僕の観察メモ2
この作品は、動物の日常がメインとなっています。
覗いて下さりありがとうございます。
「くまぁああああ、今日もしょーぶだぁあああ」
今日も今日とて、ハクビシンはやかましい。俊敏に走るのは構わないけれど、大声を出したら意味が無いと思う。
ハクビシンは森の木々を避けつつ、開けた場所にいるくまに勝負を仕掛けている。もちろん、今までハクビシンがくまに勝ったところを見たことはない。
「.....。」
「てい、てい、てい!」
くまも、相変わらず無言でハクビシンの相手をしている。律儀だね。というか、よく飽きないよね。
くまは短く息を吐くと、ハクビシンを緩く地面に投げた。ハクビシンは、手加減されたことが悔しいのか、いつものように「覚えてろ~!」と叫びながら走っていった。
おおかた、歳の近いリスのところにでも行ったんだろうけど。
「くま」
「うさぎか」
行動パターンがはっきりしているハクビシンは置いておいて、今日はくまのことでも観察してみよう。かといって、くまはわかりやすい。何か面白いことがわかるといいけど。
「くまさ、あいつの相手、疲れない?」
「.....。別に」
「そう?それにしては、かなり鬱陶しそうでもあるけど」
「......いつも元気だからな、あいつは」
「まぁね」
ひょこっと近づいて話しかける。くまは考える間が長いから無口に見えるけど、律儀に返事をするから話しやすい。
ハシビロコウやタスマニアンデビルなんかは、腹黒くて何考えてるかわかんないし。ハクビシンやリスは何も考えてないから、むしろ何を考えるかわからない。発言をそのまま受け取ると、後で酷い目にあったりするんだよね。特にタスマニアンデビルにはハクビシンがよく泣かされてる。
あいつらは意外と話すのに神経を使う。
その点、くまは話しやすいし、腹黒くないし。まぁ、まともだよね。でも、そういえば知らないことはあるんだよなぁ。
「ねぇ、くまさ。そういえばなんだけど」
「なんだ?」
「片方の目、見えてないでしょ?」
「ああ」
「なんで?」
「......」
くまは僕を見たまま、なにか考え込んで喋らない。どうしたもんかね、これは。
どうでもいいけど、こっち見たままだと捕食されそうで怖いんだけど。僕はうさぎだからね。
「うさぎは人が嫌いか?」
「別に。僕は昔からこうだから、特に思い出もないね」
「そうか」
「それが、黙り込んでたのと関係があるの?」
「ああ」
くまは懐かしげに目を細めた。相変わらず僕を見たままで。だから怖いって。
「長くなる」
「構わないよ」
くまはそうし話し始めた。遠い遠い、昔の話を。
くまは気の遠くなるほど昔、母親に襲われたらしい。詳しい経緯は省く(めちゃくちゃどうでもいいけど、一言。マザコンか!?)。
襲われた時、全身に怪我を負い、森の中をさまよった。このままでは死ぬ、と思った時に、運命の出会いを果たしたらしいのだ。
「小さな人だった」
「へぇ」
「嫌な匂いもせず、俺に怯えもしなかった」
人は森の生き物を狩る時、嫌な匂いをさせる時がある。それがなかったから、怪我をして気がたっていたくまも、襲いかからなかったらしい。(くまとか強い森の生き物は、動けるくらいの怪我だったら普通は襲いかかると思う。やっぱり、くまって変だね。)
その小さい人は、くまににじり寄って安全かを確認すると(随分危ない確認の仕方だね)、くまの怪我を癒してくれたのだそうだ。けれど、くまの目だけは間に合わなかった。
その後、その小さい人がいなくなるまで、くまはその小さい人について回ったらしい。その結果、この森に住み着くようになったんだって。
「こんな感じだな」
「......、なるほどね」
くまはこころなしか満足そうだ。僕は結構うんざりしてるよ。くまってば、説明ヘタ!重要なのは最初の方だけで、あとは怪我関係ないし。実は誰かに話したくて仕方なかったんじゃないの?
それが仕草に出ていたのか、くまがこちらを伺うようにして見てくる。あれ、なんかもうこわくないなー。(呆れちゃったよ。)
「......、やはり、人が嫌いだったのでは?」
「大丈夫。少なくともそれが理由じゃないから」
くまが一応気にするので、気持ちを切り替える。
「まぁ、くまのことが知れてよかったよ。話の長さとか話し方とかに言いたいことはあるけど。その内容も面白くはあったしね」
「そうか」
「じゃあ、僕はそろそろ行くよ。またハクビシンがアホなことをするみたいだ」
「...そうか」
あれは、事前に止めようとか考えてるかな。残念、遅いよ。今、実行しちゃったからね。
まぁ、その件は置いておこう。
今の話をまとめなくちゃ。
読んでいただきありがとうございました。
↓以下は設定です。
うさぎ
主人公。毒舌な観察者。
でも根はいい奴。
耳がいいので、テリトリー(森)の中での出来事はだいたい把握している。
生まれてからずっと森で暮らしている。
くま
力自慢。頭は動きが鈍いのかも。
種族的に獰猛だが、個性としてはだいぶ穏やか。
その他仲間たち
みんな個性的。詳しくは一作目、「僕の観察メモ」のあとがきにあります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。