凄く仲がいい?
理衣亜が、驚く様な事を言うから俺は、何秒ぐらいだろうか、固まってしまった。夢か? 夢ではないよな。
理衣亜が俺の連絡先を、聞きたいってどういう事だ。
ダメだ、振られたのにまた、勘違いの方向にばっかり考えてしまう。
きっと、友達として以前に、幼なじみとしてだろうな。そうじゃないと、理衣亜が聞いてくる理由がない。
そんな事より今の状況だ。理衣亜が大きめの声出したせいで、親睦会の幹事さんが何故か来た。
山崎と黒木の姿も、全く見なくなったし迷惑な話だ。山崎と黒木は、今日のお昼ご飯を食べられるだろうか。
「えっとね、今井君。その連絡先は、やっぱり仲良くなってからが良いんだけど……」
「うん、分かるよ! だからその為の親睦会だし、その前に、連絡先を交換していたら、もっと仲良くなれそうじゃない? それに彼とは仲がいいの? たまに話すのを、見かけていたぐらいだけど?」
幹事さんの名前は、今井君って言うのか。まあ関わる事は無いだろうからいいけど。そんなことより、今井君は、理衣亜の話を聞いていないのか。
理衣亜は、仲良くなってからって言っているのに、その為の親睦会なら、その時に聞けばいいだろ。
仲良くなれそうじゃない? とか意味が分からない。
「私は、親睦会には出ないよ?……健人? 健人とは凄く仲がいいよ! だよね健人!?」
あれ? 理衣亜も親睦会に出ないのか、 何でだ? 俺と話してる時は、理衣亜は出るものだと思ってたが出ないのか。
「ん? そうだな、悪くは無いんじゃないか?」
理衣亜と今井君のやりとりを、無言で見ながら考えていたら、俺にも話を振ってくる理衣亜。取り敢えず無難に答えとく事にした。
俺が答えると今井君は、一瞬チラッと剣呑な目で見てきた。
無難に答えたと思ったが、ハズレを引いたらしい。まさかそんな目で、見られるとは思いもしなかった。
「へえ、君は早川さんと、どんな関係?」
そう聞いてくる今井君。
どんな関係とか言われても、幼なじみだなとしか答えようがない。もしくは、振った振られたの、関係だけど、これは言えない。
「凄く仲がいい幼なじみだよ?」
俺がこたえるより早く、何故か理衣亜がこたえる。
凄く仲がいい幼なじみってなんだ……普通に、幼なじみだけじゃ、ダメだったのか。
「僕は彼に聞いたんだけど……」
何故か困惑気味に言う今井君。
理衣亜が言っても、変わらないと思うが、ダメだったのか。ここは理衣亜に合わせて、凄く仲がいい幼なじみと、俺も言うべきか。幼なじみでダメな理由は、全く分からないが。
「そうだな、凄く仲がいい幼なじみだな」
「凄く仲がいい幼なじみって何かな? ただの幼なじみと違うのかな?」
何で今井君、そこまで聞いてくるんだよ、別にいいだろ、俺もただの幼なじみでいいと思ってるし、本当に何が違うのか俺が知りたい。
「えっと……健人、凄く仲がいい幼なじみって、ど、どんな風にかな?」
少し顔を赤くしながら、理衣亜も俺に聞いてくる。
知らないし、俺が聞きたい。何で言った理衣亜が俺にまで聞いてくるんだよ、意味が分からなすぎるからな。
いったい何を言えばいいんだよ、どうしてこうなった……。
振った振られたの関係を言えば良いのか? 言えるわけがない。取り敢えず、凄く仲が良さそうな話をするか。
「どんな風って、あれだろ? 昨日は手を繋いで買い物に行って、ご飯を食べたし、ほか……他には一緒に風呂に入ったりもしたな、一緒の布団で寝……」
言いながら俺は気付いた。理衣亜が顔を真っ赤にして俯いて、今井君は顔を引き攣らせていた。
「ち、ちちちち、違うぞ! お風呂とか一緒に寝たのは小学生の! 小学生の頃の話だからな!」
「け、健人のバカ! 中学生の時も1回だけ一緒に寝たよ! 忘れたの!?」
大声で言う理衣亜。教室がシンっと静まりかえり、教室中の人の視線が集まる。
バカはどっちだよ、顔を真っ赤にして、恥ずかしい癖に、何でそんな事を大声で言うんだよ。
それに中学生で、一緒に寝た記憶なんて、本当に無いからな!?
「い、いや忘れたとかじゃなくてな? それより、今井君もだけど、皆が変な誤解をしてそうだから、この話はな?」
「一緒に寝たのは誤解じゃないよ! 本当に、ちゃんと中学生の時も、一緒に寝たの覚えてたんだね!?」
「も、勿論覚えてるに決まってるだろ!? そ、そそそ、それより連絡先だろ! 俺、やり方分からないから理衣亜がしててくれ!」
俺は、早く話題を変えたくて、焦りながら言った。
誤解じゃないかもしれないけど誤解してるだろ。
俺も自分で、何考えているのかが、全く分からなくなった。理衣亜も何を考えているのか、全く分からない。何で教室で、こんな事を大声で言うんだよ。
今井君が、深く聞いてこなければ、こんな事にはならなかったんだが、本当になんて事を聞いてくれたんだ。
「分かった! あ、後ね? 約束の事なんだけどちゃんと守ってね?」
「わ、分かった分かったから何でもいいから早く、早くしてくれ!」
俺はそれから、理衣亜の連絡先が入ったスマホを、返して貰って、一目散に教室を出た。
今井君は、相変わらず引き攣ったまま、固まっていた。




