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第四章 薄刃の眼差し

 

 

 美しい虫の音響く秋の夕暮れのことだった。

 少年はいつもと同じように長い長い廊下を歩いて、決まった時刻にその部屋を訪れる。

八恵(やえ)。入っていいか?」

 そうして慣れた調子で襖越しに声をかけると、すぐに中から嬉しさを隠しきれない弾んだ声音で了承の言葉が返ってきた。

 はしゃいでいる様子が目に浮かぶようで、それがなんだかおかしくなった少年は、噴き出しそうになるのをこらえつつそっと襖に手をかける。

「――兄様(あにさま)!」

 中に入ると、案の定そこには想像した通り満面の笑みを浮かべた妹の姿があった。布団から上体を起こし、無邪気な声で呼びかけてくる。

 入った瞬間に飛びついてこなかったのは、前回それで体調を崩して父親からこってりとお叱りを受けたからだろう。

 とはいえ放っておくと、いつまた布団から飛び出してくるかわからない。

 実際今も、すぐにでも飛びついてきそうなほどうずうずとしている様子がありありと伝わってきて、その後の光景が容易に想像できてしまった少年は、まだ幾分あどけなさの残るその顔に思わず苦笑を浮かべてしまう。

「あーにーさーまー!」

 と、いつまでも襖口に突っ立っていたら不満そうな声を上げられてしまった。

 悪い、と一言謝ってから傍に寄る。布団の脇にゆっくり座ると少女はすぐにその小さな身体いっぱいに広げた両手で抱き着いてきた。

「おいおい、あんまり無理するなよ。また倒れても知らないぞ」

「大丈夫よ、兄様。八恵、今日はとっても調子がいいの。今なら一人でお外にだって行けるわ。本当よ?」

 言いながら、少女は自分の匂いを付けるようにぐりぐりと少年の胸に頭を擦り付ける。

「まったく、仕方のない奴だ」

 少年はやれやれと言った風に呟くと、妹の頭にそっと手を置いた。

 ゆっくりと優しく髪を梳かれるその感覚に少女は気持ちよさそうに目を細めている。

「兄様、今日も剣のお稽古に行ってたの?」

「ああ」

「また父様にたくさん怒られちゃった?」

「そうだな」

「じゃあ、八恵が父様の代わりにたくさん褒めてあげるね!」

 そう言って一旦身体を離すと、少女はその小さな手のひらを少年の頭にぽんと乗せる。

「えらいえらい」

 先ほどのお返しと言わんばかりに、ぎこちない動きでわしゃわしゃと少年の頭を少女の手の平が行ったり来たりする。

 まだ慣れていないのか、時折指先に髪の毛が引っ掛かってしまうのはご愛嬌だ。

 普段は自分が少女にしていることを、逆にされるとこんなにも気恥ずかしいものなのかと、思わずその手を振り払いたくなってしまった少年だったが、その結果少女がどんな表情を浮かべてしまうのかはわかりきっていたことなので、されるがままに大人しくする。

「兄様はいつも頑張っててとってもえらいねー。ふふっ、兄様、嬉しい?」

「……ああ」

 それに少年にとっては、少女のこの笑顔を見られることが何よりも喜びだったのだ。

 五つの時から数えて九年。父の厳しい教えにより、来る日も来る日も剣の腕を磨く日々の中、当然ながら同年代の友達もおらず、言ったように父親からは怒られてばかりだ。

 辛く苦しい日々の連続に逃げ出したくなることもしばしばだったが、しかしそんな少年にとって妹の存在だけは特別だった。

「うー……だんだん手が疲れてきたよぉ」

「おいおい、たくさん褒めてくれるんじゃなかったのか?」

「そうだけどぉ……やっぱり八恵は頭を撫でるより撫でられる方が好きだわ」

 そう言って少年の頭から手をどかし今度は自分の頭を差し出す。

「ねぇねぇ兄様。八恵のことも褒めて。いっぱい撫でてくれてえらいねーって」

「なんだそりゃ。八恵は褒められたくて頭を撫でてくれたのか?」

「う、うー……でもでもぉ」

 しょんぼりと肩を落としてしまう少女に少し意地悪が過ぎたかと苦笑する少年は、少女よりも幾分か大きな手のひらをその頭に乗せる。

「仕方のない奴だ」

「ふふっ、兄様大好きー!」

 そうしていつものようにとりとめのない会話を始める。

 今日の稽古はどうだったとか、帰ってくる途中こんなに大きな鳥を見かけたとか。傍から聞いてみればどうでもいいような話も二人にとっては何より掛け替えのない宝だ。

 生来の体質なのか妹は昔から身体が弱く、少年とは逆に外に出ることは滅多にない。

 父親によると外に出られないのはそれ以外の理由もあるようだが、少年にとってそれはどうでもいいものだった。重要なのは彼女が庇護されるべき対象であることと、それができるのが現状自分唯一人ということだ。

 それを義務だなんて思ったことはないし、彼女を守る自分に酔っているとも思わない。

 少年の存在が少女にとって心の支えであるように、少年にとっての少女も、彼の人生を動かしていく上での歯車の一つで、同時に生きる意味そのものでもあったのだ。

 しかし――だからこそ世界はそこで暗転する。

 この世界は理不尽だから。大切に思えば思う程、運命というやつはそれを嘲笑うかのように総てを壊していくのだから。

「ねぇ、兄様」

 あの時(・・・)の少女の声が今でも耳にこびり付くように残っている。

「兄様は――」

 かつて自分を兄と呼んでいた少女。自らの生きる意味そのものであった少女の最期を前にして自分は――

「――八恵とずぅっと一緒に、いてくれるよね?」

 

        ◇

 

