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そして吸血鬼の日常①



 警報が鳴って三分と経たないうちに、エリスたちは格納庫にある自分のドラグーンの許まで移動すると、それぞれの機体を素早く展開させた。


 装着と同時に首元のプラグから、二本の先のとがった銀製の管が飛び出し、エリスの柔肌に突き刺さる。鋭い痛みはもはや慣れ親しんだもので、しかしエリスにとっては重要な痛みだった。


 日常から戦場へ。少女から戦士へ。

 スイッチが切り替わるように、エリスの中で意識が戦闘中のそれへと完全に切り替わる。


「システムチェック。コネクトプラグ接続確認。ドラクルエンジン起動」


 プラグの片方の管から、あらかじめ用意されていた人間の血が流れ込み、もう片方の管からは自身の血液が吸い上げられていく。


 循環は滞りなく行われ、常日頃は本当に動いているのかさえ疑ってしまうほどゆっくりとした心臓の鼓動が、ドクン、ドクン、と激しく脈を打ち始める。血中の細胞がざわめき、流れ込んできた人間の血液が、急激な反応で吸血鬼の血液へと『変貌』を開始する。


「ドラクルエンジン起動確認。エーテル変換率正常値。推進装置への伝達率九二パーセント」


 発生したエーテルが身体を満たし、ドラクルエンジンによってドラグーンを動かすエネルギーとして運用される。


 今まさに、エリュシア・ヴァートリッヒは白銀の機竜の心臓(エンジン)として機能していた。


「イメージリンク・インターフェイスシステム接続完了。ファイアロックシステム解除。システムオールクリア。――さあ、行こう。『白い約束(ホワイトエンゲージ)』!」


 エリスは愛機ホワイトエンゲージの翼型スラスターを広げ、勢いよく格納庫を飛び出した。


 続いて、四機のドラグーンも負けず劣らぬスピードで発進する。まだ外に出てもいないというのに、最初からフルスロットルだ。


 地下通路を瞬く間に走破し、五機のドラグーンが海上へ飛び出す。

 そこから一気に上空まで駆け上がると、一旦そこで停止し、基地に向かってくるアルカナの数を確認する。


「敵影確認。ハングドマン、二十八。チャリオット、二十。ストレングス、五」


『了解。レーダーで確認された数とも一致してるわ』


 いち早く敵の数とタイプを確認したイレーナの報告を受けて、作戦情報司令室でレーダーを確認したジークリンデが命令を下す。


『接敵まで残り二百四十三秒。ドラグーン隊はイレーナの指揮に従って敵を殲滅しなさい。繰り返す。アルカナを殲滅せよ!』


 いつもと同じ指示のあとに、ジークリンデは一言付け足した。


『盟友に恥じない戦いを』


 網膜に投射される、司令室の映像。

 ジークリンデの傍らで戦場を見守る人間の少年を確認して、エリスは装甲の下でにんまりと笑みを浮かべた。


 かつてないほど高まる戦意。それは仲間たちも同じだろう。五機のドラグーンから放たれるエーテルの波動が、戦場となった空に伝播する。


 爆発のときを待ちわびるライダーたちに、アーリンダル空軍の最高司令官、その代行が開戦の宣言を下す。


『状況開始!』






 アルカナ接近の報を受け、両助は戦いへ赴くエリスたちを心配した。


 たしかに吸血鬼は強い。ドラグーンのライダーとしての適正も、人間のそれとは比べものにならない。ハングドマンをエリスが容易く倒した様を、両助は強く覚えている。


 だが、あのときとは数が違う。


 総勢五十二。味方が五人に増えたとしても、十倍近い数の開きがある。勝ち目がどれだけあるのか、情報が不足している現状では判断がつかなかった。たとえ命を失わなかったとしても、大怪我は免れないかも知れない。そう心配でならなかった両助は、つまるところ吸血鬼という存在についてまだまだ侮っていたのだろう。


「いっくよぉー!」


 まず一番槍として前に出たのはダークイエローの機体だった。


 スマートなフォルムにツバメの羽に似たスラスター。装甲はかぎりなく薄く、アルカナと戦える機体とはとても思えない。あれでは威力としては比較的低いハングドマンの触手攻撃でも、一撃で粉々になってしまうことだろう。さらに武器は細身のランス一本だけで、それ以外はライフルのひとつも積んでいない。


