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狐火に灯る  作者: くま
嗤い咄
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嗤い咄



 ————世間一般では逢魔ヶ刻として知られているだろう。この時間には化物やら偽物が出ると言われているが強ち間違いでは無い。現にお前の隣にいるのは本当にそいつなのか確信は持てるだろうか。分からなければ聞けばいい。「誰そ彼」なんて言葉があるのは、こういう時のためなのさ。



 そもそもの話だが、この時間になれば相手の顔なんてはっきり見えやしないだろう。それが見えると言うならば、それは夜行性の動物か化物くらいだ。これも化物と人間を見分ける手段だが、見分けを付けるにはやはり聞くのが一番だ。先にも言っただろう? 「誰そ彼」はこういう時に使うのさ。



 だがまあ、この言葉は出来れば使いたくは無い。言霊って言うのがあるだろう? 「誰そ彼」なんざ疑いを掛ける言葉だ。それをこんな時間に使ってしまえば化物の世界に引きずり込まれる。この言葉を使う前に逃げ切る事が出来たなら好都合ではあるが、大抵の場合はそうはならない。



 引きずり込まれりゃもう終わりかと思うだろうが、抜け出す手立てはある。まあ、一般人には不可能に等しいが、そのためにあっし達がいるのさ。普通に暮らしていれば気付かないだろう。だが、ひょんな事から巻き込まれるような世の中だ。その可能性はお前にだってある。



 まあ、その時が来るかは別として、働き者のあっし達に褒美とでも献上して貰いたいものだ。お前達は気付かないだろうが、いつも見ているのさ。何って人間というのは面白い。その狂った心があいつらを引き寄せるとは知らずに過ごしている。あっしはそれを嗤いながら見ているのさ。



 それにしても逢魔ヶ刻とは良く言ったものだ。確かに禍々しいものを引き寄せる。だがまあ、あっしは黄昏時って言う方が好きだ。何故って、黄昏れるのが好きっていうのもあるだろうが、太陽なんて意味があるのが面白い。なあ、嗤ってしまうだろう? 光なんて何処にもありゃしないのに。



 色々言ったが要するに気をつけろって事だ。特に黄昏時に隣いる奴は信じちゃいけねぇよ。連れて行かれりゃもうどうしようもない。だから言霊に乗せて言うのさ「誰そ彼、隣にいるのは誰?」ってな。そうすりゃ少なからず道は開ける。嘘臭い? ああ、悪いこういう性分なのさ。



 さあ、そろそろ時間だ。短い時間だったがお前にとっても大事な事かもしれないんだ、忘れるんじゃないぞ? あと、気が向いたらでいい、お社にお揚げを一つくらい祀ってくれると嬉しいんだがな。まあ、これはあっしの願望だ。お前が嫌だと言うのなら無理矢理とまではいかない。



 だがまあ、もし気が向いたなら立ち寄るだけでもいい、顔を見せてやくれないか。それが黄昏時であろうと歓迎するぞ。こればかりは嘘じゃない。いや、今までの話も真であるが。



 ほら、見えるだろう。その鳥居を潜れば直ぐに会える。遠慮する事は無い。来てくれるならば、そりゃあ嬉しい事この上ないだろうよ。だから、待っているのさ。忘れる事なんてねぇよ。




 狐火の社で待っている————。



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