 全身を苛む不快感に覇切は目を覚ます。

 ゆっくりと額に手を当てると寝汗をびっしょりとかいていた。

「……夢、か」

 所謂悪夢に相当するものだろう。最近はめっきり見なくなっていたが、どうやら過去の記憶というやつはそう簡単に嫌な出来事を忘れさせてはくれないらしい。

「つっ……」

 右目に走る鈍痛に顔をしかめる。

 例え寝る時でも外すことのない眼帯の上から、手の平で押さえつけると幾分か楽になるような気がした。こちらも最近は随分と大人しいものだったが昨日から度々疼いており、その原因は全く不明だ。

「……いや、一個だけ心当たりがあるか」

 森で出会った少女――黒条百合だ。自らの理不尽を壊すために十種神宝を集める必要があると言う少女は何かと危なっかしく、かつて自分を困らせていた妹と重なる。

 それが記憶の呼び水となっている可能性は否定できない。

 何となくおせっかいを焼きたくなってしまうのもそのためだろうか。

「にしても……昨日はやり過ぎたかな」

 思えば昨日の自分はかなり強引だった。涅々から頼まれていたこととはいえ、随分と勝手に彼女を引きずり回してしまったように思う。

 百合の方もなんだかんだと本気で拒否してはいなかったので、大丈夫だとは思うが……。

「……いい加減汗を流してくるか」

 いつまでも考えていても仕方がないと思い、風呂に向かうことにする。

 幸い昨日のうちにこの屋敷の構造は把握済みだ。

 ――そう、覇切が涅々に与えられた『家』というのは完全に『屋敷』と言って差し支えないほどの大きさのものだった。

 立地的に表通りからはだいぶ離れた位置にあり利便性には欠けるが内部はかなり手入れが行き届いている。さすがに天狼衆筆頭である涅々の屋敷に比べると小さいが、通常の民家に比べればかなりの広さだ。

 正直身に余る待遇だったが、義姉に言ったとしてもきっと彼女は笑って流すのだろう。

 そう考えて今度こそ風呂に向かおうと上体を起こしたその時だった。

「……」

 むにゅんと手の平に広がる感触。

 どこか覚えのあるその柔らかさに知れず覇切の額から再び汗が噴き出す。

 視線をゆっくりと下げていく。そうしてたどり着いた先、自らの左手が着いているその場所には――

「んにゅ……さわらないでください……にんしん、してしまいます……」

 ――気持ちよさそうに眠りながら危険なことを呟く百合がそこにいた。

(なんだこれは……何がどうなってる?)

 混乱しそうになる頭をどうにか落ち着かせて昨日のことを思い出す。

 昨日は確か屋敷に着いた後、互いにその場で別れそれぞれ部屋を見繕い床に就いたはず。

 軽く部屋を見回してみる。

「どう見ても俺の部屋、だよな?」

 着替えも畳んでおいてある。対して百合の持ち物は見当たらない。

 大方夜中に厠にでも行った後、寝ぼけて部屋を間違えたといったところか。

「というかさっきから妙に暑かったのはこいつのせいかい……」

 半分抱き着くような姿勢で眠っている百合は幸せそうな顔をしているが寝巻である着流しは大きく乱れている。

「包帯は……寝る時もしてるのか」

 首から下全身にきっちりと巻かれた包帯を見て思わず言葉に出してしまう。

 百合の場合この包帯があるので裸を目にするという最悪の事態にはなっていなかったが、目のやり場に困ることに変わりはない。

 随分と暑そうな格好だが、覇切とは違いその表情には全く寝苦しそうな様子は見えない。

「やっぱりいやらしい奴だな」

「……だ、誰がいやらしいというのでしょうか……?」

 視線を上げ、顔を逸らしたその瞬間、時が凍り付いたのを覇切ははっきりと感じ取った。

 上げた視線を再びゆっくりと下に向けていく。

 すると、そこには真っ赤な顔で瞳に涙を浮かべ頬を膨らませている百合の姿があった。

(ああ……またか)

 一体これで何度目だろうか? 自分は一体出会ってから何度彼女にこんな顔をさせているのだろうか?

 自問するもその答えが出る前に高速の平手が飛んでくる。

 小鳥たちの囀りが聞こえる穏やかな朝。思わず二度寝したくなるような気持ちのいい陽気の中、それを許さない文字通り目が覚めるような乾いた音が屋敷の中に響き渡った。

 

        ◇

 

「さいってーです」

「だから、さっきから何回も謝ってるだろうが」

 綺麗な紅葉の痕が付いた頬をさすりつつ、視線だけで人を凍り付かせそうな百合の隣を覇切は歩く。

 場所は表通り。

 あの後暴れ狂う百合をどうにか押さえつけた覇切は、必死になって事の次第を説明した。

 もともと寝惚けて部屋を間違え、あまつさえ布団にまで侵入してきたのは百合の方なので、彼女にも十分非はあるのだが、気持ちの部分ではそうもいかないのか先ほどからずっと不機嫌なままだ。

「まったく、一度ならず二度までも私の胸を……いやらしいことはしないって約束したのに……これはもう責任を取ってもらうしか……」

 ぶつぶつと何やら怖いことを呟いているようだが、あまり触れないようにする。

「というか、一体どこに向かってるんですか?」

 ひとしきり愚痴って落ち着いたのか、百合が至極当然な疑問をぶつけてきた。

「ああ、少し行きつけの茶屋に用事があってな。その後に義姉さんのところに寄って依頼について詳細な資料がないか確認に行くつもりだ」

 宿代云々の話もあり、涅々からの土蜘蛛退治の依頼に関しては昨日のうちに話してある。

 結局のところそれも百合を野宿させないための方便だったので、そこまで真剣に取り合わなくても全く構わなかったのだが、何故か百合は昨日から妙なやる気を出していた。

「ていうか、お前までついてこなくてよかったんだぞ」

 そう言う覇切に百合はむっとした表情を見せ睨んでくる。

「私がついてくると何か不都合なことでもあるんですか?」

「いや別にそういうわけじゃ……」

「だ、だいたいっ、一緒に居ろとか言い出したのは覇切さんじゃないですか。約束は守らないといけませんからねっ」

 先ほどまでの不機嫌から一転、今度は妙に意気込んだ様子の百合に苦笑してしまう。

「おーい、道わかってんのかー?」

 

