死亡
誤字報告ありがとうございます。
小さいころゲームの世界そのものに憧れた。
一人で悪い魔王を倒す勇者様はカッコいいと思った。
小学校のころ、周囲の誰よりもゲームが上手かった。
お兄ちゃんからお古のPCを貰った時、ネットゲームをプレイする事にした。
これで、あの勇者様になれるとワクワクした。
自信は全て崩れた。
【ヒールウィンドウ】
サラを除く全員が回復する。
ひとまずの危機は去ったーーが、不利な状況は変わっていない。
全滅一歩手前から三歩手前ぐらいになっただけだ。
「助かった!!今のうちに自分も回復しとけ!!」
ーーしかし、いつまでたってもサラのHPは動かない。
「ん!?おい、サラ!?聞こえてるだろ!?」
タツが再度呼び掛けるも、サラは反応しない。
「……から」
か細く聞こえるサラの声。
「あん?」
「あ、後二回しか回復出来ないから……」
「っ!!」
今にも消えてしまいそうな小さい声の短い一文。
けれども、恐らくこの場の全員がサラの意図を把握しただろう。
「もう、私じゃ役に立てないから……。だから!!」
【アイシクル】
「サラちゃん……」
なんとかマイに攻撃が飛ばずに済んでいる。
運が良いんだか悪いんだか。
ここまで粘って、『負けました』なんて勘弁してもらいたい。
「……アイシクルもそろそろ尽きますよ」
……覚悟はしていた。
『フレイムバースト』の詠唱速度では狙われた時に回避出来ない。
俺が体を張って止めるーーと言いたいが『挑発』無しでどこまでいけるか分からない。
【アイシクル】
氷塊が相手にぶつかる。そのエフェクトのせいで、敵が見えなかったのかもしれない。
「これでこっちも終わーー」
【グランドインパクト】
マイが言い終わる前に衝撃波がヒットする。
それと同時にサラの声が聞こえた。
「マイさんの近くへ!!」
【ヒールウィンドウ】
……回復は後一回。
敵の体力は後少しだが、削りきれるのか……?
マイが『フレイムバースト』の詠唱に入る。
……そうだな、ここで攻めきるか。
マイが狙われない事を必死で祈りながら時間を稼ぐ。
やたらと時間が長く感じる。
ゲームパッドが手汗で滑る気がしてくる。
後少しーー。
「っ!!」
ボスが先程の『あの』技のモーションに入る。
武器を両手で持ち、片足を上げる。
回避?いや、 あのリーチじゃ無理だーー。
【フル・スイング】
飛ばされたのは二人。俺とサファイア。
ガードが間に合った俺と違い、モロに食らったサファイアはマズイ。
「……サラ!!ショウを!!」
「サファイア!?」
「サファイアさん……。はい!!」
【ヒール】
最後の回復は俺にきた。
【フレイムバースト】
広範囲を焼き付くす炎が炸裂する。
まあ、ボス相手にはゲージをほんの少し削る程度の威力だが。
それでも希望の光には違いない。
現状これがこのPTの最大火力なのだ。
マイはスキルを発動後、すぐに二撃目の準備に入る。
ヘッドフォンからは、カチャカチャとした音しか聞こえない。
ゲームパッドやキーボードの音のみ。皆喋る余裕すら無くなっている。
タツが敵の攻撃を空振りさせた。
俺とサファイアは後ろから切りつけ、振り向く前に攻撃を辞め回避の準備に移る。
かなり消極的だが安全第一だ。
作戦名をつけるなら『いのちをなるべくだいじに』と言ったところか。
ボスが振り向く、対象は後ろにいた俺ーーじゃない!!
ボスの軸はマイに合わさっている。
そして、ボスは斧を大きく振り上げた。
……好都合だ!!肉弾戦でこられるより、遠距離の方が都合が良い!!