 そんな特攻機じみたドラグーンを駆っているのはネリィだ。


 戦場であることを感じさせない気楽な声をあげ、作戦皆無の突貫を仕掛けたものだから、見ていた両助は彼女の死を覚悟せずにはいられなかった。


 だがネリィは両助の心配を余所に、敵の挙動に目を配るどころか、さらに無謀な加速をかける。


 尋常な飛行速度ではない。月の最新鋭である両助のドラグーンでさえ、ここまでのスピードは出せるかどうか。


 あるいは速度だけならば出せるかも知れないが、それは長い直線機動でのみ可能な事例で、その状態ではとても機体を操りきれるものではないし、ライダーへの肉体的負担は深刻なものになる。


「まずはいったぁ――い!」


 そんな規格外のトップスピードのまま、ネリィは敵陣に切り込み、攻撃の隙を与えることなく最前列のハングドマンに攻撃を仕掛ける。


 攻撃手段は至って簡単。腰だめに構えたランスで敵の胴体を串刺しにするという単純なもの。だがハイスピードで突っ込めば、ランスの矛先はそれだけで必殺の威力を発揮し、瞳もろとも胴体の大部分を吹き飛ばす。


 それはいい。両助もネリィのドラグーンの速度から、ハングドマンを倒すことは可能だと予測していた。

 

 問題はこのあと。攻撃に移ったハングドマンたちの触手を、ネリィがどう回避するかだ。


 一直線に突っ込んだネリィは、敵陣深くに入り込まないよう急速な減速をかける。画面越しでも機体の軋みが聞こえてきそうな急停止。無論、その隙をアルカナが狙わないわけもなく、周囲にいた無数のハングドマンがいっせいに触手を伸ばす。


「当たるかバ~カ!」


 減速のダメージなどまるでないと宣言するかのような軽口とともに、ネリィが再び急加速する。


 迫る触手の横をすり抜けて、ネリィのランスが二体目のハングドマンを貫いた。


 そして再びの減速。敵の攻撃が繰り出された瞬間を見計らい、また急加速をかけて回避し、さらにその加速のまま敵に攻撃を加える。


 ヒットアンドアウェイ。言ってしまえばネリィの戦法はそれだが、敵の攻撃速度を完全に置きざりにするほどの加速と減速で行うそれは、さながら戦場を縦横無尽に駆ける稲妻だった。加速と制動の負荷に耐えうる機体と、それにも増して機動に耐えうるライダーの肉体ポテンシャルがなければ不可能な戦い方である。


 もしも人間があんな戦い方をすれば、制動の際に意識が持って行かれて敵に殺されるか、あるいは意識を保てても、繰り返すうちに骨が折れ、内臓が挽肉となり、やはり自滅の道を辿るだろう。なるほど、人外のライダーならではの戦法と言えた。


 だがそうした戦いの中で一瞬とはいえ、ネリィが敵陣で動きを止めてしまうのは事実だ。ハングドマンの触手はその動きについていけないが、アルカナの中には、その隙を狙い撃てる悪魔が存在する。


 タイプ・チャリオットは、数回のネリィの突撃の間にパターンを読み切り、彼女が止まる瞬間を見計らって狙撃する。


 それは雷を吹き飛ばす音速の槍だった。軽量化のために装甲を薄くしているネリィではひとたまりもない。


 だからネリィの戦場には盾が必要だ。


 あわやというタイミングで、ネリィの前に滑り込む緋色の機体。分厚い装甲に巨大な盾を構えたドラグーンだ。チャリオットの矢を受けてなお、揺るぎなくその場に踏みとどまる要塞じみた機体である。


「ちょっと、ネリィ。油断しないで。あたしが守ってあげなかったら、あんた今死んでたから」


 ライダーはベアトリス・ルクルヘイム。身だしなみに気を遣う彼女の姿からは想像もできない無骨なドラグーン姿で、ネリィに非難を含んだ注意を呼びかける。


「失敬な。あれくらい避けようと思えば避けられたよーだ。ただ、近くにベアトリスがいたから、盾として使った方が効率いいと思っただけだもんね」


 むっとした声で反論しつつ、自分の言葉を証明するように近くのハングドマンを仕留めるネリィ。避けられなかったのではなく避けなかった。それは事実だが、ベアトリスを信頼していなければできない行動でもある。


 そしにしても、威力的にはハングドマンの触手攻撃の三〇倍は誇るチャリオットの矢を受けても、ダメージを負った様子のないベアトリスのドラグーンの防御力はどうなっているのか。たとえ装甲を重ね、障壁を展開しても、多少のダメージは通るはずなのに、ベアトリスは完全に無傷だった。


 さらにベアトリスはその場に踏みとどまって、ネリィへ向けられた攻撃を代わりに受け続けていた。

ハングドマンの攻撃。チャリオットの射撃。それらを受けてなお、無傷のままネリィを追って戦場を飛び交っている。盾の陰から時折ライフルで敵を狙っては、撃ち落とす余裕すらあった。