        ◇

 

「はぁい……あ、覇切さん。ちょうどいい所に~……ってあらぁ? そちらの方は……」

 花春にやってくるといつものにこにことした表情で春が二人を出迎える。

 そうして次の瞬間にはその笑みをより一層機嫌よさげに深めてみせた。

「誤解のないよう言っておくが、こいつはただの知り合いだ。それ以上でも以下でもない」

「まだ何も言ってませんよ~。今後のネタには使わせてもらいますけど」

 やっぱり連れてくるんじゃなかったと額に手を当てる覇切をよそに、春は覇切の背中の後ろに半分隠れるようにしている百合に向き直る。

「どうも~。甘味処・花春の従業員の春と言います~。新顔さんですよね~? 今後ともごひいきにお願いしますね~」

「あ、ど、どうも……」

 春の言葉に百合は恐る恐ると言った風にお辞儀をする。

「なんだ、随分大人しいな。人見知りってタマでもないだろ?」

「だ、黙っててください。こういう場所は慣れてないので緊張するんです」

 緊張するも何もただの茶屋なのだがと覇切は思ったが、百合が昨日も通りでおどおどとしていたことを思い出し、案外世間知らずなのかもしれないと勝手に納得する。

「それで春。昨日預けた外套を取りに来たんだが」

「はいはい~、承知してますよ~。少々お待ちくださいね~」

 店の奥に引っ込んでいく春を見送った後、適当な席に着く。

「お前もそんなところに突っ立ってないで座れよ。朝飯くらい奢ってやる」

「あ、はい……」

 ぎこちない動きで対面に座る百合。それと同時に春が戻ってくる。

「どうぞ~。こぉんなに綺麗になりましたよ~」

 そう言って春が外套を広げてみせる。

「おー。凄いな。どこを直したのか全く分からん」

「ふふふ。春は巷じゃ家事万能の看板娘で通っていますから。これくらいお手の物ですよ」

 えへんと胸を張る春はいつにも増して機嫌よさげだ。

 常からどことなく落ち着いた雰囲気を纏う彼女にしては珍しく、こんな風な年相応に喜ぶ姿は素直に可愛らしいと思えた。

「ありがとな。この外套結構気に入ってたから助かったよ。本当に手先が器用だな、春は」

「いえ、そんな……」

 覇切の褒め言葉に、てれてれと俯き気味に自分の髪を弄る春。

 こんな春を見るのも非常に珍しいので新鮮だったが、実際に感心したのは本当のことだ。

 修繕された外套も昨日渡した時点ではぼろ雑巾と言って差し支えない状態だったのに、今では新品と同等な程に綺麗になっている。自称家事万能の肩書は伊達ではないらしい。

「さ、さぁさぁ~。もうこのお話はここまでにして、ご注文はお決まりですか?」

「おっと、そうだったな。それじゃあ――」

 誤魔化すような春の言葉に苦笑しつつ、適当に注文をする覇切。

 二人の間の親しみを感じさせる一連のやり取りに、一方それを面白くなさそうに眺めていたのは百合だった。

「それじゃ頼むわ」

「はいはい~。腕によりをかけて作っちゃいますからね。楽しみにしててください~」

 調理場の方に引っ込む春を見送った後に覇切が正面を見ると、百合が若干不貞腐れたような表情でぶすっとしていた。

「どうした? 適当に頼んじゃまずかったか?」

「いえ……別に」

 唇を尖らせ顔ごとぷいと視線を逸らす百合だったが、その後もちらちらと横目で覇切の様子を窺っている。

「あの……」

「ん?」

「……私も裁縫くらいはできますよ?」

「おーそうなのか」

「……」

「……」

「……料理も、できます」

「お、おう。そうなのか」

 いまいち要領を得ない百合に適当な相槌を打つしかない覇切。

 そんな覇切の反応が気に入らなかったのか、百合は苛々とした様子で口を開く。

「あの……それだけですか?」

「何が?」

「いやですから……ああもうっ、いいです!」

 今度こそヘソを曲げてしまった百合は完全にそっぽを向いてしまった。

(何かまずいこと言ったか……?)

 そう思うも心当たりが浮かばない。

 言ったというよりもむしろ言わなかったことの方が問題なのだが、根本の問題提起からずれている覇切には何がなんだかさっぱりわからない。

 そんな風に二人の間に険悪とまではいかない微妙な空気が漂い始めたその時だった。

「――あ。東雲覇切?」

 不意に聞こえた自らの名前に顔を上げる。

「……」

 そこに立っていたのは、真っ赤な襟巻が特徴的な一人の少女だった。頭の上部左右で結われた暗い赤毛を揺らし、きょとんとした表情で覇切たちの方を眺めている。

 その瞳は燃え盛る炎のように鮮やかな緋色で、思わず見惚れるほどに美しい。

 丈の短い桃色の着物の裾から覗く素肌は健康的に日焼けをしており、病的なまでに白い百合の肌とはまた対照的だが、その容姿は百合に勝るとも劣らない程の美少女だった。

「俺に、何か用か?」

 思わず少し見惚れてしまったのが恥ずかしくなって誤魔化すように問いを投げる。

 しかし少女の方はそれに対して何と答えるわけでもなく、一瞬だけちらっと百合の方を見たかと思うと再び覇切の顔をじっと眺める。

(もしかして……知り合いか?)

