慈愛の女神
ーー暑い。暑さと寝苦しさで目が覚める。
あれから私は完全に寝てしまったのだろうか。
とりあえず時間が知りたい。まだ完全に意識は覚醒していないが、体を起こそうとーー体が重い。動かせない。
段々意識がちゃんとしてきた。自分の周りを手で探り……。
「んっ」
後ろから自分に抱きついている姉を見つけた。
「んげっ!!」
暑さと重さの原因を無理矢理引き剥がした。
何か声がしたけど自業自得だと思う。
「痛っ。なーに?」
なに?はこっちのセリフだと思う。無視して時計を見るとあれから二時間程経っている。
……マズイ。こんなに本気で寝るつもりはなかったのに。
とにかくゲーム画面へと目をやると幾つかメールが来ている。
タツさんとーーサラさん?
【ごめんなさい、つけっぱなしで寝てしまいました】
とにかくまずはタツさんにチャットを送る。
意外と早く返事が帰ってきた。
【寝落ちなんざよくあるから気にすんな】
【寝落ちってなんですか?】
【ゲームつけっぱで寝るとかそんな意味】
へえ……ネット用語とかそんな感じなのだろうか。
……違う、これより今はもっと大切な事がある。
今聞きたいのは、サラさんから来たもう一つのメールの事だ。
【クエストお疲れ様です。先程御一緒したサラです。もしよろしければ『慈愛の神の加護』のクエストに行きませんか?】
「成る程な。お前ら二人で行ってくればいいんじゃね?」
「アッサリですねー。てか、なんで私たちなんですかね?」
起きた姉も会話に加わる。確かにそうだ、あの場には私より強い人はゴロゴロいた。
それこそ、タツさんやショウさんに声をかけるべきだと思う。
「『私たち』じゃなくて『ミイ』だろ?」
「え?まあ、確かにミイちゃんだけでしたけど……」
「あのクエ、ヒーラーにしか旨味無いからな。だから一緒に行ってくれそうなミイに声かけたんだろ」
タツさんの説明だと『慈愛の神の加護』のクエストはクリア報酬で、ヒーラーのみ回復効果が上がるスキルが貰えるらしい。
ヒーラー……たぶん私やサラさんのようにヒールを使う職業の事だろうか……。
とにかくそのヒーラー以外には人気が無いクエストなので、あまり人が集まらないとか。
「あれ確か四人までのクエだったな。俺らも今野良ってるから丁度いいんじゃないか?」
「それじゃあ、返事還してみますね」
「おう、ムズかったら俺らにヘルプ呼べよ」
「はい。ありがとうございます」
通話を切ると早速返事を送る。
【返事遅れてごめんなさい。今からでもいいですか?】
よく考えればメールを貰ってから三十分以上経っている。とっくにメンバーが集まっているのではないだろうか。
そんな不安があったが……。
【はい、お願いします。今からそちらに行きますね。】
どうやら心配し過ぎだったみたい。
この後すぐにサラさんとーーサファイアさんが飛んで来た。
「マイですー。よろしくお願いしますー!!」
「ミイです。よろしくお願いします」
「サファイア。よろしく」
「サ、サラです。よ、よろしくお願いします」
私たち四人は出会ってすぐにフレンド登録をし、ボイスチャットを始めた。
「いやー、全員女の子なんて珍しいですねー」
「そうだな、ネットゲームは男性陣が多いと聞くしな」
「ですよねー。そういえばさっきの幼女ペロペロさんも女性でしたよー」
「は!?あの名前で!?」
「驚きですよねー」
姉とサファイアさんが話している。
こういう時だけは姉に感謝したい。私だけでは場が持たなかったと思う。
「ほらほら、ミイちゃんもサラさんも喋りましょうよぉ」
「あ、えっと……ごめんなさい……」
「えっと……いや、謝らなくても……」
「……サラさんを苛めないで」
「ミイちゃん!?」
喋れと言うから喋った。
「あ、サラは人見知りだから……」
サファイアさんのフォロー。うん、なんだか仲良くなれそう。私と同じタイプだ。
「サラさんとサファイアさんはリアルのお友達なんですか?」
「いや、このゲームで会っただけ……」
意外。正直私も姉と同じ考えだった。
「へー。正直おかーさんみたいだなーって」
「おか……いや、全然そんな歳じゃ……」
「んー、声は若そうだけど……。落ち着いてるし年上のおねーさんかなって」
「……たぶんそんなに歳変わらない」
……なんか失礼じゃないだろうか。まあいいや、姉だし。
「ああ、そういえば」
「ん?なんですかぁ?」
「喋り方これでいいか?」
「ん?好きにすればいいんじゃ?」
「ああ……いや。その、敬語とか……」
「ああ、別にそのままでいいですよぉ。ね、ミイちゃん?」
「はい、好きに話してください」
会話に入れないと思って、さりげなくこちらにふってくれたのだろうか。
昔は気づけなかったけど、常に私を気にしてくれている。
「ありがとう。それならこれで話させて貰う」
なんだろう、社会人さんなんだろうか。
出来るOLとかそんな感じの。
「ま、くっちゃべってないで行きますかー」
「ん、ああそうだな」
いつまでも話していそうな雰囲気を、姉が切り上げてクエストに向かう。
【おお、冒険者様お助けください】
【北の湖に慈愛の女神様の像があるのですが】
【近頃は魔物が増えたどり着けません】
【どうか付近の魔物を退治しては貰えないでしょうか】
クエスト
慈愛の女神の加護開始ーー




