒険者ギルド。来るのは二回目なので特に思い入れもない。むしろゴブリンの村の方が思い入れがある。
「すみません」
「ようこそいらっしゃいました――――ってアキラさんじゃないですか。ゴブリン討伐の割には報告が遅かったですね?」
「まあいろいろありまして」
「それはともかく、手ぶらなようですけど?」
「それなんだけど‥‥‥クエストは失敗ってことで処理してもらえますか?」
「ゴブリン討伐を失敗‥‥‥ですか」
受付が白い眼を向ける。その眼は語っている。『お前、冒険者向いてないぞ?』と。でもオレはそんなことでは諦めない!
「まあちょっとタイミングが悪かっただけですよ! なので次はお使いクエストをお願いできますか?」
「お使い? ‥‥‥ああ、収集系のことですか。ちょっと待ってください」
受付はデスク下をごそごそと漁り出す。手間取っているのか、オレがそれを黙って待っていると‥‥‥。
「――――邪魔だ」
オレの肩を掴んで後ろから突き飛ばされる。オレは一瞬何が起きたのかわからずによろけて手を着いた。
「きゃはっ、だっさぁい」
オレが視線を向けると、嘲笑を浮かべてオレを見下す女と、オレを突き飛ばしたであろう男。そしてこの世界の特徴で、オレはその二人が格上であることを瞬時に察した。
――――嫌な世界だ。
「おい、達成報酬を受け取りに来たんだが?」
「えっ? あ、ユウラス様! 本日はどういったご用件で?」
受付にユウラスと呼ばれた男。背中に大剣を背負い、金色の長髪を後ろで束ねている。その手には袋。ジワリと滲んでいるのは血だろうか。
「レッドウルフを討伐してきたんだ。さっさと報酬をよこせ」
「はい! ただいま!」
受付はオレの時には決して見せない俊敏な動きで報酬を用意する。ジャラジャラと音を立てる袋と、血がべっとりと付いた袋を交換する。
「ティル、行くぞ」
「うぃー」
ティルと呼ばれた女は気だるげに返事をし、そのまま二人で去っていった。嵐のように一瞬の出来事に、オレはまだ尻もちをついていたことに気が付く。
オレが立ち上がったことで受付は「はっ」と思い出したように書類を出してきた。
「今オレのこと忘れてましたよね?」
「そんなことないですけど?」
「さっきの男の時はもっと仕事早かったですよね? 相手選んでますよね?」
「気のせいですよ」
「オレにはさん付けで呼ぶのにあいつには様って――――」
「ああもううるさいわね! 細かいことぐちぐち言ってるとモテないわよ!」
「‥‥‥」
どうしてオレが怒られなくてはならないのか。ギルド職員ならみな平等に扱えってんだ。
「あの人は特別なの。この弱小の街で一番の実力者。確か偏差値は60越えだったからしら」
「なるほど、だからギルドとしても雑には扱えないと‥‥‥」
でも妙だな。オレの感覚的に、もう少し偏差値は高そうだ。それに一番と言うことは女の方はもう少し低いということになる。体感70はありそうに見えたのだが、それは買いかぶりというものなんだろうか?
「まあとにかくあれは性格も悪いけどぞんざいには扱えないの。わかって頂戴」
「それはわかりましたけど、流石に口調を崩しすぎなのでは?」
「なんのことをおっしゃってるのですか? わたくしわかりませんわ」
「‥‥‥」
もうなに、この人。
「もういいですよ。それ貰っていいですか?」
書類を受け取って内容を確認する。これと言って難しそうな内容はない。まさにお使いクエストといった感じの内容。
「昨日はあれだけ息巻いていたのに、急に収集クエストとは、やっぱり怖気付きましたか?」
「そういう冷やかしはいりませんから」
「でもゴブリンにも勝てないのはどうかと思いますけどねー」
「ゴブリンには‥‥‥会わなかったんだよ」
「どうして言い淀んだんですか? いいですよ、勝てなくて帰ってきたって正直に言ってもいいんですよ?」
「ほんとにちょっと黙ってもらっていいですか?」
ガブには腕相撲で負けているので、あながち間違いでもないからやめていただきたい。メンタルがパニックしている。
オレは茶々を入れてくる受付を適当にあしらいながら、いくつかのクエストを受けた。
§
数週間が経った。その間、オレは収集クエストをいくつもこなし、その合間を縫ってゴブリンの村に行く日々を送っていた。
村に行くとゴブリンたちはオレを歓迎してくれるし、かなり友好的だ。最初こそオレに怯えているようだったガボも、すっかり懐いてくれた。
「ようガブ。久しぶり」
「前にあったのは二日前っちゃ。全然久しくない」
「そうだったか」
