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異世界列車

作者: 森 英雄(もり ひでお)

自分なりの異世界もの、考え抜いて書いてみました。

反響次第で続きます。

 線路は進むよ何処までも。有名な歌だが、その言葉に間違いはない。何せ()()()何処までも伸びている路線と、何処までも進むことが出来る列車が存在するのだから。

 野を越え、山越え、谷越えて。海の向こうの遥かな街まで。

いや、()()()()()()何処までも、と言った方が正しいか。

 その列車の乗り場はこの世には存在しないが、確かにそこにある。もしかしたら、これを見ているあなたのすぐそこにあるのかもしれない。

 さて、ご利用ありがとうございま~す。これはそんな不思議な列車の物語でございます。お乗りになる方は速やかにご乗車下さい。

 間もなく発車致します。それでは、当列車によります、この世ならざる世界への旅をお楽しみください。


□□□□


 暗闇のヴェールが街を包み込み、街灯の明かりだけが道を照らすほどに暮れた夜、会社を出た僕は俯きながら改札を抜け、最寄りの駅のホーム目指して歩いていた。

 「今日も散々な一日だったなぁ。」

 この愚痴もこれで何百回目だろうか。もう口癖のようになっていた。

 大学を卒業し、社会人になってもう数年経つ。僕が務めているのは市内の小さな会社で、そこの事務員を担当している。

 中学を出て高校、大学と順調に進んで就職したものの、正直なところ僕はこの仕事にやり甲斐なんて微塵も感じていなかった。それどころか社会人になって以降、僕はこの社会の理不尽さを呪ってばかりの毎日だ。就職先は運悪く、とてもいい会社とは言えない所だった。

 長い勤務時間と社員数に見合わない重労働。それに見合わぬ少ない給料に、威張って怒鳴り散らすだけのうるさい上司と後輩いびりが趣味の先輩社員。ただでさえ少ない給料は国に税金として毟り取られ、手元に残った僅かな生活費をやりくりして過ごすので、とても趣味に時間を費やす暇もない。

 通勤の際に乗る電車では、女子高生に痴漢の濡れ衣を着せられ、会社に遅刻して上司に怒鳴られる事も何度かあったから、電車に乗る度にビクビクと怯えなくちゃいけない。そして電話対応係の仕事なので当然と言えるかもしれないが、電話に出ればお客様からの豪雨のようなクレームの対応に追われるハメになる。

 そんな事ばかりだから、この世の中が嫌になるのも無理はないはずだ。今この瞬間も、どうせ明日も明後日も同じ事の繰り返しなんだろうな、と考えては足取りが重くなる。

「もういっそ、ここじゃない別の世界で生きていけたらなぁ。」

 誰にともなく呟き、溜め息を吐いて顔を上げた時…目に映った光景に違和感を覚えた。

 「あれ、何だかいつもの駅と違うような…」

 ホームを照らす明かりが、LEDの白ではなくオレンジ色だったのだ。

 光源を見ると、ランプのようなものの中で小さな火がゆらゆらと揺れていた。ガス灯だ。何故かホームをガス灯が照らしている。今目に映る光景はまるで、子どもの頃にテレビで見た昔の駅の風景のように見えた。いや、そのものだと断言していいだろう。

 「これは夢なのか?」

 あんまり遅くまで仕事していたせいか、帰り道のどこかで眠ってしまったんじゃないかと自分の目を疑った。頬をつねってみる。普通に痛い。しかも目の前の光景はそのままだ。どうやら夢ではないらしい。僕は古く寂れたホームのど真ん中に立っている。

 一体何がどうなっているのか。そう考えていると線路の向こうから小さな光がこちらへとやって来るではないか。光はやがて地を揺さぶるような轟音と共にどんどん大きくなっていった。やがて音の主のシルエットが暗闇に浮かび上がり、その光が何だったのかを理解する。

 列車だ。列車がこっちに近付いている。しかも有り得ないことだけど、その列車は蒸気機関車だ。やがて機関車はスピードを落とすと、ホーム全体に甲高いブレーキ音を響かせながら僕の前で停車した。