「なんだよ、あのベアトリスのドラグーン。あんなのありか? いったいどんな装甲ならあんな防御力が発揮できるんだよ?」


「無理よ。どんな装甲であれ、アルカナの攻撃を完全に耐えることはできない」


 両助の疑念を一刀両断し、ジークリンデが断言する。そんな装甲は存在しない、と。


「ならあれは一体どういう原理――危ないっ!」


 教えを請おうとした両助だったが、戦場で変化が起きたためそちらへ意識を傾けざるを得なかった。


「くっ!」


 これまでどんな攻撃を受けてもびくともしなかったベアトリスのドラグーンが、ここに来て初めてよろめいたのだ。


 攻撃したのは、巨大な腕としか表現のしようのないアルカナだった。ちょうど人間の肩から先を胴体から切り離し、醜悪に膨らませればこんな形になるだろうか。拳の部分はさらに大きく膨らみ、鉄球のように丸くなっている。


 タイプ・剛力の悪魔(ストレングス)。近距離での戦闘を得意とするアルカナだ。その特徴はその名をとおりパワーである。


 人間がパンチを繰り出すがごとく、鉄球の部分をたたき付けるその威力はチャリオットの矢のさらに数倍。山すら砕くと言われている。


 そんな打撃を受けたものだから、さすがのベアトリスの機体も完全には耐えきれなかったようだった。逆をいえば、ストレングスの攻撃を受けても、その程度で済んでいるとも言えるのだが。両助の機体でも、間違いなく粉々になる威力なのに。


 だが防御力に比例して、飛行速度がいささか遅いベアトリスの相手としては、ストレングスというアルカナは天敵に等しかった。


「このっ!」


 ベアトリスはライフルで牽制するが、ストレングスには通じない。ストレングスのもうひとつの特徴である防御力の高さが彼女の前に立ちふさがっていた。その表皮はドラグーンの装甲を超える鋼。肩の付け根部分にある小さな瞳以外には、当たってもダメージは与えられない。


 ベアトリスがストレングスと戦うくらいならば、ネリィの方がまだしも戦いになるが、胴体ごと瞳を打ち砕けば事足りるハングドマンとは違い、ネリィの戦法では、外れればカウンターを決められてしまうストレングス相手では命がけになる。それがわかっているからだろう。ベアトリスはあくまでもネリィの盾として、ストレングスの攻撃を受け続ける道を選んだ。


 だが攻撃のたびにわずかに苦悶の声こそもれるものの、その動きに追いつめられた者特有の焦りはない。ネリィもまたベアトリスを手助けしようとはせず、ハングドマンの駆逐に専念している。


「ここに祝砲を鳴らそう。絶命の時は来た!」


 それはこの戦場に彼女がいるからに他ならず、信頼に応えて、一発の弾丸が今まさに拳を繰り出そうとしたストレングスの瞳を撃ち貫いた。


 針の穴を通すような遠距離からの狙撃を成し遂げたのは、空に溶けるような青い機体のドラグーンだった。全長にも匹敵する巨大なアンチマテリアルライフルを構えた姿で、敵陣からはいくらか離れた距離を飛んでいる。


 そのドラグーンは両助も見たことがあった。小春のドラグーンだ。


 落ち着きのない彼女とは思えない精密な狙撃は、ネリィの吸血鬼の身体能力を駆使した攻撃とも、ベアトリスの不可解なほどの防御力とも違い、両助にもある程度理解できてしまうからこそ、その腕前に舌を巻くしかなかった。


「ふははははっ! 逃げても無駄だ! 我が魔弾より逃れる術はないのだからな!」


 音速に近い速度で動き回る敵に対する狙撃。一流の腕を持つライダーならばできなくもない技能だが、小春はそれを自身も高速飛行で敵の攻撃を避けつつ行っていた。それは人工知能による補正ではなく、本人が敵の動きをすべて読んでいなければ、決してできない芸当だ。


 さらに一発、二発と、小春が銃の引き金を引くたびに、戦場からストレングスの姿が消えていく。その合間に、ネリィを狙うチャリオットや、自分に近付きつつあるハングドマンを撃ち落としていく。その間隔は、とても狙撃のものとは思えない短さ。


 だが戦場で敵を一番屠っているのは小春でもネリィでもなかった。


 一目でそうとわかるスピードで敵を破壊し続けているのは、誰であろうイレーナである。


 彼女の駆る黒い機体の主武器は、彼女が鍛錬に使用していた野太刀である。ドラグーンで使うことで、ようやく適正なサイズとなったそれを、生身のときと同じように肩に担ぐようにして構え、敵に近付いて振り下ろす。


