言いたい事?聞きたいこと?
「け、けけ健人? 手にも、もも持ってるのは何かな?」
そんな言葉と共に、後ろを振り向く俺。そこには目を泳がせながら、震えた指で俺のスマホを指しながら、立っている理衣亜がいる。その後ろには、リイどうしたの? と言いながら、理衣亜の友達もやって来ていた。
何なんだ、始めて連絡先が聞けそうだったのに、何でこのタイミングで来るんだ。狙ってるのか、もう色々狙ってるだろ。
お願いまでして、理衣亜のお願いも、聞く事にしたのに、何でこんな事になるんだ。
「け、健人? そ、それで何を持ってるの?」
俺が内心で、色々思っていたら、理衣亜が同じ事を聞いてくる。
見てわからないのかスマホだろ、始めて家族以外の、連絡先が入る奇跡的瞬間だったのに。
「……何ってスマホだろ? 何に見えるんだよ?」
「スマホじゃない?」
「スマホだよね?」
質問の意味がよく分からず、俺が呆れた様に、理衣亜に答えると、後ろから理衣亜の友達が、同じ事をお互い見ながら答えあってる。
理衣亜の友達も、スマホって分かってるじゃねーか! 何で俺より、先に持ってる理衣亜が、スマホを分からないんだよ。これがおもちゃにでも見えるのか!? 見えるかもしれないけど。
「そ、そそそうだよねスマホだよね。それで、なな何で持ってるのかな?」
「……何で持ってるって親に買って貰ったからだろ?」
「買って貰ったからじゃないの?」
「買って貰ったからだと思うよ?」
俺がまた理衣亜の、よく分からない質問に答えたら、後ろから理衣亜の友達が、またお互いを見ながら、答えを言いあってる。
普通そうだよな分かるよな、買って貰わないと、持ってる訳が無いだろうし。
「もも勿論そうだよね、わ、分かってるよ私でも! そ、そうじゃなくて、えと……」
「いや、理衣亜じゃなくても分かると思うんだが、寧ろ分かってて、何で聞いてくるんだよ……本当にどうしたんだ?」
「リイ、本当にどうしたの? 増田なんかほっといて早くご飯食べよ?」
理衣亜の様子がおかしい事から、俺はどうしたのか聞いた所で、合わせる様に背の低い方の女子が、そんな事を言いだした。
名前は知らないがナイスアシストだ、増田なんかって言葉にら棘を凄く感じるけど、本当に早く、理衣亜を連れてご飯を食べてくれ。
じゃないと教室の入口で、チラチラとこっちを見ている2人が、戻って来られない。
本当はお茶も買わず、トイレにも行かなかったんだろうな、先程から入口で、モグラ叩きのモグラの様に、顔を出しては引っ込める2人の様子が、なんとも言えない。
「うん、ごめんね? つかさちゃんと結衣ちゃんは先に食べてて? 私は健人に話があるから」
理衣亜が、後ろを振り向き2人に答える。いや、理衣亜も食べて来いよと、思ったのは言うまでもない。
そこで今まで、俺を見ようともしなかった2人の、鋭い目付きが、一瞬だけ俺の方に向いた。
何もしていないのに、何でそんな目で睨まれなきゃいけないか謎だ。つかさちゃんと結衣ちゃんって、言うみたいだがあれか、ご飯を早く食べたいみたいだし、2人共、腹が減りすぎて、気が立っているんだろう。
理衣亜と友達2人が話すのを、その後も俺は黙って見ながら、そんな事を考えていたら、2人が席の方に戻って行った。
理衣亜が、説得したみたいだが負けるなよ、つかさちゃんと結衣ちゃん。世の中には諦めちゃダメな時があるんだ。
内心で俺が叫んでいたら、それが聞こえたかの様なタイミングで、2人が振り返り、一際鋭い視線が飛んできた。
「そ、それでね健人。私に言いたい事とか聞きたい事とかあるよね!?」
2人の視線を見ながらエスパーか!? 超能力者か!? どっちも一緒かと、くだらない事を考えていたら、理衣亜が振り向き、俺に突然、何を思ったのかそんな事を言い出した。
言いたい事に、聞きたい事か、山ほどあるに決まってる。
2人の視線が鋭すぎるから、早くご飯を3人で食べてろとか、約束破ったから約束無しなとか。
後は……あれ、おかしいな、後は何があるんだ、山ほどあるとか思っていたが、米粒程しかでてこない。
おかしい、おかしいぞ。聞きたい事が何も出てこない上に、言いたい事も他に全く思い浮かばない。
きっとまだ何かある筈だ、探せ俺の言いたい事は他に、きっと脳内の何処かにあるはずだ。
理衣亜に言いたい事、言いたい事……俺の求める言いたい事という、秘宝が脳内の何処にもない。
「健人? どうしたの?」
「ん? あっごめん、言いたい事と聞きたい事を、考えてみたけど、これと言って無いな」
約束の事とかは、言わなくても分かってるだろうし、言ってもしょうがないしな。
早くご飯を食べに戻れと、言った所で変わらない。理衣亜が、戻らないのは目に見えている。そうなると、やはり言うことが無い。
聞きたい事にいったては、皆無と言ってもいいぐらい全く出てこない。
何だよ聞きたい事って、何でわざわざ今来たんだと、聞いたところでスマホを持ってたからとか、そんな事を、言われるのは分かってる。聞くまでもない。
そうなると、他に聞きたい事と言われても、ある訳が無い。




