集いし者たち
【西の森でたびたび魔物が目撃されています】
【最近では一際大きな個体まで確認されたとか】
【村の者に被害が出る前に退治していただけないでしょうか】
「魔物の親玉ってどんなのですかねー?」
「でかいトロル」
マイの一言をタツがバッサリ切る。
「いや、もっとこう……。初遭遇のワクワク感とか台無しですよ……」
「聞いたのお前だろ……」
「いや、まあそうなんですけど……」
二人の会話を聞いて少し気になった。
「俺とタツ以外にこのクエの事知ってる人ー?」
「あ、はい」
……ロロだけか。
このクエは掲示板やサイトで『稼ぎ』として有名である。
知らないのなら……ネットで探すタイプではないのだろう。
……それにしてもほぼ全員かあ。
まあ、なんとなくそんな気はしてたけど。
下調べをあまり強要したくない。マイの言う通り事前に調べて『ワクワク感』が無くなるのを嫌がる人もいる。
この辺は好みだしなあ。
……っと。目の前に魔物の群れが現れる。
このメンバー初の戦闘だ。
前衛はナイトの俺、陣剣士のサファイア、アサシンのカスミ。
中衛は忍者のタツ、魔法剣士のロロ。
後衛は、プリーストのミイ、マージのマイ、ビショップのサラ。
ーーまあザコ戦なんて楽勝だけど。
ゴブリンやウルフといったお馴染みの敵。
特に問題ない。というか、こんな程度で問題が出ては困る。
さくっと全部倒して西に急ぐ。
「なんか、やけに急いでません?」
このクエについて説明してなかったか。
「急がないとトロルが橋渡ってこっち側にきちまうんだよ」
「橋?」
マイの疑問にタツが答える。
このクエ、最初の説明にもあったようにスタート地点から橋を越え西の森に今回のボス、トロルがいる。
そのトロルはゆっくりだがこちらに向かっているのだ。
トロルとはなるべく橋を渡る前に戦いたいので急いでいる、という訳。
「???橋渡るとマズイんですか?」
「ん?あー……向こう着いたら教えてやるよ」
再度魔物の群れと遭遇し、タツとマイは早々に会話を切り上げた。
豚に酷似した顔。
二足歩行で人より一回り大きい体躯。
槍や棍棒などの武具を身に付けている獣人。
『オーク』が五体現れた。
このゲームでは初めてだったかもしれない。
これもまた、西洋ファンタジー風のゲームではお馴染みの敵だ。
【挑発】
【攻撃の陣】
補助をかけ戦闘を開始する。
「マイ、範囲魔法だけにしとけ!!ロロはーークエ知ってるなら大丈夫か……」
「はーい」
オークは別段強い相手ではない。
事実こちらは大した被害もなく確実に敵にダメージを与えている。だがーー。
「なんかタフですねーこいつら」
そう、マイの言う通り無駄に体力が高い。
【フレイムバースト】
纏めて焼き付くすが、全てを倒す事は出来ない。それどころかーー。
「ちょっと、奥から増えましたよ!?」
三体倒して四体現れた。プラス一体。
まあ、厳密には二体は体力あまり残ってないだろうけど。
「マズイーーか?」
ボソッとタツが呟く。
「マズイんですかー?」
マズイ、かもしれない。
俺たちはこのクエを知っている。
知ってはいるが、そこまで深い知識は持ち合わせていない。
ザコの強さや配置までは知らなかったし、トロルがどれくらいのスピードで移動しているかも分からない。
このままいけばオークは確実に倒せる。
しかし、トロルに間に合わないかもしれない。
かといって、スキルを乱発すればトロル戦で困る。
「ミイ、スキル使って前線上がってくれ!!」
「スキル使っていいんですか?」
マイの温存を聞いて不思議に思ったのだろうか。
「ああ、遠距離以外使いきってもいいぞ」
そう、トロルで必要なのは遠距離のみ。
後はせいぜい火力上げるバフ関係くらいか。
【戦神の憑依】
【集中】
【魔法剣】
『急所狙い』はアサシンのクリティカル率が上がるスキル。
『魔法剣』は魔法剣士の魔力の一部を力に加える一風変わったスキルだ。
……そういえばこんなスキルもあったなー。
ぶっちゃけ魔法剣士よく知らないや。
だってマイナー寄りの職業なんだもん。
「ん?ロロもスキル取っておいたのか?」
「間に合わなかった時の為に一応っすね」
あー確かに。間に合わなかったら普通のガチ戦闘になるか。
【十字切り】
カスミの二刀がオークにとどめを刺す。
「おお、カスミちゃん強ーい!!」
たぶん、このPTだとDPSトップはカスミだろう。
集中、攻撃の陣を乗せた状態での攻撃スキル。
PT最強の魔法はマイだが、物理最強は文句なしにカスミだ。
『アサシン』が攻撃力高いイメージはあまりないと思う。
それはあまり間違いではない。
ぶっちゃけ他のメンツの火力低いんだよなあ。
確かにアサシン自体は全職業の中でも上位クラスの火力である。
アサシンより火力が高い、剣士や戦士といった人気職業がなぜか集まらない。
なんだろう、類は友を呼ぶか?不思議とマイナー寄のPTになってしまった。
あの後本気を出したカスミによりオークを早く始末する事ができ、橋の前に着く事ができたーーかなり早い時間に。
「あれだけ急いでたのはいったい……」
「……間に合わないよりいいだろ」
マイの言う通り焦って損したな。
「渡らないんですか?」
「ん?なんで?」
「渡ったらマズイって言ってたから、橋の向こう側で戦うのかと」
「言ってなかったな、橋の上で迎え撃つんだよ」
「橋の上?」
「んー、まあトロルが来れば分かると思うぞ」
「はあ……」
ミイはあまり納得いってなさそうの気がする。
でも確かに見てもらった方が早いだろう。
そして、待つこと三分程度。
きょだいなトロルがあらわれた。
「来たぞ、ショウ!!」
「ああ!!」
俺は橋を少しだけ進み迎え撃つ準備をする。
「私たちは?」
「橋渡らず待機。トロルが来たら一斉に遠距離攻撃」
「私出来ないんだが……」
「お前は陣だけ貼ってくれればそれでいい。ヒーラーもショウの回復だけでいいからな」
「ん、攻撃しなくていいんだな、了解」
【私見てるだけですか?】
「ああ、悪いけどそうだな。最悪魔法で倒せなかったら頼む」
そして、トロルとの激戦が始まる。