ヒーラー
今さらだけどルビの振り方を知りました。
クエスト『最終決戦』から二度の撤退。
……このクエ名だと意味がわからなくなってくるな。
とにかく、あの後PT全体のレベル上げの為鬼周回をした。
上位陣から突破者がちらほら出始めた……が、情報をあまり出さないので新たな対策等は立てられていないのが現状だ。
……だが、そろそろこのレベル上げも終わりにしないとな。
「そろそろスキル取んぞー」
「いえーい!!ドンドンパフパフ!!」
マイはそれ直接言うんかい。
……まあ、しばらく地味な作業だった分何かストレスが溜まっているのかもしれない。
ちなみにウチのPTはなるべく本人の意見を組んでスキルの取得をしている……つもりだ。
可能な限り本人の意思を尊重していきたいと思っている。
……ほぼ俺とタツが取り仕切ってるけども。
「あ、あの……ショウさん……タツさん」
「んー?」
「私は……どっちを取ったら……」
……サラか。
『どっち』とは恐らくヒールの派生先の事。
『ハイヒール』と『ロングヒール』だ。
『ハイヒール』は単純に『ヒール』の強化系。
回復力をそのまま向上させたスキル。
一方『ロングヒール』は……名称そのまま。
射程距離が長くなる……つまり、さらに後方から回復が可能だ。
しかし、射程距離を伸ばした反面回復力は『ヒール』と変わらなくなってしまっている。
これをどちらか選ばなくてはならない。
「「『ハイヒール』」」
だがそんなもの悩むまでも無い。
「わーお……二人とも即答ですねぇ」
「え……?」
「絶対こっちのが良い」
「頼むからこれにしとけ」
「あ……はあ……。えと……でも……」
なんだろう。自分では『ロングヒール』に決めてたとか?
それならあまり無理強いしたくはないけど……。
「ん?サラは『ロングヒール』のが良かったか?」
とりあえず聞いてみよう。そっちが好きなら……仕方無い。
「あ……そういう訳じゃ無いんですけど……。すぐ答えたからなんでかなって……」
「すぐ答えた……?あー……『ハイヒール』を選んだ理由?」
「あ、はい。私は両方良いかなって迷ってたんですけど……。お二人は即答だったので……」
理由……理由ねえ……。
遠距離回復の『ロングヒール』。
確かに便利で強力なスキルかもしれない。
敵の攻撃範囲外から安全に回復を飛ばす事が出来る。
……どのみちタンクの俺がいるしなあ。
前衛アタッカー並べてヒーラーは遠距離で敵の攻撃範囲外から回復……こんなPTなら強いかもしれない。
しかし、挑発などのヘイト操作系がある以上距離はあまり関係無い。
後方だろうが超後方だろうがどうせ殴られるのは俺だ。
利点のもう一つは……敵の範囲攻撃に巻き込まれない事か?
……しかし、敵の範囲攻撃が届かないならこちらの範囲回復も届かない。
近づくかチマチマ遠距離から一人づつ回復するか……どちらにせよ回復の手が遅れる。
マス目移動するシミュレーションRPGのようなゲームなら有用かもしれないが……少なくとも今のウチのPTには合っていない。
「……タツさんも同じ考えなんですか?」
「んーまあ……。大体言いたい事はショウが言ったわな」
長くなったけど分かって貰えただろうか。
サラ……だけでなく全員静かに聞いてくれていた。
……だんだん子っ恥ずかしくなってきたぞ。
これで『ロングヒール』が有用スキル扱いされてたら死にたくなる。
「じゃあ、そっちにしますね」
あら、サラさんあっさり。
いや……凄いありがたいけどさ。
サラがひとまず解決……と思ったその時もう一人が入ってきた。
「私も……それを取った方がいいですか?」
ミイ?
「んー……。まあ……うん」
「あれ?なんか煮え切らない返事ですねぇ……。ミイちゃんには他になんかあるんですかぁ?」
そういう訳じゃない。確かに『ハイヒール』がベストだと思う。
「うん?何を悩んでんだ?普通に考えたら『ハイヒール』だろ」
「まあ……そだね」
性能面で見たら回復の強化は正しい。
キャラクターの性能だけ見たらそれしかないと思う。
「……ミイはそれでいいか?」
「え?」
本人が本当に望むのなら。
ミイは役割で言えばヒーラーだ。それは間違いない。
……ただ、攻撃に参加したがる節がある。
というか、かなりする。
そして……才能があるんだろうなあ。
『ゲーム』自体の経験値や知恵が少ないが……単純な反射神経やタイミングなどはかなり優れている……ように見える。
後は……中の人のスペックの差か。
仲間全体を良く見て、即座に回復に移れるサラ。
敵に集中し、前衛と遜色ない反応が出来るミイ。
『ヒーラー』としてのスキルならサラに軍配が上がるかもしれない……が、『アタッカー』としてならミイが上だ。
二兎を追う者は一兎をも得ず。
リアルの世界には確かに天才がいる。
二兎を得て順風満帆の人生を送る者は地球上に大量に存在するだろう。
しかし……この世界は平等だ。
生まれ持った才能は皆同じ。
努力にもカンストという名の打ち止めが存在する。
二兎を得る事は出来ない。
『回復』か『攻撃』か。
どちらかを捨てなければならない。
「いい……とは?別に構わないですけど……」
「んー……。攻撃系取りたきゃ言ってくれてもいいんだぞ?」
心から納得しているのならそれでいい。
ただ……俺たちに言われたから仕方なく……は辞めて欲しい。
現状スキルの振り直しや職業変更の手段が無い以上、下手をすれば一生このままだ。
嫌々取ったスキル。
嫌々育てたキャラ。
そんな自分の分身とこの世界では一生付き合っていく事になる。
「私は……」