 名前を呼ばれたのは間違いないため、少なくともこの少女は覇切のことを知っているようだが、申し訳ないことに覇切の方の記憶には全くと言っていいほど引っかからない。

 これだけ目立つ容姿の娘と知り合ったならば少しは記憶にも残ると思うのだが……。

 先ほどとはまた違った緊張感の漂う中、焼けた魚のいい匂いと共に間延びした声が聞こえてくる。

「あら~? 秋桜さんじゃないですか。お戻りだったんですね~」

 出来上がった料理を運んできた春の言葉にようやく目の前の少女――秋桜というらしい――は覇切からその視線を外す。

「お春。約束と違うんだけど」

「あ~……それはですね~。まさか春も女性連れで来られるとは思わなかったもので……」

 なにやら向こうでひそひそと会話を始めた。

 時折こちらをちらちら見ているのが気になるが……。

「なんか……嫌な予感がしますね」

 百合の言葉に訳も分からず首を傾げる。

 それは一体どういう意味だと、問い返そうとすると――

「まぁいいわ。よく考えてみれば特に問題もないし」

 そんな言葉が聞こえてきたかと思うと、秋桜と呼ばれた少女はくるりと覇切の方へ向き直り、何食わぬ顔でその隣にすとんと座った。

 四人席だったので定員的には何の問題もないのだが……。

「えっと……?」

 あまりに堂々と座られてしまったため咄嗟に言葉が出てこない。

「ちょ、ちょっとあなた! いきなりなんなんですかっ!」

「あ、お春。私にもなんか頂戴。お腹空いちゃって」

「無視ですか!?」

 覇切よりも一瞬早く我に返った百合が叫ぶも、秋桜はそれを華麗に流して覇切たちの前に料理を並べる春に注文を言う。

 春は苦笑いを浮かべながらその注文を受けると、奥に引っ込む――前に覇切たちに向けて『ごめんなさい』と、口を形だけ動かして謝ってきた。

(ごめんなさいって言われてもな……)

 隣に座る少女にちらりと視線を向けるが、彼女の方はというと涼しい顔をして出された茶を啜っている。

「……何?」

 わけもわからず戸惑いの視線を向けると軽く睨まれてしまったが、やはり彼女の顔には心当たりがない。『秋桜』という名前自体は『以前から春の家に居候をしている用心棒』という認識で頭の中にあったが、ただそれだけのことだ。

(というか……近いな)

 並んで二人楽に座れるくらいの空間はあるはずなのに、少女は覇切のすぐ横ぴったりに肩をくっつけて座っている。

 さりげなく距離をとっても表情一つ変えずにすすすっと詰めてくるため、端まで逃げてしまった覇切にはすでに逃げ場がない。

 困った覇切が助けを求めるつもりで対面の百合に視線を向けると、何故か百合は全身から冷気を漂わせつつ不機嫌さを隠さない様子で少女を睨みつけていた。

「ちょっとあなた……秋桜さん、でしたっけ? いい加減覇切さんから離れてください。迷惑ですよ」

「……そうなの?」

 百合の言葉を聞いて秋桜は小首を傾げながら、上目づかいで覇切を見つめる。

「まぁ、迷惑というか……ちょっと狭いから離れてくれると嬉しいかなって……」

「そ。なら仕方ないか」

 そう言ってすっと距離を取る。

 今度は常識的な距離なので覇切もようやく普通に座れて一安心だ。

「ってそうじゃないでしょう!」

 落ち着いたところで百合が再び声を上げる。

「なんかお二人とも丸く収まったみたいな顔してますけど、そもそもあなた誰ですか!? いきなり人の食事に乱入しておいて何様のつもりですか!?」

 有耶無耶になりそうだったところでそもそもの問題を秋桜に突き付けた百合だったが、当の秋桜はというと百合の激しい突っ込みなどどこ吹く風で、ため息交じりの鬱陶しそうな表情で髪をかき上げる。

「何よ、あんたさっき自分で言ってたくせにもう忘れてんの? 秋桜よ。紅真(こうま)秋桜。あんたの方こそ名乗りもせずに失礼なんじゃないの?」

「ぐ……どの口が言ってるんですか、どの口が……大体あなたも自分から名乗ってはいないでしょうが!」

 ばちばちと二人の視線の間に火花が散る。

「はいはーい。お二人ともそこまでですよ~」

 と、そこでいつの間にか、戻ってきていた春が秋桜の分の食事を運びながら仲裁に入る。

「お二人ともお元気なのは結構なことですけど。あまり騒がしくしてると他のお客様方の迷惑です。覇切さんも困っていますよ~」

「で、ですが……」

「まぁ、覇切が困るっていうんじゃ仕方ないか。別に覇切を困らせたいわけじゃないからね。あたしは」

「うぐ……あなたという人は……」

 挑発的な秋桜の言葉に悔しそうに歯噛みする百合に対して、秋桜の方はというとはそんな百合をおちょくるようにペロッと舌を出す。

「まぁ別に相席くらい別にいいじゃねぇか。減るもんでもなし」

 言いながら覇切はフーッと猫のように髪を逆立たせる百合の両肩を抑え落ち着かせる。

「とりあえず……あんたもそれでいいだろ? えっと……確か秋桜、だったか?」

「へぇ……いきなり呼び捨て? いい度胸してるじゃない」

「おっと、呼び捨てはまずかったか?」

 昨日の百合とのやり取りの時もそうだったが、どうも自分よりも年下相手だと無意識に呼び捨てにする癖がついている。

 不快に思われたのかと、今更ながらに伺いを立ててみたが、予想に反して秋桜の言葉はあっさりとしたものだった。

「別に。好きに呼べばいいんじゃない? あたしもあんたのこと名前で呼んじゃったし」

 言われてみればそうだったかもしれない。となれば、自分の方でも遠慮は不要だろう。

「それなら秋桜も一緒に飯食おうぜ。早いとこ食わないとせっかくの料理が冷めちまう」

 百合はまだ納得いかなそうに不満げな顔を浮かべていたが、結局その場は三人で食卓を囲むことになった。

 

