くまさんとおおかみさん
【挑発】
さっきの熊が二体、新種の狼が四体……。
とりあえず挑発を発動させたが……どうだろう。
【守備の陣】
「範囲撃ちますよぉ!!」
サファイアは攻撃ではなく守備を優先させた。
そして、ミイも回復に備え攻撃に回らず待機している。
……ありがたい。
単純に高ステータスの『シルバーグリズリー』と未知のモンスターである『スノーファング』……ナイトの守備力といえど油断は出来ない。
ある程度強さが判明するまでは守勢に回った方が無難だ。
噛みついたり引っ掻いたりしてくる『スノーファング』……ダメージ量はそうでもない……ような気がする。
いや、充分痛いんだけど思った程でもない。
熊が雑魚としては強かった分心配しすぎだったのかもな。
このままーー。
「魔法いきまー……あっ!!」
こちらに群がっていた狼たちは、マイの声とほぼ同時に後方へともの凄い速さで駆けていく。
【フレイムバースト】
「ああっ!!」
『フレイムバースト』の詠唱が丁度終わり……見事に狼全部空ぶった。
「ちょっと!!あいつら逃げたんですか!?」
範囲攻撃を察知して逃げる……?
タイミング的にそうとしか思えなかったが……。
……攻撃したのマイだしなあ。
良くも悪くも何かしらを持っているマイだ。
偶々プレイヤーから離れる行動を持っていた敵が、運悪く魔法の手前で離れただけかもしれない。
「気にせず熊叩け!!マイも単体に切り替えろ!!」
「りょーかいです、タツさん!!」
……そもそもが元から熊狙いだ、勝手に離れてくれるなら無視して別の敵を狙うだけ。
移動のタイムロスの分攻撃頻度が減ってありがたいまである。
そういえば、離れてから全然動かないような……。
【コールドブレス】
【コールドブレス】
【コールドブレス】
【コールドブレス】
……は?
四匹の狼から放たれる吹雪。
いや、これは死ーー。
【マジックシールド】
キュキュガキィン!!
サラによって展開された魔法の盾は一瞬で破壊される。
四発が同時に着弾した為何があったか瞬時に理解出来なかった。
吹雪と『マジックシールド』が無くなり目の前にに現れたのは……ぐるぐると腕を回し猛烈な勢いで突っ込んでくる『シルバーグリズリー』
【ぶんまわし】
「くそっ!!」
ガードはしたが……ノックバックで後方に弾き飛ばされる。
幸いにも木に激突して大きくは移動させられなかったが……体力がもう……。
【ヒール】
【ヒール】
……いや、ほんと二人のヒーラーに感謝だわ。
攻撃が重なり過ぎていて分からなかったが……さっきの吹雪はたぶん二回防いで二回被弾か?
