草原から巨大樹の森へ
ジンは草原の中を歩いていた。
のどかな草原だ。
人っ子一人、動物さえもいない草原だ。
しかし、空は薄暗く暗雲が立ち込めている。
「これが魔界の瘴気か。」
ジンは一人呟いた。
瘴気とは、吸い続ければ人体に影響を及ぼす猛毒である。
魔王復活の神託が降るまでは澄んでいた空気も今はどんよりしている。
国は大丈夫だろうか。ジンは先刻旅だった国を思いやった。
旅立ちの時には瘴気は国にまでは及んでいなかったが、あれからもう何時間かたっている。
もしかすると、もうすでに国の方まで瘴気が及んでいるかもしれない。
勇者であるジンは耐性があるようで、瘴気の影響は受けない。
しかし他のみんなは違うのだ。
一刻も早く魔王を倒さなければ、と歩む足が自然と早くなる。
ジンはある街に向かっていた。
魔王討伐の仲間を獲得するため、国王から紹介を受けていたのだ。
その街とは、魔法術都市ベリオベリー。
その名の通り魔法や魔術の盛んな都市で、その中でも優秀な魔術師を魔王討伐の仲間に、と国王が計らってくれたらしい。
地図を見てみると、北へもう2時間ほど進んだところにあるようだ。
まだまだ先は長い。草原を抜ければすぐ森がある。
その中では何が起こるか分からない。
気を張りつつもジンは早足で草原を抜け、森の正面にたった。
巨大樹の森、と名のついたこの森はとてつもなく大きい木が生い茂っている。
見上げてもてっぺんは見えそうにない。
この森の木は魔界の影響を受け、巨大成長したものだ。
もちろん瘴気も草原よりもはるかに多い。
耐性のあるジンでもむせ返りそうになる程だ。
気休め程度に口を手の甲で抑えつつ奥へと進んでいくと、ジンは足を止めた。
グォォォオオ
何処か近遠くから獣のような声が聞こえる。
ジンは警戒しつつも慎重に、ゆっくりと歩みを進めた。
グォォオオオ
だんだんと声が近づいてくる。
ジンは固唾を呑んで茂みに隠れそっと様子を伺った。
大きな豚鼻に大きな爪、でっぷりとしたお腹に身の丈ほどある大剣を持っている。
ゴブリンか、思い至った瞬間のことだった。
ギロリ
やっべ、目があった!!
ジンは声を出さずに後ろに飛び跳ねた。
その瞬間、
バキバキバキッ
今まで隠れていた茂みが、大きな音を立てて無くなった。
ジンは思わず笑いが溢れた。
旅が始まってから初めての戦いだ。
今までやれることは全部やってきた。
勝てる。ここで勝てなきゃ魔王になんか勝てっこない。
おれは勇者になったんだ。
「やってやる。」
ジンは腰に差した剣を抜いて、ゴブリンを見据えた。