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Hangover from The Last Order   作者: すぎざき凉子
2: Let me introduce my memory.
5/10

2-1

 

 マスクからこぼれる空気のいびつな球。淡く発光する繭に照らされた室内は動きがなく、静かで薄暗い。流動する液体が肌をなでるのが心地よく、睡魔がしのび寄ってくる。

 コクーンをかなり気に入ったわたしは、48時間に一度、必ずこの繭のなかで眠るようにしていた。

 自分がSF小説のなかに出てくる人物になったのだと、端的に知らしめてくれるコレは、精神安定もさせてくれる。実際にはゲームキャラクターだし、人間ですらないのだが。


 300年前からあるアイソレーション・タンクとは目的が違い、このポッドはマザーコンピュータによるデータチェックとボディのメンテナンスを兼ねている。訓練で得た経験の記憶のバックアップや身体損傷率の計算、軽度の修復までこなすこの万能の繭は、洗浄機能もついていてシャワー要らずだ。自浄するので液体の交換も自動で行ってくれるらしい。仕組みは全く理解できないが、便利な世の中だと本気で思った。

 正式名称を「レプリカント専用個別式プール型マザーコンピュータ簡易接続機」というらしい。誰もこの長ったらしい名称を言う気がないらしく、コクーンという愛称でしか通じない。もしくはタンク・ベッド。だがその名称だとスペースオペラの金字塔である有名SF小説に出てくる名前なので避けたのだろう。


 ラベリングよろしくコクーンの上部に表示された機体名は、個別登録をされた専用機であることを示している。このコクーンの数が基地が所有できるレプリカントの上限数で、レプリカントとコクーンはセットと言っても過言ではない。

 この基地では初期保有上限の40で止まっている。現時点での実装数が30なので妥当なところだろう。


 わたしはまだ、大きな怪我を負ったことがない。かすり傷程度でなんとか済んでいる。

 自分が“人間でない”ことが気にかかって、あまりひどく壊れてしまうと、認識のズレが生じてしまいそうで怖い。

 もともとアルベリヒだって人間だし、“わたし”もそうだ。この身体で「普通の人間なら死ぬような怪我」をしてしまったら、もとのアルベリヒは図太いからなんとかなるとしても、“わたし”は耐えられない可能性がある。

 思考制御があるとはいえ、「“わたし”がアルベリヒを演じている」にすぎない。“わたし”がそのまま精神的な死を迎えればアルベリヒが表面化するのかも知れないが、わたしとてそう簡単に消えたくない。


 そもそも、“わたし”の身体は死んだのだろうか?なんでこんな現象が起きているのか未だにわかっていない。()()()()直前が思い出せればまた違うんだろうが、何故か“わたし”の記憶はゲーム関連しか思い出せなくなっている。

 不便なものだ。現実を享受するしかないなんて。


 まあいい、話が逸れた。

 こまめにメンテナンス・チェックを行なっているのと、武器がきちんと整備されていること、あとはまあ、現場がまだそれほど危険ではないというのと、これが一番大きいとわたしは思うのだが、出撃時のオペレートやサポートが的確なこと。以上の理由でなかなか安全に任務が遂行できている。

 そのおかげで、わたしは冷静に、アルベリヒの記憶に従い、身体能力の高さを存分に発揮している。着実にこの機械の身体に慣れてきていた。

 怪我をして発狂なんて無様をさらしたくはないし、それで“わたし”のことがバレても困る。あらゆる場面を想定して脳内シミュレーションを行い、“わたし”ではなくアルベリヒの思考を組み立てて慎重に振舞うようにしている。


 普通に生活するだけでもかなり気を使うので、コクーンに入っている時間だけは安らげた。マザーコンピュータに思考を覗かれることを危惧はしていたが、どちらにせよこういう思考回路記録も取られているのだから、監視者がいるならもう“わたし”のことはバレているだろう。それでもいまだに回収も接触もされていないということは、マザーコンピュータにある“わたし”の思考記録は見られていない可能性が高いだろう。

 このマザーコンピュータは何故か、“わたし”の記憶を厳重にプロテクトしてくれているらしい。マザーに問い合わせると、その記録すら勝手に削除してくれているし、深いところにしまってあるから動かすと本部に感知されるだろうとたしなめられた。


 マザーが味方をしてくれる。それならまだ、“わたし”でいられるだろう。

 ゆっくりと覚醒する。まだ、夢の中だ。



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