……全弾受けていたらくまさんパンチの追撃で死んでいたと思う。
体力満タン状態からの一瞬の死。
……きついわ。ザコ敵のレベル上げすぎだろ。
「ショウ、無事か!?」
「ギリッギリ!!サラの盾なきゃ十割だわ」
「……っ!!マジか……」
タツも予想外だったろう。
完全に最前線でやる事がなかったプレイヤー向けへの難易度だ。
……新モンスターが軒並み強いのか、俺が偶然高難易度クエストを選んだのか分からんけども。
「ミイ、サラ!!俺の体力は、満タン維持で頼む!!」
「は、はいっ!!」
「了解です!!」
「……それと、サラはさっきのタイミングで『マジックシールド』頼めるか?」
「……ふぇっ?」
……なんかかわいらしい返事が返ってきたな。
「さっきの犬が氷吐くタイミングだ……あれ、ばっちりだったから」
お世辞や気を使ってる訳ではなく、あれは本当にベストタイミングだった。
「は……はあ」
……本人あんま分かってないみたいだけど。
「マイ!!単体に切り替えろ!!それと熊一匹倒したら狼に対象変えるぞ!!」
タツの指示は正解……だと思う。
今までの狼はじゃれつきレベルの火力だったが、このブレスは決して無視出来ないダメージだ。
熊を半端に削ってしまった為、そっちを潰してから狼を倒す。
……たぶんこれが今取れる最良の作だ。
問題は……。
【ヒール】
【ヒール】
その前に俺が落ちるかもしれない事……。
……やはり『ヒール』だけじゃきつい。
俺の最大HPと敵の攻撃力が上がった今、回復が二人がかりでも追い付かない。
【フレアボール】
【フレアボール】
皆も全力で攻撃しているが……。
「タツさん、余力が……」
……だよな。これはただの『ザコ戦』だ。
このクエスト中に何度あるか分からないただのザコ戦。
……ここで全てを出しきる訳にはいかない。
「一匹倒すまではそれ使え!!次の相手からランク下げろ!!」
……かといって早めに倒さないと全滅のリスクが高まる。
中々に厳しい状態だ。
【百花繚乱】
距離を取ろうとした狼に、無数の刃がヒットする。
「カスミちゃん、ナイス!!」
今の一撃で一匹仕留めた。……残りは熊一匹と狼二匹。
ようやく半分……ここまでくれば全滅の危険は少ないだろう。
【ファイヤーボール】
【ファイヤーボール】
【火遁の術】
遠距離部隊の攻撃が狼の片割れにヒット。
狼はチョロチョロ動き回って戦いづらい……訳でもない。
遠近両方いけるメンバーが多いのでそこまで苦にはならない。
当初は死人が出るのを覚悟したが、どうにか全員無事でここまで……あ、サファイアが一匹倒した。
「とどめですよぉ!!」
【ファイヤーボール】
その宣言通り、マイが放った火球はシルバーグリズリーを絶命させた。
「後は狼さん一匹ですけど……タツさん、なんでこっちを残したんですか?」
「あー……実験?」
「……実験?」
「データがないから色々試したいんだよ。属性攻撃とか……さっきの範囲の時とか」
「さっきって……あ、私の魔法避けたやつですかぁ?」
ほぼまぐれだと思うが、念のためかな?
実際、範囲攻撃をしなくても距離を取ってからのブレス攻撃してたし。
「まあ、うん……そんな訳だから……」
ああ、そうか……。
「マイ……頑張れ……」
「へっ?」
……範囲も別の属性もマイだけだもんなあ。
【フロストインパクト】
「……これでいいですかぁ?」
氷塊は一直線に狼に向かっていき、激突して大ダメージを……与えなかった。
「やっぱ耐性持ってるよな……」
当然と言えば当然か。火弱点の水耐性。
これが検証の結果判明した事。
……いや、見た目からして予想通りだけどさ。
「まずいな……」
「そんなに深刻か?氷が効かなくて問題なのはマイぐらいだろう?」
違うんだサファイア。タツの『まずい』はそっちじゃない。
「ちげえ、火が弱点なのがまずいんだよ……」
「……いや、分からないぞ。お前含めて火を出せるやつ多いだろうに」
「だからだよ……」
うん、ウチのPTは火に片寄っている。
「んん?弱点が突けて楽なのでは?」
「弱点突けてこんな苦労してるのがアウトなんだ……」
弱点や耐性の属性で攻撃した時のダメージ量の増減は、一律ではなく敵によってバラバラだ。
こいつらの炎ダメージは2倍……は無いにしても1,5倍くらいでにはなってるはず。
……PTの主なダメージソースの連中が1,5倍でこのありさまなのだ。
同難易度の他のクエスト……火に弱い敵が出てこないクエストはほぼクリア不可能である。
「……なんとなくだが分かった……が」
が?
「それは終わってから考えればいいだろう?」
「まあ……そだな」
ごもっともだ。
そもそも、このクエストだけやたら敵が強い可能性もある。
「まあいい、さっさとこのクエ終わらせるぞ」
……この先ボスがいないといいなあ。