 まっぷたつに切り裂かれた敵は、灰となって空に散った。


 斬撃の威力はもちろんだが、イレーナが上手いのは、野太刀を構えているのとは別の左手の動きだった。

敵のタイプ、距離に合わせて周到に武器を持ち替えて牽制しているのだ。そして隙を見逃すことなく懐に入り込み、右手の野太刀を振るう。武器の扱いの巧みさをもって、イレーナは撃破数でネリィや小春を凌いでいた。


「ネリィ! 先行しすぎだ! ベアトリスがカバーに入れる距離を保て! 小春は右方のハングドマンに攻撃を集中しろ!」 


 さらに驚くべきことに、イレーナは敵を倒すことに専念せず、味方の動きを把握して指示も出していた。戦場の指揮官である隊長機として、攻撃と指揮を完全に両立している。


「これがアーリンダル空軍ドラグーン部隊の実力なのか」


 恐るべきスピードで戦場から姿を消していく敵を見て、両助は自分の心配が完全に杞憂だったことを悟った。


 ネリィはただの一度も攻撃を受けておらず、小春は安全な距離を保っている。ベアトリスは幾度となく攻撃を受けているが墜ちる気配を見せず、イレーナだけはわずかに装甲を削られていたが、それはより安全な位置取りをするために行った結果であり、実質的には無傷に等しい。


 吸血鬼の駆るドラグーンの力は、両助の想像を遙かに超えていた。これなら倍の数が襲ってきても凌ぎきれるに違いない。


 だからこそ、ひとつだけ解せないのはエリスの動きだった。


 彼女は空にあがってこそいるものの、イレーナたちほどアルカナに接近せず、小春ほど離れていない位置で、時折やってくる敵の攻撃を回避しているだけで攻撃らしい攻撃をしていなかった。こう言っては失礼かも知れないが、エリスがいてもいなくても戦況に変わりはないだろう。


「そういえば、先程の質問だけど」


 疑問のうちに両助がエリスを注視していると、ジークリンデが思い出したように口を開いた。


「ベアトリスの防御力の秘密は、ドラクルエンジンにあるのよ」


「ドラクルエンジンに? どういうことだ?」


「ドラクルエンジンはドラグーンを動かすエネルギーを吸血鬼から引き出す以外に、もうひとつ副産物的な恩恵があるの。いえ、アルカナと戦う上では、こちらの方が重要性では上かも知れないわね」


 そう言って、ジークリンデは映像に映るベアトリスの機体を指さした。


「ベアトリスの機体をよく見て。構えている盾を中心に、うっすらと機体全体が赤く光ってるのがわかるかしら?」


 ジークリンデに言われて、両助はベアトリスの機体をよく観察してみた。


「本当だ。元々赤い機体だから気付かなかったけど、機体が発光してる」


「機体自体が発光してるわけじゃないわ。あれは機体からもれ出したエーテルの輝きよ」


「エーテルの?」


「ドラクルエンジンによって運用されるエーテルは、ドラグーンを動かすエネルギーとなる。そして、ライダーを守る盾となり、アルカナを滅ぼす矛となるの」


 ベアトリスの機体を包みこむエーテル。それはわずかに発光する結晶体だった。アルカナの攻撃はエーテルの層に当たっているだけで、ベアトリスの機体には届いていなかったのだ。


 結晶化したエーテルは、ベアトリスが構えている盾の表面に集まっており、強固な層を築き上げていた。いわばベアトリスは盾に盾を重ねて敵の攻撃に対処していたのだ。


「エーテルには、その運動が完全に止まったときに結晶化する働きがあるの。そして吸血鬼は自分のエーテルをある程度操ることができる。だから、エーテル結晶を盾や装甲に重ねて防御に使ったり、武器に重ねて攻撃力を上げたりすることができるのよ」


 よくよく見れば、ベアトリスだけではなく、ネリィのランスも、イレーナの野太刀もエーテルの輝きをまとっていた。


 小春の狙撃銃も、銃身にこそエーテルの反応は見られなかったが、放たれる弾丸一発一発には薄く張り巡らされているのが、ちょうど彼女が放った一発の弾丸を見届けた両助にはわかった。エーテルを付加された弾丸は、チャリオットの胴体を抵抗なく貫通していく。


「エーテルには吸血鬼それぞれの特性があるから、一概にひとくくりにはできないけど、どんな吸血鬼のエーテル結晶でも共通する効果がある。すなわち、アルカナの持つ不可視の障壁を無効化する効果が」