問題なのはアレがガード不可らしい事。
魔法系統や一部の物理スキルはこのゲームでは不可能か、ガード効果が極端に低くなる。
それなりのダメージは避けられない。
まあ、タンクのHPとアタッカーのHPの交換ならお釣りがくるレベルだ。
【グランドインパクト】
射線を塞ぐ様にマイの前に立つ。
衝撃波がマイを庇った俺にヒットするーー前にサラに当たった。
MPが無くなった『そうりょ』や『まほうつかい』は役立たず。
囮になってくれるならそちらの方が効率的だ。
どうせ後で生き返る。勝つためには、切り捨ても必要。
……それが中に人間が入っていなければの話だが。
マイを庇った俺を庇ったサラ。
ヒットと同時にサラは消える。
「サラちゃん!!」
途中から自分の回復は後回しにしていたし、死亡は当然だ。
……考えうる限り最適な行動。
スキルを使いきった後誰かの壁となって死ぬ。
別に死んだところで、このクエが終われば復活する。
どうせたかがゲーム。うん、良い判断だ。
だけど……。
【フレイムバースト】
【スピードダウン】
炎の中で敵もスキルを発動する。
今度の対象はーーサファイアか!!
ボスは続けてサファイアに走り出す。
「っ……。また私か」
だが、サファイアは動き回る素振りも見せずに、向かい打つ構えを取った。
「すまない、後を頼む!!」
サファイアは、突進してくるボスに向けて突きを放つ。
ボスの攻撃より先に突きが当たるーーが、当然そんな攻撃ではボスは怯みもしない。
突きを当てた後、ボスの攻撃によりサファイアも消滅した。
『蚊に刺されたと思ったぞ!!』
漫画なんかでボスが良く言うセリフだ。
実際、あのボスに喋る知能が有ったらこんなセリフを吐きそうな微々たるダメージ。
それが、サファイアが最後に放った攻撃の結果。
……それでも俺たちに後を託して『攻撃』を選択した。
回避が不可能だと悟った精一杯の抵抗。
サラもサファイアも最後まで戦ったのだ。
俺もタツも走り出す。
リアルならともかくこの世界はゲームだ。
『感情』なんて何の意味もない。
怒りや悲しみなんかでは『ステータス』は一ポイントも上がらない。
……それでも。
『攻撃力が上がった』
頭の中でこんなセリフが流れた気がした。
タツの動きが洗練されている様に見える。
本当にステータスに補正がかかっているみたいだ。
攻撃ギリギリまで切りつけ、当たるギリギリの距離で回避して反撃する。
言うのは簡単だが、少なくとも俺には出来ない。
この調子ならもしかしたらーー。
こちらに走ってくるボス。
この一撃を回避し、反撃をする。
そして、もう一発ーー。
「バカ!!避けろ!!」
「っ!!」
今のは攻撃の空振りじゃない!!
ボスは何度もその場で回り出す。
くそっ、逃げるのが遅れた!!
このタイミングでは絶対に間に合わない!!
【アクストルネード】
竜巻に巻き込まれ倒れる。
巻き込まれたのは俺一人。不幸中の幸いか。
倒れて起き上がる前に、ボスがこちらに向かって来るのが見える。
ああ、うん。これはベストタイミングだ。
ボスは片足を上げ、振りかぶる。
結局最後までこの技に苦しめられたな。
【フル・スイング】
完全な起き攻め状態。
ーー『ショウ』は死亡した。
井の中の蛙。あの時の気持ちを今言葉にするなら、コレが正しいだろう。
『勇者様』になんてなれなかった。
小学生の自分には、金も時間も腕も何もかもが足りなかった。
ただ、自分自身のレベルが低いからだと思った。
経験を積み、お金を稼ぐ。
なんだ、ゲームの世界と同じじゃないか!!
RPGは好きだ。コツコツと自分のレベルを上げていく。
少し挫けたが、蛙はネットという大海を知って、その先を目指す事にした。
「ねえねえ、キミが……章君かい? 」
「あ、えっと……。隣のクラスの……達也君?」
「キミ、ゲーム上手いんだって?今度俺と遊ぼうぜ!!」
小さな井戸の中ですら一番だと知る事も無く。




