勇者
【お久しぶりですね】
クエストが始まるとすぐに黒髪ロングの少女が近づいてきた。
剣と盾を持ち軽くて動きやすそうな鎧とマントを身に付けた、いかにも『冒険者』な格好の女性。
……いや誰だっけこの人。
【私一人かと思いましたが】
うーん……。『久しぶり』なら一度会っているはず……なんだけどな。
NPC……だよね?キャラクターネーム『ライラ』。
……全く記憶に無いなー。
【貴方たちが一緒なら心強いです】
【頼りにしていますね】
知らない人から頼りにされちゃった。
NPCじゃなかったらすっごい気まずいやつだコレ。
「ああ、勇者も一緒なのか、このクエ」
タツさんは知ってたんだ。
……なんだろう、公式サイトに名前でもあるとか?
それだと知り合いにはならないか。
「んー、この人って、私たちどこかで会いましたっけ?」
「会ったの俺ら二人だけか?お前らはストーリー進めてないんだろ」
……なんだろうすっごい嫌な予感する。
「あの……なんで私たちストーリーやってないんですか?」
「あんまり稼げないから」
「タツさんバカなんですか!?普通途中の話し気になるでしょ!?」
「ん?そうか?」
【さて今回の作戦を説明しましょうか】
「そうでしょ!!本やドラマの間すっ飛ばされた気分ですよ!?」
ああもう!!イベントシーンだから問答無用で進んでいく!!
「マイちゃんうるさいよ……」
「コレ私悪いの!?」
私に厳しい……というか他に甘すぎない?
ミイちゃんもたまには怒ってもさあ……。
「タツはああなんだ。諦めとけ」
「いや、ショウさんも同罪ですからね!?なんで他人事なんですか!?」
正直言いたい事は山程あるけど今は諦めよう。
【それでは作戦を説明しましょうか】
勇者様のお話しを聞かないとさすがにまずそう。
【この山賊の砦には正面の他に裏口があり】
【裏口からでしか正門を管理してるスイッチにたどり着けません】
【ですので正面で敵を引き付ける組と】
【裏口から入りスイッチを操作する組に分けたいと思いますが】
【よろしいでしょうか?】
【………………】
【はい、ありがとうございます】
凄い……!!選択肢すら出なかった。
拒否権なんて存在しない。
【私はリーダー様に付いて行くことにしますね】
「リーダー?」
「クエスト受けたショウだな。たぶん」
「あー、なるほどー」
名前で呼ばせないのはボイス付きのキャラだからだろうなー。
敬称なんかで呼んでプレイヤーの名前を極力避けてるやつ。
……なんかこんな事考えてると私の心が汚れてる気がしてくる。
人格持ったフルボイスAIとかいつか実現するのかな。
「メンツ分けか……」
正直俺とタツ以外は全員レベルはほぼ横並びだ。
俺ら二人にしてもそこまで抜きん出ている訳でもない。
ヒーラーだけ分ければ、くじ引きなんかで決めてもいいレベルだ。
4:4……いや、勇者がいるから5:4だな。
「ショウさーん、どうしますー?」
「ちょい待ち、考え中……」
「ほらー、グッとパーとかでササッと決めちゃいましょうよー」
「よし、それだな」
「はい?」
マイの意見によりグッパーに決まりました。
「いや、グッとパーてどうやるんだよ……」
「ん?えーと……」
アバターとプレイヤーが完全に連動していて指先まで操れる……なんて事はない。
少なくても今の技術ではそんな事は出来ない。
「ちょっと、出来ないのにやろうって言ったんですか!?」
ブーメランだろそれ。元々はお前の案じゃねえか。
「……俺にグーかパーのチャット送って」
「ふんふん?」
「全員集まったら発表」
「なんか原始的……」
「しゃーねえだろ!!」
こんな事で時間使ってもしょうがない。
いいかげんな決め方だがさっさと決めたい。
「うーん……」
マイは納得していない様子。まだ文句があるというのか。
「いや、私たちはズル出来ないですけど……」
「うん?」
「ショウさんはそれだと誰にも確認出来ないですよね?」
……なんでこいつは変なところで無駄に細かいんだ。
「いや、俺はやらないからな。お前らが4:3で分かれたら」
「ああ、少ない方に入るわけだな」
「四人側に入る」
「何で!?」
「なぜだ!?」
マイとサファイア二人のツッコミが冴え渡る。
いや、別にボケで言ったんじゃないんだけどな……。
ちゃんと理由はある。
「よく聞け。五人が正門で三人が裏口だ。別に綺麗に人数分ける必要無いんだよ」
「あー……」
そう、別に人数を均等に分けなくてもいい。
明らかに激戦区の正門に人数多めに振り分ける事にした。
「意外とちゃんと考えてたんですねー」
ぶっ飛ばしたろかこいつ。
ちなみに一回で決まらなかった時に、チャットログ確認するのが面倒くさい事に気づくのはこの後である。
「一つ疑問だったんだが……」
「なーに、サファイアさん?」
「なんでこの勇者は敵の仕掛けを知っていたんだ?」
……ああ、うん確かに。
それを聞かれても『ゲームの説明係だから』としか言い様がない。
「この勇者様はスパイなんじゃないですかー?
」
マイがテキトーな事言いやがった。
絶対確信犯だろこいつ。
『初見のダンジョンなはずなのにべらべら解説する仲間』
確かにおかしい。慣れてるからあんまり気づかなかったけれど。
「そもそも『一人だと思っていた』のになぜこんな人数が必要な作戦を立てていたんだ?」
シナリオライターのミスだな。
「やっぱり罠なんじゃないですか?」
この野郎。てかサファイアは信じすぎだろ。
……なんかサンタ信じてる子供とダブって見えてきた。
「それは普通にシナリオのミスだろ」
タツが普通にぶったぎった。
「タツさん夢が無いですよー」
勇者が裏切るストーリーは夢があるとでも。
「しかし……メンバー分けってこれで良かったんですか?」
「ん?何かまずかったか?」
こっちのメンバーは、俺、タツ、マイ、サファイア、サラ……それと勇者か。
「タツさんあっちじゃなくていいのかなーって。忍者なんて今回のクエストにぴったりじゃないですか」
確かに。字面だけ見たら『裏口から忍び込む』なんて忍者におあつらえ向きの仕事だと思う。
ただ一つ問題がある。
「このゲームにスニーキング的システムがあると思うか?」
「あー……うん、ごめんなさい」
『隠れてスイッチまでたどり着く』なんて出来るはずがない。
敵が多いか少ないかの違いだろう。
どちらのルートを選んでもどうせ戦闘だ。