 子どもの頃、無性に憧れていた黒塗りの力強く大きな車体。小さな二対の車輪、先輪と従輪がそれぞれ二つずつ前後に並び、その間に大きな動輪が三つ、連結棒に繋がれて並んでいる。

 煙突やからは真っ白な煙が、ボイラーの安全弁からは熱い蒸気が濛々と湧き出ている。その後ろには炭水車、そして『汽車』と呼ばれる客車が連結されている。ガス灯に照らされる汽車の車体もレンガ色で古めかしさを感じる。ここまでそこにあるという確かな実感があるんだ。やっぱりこれは夢じゃない、現実なんだ。

 機関車は僕の前で完全に停車し、それから間もなく客車の扉が開かれる。

 そして、開いた扉から車掌服に身を包んだ一人の男が現れた。

 「ご利用、有難うございます。お呼びに預かりやって参りました、今駅始発列車でございます。」

 「え、始発列車?終電ではなく?」

 「ええ、本日この地域からご乗車頂いたお子様以外のお客様はあなたが初めてですので。」

 車掌さんの言っていることの意味が理解出来ずに困惑していると、車掌さんは目深にかぶった帽子で隠れた顔の、唯一視認できる口元に笑みを浮かべて言った。

 「お客様は、『ここではない、別の世界』へ行く事を望みましたね?この列車はそんなあなたの願いに応えてやって来たのです。」

 「僕の願いに?」

 「ささ、どうぞお乗りください。夜間の停車時間は限られていますので、詳しい話は車内で行います。」

 車掌さんが客車の中と、ポケットから取り出した懐中時計を確認しながら言うもんだから、僕は何も分からないままだが、慌てて客車に乗り込んだ。今この機会を逃してはならない。そんな気がしたのだ。私が客車に乗り込むと、背後から車掌さんがホイッスルを鳴らして扉を閉める音が聞こえた。

 窓際の椅子に座るとがくん、と車体全体が揺れ、やがて機関車は汽笛を鳴らして発車した。

 「では改めて、当列車についての説明を始めたいのですが、お向いよろしいでしょうか?」

 「ど、どうぞ」

 私が応えると、車掌さんは帽子を目元がしっかり見えるまで上げて、向いの席に座る。

 改めて顔を見ると、僕と同い歳くらいだ。車掌には勿体ないくらいの整った顔立ちに黒い髪。車掌服と帽子は緑で、袖と襟に黄色いラインが入っていて、胸には『車掌』と書かれたワッペンを付けていた。

 「それで、この列車は何なんですか?」

 「こちらの世界と、こことは別の世界の間を行き来する列車です。名前は…そうですね。異世界列車とでも呼んでいただければ。」

 異世界列車。車掌さんはそう言った。

 にわかには信じられない言葉だったが、窓の外を見て私はすぐにそれが嘘ではないことを知る。

 窓の外にはビルの影と街明かりではなく、満天の星空が広がっていたからだ。

 都会の中ではこんなに綺麗な星空を見ることは出来ないはず。そう思い窓を覗き込むと眼下に街の灯りが見える。

 この列車は今、空を飛んでいるのだ。

 「納得してもらえたでしょう?」

 「ええ…。しかし、こんな列車は聞いたこともありません。」

 「そりゃあそうですよ。この列車はあなた方の世界のものではありませんから。」

 そう言うと車掌さんは、順を追ってこの列車について、事細かに解説し始めた。

 「寝ている間に夢って見ますよね?この列車は元々、眠りについた人々の魂を夢の世界へと送り届ける為のものだったんです。」

 「夢って、この世界とは別の世界へ行った魂が見ている光景の事だったんですか!?」

 「その通りです。夢の世界へ行っても肉体と魂の繋がりは途切れませんので、肉体が目を覚ますと魂は自動的に肉体へと引っ張られ、戻って行くので迎えの便はあまり使われませんが。」

 僕の心は自然と高揚し始めていた。有り体に言って、ワクワクしているのだ。科学という既存常識に囚われない不思議な存在が、今こうして自分の前に存在している。これまでずっと退屈な日々を送ってきた僕には充分すぎる刺激だった。