        ◇

 

「ごちそうさま」

「はい、お粗末様でした~」

 朝の食事を済ませ、満足げな表情を浮かべる一同。

 空になった食器を春が手際よく片付けていく。

「今更ですけどここ『甘味処』ですよね?」

「うちは屈強な用心棒のみなさんもたくさん利用してくれていますからね~。どうせならと簡単な定食くらいはお出しできるようにしてるんですよ~」

「なるほど……確かに甘味でお腹いっぱいにはなりませんしね。今日頂いたものは焼き魚を中心とした内容でしたが他にも何かあるんですか?」

「基本的に定食の内容は日替わりなんですよ。その日手に入った食材で作らせていただいてますね~。あとは定食の他にも丼ものですとか……がっつり系が主体ですかね~」

 なるほどと、百合はどことなく関心のありそうな表情で頷く。

「何ですか~? 百合さんは料理に興味がおありで?」

「ま、まぁ、私も多少は嗜みますので」

「あらあら、意外と食いしん坊さんだったんですねぇ」

「胸を見て納得しないでください! あと私が言っているのは料理を作る方です! 食べる方じゃありませんから!」

 食後、覇切は目の前で繰り広げられる会話を適当に聞き流しながら茶を啜っていた。

 店に入った当初は借りてきた猫のような状態の百合だったが、この少しの間に随分と打ち解けたものだ。性格もあまり社交的とは言えない印象だったのでどうなることかと少し心配だったが、どうやら杞憂だったらしい。