「障壁。そういえば、アルカナにはそれがあったな」


 イレーナたちがあまりにも容易くアルカナを倒していくものだから忘れていたが、アルカナには強固な障壁が存在する。半ば予想していたが、どうやらあれば、宇宙空間でのみ現れるアルカナの特徴というわけではないらしい。


「エーテル結晶を付加した武装――『血晶兵器(ブラッドアーム)』。理由はわかってないけど、ブラッドアームはアルカナの障壁に対して有効なの。そしてアルカナの攻撃にも、実はあの障壁に使われているのと同じ力が使われているわ。物理法則を無視し、あり得ない威力をたたき出す力がね。だから防御にもブラッドアームを用いれば、アルカナの攻撃の威力を削ぐことができる」


「俺のドラグーンの攻撃がほとんど通じなかったのに、みんなの攻撃が普通に効いてるのは、そういう絡繰りだったのか」


「これがドラグーンのライダーとして、人間よりも吸血鬼の方が優れている一番の理由よ。いいえ、吸血鬼というよりもドラクルエンジンかしら。ドラクルエンジンを搭載してないドラグーンだと、たとえライダーが吸血鬼でもブラッドアームは機能しないから」


 ブラッドアームと化したイレーナの野太刀は、豆腐を切り裂くようにアルカナをその障壁ごと切り裂き、ネリィのランスや小春の弾丸は障壁などないかのごとくアルカナを貫く。そしてベアトリスの盾はアルカナの攻撃の威力を完全に殺していた。


 まさにアルカナと戦うための力だ。吸血鬼こそ、ドラグーンのライダーとして理想の存在を言えよう。


「ちなみに、同量の血液を接種したときでも、その際のエーテル生成量は吸血鬼個々人でかなり違ってくるわ。このときの生成量が多い吸血鬼ほど、ブラッドアームに回せるエーテルも多くなるから有利に戦いを運べるようになる。あの四人でいえば、一番エーテル生成量が多いのはベアトリスで、少ないのは小春になるわね」


 そして、とジークリンデは続ける。


「小春に比べれば桁違いの生成量を誇るベアトリス。そんなベアトリスと比べてもなお桁外れのエーテル生成量を誇るのが、我らが姫様よ」


「――チャージ完了しました!」


 そのとき、戦場にエリスの凛とした声が響いた。


 姫の合図を待っていたかのように、前線にいた三人がいっせいに離脱を始める。


 そうなると、当然敵の攻撃の矛先はエリスに向くが、小春が上手く牽制して、彼女に近付けないよう時間を稼ぐ。


 エリスも小春の手腕を信頼していると見えて、空中で動きを完全に止め、手をまっすぐ眼前のアルカナたちに向かってかざした。


 その手に集うエーテルの輝き。

 あまりにも膨大な光は、彼女の銀色の機体を赤く染め上げるほど。


 そして両助は、戦場におけるエリスの役割を、知る。



「――殲滅開始ッ!」



 エリスの手から放たれる無数の光弾。

 ひとつひとつはこぶし大の大きさに過ぎないそれは、エーテル結晶を核にして凝縮された膨大なエネルギーの塊だった。アルカナに命中した瞬間、激しい爆発を起こして跡形もなく吹き飛ばす。


 危険を察知して逃げようとするアルカナもいたが、光弾は空中でその軌道を変え、時に分裂し、逃走を許すことなくすべてのアルカナを撃ち貫いていく。


 イレーナたちが戦いながら、アルカナを少しずつ集合させるように追い立てていたのは両助も気付いていたが、すべてはエリスの『砲撃』で一網打尽にするための布石だったのだ。戦場におけるエリスの役割とは、敵を一撃の下に殲滅する砲台に他ならなかった。


「すごい」


 アルカナが消えた戦場を見て、両助は素直に感嘆した。


 イレーナたち四人の戦いぶりを見て、倍の数でも対処できると踏んだが、エリスの殲滅力も加味すれば、そのさらに倍の数でも対処できるだろう。


「状況終了。みんな、お疲れさま」


 レーダーで敵影がないことを確認し、ジークリンデが戦闘終了を告げる。


 終わってみれば、時間にして十分にも満たない、終始ドラグーン側が圧倒した戦いだった。


「それじゃあ、両助くん。ご飯にしましょうか」


 警戒を解いたエリスから通信が入る。他の四人からも口々に賛同の声があがる。


 まるでピクニックでも終えてきたかのような彼女たちの振る舞いに、両助は確信した。


 アーリンダル空軍ドラグーン部隊――彼女たち正真正銘の『竜騎士』の駆ける空に敗北はない、と。


 このときは本当に、そう思ったのだ。




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