最後の賭け
【アイシクル】
【ファイヤーボール】
氷と炎が宙を舞う竜に直撃するーーが、先程迄と比べると大したダメージにはならない。
残念ながらこんな豆鉄砲を連発しても、怯んだ様子が見られる訳も無く……。
ドラゴンが急降下してくる。
また、その勢いのまま蹴り飛ばす気だろう。
……気づいた点が一つある。
飛行モードに移行したら、攻撃の頻度が落ちるという事。
ブレス以外の攻撃方法は、基本的にボクシングなどで言うヒット&アウェイに当たる。
『こちらの攻撃が届かない』こんなデメリットの面しか見えていなかったが、意外とメリットもあったのだ。
……実際、気づいたからなんだーーって話だが。
向かって来るドラゴンの巨体に対抗すべく、盾を構える。
視界全てがドラゴンに埋め尽くされる直前、黒い影がその巨体と交差した。
……いや、考えていたよ少し。
『肉を切らせて骨を断つ』仕方が無いから相討ち覚悟で切りかかろうかなあって。
ただなあ……『肉を切らせないで骨だけ断つ』とは思わなかった。
そんな事をガードして吹っ飛ばされながら思うのであった。
あの攻撃は、向かってくるドラゴンの体に少しでも触れればダメージ判定が出てしまう。
それなら話は簡単だ。武器だけ当てればいい。
……うん、話すだけなら簡単なんだ。
実際ににやるにはタイミングが難しい訳で……。
「え、今何したんですか!?」
マイが分からないのも無理は無い。
高速で急降下してくるドラゴンにタイミングを合わせたのだ。
「切った」
タツはサラッと言ったなあ。
普通初見で出来ないんだよそれ。
「成る程!!今みたいにすれば攻撃出来るのだな!!」
「え……あ、うん」
サファイアに変なスイッチが入った。
「……分かりました、やってみます!!」
ミイにも変なスイッチが入った。
……別に二人がヘタだとかそういう事じゃない。
タツが上手いのであって、二人もセンスを感じる動きだと思う。
……だから、二人があっさりドラゴンにぶつかっても、別におかしい事じゃないんだよ……。
「あ……いや、その、な」
タツが言葉に詰まってら。
……まあ、『無理すんな』とか『やらなくていいぞ』とか言えないよなあ。自分が成功した手前余計に。
助け船出すか。
「そこの廃人が異常だから気にしなくていいぞー」
「誰が廃人だ!!」
基本メンテ以外ログアウトしない人間のどこが廃人では無いのだろうか。
これに反論出来る人間がいるならしてもらいたい。
「実際無理しなくて良いんだぞ。こいつだって100%成功する訳じゃ無いんだし」
なんかそれっぽい事を言ってみた。
……ドラゴンに殴られながら。
実際のところ後どれくらい持つだろう。
ああは言ったが、無理をしなくても結局倒せない。
サラの回復には余裕がある。……考えたら当然の事だ。
『ポイズンクロー』を受けた時ミイはHPの回復を。サラは状態異常の回復をしてきた。
その分の差が後半になって響いてきてしまったのか。
「スミマセン、終わりッス」
ロロのスキルも尽きた。
「……っ!!」
もはや誰も何も言わない。いや、言えない。
『負け』の二文字がどうしても頭によぎってしまう。
そんな中一つの個人チャットが届く。
【挑発@?】
タツからか。別にボイチャでもいいだろうに。
【@1】
【おk】
不思議に思いながら返信し、ドラゴンに飛びかかるタツを見る。
……100%じゃ無い。先程はそう言ったが今のところ成功率は100%だ。
偶然の産物では無く、安定したダメージソースになりつつある。
多少ながらも、希望が見えてきた気がする。
「いやー、タツさん凄いですねぇ。このままいけそうじゃないですかぁ」
マイの軽口が復活した。
乗っておこうか。マイなりに暗い雰囲気を消そうとしているのだろう。
「よっ!!さすが廃人様!!」
「うむ、廃人の力は凄いな!!」
「絶対誉めてねえだろ、テメエら……」
なんか弄られキャラが定着しつつあるのでは無いだろうか。
まあ、弄るのは専ら俺、マイ、サファイアの三人だが。
そして、タツは話に気を取られて失敗……なんて事は無く、淡々と切り付けてる。
……いやあ、本当にさすがだわ。
【アイシクル】
小さな氷のつぶてが命中。
皆半ば諦めかけていた時、ドラゴンに異変が起きる。
「ギャオオオォォォ」
遂に来た!!悲鳴と共に地面へと墜落してくるドラゴン。
「来たぞ!!最後のチャンスだ!!」
そう言うとタツは言葉を続ける。
「殴れ!!」
【攻撃の陣】
【戦神の憑依】
【集中】
【魔法剣】
ミイも回復を捨て、『戦神の憑依』を使い攻撃に回る。
いや、どうせ回復使いきってるけども。
……タツの言葉通り、正真正銘これがラストチャンスだ。
次に飛ばれたらどうにもならない。
ここで倒しきるしか勝ち目は無いのだ。
「サラ、お前も可能な限り攻撃に!!」
「……はい!!」
【十字切り】
……これでいい。
【アイシクル】
剣が槍が魔法が、ドラゴンに降り注ぐ。
削れろ!!削れろ!!削れろ!!