 そんな風にぼんやりと考え事をしていると、ふと隣に座る秋桜の様子が気になって横目で様子を窺う。

「ん~……おいし♪」

 秋桜は追加で頼んだ食後の餡蜜を食べている最中だった。どうやら彼女の好物らしく、その表情は一口食べるごとに幸せな色いっぱいに染まっている。

「……? どしたの? 食べたいの?」

 と、覇切の視線に気づいた秋桜がきょとんとした表情で見つめてくる。

「ああいや、そういうわけじゃなくて」

「甘くて美味しいわよ?」

「別に味がどうとかいう問題じゃ……」

「はい、あーん」

「むぐっ……!?」

 白蜜のたっぷりかかった寒天を乗せた匙を、開いた口に無理やりねじ込まれる。

 口に入れた瞬間蜜の控え目な甘さが口内に広がって、確かに美味しい。

「どう? 美味しいでしょ?」

「……ああ、確かにな」

「それじゃあもう一口」

「待て待て待て待て」

 すぐさまもう一口目を器から掬い上げようとする秋桜を慌てて制する。

「何よ、つれないわねぇ」

 秋桜は面白くなさそうな顔をするが、覇切としては気が気ではなかった。何故なら――

「覇切さん……」

 いつの間に話が終わったのか春の姿はすでにそこにはなく、卓を挟んで正面に座る百合が白い眼をして二人の様子を眺めていた。

「いや待てこれは違うぞ?」

「何が違うのかはわかりませんが何も違わないでしょう?」

 最早白いを通り越して屋内にも拘らず吹雪でも巻き起こりそうなほど冷たい視線の百合だったが、そんな彼女に対して秋桜はニヤッと意地の悪い笑みを浮かべてみせる。

「百合、だったっけ? 何? あんたもしかして妬いてるの?」

「は、はぁ!? どうしてそうなるんですか!? 意味が分かりませんっ」

 秋桜の指摘に一転、百合はその顔を一瞬で耳まで真っ赤にしてしまう。

 こうして周囲の言動に一喜一憂し、コロコロと変化する百合の表情は素直に可愛らしくも思えるが、それを覇切が口にすれば絶対に怒るので言葉にせずに飲み込んだ。

「覇切さんも! 何ニヤニヤしてるんですかっ」

「いや、悪い悪い。謝るからそう怒るな。秋桜も、あまり百合をいじめてくれるなよ。からかいがいがあるのはわかるけどな」

 謝りながらもさりげなく火に油を注ぐ覇切に、案の定百合が身を乗り出して抗議の声を上げる。そんな百合を宥めるように、覇切は笑いながら彼女の頭をぽんぽんと叩く。

「なんか、こうして見てると……あんたたちまるで兄妹みたいね」

 そんな二人の様子を眺めながら秋桜は感心したような声を上げた。

 その言葉に覇切たちは二人揃って動きを止める。

「はぁ?」

「な、何を……一体どこをどう見たらそうなるんですか?」

「うーん……」

 言われて秋桜は口元に手を当てて考えるような動作をする。

「どこをって、雰囲気が? 無気になってる妹をからかい気味にあしらう兄の図みたいな」

 自分で言って上手い例えだと思ったのか、一人でうんうんと頷く秋桜を尻目に覇切は百合の方に視線を向ける。

 すると、百合の方もちょうど覇切の方を向いたところで、ばっちり目が合ってしまうものの、ふいとすぐに逸らされてしまった。

 先ほどの熱がまだ引いていないのか、その頬は心なしか赤く染まっているように見える。

「へ~え……その様子だと覇切はともかく百合の方は満更でもないみたいね~」

「ふ、ふん。何を馬鹿な……覇切さんが兄だなんて不本意極まりないだけですよ。ま、まぁそういうのが欲しいと思った時期がなかったわけではありませんけど……」

 言い訳をするみたいにぼそぼそと呟く百合だったが、不意に自分に視線が集まっているのに気付くと誤魔化すように話題を変える。

「だ、大体、今はこんな話をしている場合じゃないんですよ。こっちはついでですけど涅々さんからの依頼の件もありますし、私は十種神宝のことだって……」

「かんだから?」

 と、その言葉を聞いて秋桜が思わず首を傾げた。

「何それ? どっかで聞いたような気もするけど」

 咄嗟に話題を逸らそうと出した話だったが、耳慣れない単語に興味を惹かれたのか、秋桜が物珍しそうな表情で訊いてくる。

「十種神宝。この神州の伝承に残る神の遺産のことですね~」

 と、問いかける秋桜の疑問に答えたのは、百合ではなくお茶のお代りが入った急須をお盆に乗せて戻ってきた春だった。

 意外な人物からの回答に覇切が感心したような声を出す。

「なんだ、春。お前知ってたのか?」

「知ってるも何もこの名前自体は割と有名ですよ~。何せ皇主殿下から直々のお触れが出されたくらいですし~」

 にも拘らず、名前すらろくに憶えていなかった若干二名はさっと視線を逸らした。

「その名の通り十種存在する今は亡き神々の宝。瀛都鏡、邊都鏡、八握劔、生玉、死返玉、足玉、道返玉、蛇比禮、蜂比禮、品物比禮の十種が存在し、すべて集め天門へと奉納した者の願いを叶えてくれるという夢のようなお話ですね~」

 淀みなく説明をしながら、春は順番に覇切たちの湯呑へと茶を淹れていく。

「その『願いが叶う』という事象自体がどういった形で為されるのかはわかりません。何かが現れて叶えてくれるのか、それとも自分自身が叶える力を宿すことになるのか……まぁそれは集めてからのお楽しみってところですかねぇ」

 ちょうど全員分の茶を淹れ終わったところで春の説明が終わった。

 それを聞いてぽかんと呆気に取られる一同。

「……詳しいな、春。おまえこんなのに興味があったのか?」

「いえ、春はそれほど興味がないんですけど……まぁこういうお仕事してますからねぇ。用心棒の方々もよく利用されるので、結構会話が耳に入ってきちゃうんですよ~」

「ということは……もしかして場所なんかの情報も入ってきたりするんですか?」

「あ~、それはちょっと微妙ですね~。皆さんも知ってる通り、存在自体が不確かなものというのもあるんですが、今は探している人自体が殆どいないんですよ~」

 表面上は落ち着きを装いながらも興奮気味に問う百合に、若干申し訳なさげな表情を浮かべて春が答える。

「今やあれは皇主の妄言だ、なんていう人もいるくらいですからねぇ。たまに物好きの人とかが探したりしてるみたいですけど、祠に奉納されているとか、地中深くに埋められているとか信憑性のない噂程度の情報しかないのが現状ですよ」

「そう、ですか」

 涅々からの話である程度分かっていたこととはいえ、新たに情報を得られるかもと期待していた百合は肩を落としてしまう。やはり早々上手く事は運ばないらしい。

「でも百合さん。こう言ってはなんですが中々無茶しますね~。仮に十種神宝が本当に存在していたとしても神州全土に十個ですよ~。しっかりとした準備も情報もなしじゃ一生かかっても探せませんよ」

「まったくだな。無計画が過ぎるぞ」

 二人の意見に百合は拗ねたように唇を尖らせる。

「しょ、しょうがないじゃないですか。そもそも私だって僅かな手がかりを追ってこの町に来たんですよ。それで水無月家が神宝を探してるなんて噂があったから話を聞こうと思ったのにあの人ときたら……」

 途中から苦虫を噛み潰したような顔になる百合。

『あの人』というのはおそらく涅々のことだ。

 大方、最もらしい理屈を並べ立てられて詳しい話は聞けなかったのだろう。涅々はそういうところで真面目だし、百合も無理やり聞き出そうとしたというようなことを以前言っていたので、二人の間に少々いざこざがあったことは想像に難くない。

「でもさぁ……その十種神宝とかいうのって、集めたところでなんか意味あるの?」

 覇切がそんな風に考えているとき、不意にそんなことを言い出したのは秋桜だった。

 意外な人物からの意外な言葉に一同呆気に取られるが、すぐに我に返った百合が眼光鋭く秋桜を睨みつけた。

 場の空気が一瞬でピンと張りつめたのがわかる。

「どういう、意味ですか?」

「言葉通りの意味だけど?」

 どこか余裕のなさそうな百合に対して、秋桜は至って涼しい表情だ。

 つい先ほどまでのやり取りとは違い、からかっているような様子は一切見えない。

「意味ならあるでしょう? どんな願いも叶うんですよ? 巨万の富だろうが、世界を統べる力だろうが願いさえすればなんだって手に入るってことですよ? これ以上の意味なんてないじゃないですか。それともあれですか? 十種神宝なんて存在しないとかそういう話をしてるんですか? だとしたらそれは前提条件の否定であって、今しているのはそういう次元の話じゃないので、秋桜さんの言葉は筋違いもいいところです」

