トロル
【ファイヤーボール】
【ファイヤーボール】
【火遁の術】
トロルに向けてタツ、ロロ、マイによる魔法の嵐。
【ファイヤーボール】
【ファイヤーボール】
【火遁の術】
「あの……タツさんショウさん?」
「ん?」
「ヒマなんですけど……」
「魔法撃ってるだろ」
「……ホントに撃ってるだけなんですけど」
「楽でいいだろ」
だろうな。たぶん今まででトップクラスに楽なボス戦だろう。
現在橋の上にいるのは俺とトロル。
そして、トロルの後ろに雑魚の群れ。
トロルはノックバック攻撃を持っておらず、死にさえしなければ人の壁で止める事が出来る。
トロルの攻撃力は確かに高い。しかし、ナイトの防御力なら耐えきれないほどではない。
しかもヒーラーが二人体制だ。
そう簡単には落ちない。
【ファイヤーボール】
【ファイヤーボール】
【火遁の術】
俺、ミイ、サラが壁となる。
タツ、ロロ、マイ、の遠距離係りが攻撃しサファイアが三人の火力を上げる。
「……これって、ハメですよね」
まあ、マイの言う通り完全にそうだな。いわゆる『地形ハメ』に近いハメだ。
真っ向から戦えばそれなりに苦労はするだろう。
しかし、ザコの群れはトロル自身が塞き止めている。
トロルは強力な範囲攻撃を持っているが、位置的に自分以外当たらない。
遠距離攻撃に乏しいメンバーなので削りきれるか不安だったが……その心配も杞憂だった。
このペースならギリギリ倒せる。
そして戦闘開始から五分程度、トロルは倒れた。
「達成感ゼロでーす」
「今のになんの文句が……」
「スカッとしないでしょ!!あれ!!」
「完封できてスカッとしたろ……」
「ええー……。タツさんおかしいですよ……」
ガチ勢とエンジョイ勢の違いなんだろうなあ、たぶん。
結果があればそれでいいタツ。
過程も大事にしたいマイ。
どっちが正しいのかなんて知らん。
そもそも答えなんてない。
因みに俺は前者だ。罠から一歩も動かさない狩りは最高だと思う。
「あ、そうだ『トロルの心臓』手に入れた人いるか?」
「なんかグロいアイテムですね……」
確かにそう思う。普通皮とか骨ではないだろうか。
「一応レアドロップだぞ。鍛冶屋で指輪の素材になるらしい」
集めると『体力の指輪』が作れるらしい。
らしい、というのはまだ鍛冶が見実装だから。
次のメンテで新しい町が解放され、その町に鍛冶屋やギルドが存在するとか。
ゲーム紙で事前情報が出た為、今はトロル狩りが大ブームなのだ。
「心臓を鍛冶屋……?頭湧いてるんじゃないですか、その鍛冶の人」
心臓を鍛冶屋に持って行ってハンマーで……。
うわっ、考えたら気持ち悪っ!!
【私出ました】
「ん、ああ、出てたか。おめ」
「おめー」
カスミがドロップしていた。
八人中一人……。うーん、そこまで出にくい訳でもないのか。
「さて、次いくぞ」
「んん?タツさん次って何いきます?」
そんなもの決まっている。
「これ」
「あー。もしかして全員出るまでとか?」
残念ながらそうではない。
「は?違う違う」
「もしかして自分が出るまでとか?タツさんの自己中ー」
「アホか!!さすがに俺でもやらんわ!!」
別ゲーでやってたけどなーあいつ。
「じゃあいつまでやるんですかー?」
「メンテまで」
「は?」
しばらく時が止まった気がした。
いや、俺は知ってたし長時間周回は慣れてるけど……。
他のメンバーはどうだろう。
「ワンモアプリーズ」
「メンテまで」
「なんのメンテですか?」
「このゲームの」
「メンテいつでしたっけ?」
「朝六時」
「後何時間ですか?」
「後十時間」
いい加減現実を受け入れてほしい。
「あーもう!!全員心臓揃ったら終わりでいいんじゃないですか!?」
「だってこのクエ現状一番稼げるし」
「いつ寝る気なんですか……?」
「メンテタイムがあるだろ」
「あー!!この廃人どもは!!」
元気だなーこの娘。
正直この元気なら起きてられる気がする。
「さすがに寝たきゃ途中で抜けていいぞ」
「そりゃ睡眠無しの強制参加ならキレてましたよ!?」
キレてるじゃん。とか言いたかったけどやめておこう。
今のところアイツに全部怒りの矛先いってるし。
言わなかったがメンテ前に鬼周回している理由はちゃんとある。
メンテで直される前に回しておきたかったのだ。
この手のハメ紛いの事に大抵のネトゲ運営は厳しい。
某巨大掲示板でも広がってしまっているが、それだけではない。
『トロルをハメ殺してみましたw』
みたいなタイトルで動画サイトに投稿までされている。
バカどもが必要以上に広めたせいで修正される可能性はかなり高くなっている。
ーーあれから四時間が過ぎた。
脱落者無し。
正直誰かしら途中で抜けると思っていた。
文句言っていたマイもなんやかんやで残っている。
あ、トロルの心臓二十一個目。
最初のうちは皆報告に一喜一憂していた。
今さらこんな物どうでもいい。
たぶん何とも言えない微妙な金額で店に叩き売られる事になるだろう。
「すまん、もう寝る……」
最初の脱落者はサファイア。
トロル周回開始してから五時間。
よく持ったと思う。
まあ、動きフラフラだったし。半分寝落ちしてたなあれ。
「うし、募集すんぞ」
「いやいや!!解散の流れじゃないんですか!?」
「いや、無理して付き合う必要無いんだぞ……」
「うーん……。なんとなーく抜けづらいと言いますか……」
「まあ、マイがいてくれると有難いが」
「うん!?」
タツは素で言ってんのかねこれ。
マイも変な声出してる。
「まあ、タツさんがそこまで言うならねえ……」
ちょろいなー。
まあ、必要なのは戦力的な意味だけではない。
かといって、ラブ的な意味でもない。
「しゃーないですねえ!!マイちゃんがもうちょい付き合ってあげますよー!!」
目覚ましがわりに丁度いいんだよなあこいつ。
声でかくて高いし。
【すみませんこれで抜けますね】
募集かけた野良の人が抜けていった。
今は朝五時半。メンテ三十分前。
これは募集無理かな。
【キリがいいので終わりにしますね】
【お疲れ様でした】
とりあえずこんなところでいいだろう。
「とにかく三人ともお疲れ様」
今残っているのは、俺、タツ、サラ、カスミ。
このメンツが残るとは意外だった。
因みにでかい口たたいてたマイは、早々に離脱してくれました。
まあ、あそこまで残っただけでも凄いんだろうけどさ。
「お疲れー」
「お疲れ様です」
【おつかれさまでした】
さすがに身内半分しかいないと成功率落ちたな。
遠距離で削りきれずに、普通のバトルになる事もしばしば。
「解散すっか、二人ともこんな時間までありがとな」
「いえ……。私の方こそ……」
【今日はありがとうございました】
二人ともいい娘だね。
カスミの方は『娘』かどうかわからんけど。
「ほんじゃあメンテ後でな」
そう言うと全員ログアウトする。
うん、本当言うと限界だった。
ただし俺やタツが立案しておいて『眠いので落ちます』とは口が裂けても言えない。
さっさとベッドへ潜る。
メンテ後はギルド作って店行って……ダメだ、考えが纏まらない。
メンテ開けの楽しみを考える間もなく眠りへと落ちていった。