とはいうものの、ガブはオレが来ると嬉しそうにしてくれた。それくらいにオレはこの村に頻繁に来ていた。そして、本来の目的のやつはどうしているのか。
「ちょっとアキラさん。来てるなら言ってください!」
「どうしてお前は来るたびに偉そうになってるんだ?」
「普通です」
「普通か?」
「おれっちに聞かれてもなぁ」
ガブは困ったように苦笑した。
まあオレに慣れてくれたほうがいい。というか人間にだ。当初はここには一時的にと思っていたが、これならエリサはここに住んでいたほうがいいかもしれない。
ガベとガボと楽しそうに遊んでいる姿を見ると、そう思ったのだ。
§
「ふんふんふーん」
「どうしたんですか? 上機嫌で気持ち悪いですよ」
オレが鼻歌を歌っていると、受付が失礼なことを言ってきた。
「ふふふ、よかったな。受付よ。今日のオレはすこぶる機嫌がいい。その程度の失言は聞き逃してやろう」
「はいはい、ありがたき幸せー」
棒読みに合わせて両手をははー、と仰ぐ。最近はこんな絡みばかりだ。完全に友人と化している受付だが、オレとしては堅苦しいよりは全然楽でいい。
「そういえば最近よく町の外に出てますよね? どこに行ってるんですか?」
「んー? 知りたいのかなー?」
「いえ、その顔を見ると急速に興味が削がれました」
「まあ聞かれても教えないけどねー」
「うっざ」
「んー? 何かなー? ギルド職員がそんな口を利いてもいいのかなー?」
「アキラさん、今日はいつも以上にテンション高いですね」
受付は疲れたように言った。最近は多忙なようだし、それも仕方ないか。戦闘向きの仕事をしていないオレにはわからないが、最近武装した冒険者が団体でクエストに向かっている。その処理でかなり忙しそうだ。
「最近冒険者の動きが活発だけど、なにかあるのか?」
「あなたも実は冒険者ですよね? それくらいの情報は掴んでいたほうがいいと思いますよ」
「オレの頭には特売情報しかないね」
「ほんと貧乏冒険者やってますね」
呆れたような溜息。が、次には話をしてくれた。
「この町の冒険者のレベルが低いって話はしましたよね?」
「したな。あのユウラスとかいうやつが一番上だって話も。冒険者がの数が少ないのもな」
「そうです。でも、それは周りの魔物のレベルがあまり高くないから高レベルの冒険者が長くは滞在しないだけで、一般人は違います。環境もよく、住みやすいとされているのが、このエレキネルなんです。ですから年々この町への移住民が増えてきています。ですがこのままでは受け入れられる人数の底が見え始めた。その結果開拓をして町を広げようという話になったんです」
「ふーん‥‥‥まあ町を広げるのはいいことだよな」
町の周りは広大な平原で囲われている。土地は有効に使ってこそだ。
「まあ普通はそうなんですけどね。でもユウラス様が‥‥‥」
「あのいけ好かない野郎が何か言ったのか?」
「まあ、平原を使うよりかは森を開拓したほうがいいんじゃないか、と」
「‥‥‥それはどうして?」
オレはどうしてか嫌な予感がした。その予感を払拭したくて、オレは受付を急かす。
「もともと平原は魔法や剣術で練習するのに場所として最適ですし、それを埋めるのは乗り切れないと。なら森を開け放ってついでに魔物も刈り尽くせば移住してきた住民も安心して暮らせるだろうって。それで二、三週間前も北西のレッドウルフの群れを全壊させて来たんですよ。ほら、丁度アキラさんが収集クエストの話をしに来た時」
オレはユウラスを含め、ギルド内で武装の準備をしていた面々が居なくなっていることに気づいた。
「森の生態系が崩れるからやめるべきだって何度も言ったのに、ユウラス様は問題ないの一点張りで‥‥‥絶対あれは魔物狩りを楽しんでるだけですよ。あとはゴブリンだけだって、今朝も張り切って――――って、きゃぁ!」
「ちょっと待て、ゴブリンだけ? 今朝言ってたのか?」
「え、は、はい。きっとさっきの団体で行ったと思いますけど‥‥‥参加なさるのですか? もう出てかなり経ってますし、終わってるかもしれませんよ?」
オレが受付の胸元を掴んで怒鳴ったことで注意がオレに向いている。そして、幸か不幸かこのタイミングでオレを訪ねるものがいた。
「あ‥‥‥アキラさん!」
声を潤ませながら走ってくるのはエリサ。被っているフードはいつしかの時と同じものだ。
もうどうしたんだと聞く必要もなかった。人間に恐怖心を持っているエリサがここまでわざわざオレを呼びに来たんだ。
エリサは涙ながらに訴える。
「村が‥‥‥!」
オレは駆けだすとエリサの腕を掴んだ。その勢いでエリサのフードはめくれ上がった。
――――間に合ってくれ‥‥‥ッ!!