 若干語気を荒げつつも早口に答える百合だったが、そんな百合を見ても秋桜は少しも動じず、やれやれといった風に肩を竦めてみせた。

「落ち着きなよ。誰もそんなこと言ってないし、とりあえずはあたしだって神宝がある前提で話を進めてるんだから」

「っ……だったら……!」

「あたしが意味ないって言ったのは、実利的な話じゃなくて気持ちの問題のことよ」

 なおも食って掛かろうとする百合を制して秋桜が続ける。

「何でも望みを叶えてくれるんでしょ? 宝を十個集めて願うだけで。確かにそれって便利っていうか欲しくなるのもわかるんだけどさ……それってやっぱずるいでしょ」

「ずるい?」

「だってそうでしょ? 仮に命に代えても叶えたい望みや願いがあるんなら、それこそ命を懸けて自分の手で掴みとってこそ価値があると思えるんじゃないの? 少なくともあたしはそんな降って湧いたようにぽんと望みを叶えられても素直にそれを喜べないし……何より、そんな神様に願っただけで叶う、みたいな都合のいい話なんて信用できない」

 秋桜の口から告げられた言葉に百合が息を呑む。

 対する秋桜の瞳は真剣そのものだ。茶化しているような雰囲気などは一切なく、彼女の言葉は彼女のこれまで歩んできた人生そのものを物語っているのだということを知らしめているようだった。

 先ほどまでの秋桜とはまるで違う強い意志のこもった言葉に覇切は少し驚いたが、しかしこうなると最早それはどちらが正しいということではなく単なる価値観の問題だ。

 言った本人も別に自分の考えを相手に押し付けるつもりもないのだろうが、今この状況で正論とも取れる言葉を眼前に叩き付けられた百合の心境はというと――

「……あなたに」

 やっとのことで絞り出した言葉が場に重苦しく響く。

「あなたに、何がわかるっていうんですか。いいですよね、自分の力で何もかもどうにかできると思える人は」

 両手を机について静かに立ち上がる百合。

「私にはそんな考えはできませんし……そんな風にどんなに努力したところで、手を伸ばしたところで……自分の力だけではどう足掻いてもどうにもならない理不尽だってこの世にはあるんですよ」

 そう、吐き捨てるように告げた百合は早足に店を飛び出していってしまう。

 突然席を立った百合に呆気に取られ、結果的にその背を見送ってしまう三人。

「秋桜さん……いじめすぎですよ」

「なんでそうなるのよ。あたしは間違ったこと言ったつもりはないわよ」

 そう答えるものの秋桜も言い過ぎたとは思っているのか、どこかばつが悪そうにしているように見える。

 覇切としても別に秋桜の言ったことが間違ってるとも思えないし、秋桜に悪意があったとも思っていないので、特に追求することもせず立ち上がる。

「悪い。ちょっと追いかけてくるわ。春、飯美味かった。ごちそーさん」

 そう言って全員分の食事代を卓の上に出してから店の出口へと足を向ける。

「あ、覇切っ」

 と、席を立ったところで呼び止められ振り返ると、後ろ頭を掻きながら言葉を濁している秋桜がいた。

「あー……その、なんていうか……あたしいつも思ったことすぐに口に出しちゃうから……だから別に百合をいじめたわけじゃなくて、その、なんていうか……ごめん」

 今の今まではっきりと思ったことを口にしていた秋桜にしては珍しく、歯切れの悪い言葉に覇切は苦笑してみせる。

「ああ、気にするなよ。別に秋桜の言ったことは間違いじゃない」

「でも……」

「まぁそうは言っても難しいか。だったら今度また会うときに直接謝ってくれよ。あいつも今頃頭冷えてるだろうさ」

「そう……うん。わかった。あんたがそう言うならそうするわ」

 そう自分の言葉に素直に頷いてはにかむ秋桜を見て、覇切はふと、さっきから気になっていたことを思い出した。

「さっきも訊きそびれたんだが……」

「何?」

「結局秋桜はなんで俺の名前を知ってたんだ? もしかして俺たちどこかで会ったことがあるのか? 申し訳ないけど全然記憶になくて」

「んー……」

 覇切の言葉に残念がるでも悲しがるでもなく、卓に頬杖をつきながら少し考えるような仕草を見せる秋桜からはなんとも判断が付きにくい。

「会ったことがあると言えば……ある、かな?」

「本当か?」

「でもないと言えばない、気もする」

「……どっちだよ。それじゃあどうして俺のこと知ってたんだ?」

 埒が明かないのでもう一度同じ質問を直球でぶつけてみることにすると、秋桜はきょとんとした表情になった後、頬杖をついたままの態勢でうーんと唸り――

「――さて、どうしてでしょーか?」

 にひっと悪戯っぽい微笑みを向けてきたものだから、不意打ちの仕草にどきりと胸が高鳴った。

「ほら。こんなところで無駄話してる暇なんてないでしょ? さっさと行きなさいよ、お兄ちゃん」

「あ、ああ……」

 なんだかうまく誤魔化されたような気がするが、秋桜の言う通り今は百合の方が優先だ。

 強引にそう結論付けると、今度こそ百合を追いかけて覇切は店を出ていった。

 

        ◇

 

 店を出て探すことしばらく。ようやく百合と思しき背を見つけたのは町の外れだった。

 堀の水面を見つめるその背は心なしか普段よりも小さく見える。

 ゆっくり近づいていくと百合もまた覇切に気が付いて、ばつが悪そうに苦笑してみせる。

「ごめんなさい。いきなり飛び出してしまって。あ、料理のお代……」

「気にすんな。奢るって約束だっただろ? それに誰かさんのおかげで追いかけっこには慣れてる。今回は俺が鬼だったけどな」

 あまり深刻になり過ぎないように冗談めかして言う覇切だったが、その言葉にも百合は力なく笑うだけだった。互いの間に沈黙が降りる。

 そうして重い口を先に開いたのは百合の方だった。

「本当は、わかってるんです。秋桜さんの言っていたことの方が正しいんだってこと」

 ギュッと拳を握りしめる百合。

「自分の命を懸けて、死に物狂いで努力をして、望みを叶えることができたのならそれほどかっこいいことはないと思います。私だってできることならそうしたい。だけど……」

 百合は半ば睨みつけるような視線を覇切に向ける。

「そうは言っても私にはどうすればいいのかわからない。世の中万事が万事綺麗にできているわけじゃない。努力だけじゃどうにもできないことは確実に存在するんです。そしてそうであるなら私たちは諦めるか、別の道を探すべき……そんなこと、誰かに言われなくたって最初からわかっているんですよ」

