はじめての死闘
【火遁の術】
チャット欄にそう表示されると同時に火球がボスに直撃し怯む。
『火遁の術』ーー忍者のスキルの一つ。
魔法攻撃に分類され、術者から火の玉が発射され被弾した相手に『やけど』を付与する。やけどは敵の守備力をダウンさせる事が出来るらしい。
どうでもいいけどこれ、デバフだか状態異常だか紛らわしいな。たぶん分類上は状態異常なんだろうけど。
そして、火球が直撃した隙を狙い切りつける。
敵が体勢を整える前に盾ごと体をぶつけ、突き飛ばす。どうやらスタンが入ったようだ。山賊親分はその場で放心状態になったかの如く動かない。
「ナイス、今だ!!」
その声を聞き、俺はがむしゃらにコントローラーを動かし連続攻撃を浴びせる。少し距離があり数秒遅れたタツも加わり驚異的な斬撃の嵐だ。
「ウォォォ」
そう小さく呟いた声を聞いた瞬間、二人で切りつけながら別方向へと駆け抜ける。敵のスタンが解ける直前に離脱したのだ。正直今のはアニメのオープニングみたいでかなりカッコいいと思う。録画してあれば曲でもつけて動画サイトにでも上げたかもしれない。それほどまでに手応えのある連撃。今のでなんと敵のHPバーをーー数ミリ削ることができた……。
「後三割くらいか?」
「たぶん……」
タツからの言葉にそう返す。今ので削ったのは全体の5%程度だろう。かれこれボスだけで15分以上戦っている。クエスト全体で見れば30分近い。いいかげん疲れてきた、マジで。
自分達はただの一プレイヤーなのだ。強力なスキルがあるわけでも、伝説の武器があるわけでもない。この世界に降り立ったばかりの数十万人のプレイヤーの一人に過ぎない。単純な火力不足。回避や防御には中の人の腕による差がでる。ただ、攻撃は別問題だ。敵の攻撃は回避や防御できるがこちらの攻撃もあまり効果がない。それ故の泥仕合。半端にボスのHPを削ってしまった以上
「リタイアしよっか?」
なんて口が裂けても言えない。二人ともここまで戦った意地がある。とはいえさすがに敵の攻撃パターンも読めてきた。まずは俺とタツがボスを挟むようにポジションを取る。ボスとはいえ所詮は山賊である。攻撃モーションはいくつか増えているが基本的に『前方の敵を斧で切りつける』のみ。
一人が回避に徹し、狙われてないもう一人が攻撃する。隙ができたら先程のように総攻撃。これの繰り返し。そして、単純作業にだれてきたその時ハプニングが起こった。
「やべっ!!」
突如斧を投げつけてきたのだ。斧は弧を描いて飛びタツの体をかすめる。直撃さえしなければ大きくHPが減りはしない。どうやらギリギリ回避が間に合ったみたいだ。
てか、よく初見で避けれたなアイツ。どんな反射神経なんだよマジで。
ただし、かすったとはいえ攻撃を受けた事に変わりない。吹っ飛ばされ起き上がるまで行動できない。その間にボスは追撃をかけていた。
投げた斧を回収せず、ダッシュからの右ストレート。起き上がりを狙われたタツ、回避は不可能と思ったのか剣を振り迎撃する。剣対拳のクロスカウンターの形になる。当然勝ったのはーー拳だ。
現実世界ではあり得ないがここはゲームの世界。体力も攻撃力もボスとは比べ物にもならない程差がある。顔面に拳を食らい吹き飛ばされるタツにまたもやボスは追撃をかけようとする。
【挑発】
咄嗟にこのスキルを発動させた。
「悪い、助かった!!」
「引き付けるから回復しとけ!!」
『挑発』ーークエスト前に取得したナイトのスキル。敵からのヘイト値を上げ、攻撃を自分に集中させるスキルだ。これでしばらくタツには攻撃がいかないだろう。ポーションを使い自分で回復しているタツの姿が見える。因みにこのスキルを今まで使わなかった理由は幾つかある。
幾つかあるけどまあ、うん……。
集中されたら避けきれねーよ、こんなの………。
本来回避や攻撃なんてあまり考えなくていい職業なのだ。ナイトの仕事は一つ『肉壁』これに限る。ただし現状はそうもいかない。
回復してくれるヒーラーがいない。
倒してくれるアタッカーもいない。
タンクに見あった凄い防具もない。
防御系のスキルも取得できてない。
何より、俺には敵の攻撃を捌ききる技量がない。
この事をタツも分かっているから『使え』とは言わなかった。
そして、タツが帰ってくるまでなんとか一人で凌ぎきる。新しく追加された敵の行動パターン『斧なげからの素手による攻撃』来るとわかればギリギリ対処できる。斧の投てきだけ注意すれば素手の攻撃は盾のガードで防ぎきれる。
このゲームでのガードは割合軽減ではなく固定値軽減らしい。つまり軽く早い攻撃ならそこまでダメージを受けない。ガード中に斧一降り食らうのとパンチ十発食らうのは同程度のダメージだ。
タツが回復を終え前線に戻ってくる。こうなると挑発を解除したいがそうもいかない、発動は任意でも解除は時間経過しかないからだ。
敵の攻撃をガード中、少し考えてからタツに言葉をかける。
「このままガードする、その間に倒せ!!」
「そのまま防御してろ、その間に倒す!!」
同時に発せられる同じ指示。どうやら向こうもそのつもりだったみたいだ。さすが長い付き合い、無駄に気があってしまう。
あれから三分程度がすぎ、ボスのHPも残り一割を切った。二人は最後のスキルを使う。
【挑発】
【火遁の術】
もう回復アイテムも品切れだ。やけどと挑発の効果が残っているうちに倒しきる。それしかない。
コントローラーを握る手が汗で滑りそうだ。喉も乾いたしトイレに行きたい気もしてくる。手を滑らした瞬間、この長い時間が全て無駄になるかもしれない。ゲームでは久しぶりのプレッシャー。『魔王マラソン』とか『邪神周回ツアー』だの強者との戦いもパターン化されてしまった今までのネトゲでは味わえないこのスリル。
……うん、このネットに情報が転がってない手探り感。やはりサービス開始直後は楽しい。
「おい、バカ!!」
その声で現実に引き戻される。目の前には大きく振りかぶっているボスの姿があった……。
なんとかガードするが、後方に飛ばされる。敵が投げてきた斧もガード。だがこちらの残りHPも心許ない、一回でも斧の攻撃を直撃したら死ぬかもしれない。そして、敵のパンチをガード。ガード。ガード。
……やっぱこのHPだと直撃したら死ぬわ。このHPだと地味にパンチの削りもバカにできない。
そして、拳を振り上げた瞬間ボスの姿がフッと消える。どうやら背後から切っていたタツがHPを削りきったらしい……。
「「ふーっ」」
二人で大きく息を吐く。やっと解放された。
「ちょい飲み物取ってくる」
画面の向こうから聞こえてくる声。やはり気が合うと思う。
「俺も」
こうして、簡単にして難関のクエストをなんとか達成した。そして二人は心に誓った
『次は絶対人数増やそう』と……。
『ウチのPT@6』です