機嫌は?
ゴリラ女が……絶対に許さない。
後藤さんの悪いのに、何で俺が叩かれないと行けないんだよ。
理衣亜と後藤さんの友達だとしても、叩いたらダメだろ。
だからと言って、後藤さんを叩けるかと言われたら、叩けないのは分かるけど、叩くことはないだろ。
どう考えても後藤さんの、言い方が悪意の塊すぎだろ。それに気付かない俺も、悪いって言ったら悪いのは分かる。
俺が悪いとか分かりたくないが……分かったとしても理衣亜と妹とした事もあるよで、いきなりビンタは絶対にしたらダメだろ。本当に突然すぎて何が何だか分からなくなる。
あのゴリラ女が……何が西野結衣だよ、ゴリラゴリでいいだろ。名前も可愛い感じなのに行動が全くともなっていない。
叩かれたからと言って、叩き返すとかも出来るわけじゃないから、心の中でぐらい悪態は許されるはずだ。
心の中で悪態をつきながら、今は放課後の帰り道。
ゴリラゴリも一応あの後に、誤解は解けて謝りはした。形だけの謝罪だったけど……まあ俺も悪いのは分かるから、こうやって心の中で悪態を吐いている。
後藤さんも後藤さんだろ、どんな言い方をしたらあんな感じの説明になるのか、不思議でしょうがない。あぁ、まだ頬が少し痛いような気もする。
後藤さんとゴリラ女の事を考えるが、今は本当に、どうしたらいいのだろう。
帰り道、隣には後藤さんが……勿論いる訳もなく、理衣亜が隣を歩いている。
会話が全くない中、並んで歩いているけど、気まづすぎる。
その気まづさを忘れる為に、心の中で考えながら、悪態を吐いている。
理衣亜が一言も話さないとか、今までで何回ぐらいあったか覚えていないが、記憶が確かなら1回もなかったはずだ。
頼みに頼み込んで、やっとの思いで一緒に帰る事が出来たのに、これでいいのかどうなのか。
学校から駅、そして電車の中に、駅から目的地の、前に理衣亜と2人で行ったショッピングモールに向かってる今、現在進行形で会話がない。
今までこんな事が無かったから、今になって漸く分かったけど、これは本気で理衣亜が怒ってるよな、絶対に間違いなく本気で怒ってるよな。
フードコートに着いたら、と、取り敢えず飲み物とクレープなりなんかで、少し機嫌を良くしてくれるといいな……無理だったらクレープを、さ、3個ぐらいまでなら買うとするか。
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都合良く考えていた俺がバカだった。
そ、そうだよな、そんな簡単に機嫌を、良くしてくれるわけがなかったな。
何を言っても要らないとかどうすればいいんだよ。どうしたら買わせてくれるんだ、食べてくれるのか分からない。
物で機嫌をとろうとするのが都合良すぎなのは分かってる、わかっているけど少しでも何だよ。
「な、なあ理衣亜? ほ、本当にクレープ食べないのか? あ、甘くてきっと美味しいぞ? 遠慮なく買ってもいいし」
「……い、いらない、それより話があるんでしょ、早く席に座ろうよ」
「か、買って、買ってからな? 俺も小腹が空いたし……そ、そのな、り、理衣亜と一緒に何か食べたいんだよ、本当に頼むから選んでくれ」
「…………い、いらない……け、けど、けどね……ほ、本当に、そ、その……私と一緒に食べてくれるの……? そ、それなら……い、いいよ? う、うん、それならいいよ」
願いが通じたのか、一緒に食べるならとクレープを、食べてくれることになった。
理衣亜のだけを、買おうとしたのが間違いだったとか、分かる訳が無い。ま、まぁ、これで少しでも機嫌を良くしてくれる。
ちょっと前の俺をぶん殴ってやりたい。
何が一緒に食べたいだよ、理衣亜もわざとかわざとだろ。それに、今日は何でこんなに、近く座るんだよ。正面でいいだろ、何で態々隣に座るんだよ。
それより今は目の前のクレープだな。どうするどうすればいいんだ、理衣亜との関節キスなんて、今更過ぎて気にはならない。おかげで勘違いに拍車がかかってたけどな。
そんな事より場所が悪すぎる。今日も、学生や学生のカップル、子連れの母親達がいる中で……ジュースは2人で1つ、これはまだいい、クレープを2人で1つは本当におかしすぎるだろ。
そして、今俺の口の前に出されたクレープを、どうすればいいんだ。
理衣亜も理衣亜で、機嫌が悪かったんじゃなかったのか、なんでこんな事をしようと思ったんだ。理衣亜が何を考えているか分からなさすぎる。
「……け、健人は、そ、その、クレープを食べないの? 美味しいよ? 小腹が空いてるんだよね……え、えっとね……け、健人、そ、その……あ、あーん」
「…………こ、小腹が空いてるのな……え、えっと……か、勘違いだったみたいなんだ、全く空いてなかった。そ、それより大事な話があるんだ」
「え……小腹空いてないの? そ、そうなんだ……
じ、実は私も、そ、そそこまで空いてないから、ちょ、ちょうど良かったよ、買ったクレープが1つで良かったよ、ま、まずは食べよ。は、話はそれから、それからにしよ」
「…………そ、そうだな、じゃあ先に、り、りい……」
「……は、はい健人、あ、あーん……」
理衣亜が先に半分食べていいぞと、言う前にクレープをまた俺の口の前に、理衣亜が顔を赤くしつつ持ってくる。
恥ずかしいならやるなよ手渡せよ、何をしようとしてるんだよ。
関節キスだけだったなら本当にまだよかった、食べさせるのはダメだろ、恥ずかしすぎる。
こんな所でしたくない、見られてるか見られていないかで言えば、見られてはいないだろうけどそう言う問題じゃないなこれ。
「理衣亜が先に食べるか、俺が先に食べるなら、じ、自分で食べるから、わ、渡してくれないか?」
「……私はそんなに早く食べられないから……そ、それに渡すのは、だ、ダメだよ、す、すすべって落としたら大変だし、そ、そうだよ、落としたら大変だから、だ、だからね? そ、その、あ、あーん」
「じゃあ、り、理衣亜がゆっくりでもいいから先に、た、食べてもいいから」
「だ、ダメだよ! そ、その……え、えっと、果物が、そ、そうクリームが垂れてきたら大変だから、クリームが垂れる前にね、だ、だからね健人、あ、あーん」
クレープをすべって落とすってなんなんだよ……落としようがないだろ。
クリームが垂れるとか、もう意味がわからない。何時間持っとく気なんだよ。
他にいい言い訳が思いつかない……こ、ここはもう諦めるか。
お詫びだ、お詫びで俺は食べさせて貰うだけだ。
食べさせられるのがお詫びとか、意味がわからないな逆だな。
こうなればやけだってやつだな、気にしたら負けだ。一瞬、そう、一瞬で終わるんだから周りを気にせずにいけば……
「け、健人? どうしたの食べないの?」
「………………た、食べる、食べるから」
「う、うん、はい、あ、あーん」
差し出されたクレープをパクッと1口、一瞬で俺は食べ顔を俯かせた。
恥ずかしさで顔があつい、あ、赤くなってるのが分かるってこれだな、理衣亜の顔が見れない。