 しかし疑問もある。その話の通りなら僕は眠ってるはずだ。なのにどうして僕は、目を覚ましていながらこの列車に乗っているのだろうか。

 そして、他の乗客が見当たらないのは何故か。

 それを車掌さんに問うと、車掌さんは神妙な顔付きで問を返した。

 「近年、日本で年間自殺者の数が増加していることは聞いた事ありますか?」

 「はい。他の先進諸国の平均を十倍もオーバーしているとか」

 「おかげであの世にやって来る魂の数が無駄に増え、その多くが与えられた寿命を全うしていない事に、神様達もあの世の従業員達も悩まされていましてね」

 「あの世って……」

 天国とか地獄とかそういう場所なのは知っているけど、あの世の従業員って何の事だろう。もしかして、あの世でも天使や悪魔が、僕らのように雇われて働いているということだろうか?

 「そこで神様達が議論した結果、こういう結論に至ったんです。『自殺する人間は別の世界への逃避を望んで命を絶っている。であれば死ぬ前に別の世界へと転移させ、そこで天命を全うさせれば寿命を無駄にせずに済むのではないか』とね。」

 「なるほど。だから僕はこの列車に乗る事が出来たんですね。こことは違う世界を望んだから。」

 「その通り。今では年間数百人から約四千人ほどの人々が、別の世界で新たな人生を送っています。」

 思いがけず願いが叶ってしまった。それもこんなワクワクする形で。そんな僕の内心を見透かすように、車掌さんは口元に柔らかな笑みを浮かべていた。

 もう一つの疑問については、前の駅で乗っていた乗客の殆どが降りたからだとか。夢の世界への快速便、というだけあってこの時間の客は殆どが子どもらしい。

 「それでお客様、どの駅を目指しておられるのですか?」

 「え、どの駅……ですか?」

 「はい。こちらに各異世界のパンフレットがございます。お客様が望む世界のものをお選びください。」

 車掌さんは何処からか何冊かのパンフレットを取り出し、僕に手渡した。

 パンフレットの表紙に目を通す。剣と魔法で世界を渡る冒険RPG風のファンタジーな世界。戦国時代や江戸時代のような和風感漂う世界。ゾンビが徘徊する洋風ホラー映画を思わせる世界や、科学技術の発展した近未来の世界。可愛らしい動物が暮らす国がある世界もあったし、全てがお菓子でできた世界もある。

 どのパンフレットの表紙もとても興味をそそる写真で飾られており、手に取って読んでみればどの世界も現実離れこそしているものの、本物だということがひしひしと伝わって来た。

 やがて、僕は一冊のパンフレットを選んで車掌さんに見せた。

 「この世界にします。」

 車掌さんはパンフレットを受け取ると、それを確認する。

 「なるほど。現代社会そのものに疲れてしまった方々に人気の世界ですね。」

 その世界の特徴はコンクリートでできた建物の代わりに自然に囲まれ、新鮮な空気の中で生活出来る小さな村々を生活圏としていることだ。住んでいる人々は皆、狩りや農耕など自給自足で生活していて、残業や悪質なクレーマーに悩まされる事がなく、時間や借金に追われる必要も無いそうだ。娯楽は少ないが紙を作る技術は確立しており、漫画や小説を書いている作家や、生活に役立つ情報を新聞にしている記者も存在しているらしい。

 まさに『都会を離れて田舎で暮らす』を、費用や家族の反対といったしがらみから抜け出した上で叶えることが出来る夢の世界だった。

 「他の世界も魅力的だったんですけど、この世界が一番ゆったりした生活を送れそうで僕にはピッタリだと思うんです。」

 「なるほど。ではこの世界までお送り致しましょう。」

 そう言うと、車掌さんは他のパンフレットを全て仕舞い、立ち上がった。

 これで僕は、これまでの息苦しい世界から抜け出すことができるんだ!

