おべんきょう
「このメンツ火力が足りねーよ」
タツが放った一言。
まあ、確かにそう思う。
サラとサファイアが加入して六人になった今、幾つかのクエストに行った素直な感想だと思う。正直、俺も思ってた。
「なあ」
サファイアは、何か意見でもあるのだろうか。
アタッカーのフレがいるとか……。
「……火力ってなんの事だ?」
ああ、それ以前だったわ。
「それは攻撃りょーーいや、ちょい待て。この中で他に分からない人ー?」
「はい」
「……はい」
三人かー。ミイ、サラ、サファイア……。
このゲーム、事前情報と夏休み期間で、今までゲームに関わらなかったプレイヤーが多く始めたらしい。
『戦いが苦手な人も綺麗なグラフィックの世界で他のプレイヤーと交流して楽しもう!!』
みたいな謳い文句でPRしていたな、確か。
「攻撃力とか、攻撃役とかそんな感じの意味でーー」
「それ、攻撃力じゃダメなのか?」
「……いや、俺に言われても」
「なんで『火力』なんだ?」
「それもわかんねーし……。昔からゲーム全般で使われてたから……。」
「んー……」
タツ先生困ってる。サファイアは納得いってなさそうだな。
知らん人間からすると違和感あるんかね。
まあ、よくよく考えると。
『火力役の水魔法使いです』とか
『ウォーターソードじゃ火力不足だ!!』
とかおかしいなこれ。
知らん人からすれば『は?』としか思わんな。
「で、私たちはどうすればいい?」
「ん?」
「私たちのレベルや装備が弱いのだろう?」
「ああ、悪い。そういう意味じゃねーんだ。PTのジョブのバランスが悪いんだよ」
これはタツの言うとおりだと思う。
この六人、良く言えば安定感がある。悪く言えば火力不足。
六人の中で純粋な火力枠はマイの『マージ』だけ。この手のゲームは人口割合では火力枠が多めになるはずなのに、なぜかマイナー寄りの職業が集まった。
「幼女ペロペロさんって、入ってもらえたりしないんですかー?」
「ああ、あの人ダメだ。もう組んでる人いるしな。この前のレイドみたいに人数足らん時くらいだろ」
「へー」
「いや、そもそもだ……」
「バフ係を増やそうとすんな!!アタッカー増やせよ!!」
「たつさんがおこったーこわいー」
「棒読みじゃねえか!!」
なんやかんやで仲いいなこいつら。
「あー……。話し分かんなくなっちまったじゃねえか。とにかく勧誘するならアタッカーな!!」
「はーい」
「……アタッカーて具体的には?」
「ん?」
「タツさんの忍者ってアタッカー?ですか?」
「いや、俺は本来デバフや状態異常撒くタイプだし……」
「デバフ?」
「……撒く?」
なんか嫌な予感するわ。
「……」
「タツせんせー私に教えてくださーい」
「お前は知ってるだろ!!」
予想通りだ。アイツ素でゲーム用語使ってるのに気づいてないんじゃね。
タツ先生のバフデバフ授業が始まった。
ミイ、サラ、サファイアのかしこさがふえた。
タツせんせいのつかれがふえた。
「そもそもどうして人数必要なんだ?」
サファイアの質問。そういや、俺たち二人以外には話してなかったな。
「……話してなかったか?ギルド実装までに人数揃えたいんだよ」
「ああ……。でも焦って今集めなくてもよくないですか?」
「ん?」
「いや、だって人集めは実装後でもいいですよね?」
「……トップ組から出遅れるだろ」
「そもそもどこ目指してるんですか……?」
「上の下」
「微妙!!意識高いんだか低いんだかわかんないですよ!? 」
「上位陣にはなりたいけど廃人級にはなりたくないんだよ!!」
「……ショウさんはそれでいいんですか?」
「上の中」
「変わんないです!!トップ目指そうとか言わないんですか!?」
無茶言うな。ネトゲのトップなんて無理に決まってるだろう。
「……お前は不眠不休ボスマラソンとかしたいのか?」
「ええ……。それは嫌ですけど……」
実際、MMORPGで必要なのは時間と根気だ。
『俺ツエー』を夢見て入ってきても現実は厳しい。
自分だけのオリジナルスキルや装備なんて存在しない。
貴重なアイテムの入手方。
強敵の対処の仕方。
強キャラへの育成方法。
そんなもの全て『攻略weke』に書いてある。
トップ争いは時間と金が有り余っていてようやくスタートラインなのだ。
「てか、メンテって明後日じゃないですか!!」
「だから困ってるんだろ……」
「何かいつもみたいに案がないんですか?」「ねーよ」