祈りながら敵の攻撃を防いでいく。
……挑発も使いきっている。これが切れたらタンクの役割も終了だ。
今なら挑発の回数を聞いてきた意味が分かる。
タツの神業的な芸当は、ヘイトコントロールがしっかりされていないと不可能なのだろう。
『自分には向かってこない。かつ、誰に来るか事前に分かっている必要がある』
これが先程までのタツの攻撃のカラクリだ。
……知ったところで真似なんて出来ないがな。
……そろそろ飛ばれる。
ゲージはミリ残っている。
もう本当に終わってしまう。
……これが効かなかったら。
「……限界だ!!撃て!!」
最後の切り札を発動する時がきた。
「カスミ!!」
カスミはスキル発動の構えに入る。
赤いオーラが体から吹き出て、それが手持ちの剣に宿っていく。
条件付きではあるが、現ネト・ゲーで一、二を争う超火力スキル。
【ラスト・ブレイカー】
赤いオーラを纏った一閃が、ドラゴンのHPバーを削りきった。
『ラスト・ブレイカー』
アサシンの最強奥義とも言われているスキル。
具体的な計算式は分かっていないが、
攻撃力+クエストの経過時間×α%+クエスト時のスキル使用回数×α%
ネットではこんな感じで言われている。
つまり、スキルを使いきった終盤にぶっぱなす『最後の手段』的な必殺技だ。
……しかし、その最後の手段を使ってもドラゴンはまだ動いていた。
……倒したかと思われたが、ドラゴンはすぐに起き上がり即座に反撃してくる。
ガードが間に合わず、直撃する。
「ちょっと!!なんで生きてるんですか!?」
……動画では復活イベントなんて無かった。
考えられる点は一つ。
「……死んでねぇな、ありゃあ。」
「はい!?いや、だってタツさん、HP無いじゃ……」
「バーに見えないだけだ。きっと数値上は残っているんだろ」
だろうな、ドラゴンゾンビ的なイベントじゃ無いだろう。
そんな事あるなら、ネットで話題になっている。
俺たちは別に最先端の先駆者じゃ無いのだから。
ドラゴンが飛翔し、ブレスの構えに入る。
……後数発殴れば倒せるはずだ。
ただ、飛ばれると攻め手は極端に落ちる。
「…私スキル0ですよ?」
うん、知ってた。途中から殴ってたもんな。
これでタツしかまともに攻撃出来ない。
【フレイムブレス】
炎に包まれる前、一瞬嫌な物が見えた気がした。
挑発のアイコンが消えている。
……本当に打つ手無しになったのでは?
【ヒールウインドウ】
すかさず範囲回復する。が、回復量が足りない。
「あ、あの。今ので最後です」
ブレスのダメージが五だとするなら、範囲回復は二か三だ。
一回では明らかに回復量が不足している。
「あ、あのヒールは……」
「……とっとけ」
かといって個別に回復していくには、ヒールの回数も足りないのだろう。
どうしても後少しを削れるビジョンが見えてこない。
考えが纏まらない内に、ドラゴンは急降下してくる。
狙いは俺ーーじゃない。
蹴りでサファイアが大きくダメージを受ける。
……どうやら、死んではいない。
だが、死亡一歩手前の瀕死状態だ。これなら……。
最低な作が頭に浮かんだが、すぐに頭の中から消し去る。
しかし、俺が思い浮かべた事とほぼ同じ事がボイチャから聞こえてきた。
「サラ、回復するな!!」
「え!?あ、はい!!」
咄嗟にサラは詠唱を中断する。
回復を止めさせたのは誰でもないーー。サファイア自身だ。
はっきり言ってしまえば、PTの中でダメージを与えられる確率が高いタツとかろうじて回復が残っているサラ。
この二人以外は俺を含めて必要性があまり無い。
これならば、回復せずに切り捨てた方が効率的だろう。
……これが、物言わぬNPCならば。
これは、オンラインゲームだ。
プレイヤーの一人一人に心が宿っている。
無条件で命令を聞いてくれるNPCとは訳が違う。
『必要無いから勝つために犠牲になってください』
こんな事されて笑って許すほど、ネットの人間は聖人君子でもなければ、効率的な人間ではない。
『ブラックリスト登録』をワンクリックするだけで関係なんてバッサリ切れてしまうのだ。
それ故に先程の言葉を避けてきた。
俺と……恐らくタツも。
誰も言えないからこそ、自分で言ったのだ。
「タツ!!ショウ!!何かあるなら私たちに遠慮なく言え!!」
マイもこれに続く。
「別に何されても恨みませんよぉ。囮でもなんでも」
覚悟を決める。人間関係が崩れるかもしれない最低の作を伝える為。
「タツ以外全員俺のとこ集まれ!!」
「いや、お前それは……」
野良で実行したら晒されるであろう作戦を今、実行する。
出来ればここでドラゴン終わらせたかったです。
こんなに長くする予定はありませんでした。




