さいしょのクエスト
この話しから本格的にゲームスタートです。
よろしければお付き合いください。
さて、どうにかネト・ゲーの世界に降り立った訳だ。とりあえず、町でも見て回ろうかと思っていた時、黒髪忍者がこっちを向いていた事に気づく。
プレイヤーネーム『タツ』……。
ふと、スマホを見る。
【おせえよ!!】
とのメールが……。ああ、うん。
VRじゃ気づかんな……。
【悪い、もしかしてこの忍者か?】
とりあえず、メールを送る。個人チャットで間違えたらこっぱずかしい。
【ああ、てかお前またその名前なのな】
今度は個人チャットで返ってくる。うん、どうやら合ってたらしい。
そう、プレイヤーネーム『ショウ』本名をもじった子供の頃からのゲームでの名前。
【お前もじゃねえか】
こいつは『タツ』。親友、幼なじみ、悪友、このどれかだろう。数々のネトゲで共に修羅場を乗り越えてきた仲だ。やはり、廃に片足突っ込んでる男が仲間にいると心強い。心強いんだけど……。
【なんで忍者?】
【なんとなく】
忍者ーー剣と忍術を使いこなす、物魔万能系統のジョブ。
素早い動きとスキルによるデバフや状態異常が得意だ。正直ピーキーそうなキャラだから避けたがコイツに使いこなせるんだろうか……。
【PT申請送った、PT組んでボイチャ使うぞ】
【了解】
メニュー画面から申請を受けPTを組む。
『ボイチャ』……ボイスチャットの略。戦闘中にチャットなんて撃つ余裕はない。少なくとも俺にはそんなスキルはない。だからこそのボイチャ。
因みに最初から使わなかった理由は一つ。チャットの範囲による問題だ。声が届く範囲は複数設定できる。今使っているPTチャットの他に、タウン全体、キャラの周囲、登録してあるフレンドなど。つまり、直接会わない限りピンポイントで声を遅れないからだ。そんな事を考えていたら声が聞こえてきた。
「おい、聞こえるか?」
「うん、OK」
「よっしゃ、問題ないな!!早速だけどこれからどうする?」
そう言われ、考えるために少し間が空く。
チャットを見ると早速PTの募集が始まっている。テキトーな募集に乗りクエストに出るのも手だ。だけど……。
「最初は二人で一度クエいかね?」
「わかった」
タツから二つ返事で返ってくる。意外でもなんでもない。二人でクエストにいく意味は向こうもわかっているのだろう。
『自分が足を引っ張るのは嫌なのだ』
ネトゲなんて皆でワイワイ楽しむ物。例え誰かがミスを犯しても。
「ドンマイ」
「気にしないで!!」
これが理想である。うん、理想なだけだ。
「ドンマイ」(死ぬんじゃねーよ)
「気にしないで!!」(気にしろやクソ!!)
現実はこうだ。慰めの言葉をかける裏で仲間内に罵倒のチャットを送っている。勿論全部が全部こんな人間では無いだろう。ただしこのケース非常に多い。それ故に操作方法も録に分からないまま誰かとPTを組みたくないのだ。
最初に初期資金で装備を整え、スキルの確認をする。このゲームはスキルツリー制である。
LV1でもどれか一つだけスキルを取る事が可能である。少しだけ悩んだが、とりあえず『挑発』を取り、タツが選んできたクエストを受け街の外へと向かった。
やはり、外に出ると最新のゲームだと再度実感する。綺麗な空、細かい草木、遠方まで作り込まれている背景。そしてーー髭面のむさ苦しいリアルな山賊……。
タツが受けて来たクエストは『山賊退治』
うん、RPGの序盤にはお馴染みのクエストだ。
武器は斧一本。防具は布の服一枚。紛れもない伝統的な山賊スタイル。数多のゲームで見る山賊さんの姿がそこにあったーー数十人ほど……。
「「多いわ!!」」
それが俺とタツの素直な感想。いや、一撃で倒せるザコならこの数でいいんだ。残念ながら二人で数発殴っても倒せないレベルの体力。仕方ないので一旦逃げて分断し各個撃破。これの繰り返し。少数が大人数に勝つ為の基本的戦法。わりと漫画やアニメで見られる手段。
「あの一角で終わりか?」
「多分な……」
俺の問いにタツがそう答える。やはり少し疲弊してるのだろう。最初のクエストでここまでするとはお互いに思ってもいなかった。
まあ、正直敵のモーションは大降りで単調だ。数の暴力さえなければそこまで苦戦はしない。ただ無駄にタフなだけだ。半ば消化作業のような扱いで山賊達を倒す。ーーその時悲劇が起こった。
『山賊親分』
「げ」
「マジかよ」
最後の山賊を倒したとき、何もない空間から現れた最悪の敵。ゲームのHPには多少余裕がある。残念ながらリアルのHPには余裕がない。精神的に参ってきている。
「これ終わったら休憩な」
「勿論」
二人の気持ちが今一つになる。
そして、覚悟を決め目の前のボスに剣を向ける。
他の敵と大差ないことを信じてーー。