救世主?
ゴブリンとは魔界で生まれた魔物である。
魔物たちは魔王復活の影響を受け地上に召喚された。
魔王が封印されている間は魔物も封印され、その存在に脅かされることもない。
つまるところジンは、魔物と対峙するのはこれが初めての事なのだ。
知識としては知っている。
しかしそれが実践となれば話は違う、と思っていたのだが。
ズシャッ
ゴブリンに向かって剣を斜めに振り下ろすと、音を立てて引き裂けた。
傷口から緑の体液が噴き出す。
ギャァ ギィヤァア
「(案外硬くないんだな。)」
ジンはゴブリンを見つめながら次の動きを伺った。
ゴブリンは一瞬痛みに動きを止めたが、のそり、とジンの方に振り返り大剣を振り上げた。
ブオン ブオン ブオン
風を切る音が耳を掠めていく。
ジンは無駄のない動きでそれを避けるとゴブリンの背後に回り、心臓のあたりに剣を突き立てた。
プシャア
ゴブリンの体液が噴き出し断末魔が響き渡る。
ギャォォォァァァアア
程なくしてゴブリンは絶命した。
「ま、こんなもんだろ。」
ジンは一人呟くと、剣についた体液を振るって落とし腰に戻した。
その時だった。
グォォォオオ グォォォオオ
ゴブリンの唸り声が何重にもわたって響き渡る。
先程のゴブリンの断末魔で他のゴブリンも呼び寄せてしまったのだ。
「まずいな、5体くらいか?」
多勢に無勢。絶体絶命、そんな言葉が脳裏に浮かんだ。
ゴブリンの唸り声はだんだんこちらに近づいてくる。
この状況を回避する方法を必死に探すが見つからない。
この状況にジンは冷や汗をかいた。
グォォォオオ
もう目の前だ。
攻撃は最大の防御なり。
先制を取る。
ジンはゴブリンの集団に斬りかかった。
ズシャッ ズシャッ ズシャッ
3連撃
一体は沈んだ。
後4体。
しかし既に他の4体は大剣を振り上げていた。
避ける、避ける、避ける。
ーーーキリがない。
隙を見ようにもタイミングが合わない。
ジンは舌打ちをこぼした。
パンッ パンッ パンッ
突然の謎の破裂音と、絶命したゴブリンにジンは思わず振り返る。
しかし目に見える範囲には誰もいない。
気をそらしすぎたのか、攻撃の気配をすぐそこに感じたジンは飛び退いた。
ビュンッ ビュンッ
先程までジンがいた場所に大剣が2本、突き刺さる。
深く突き刺さりすぎて中々抜けないのか、ゴブリン達は首を傾げている。
音の正体を考えている暇はない。
今がチャンスだ。
斬りかかってきた残りの一体をいなし、もたついている二体にまとめて斬りかかりとどめを刺した。
残り一体。
切れた息を整えると、畳み掛けるように斬りつけた。
断末魔を上げる隙もないほどに一瞬で、仕留める。
的確に心臓を狙いとどめを刺す。
グシャッ
戦闘が終わり、辺りを見回してみると一面が緑色の粘ついた体液で染まっていた。
「ふぅ。」
ジンはため息をひとつ吐き、その場に座り込んだ。
落ち着いて考えてみる。
あの謎の音はなんだったのか。
確実に銃の発砲音だったと予測はつくのだが、心当たりは全くない。
向きからしてジンの背後から撃たれたのは間違いはないのだが、気配は全くない。
振り向いてじっと目を凝らして見る。
クスクスクス
笑い声。
気配は全くないのに笑い声だけが森に木霊している。
「誰だっ!」
ジンは立ち上がり叫んだ。
「やだなぁ、助けてあげたのに。怒鳴らなくったっていいじゃない。」
少年のような少女のような声。
しかし未だに気配も姿も感じられない。
「誰だって言ってんだ!」
ジンは眉を潜めもう一度問う。
「僕はねぇ、誰だろうねぇ。うーん、よく分からないねぇ。」
今度はジンの耳元で声がきこえた。
ジンが驚き振り向くと、ニンマリ笑った少年がそこにいた。