「えー……。いや、思ったんですけど、さっきから私とタツさんしか話してないですよね!?」
さっきから、と言うかそもそもこのメンツの半分以上はあの二人の会話だ。
「僕コミュ障なんで」
「ぜえったい嘘でしょ!!」
本当の事を告白したら嘘呼ばわりされた。
「ほら、サラちゃんやミイちゃんも楽しいトークにーー」
急にマイの声が途切れた。
楽しげな町のBGM。町行くNPCたちのSE。
ちゃんと聞いたの久々な気がする。
「どうした?落ちてーーはないよな。キャラはいるし」
「うるさかったんでマイク抜きました」
……なんというか、ミイって結構怖いな。
「ミイ、良くやった!!」
タツからの賛辞。すかさず俺も続く。
【おめでとう】
【尊敬します】
【やったー】
【すごい】
【グッジョブ!!】
それっぽい定型文をガンガン送る。
【酷くないですか!?】
マイからのチャット。どうやらマイクは取り返せなかったらしい。
【今一人ですか?】
【後にしてください】
【またどこかで!!】
【バイバイ】
【日本語わかりますか?】
【さようなら】
【いらない】
【バイバイ】
すげえ、サラ以外の四人による定型文の連続煽り攻撃。
風でなんちゃらの一体感のAAを貼りたい。
手元になかったのがすっげー悔やまれる。
言葉自体もうろ覚えだから検索で探す事すら出来ない。
「ちょっと!!私そろそろ泣きますよ!?」
マイが帰って来た。落ち着く時間も終わりかあ……。
「……ブロック機能ってどうやるんですか?」
「ミイちゃん酷くない……?」
「誰もマイちゃんにやるなんて言ってない」
「ならなんでこのタイミング!?」
【フレンド一覧→マイ→ステータス確認→ブロック】
「あ、出来ました」
「結局私だよね!?」
喉痛くなんないのかなこいつ。
「だって半端にエコーかかってるみたいでウルサイんだもん。ブロックしても、どうせ現実で声聞こえるし……」
「え……。いや、ゴメンね……。」
割とちゃんとした理由あったのか。
「妹いじめんなー」
「私いじめてた人に言われたくないんですけど!?」
すげえ、脱線しすぎて元の話しが思い出せない。
なんだっけ……。ああ、メンバー探しか。
「……マイのツッコミ飽きたし何かしようぜ」
「……好きでツッコんでるんじゃないんですけど」
さすがに両者お疲れの様子だ。
からかう側もされる側もすでにグロッキーである。
「どうしますー?手当たり次第声かけます?」
「俺コミュ障なんでパス」
「あ、俺も」
「まーだ引っ張るんですかそれ……」
だって嫌だもん。
「……賛成の人ー?」
一応聞いてみる。無音。静寂。誰もやりたがらない。
そりゃそうだ。出来たらとっくにやってる。
「はい、却下」
「うー……」
発案者は納得いってないご様子。
正直一人でやってきてほしい。
「そういえば四人はどうやって出会ったんだ?」
サファイアからの疑問。教えてなかったっけか。
「公式掲示板でマイの書き込み見た」
「……それでいいんじゃないか?」
あー……。ちゃんと機能してるんかねアレ。
ウチらも最初ふざけ半分で乗ったしな……。
「……そうだな、マイ頼む!!」
ただ面倒臭くなってきたからそれでいいやもう。
「また私なんですかー?別の人でもいいんじゃ……」
「こういうの女っぽい書き方のがいいんだよ」
「……ネカマっぽいとかバカにしてませんでした?」
やっべ、覚えてやがった。
「文章はある程度俺らが考えるから。はい、決定」
有無を言わさぬタクのごり押し。
「子供みたいな事を……。まあ、いいですけど」
よし、納得してくれた。
「その前に、ちょっと飲み物取ってきますね。ミイちゃんココアでいい?」
「うん」
あれだけしゃべってたら喉渇くわな。
「それじゃあ、ちょっとお待ちをー」
マイは部屋から離れて飲み物を取りにいったようだ。
真面目に募集文でも考えようか。そう思った時。
「ミイ、マイは近くにいないか?」
「え?あ、はい、タツさん」
なんだろう、聞かれたらマズイ事なんだろうか。
「あいつのマイク音量今のうちに下げとけ!!」
ああ、天才だわこいつ。
たぶんすぐには気づかないもん。
「ど、どうやって?」
「ゲームのフルスクリーン解除!!それから右下にあるスピーカーマークをーー」
マイのおんりょうがさがった。
みんなのちょうしがあがった。
バフーーなんかこうパワーアップするやつ
デバフーーなんかこうパワーダウンするやつ
作者も曖昧です。