 「では行き先が決まった所で切符を拝見致します。」

 そう安堵していた僕の前で、車掌さんは切符バサミを取り出した。

 「へ?定期じゃダメなんですか?」

 「ええ、当列車に定期券は存在しませんから。夢で日帰りというのであれば切符は要りませんが、お客様は片道なのでしょう?」

 参った。僕は今、切符なんて持っていた覚えはない。そもそもこの駅に迷い込んだ時点で切符を買うタイミングなんてなかったはずだ。

 僕が慌てていると、車掌さんは宥めるように言った。

 「そんなに慌てなくても大丈夫です。当列車の切符には形がありませんから。」

 「形がない?形がないのに切符ってどういうことなんです?」

 「当列車の切符は貨幣で手に入るものではありません。どんな手を尽くそうと誰も手に入れることは出来ない、しかし確かに存在するものです。」

 まるで謎かけのような車掌さんの言葉に首を傾げる。車掌さんはクスリ、と笑うと再び帽子のつばを下ろして答えた。

 「お客様の『何か』です。」

 「僕の……何か?」

 「個人によってそれは異なります。例えば金運。例えば色香。例えば感覚。そしてある時は記憶、という事も。」

 その時の車掌さんの表情を見た僕は背筋が凍りつくような感覚を覚えた。目元が隠れ、口元が三日月のように吊り上がったその顔はまるで、人ではないもののように思えたのだ。

 今すぐにでも逃げ出したいくらいだったけど、両足が震えて動かなかった。 まるで蛇に睨まれた蛙だ。ただ怯えて縮こまるしかなかった。

 「申し訳ございませんお客様。前の世界で持っていた何かを代償にしなければ次の世界に行く事は出来ない。これは転移・転生時の規則なんです。」

 そ、そんな……。差し出せるものなんてありません。それなら降ろしてください!そんな声さえ出せなかった。悲鳴も上がらないなんて、自分が情けなくなる。

 やがて、車掌さんの白い手袋に包まれた手が、僕の頭に向かってゆっくりと伸びる。その手が頭に触れた瞬間、僕の中から何かが失われてしまう。直感的にそう感じていた。

 どうして?僕はただ、平穏に暮らせる環境を望んだだけなのに。それなのに、ここでも記憶や感覚なんかの中から何かを寄越せ、なんて理不尽に晒されている。たった一言、「嫌だ」とさえ言えないなんて僕は何て臆病なんだろう。

 そういえば、僕はどうしてこんなにも臆病になってしまったんだったか。刻一刻と車掌さんの手が迫る中、僕の目の前には学生時代の記憶が走馬灯のように駆け抜けた。

 今よりずっと笑えていたあの頃。僕は小学生の頃から機関車に熱中して、よく図書室で鉄道関連の本を読み漁ったり、模型を組み立てて自室に飾ったりするのが好きだった。

 でも、中学生になったある日、僕はいじめを受けることになった。大好きな趣味をクラスメイトに否定され、馬鹿にされた。

 それだけじゃない。高校受験が近づくにつれて、母親が模型だらけの部屋を片付けるように言ってきたが、その際に僕の宝物にも等しい鉄道ジオラマを捨てるように言って来た。幸い勝手に捨てられるような真似はされなかったが、僕の心はとても傷付くことになった。

 やがて、僕は自分の本心から目を背けるようになっていった。それを押し通したところで、それを理解出来ない周りに嘲笑されるくらいなら、そうした方が楽だと思ったからだ。

 ああ、そうだ。ようやく自覚した。この世界が、社会が理不尽だらけだったのが悪いんじゃない。僕の弱さは、嫌な事があっても自分で何とかしようとしなくなったことだったんだ!

 それに気付いた瞬間、身体の震えが止まった。動ける様になった僕は鞄を握ると思いっきり振り回した。

 鞄が当たり、車掌さんの手が弾かれる。

 「痛っ!」

 車掌さんが腕の痛みに気を取られている隙に座席を立ち、車掌さんと距離を取る。

 「やっと分かったんだ。僕は不満を抱きながら何も言わず、行動も起こさなかった。つまり自分にとって嫌なものを肯定してきたのと同じだ。それじゃダメなんだ。自分は本当は何がしたくて何が嫌なのか。僕自身の口でハッキリと言わなくちゃ何も変わらないんだ!」

 次に車掌さんが近寄ってきたら、今度は顔に鞄をぶつけて逃げる。その後は後ろの車両にでも逃げて降りる事ができる場所までの時間を稼げれば何とかなるかもしれない。

 「無銭乗車になるかもしれないけど、僕の記憶や感覚を渡すぐらいなら元の世界に戻った方がマシです!降ろしてください!」

 すると車掌さんは切符バサミを仕舞い、帽子のつばを上げた。

 「ようやく気が付いたようですね。ちょっと悪い顔した甲斐がありました」

 「……へ?」

 「あなたは意思を強く持ち、自分の本心を主張する力が欠けていた。それがなければどんな世界に行っても満足のいく暮らしは得られなかったでしょう。」

 車掌さんの表情は元の優しげな笑顔に戻っていた。さっきまでの怖い顔が嘘のようだ。

 「つまり車掌さんは、わざと悪者を演じる事で僕に大切な事を思い出させようとしてくれていた、ということですか?」

 「お客様が転移先でも満足した生活を送れるようにする。それが私の仕事ですからね。」

 そう言うとウインクしてみせる車掌さん。日本じゃ滅多に見ない、上手なウインクだった。

 「それでお客様。どうします?」

 このまま異世界へと旅立つか、それとも元の世界に戻って今まで通り生活するか。車掌さんは僕に改めて選択を迫る。

 僕は少しだけ考えて、そして声に出して伝える。それを聞くと車掌さんは、首を縦に降って頷いた。

 「かしこまりました。それでは駅までの短い間ですが、一生心に残る旅をお楽しみください。」

 それからしばらく、僕は車窓の外を流れる景色を眺め続けていた。

 星空はやがて青く広々とした草原になり、さざ波揺れる海辺になり、狐の走り回る一面の銀世界へと変わっていった。

 列車が進んでいく中で、やがて僕は重くなってきた瞼をゆっくりと閉じる。それから間もなく、レールを転がる車輪の音が僕を安眠の暗闇へと誘って行った。


 気が付けば僕は、最寄り駅のベンチで眠っていた。空を見るともう夜明けだ。時計を見ると、時刻は始発電車が出る少し前を指していた。

 いつから眠ってしまっていたのか思い出そうと、昨夜の記憶を手繰り寄せて…そこで、あの異世界列車の事を思い出した。

 やはりあれは夢だったのだろうか?しかし、あの時感じた機関車の振動も熱気も、車掌さんから渡されたパンフレットの感触も確かに本物で…でも、僕は今こうして眠っていた。

 夢か現か判断が付かず悶々としていると、懐に何かが入っている事に気が付いた。まさかと思い取り出すと、それはパンフレットのように折り畳まれた白紙だった。裏返しても広げてみても、写真も解説も何も無い白紙だ。

 ただ、広げた紙の真ん中にはペンで走り書きされた、たった一言のメッセージだけが残されていた。

 『線路は続くよどこまでも』

 ただそれだけ。でも今の僕には充分だった。

 「いつか、また乗る機会があったら、今度はちゃんと御礼させてくださいね。」

 あの時の車掌さんの笑顔を思い出しながら、僕は目の前の線路に呟いた。

 もうすっかり憑き物が落ちたような肩の軽さと、何年ぶりかのやる気が体の奥底から湧き出していた。今ならなんでも出来る気がする。だから僕は駅の改札を出た後、思いっきり走り出した。

 「やってやるぞ!」

 不満ばっかり言ってても、動き出さなきゃ何も始まらない。理不尽なんて僕がこの手で吹き飛ばすんだ!

 心機一転した僕の戦いはここから始まる。朝焼けは僕の行く道を鮮やかに照らしだしていた。

果たしてこれを異世界転移モノと呼んでいいものか(自問自答)

そんなツッコミでもいいので感想ください。

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― 新着の感想 ―
[一言] ペンネーム、heroでもエミヒロでもないんですね。 この主人公くんの行く先に幸あれ。ゴッドスピード!
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