 例えば死んだ人間を生き返らせたりと、そういったことが当たるのだろう。

 そうした世界の法則を捻じ曲げるようなことは、確かに人の努力じゃどうにもできない。

 実現させるのならば、それこそ神に願う外ないだろう。

「この世の理を捻じ曲げてでも手にしたい願いがあるんです。秋桜さんはずるいと言いましたが、ずるくて何が悪いんだって思う自分がいるんです。例えかっこ悪くたって、周りからは馬鹿にされるような泥に塗れた邪道であったって……お願いするだけで叶えてくれるのであれば私は喜んで神に祈りを捧げますよ」

 それはある種決意に満ちた眼差しだった。自分の道を邪魔する者総てを切り裂こうとする極限にまで磨かれた刃を思わせる強い視線。

 唯一つの目的を果たすためにどんな障害も斬り捨ててみせるという執念にも満ちた研磨は病的とも言え、切れ味ばかりに目が行った先自分自身が摩耗していることに気付いていない。

 触れればいかなるものも切り裂いてしまうというのに、触れただけでいかなるものにも壊されかねない危うい刃は剥き出しのまま、覇切の瞳を真っ直ぐに見つめている。

「覇切さんは、どう思われますか?」

 気圧されそうなほど強い視線の合間、不意に百合がそんなことを訊いてくる。

 どこか縋るような眼差しを前にして、覇切は何と答えるか少しだけ逡巡するが、やがて自分の考えをはっきりと述べることに決める。

「俺は……どっちかと言えば秋桜と同じ考えだ。自分で持っている願いだったら可能な限り自分で掴み取るのが筋なんだと思うし、どうにもできないことならすっぱり諦めて、また別の道を探すべきなんだと思う」

「そう、ですか」

「だけどお前の考えもわかるつもりだ。どうしたって取り返すことのできない過去やどうにもできない未来を変えたいっていう執着も、俺には分かるから」

 言ってて自分の優柔不断さに辟易するが本心を伝えたつもりだった。

 百合からの返答はない。

「……なぁ、俺も一つ訊いてもいいか?」

 無言で先を促す百合に、緊張から一つ息を吐いた後に言葉を口にする。

「そこまでして叶えたいお前の願いっていうのは、何なんだ?」

 以前聞いた話だと、百合は理不尽を壊したいと言っていた。

 加えて黒業を癒す彼女の『呪い』。覇切は、百合はその『呪い』を消し去りたいんじゃないかと漠然と考えていたが、それは結局のところ憶測に過ぎない。

 決して興味本位から聞いたつもりではなく、できることなら百合が願いを叶える手助けをしたいという覚悟の元訊いた言葉だったが――

「それは……教えられません」

 やはりというか、返ってきた言葉は頑ななものだった。

「だって覇切さんには、関係ないじゃないですか。これは私が一人で背負うべき問題なんです。覇切さんだけでなく周りの誰にも迷惑をかける気はありません」

 ともすれば突き放すような物言い。しかしその瞳には決してそれだけではない色が宿っていた。

「今までだってそうしてきました。これからだってそうするつもりだったのに……」

 ずっと平気だった。これからも平気でいられると思っていた。そう、思っていたのに。

「どうしてあなたは……こんな私に構うんですか?」

 そうして振り返った泣きそうな表情にどくんと、一際大きく鼓動が跳ね上がった。

 本当のことを言うべきかどうか迷い、言葉に詰まる。

 そもそも覇切が百合のことを気にかけているのは涅々にそう頼まれたからだ。しかしそれを正直に告げるには、百合の眼差しは危なげ過ぎた。

 限界まで薄くなった刃は少しの風にも容易く崩れ去ってしまうことだろう。

(……だけど、本当にそうなのか?)

 胸の中に生じた微かな違和感に自問する。

 確かに涅々に頼まれて百合の様子を見守っていたのは本当のことで、そうでなかったとしても多少の手助けくらいはしただろうが、宿を与えたり、その後も一緒に行動する必要などどこにもなかったはずだ。

 今だって、店を飛び出した百合を追いかけたのは涅々に言われたことに対する義務感からだっただろうか? それとも百合がどことなく妹――八恵に似ているから?

 今や覇切も自分自身の気持ちがわからなくなっており、目の前の少女の眼差しとどう向き合えばよいか、すぐには判断がつかない状況にあった。

 そうしてしばしの迷いの末、口を開こうとしたその時だった。

「――っ!?」

「今のは……」

 突如響き渡った悲鳴に二人して反応する。

「行くぞっ!」

「はいっ!」

 即座に話を中断して、駆け出したのはほぼ同時。先の話はとりあえずのところ脇に投げて、今は緊急事態だ。声のした方向目指し百合と二人急いで向かう。

「人が集まってます!」

 視線の先にはすでに悲鳴を聞きつけた人が集まり始めていた。

 中でも一際人数の集中している地点を見つけると、人混みを掻き分けてその中心部へとたどり着く。そして――

「うっ」

「こいつは……」

 目の前に広がる惨状とも言える光景に息を呑む。

 まず目に入ったのは、辺り一面に広がる夥しい量の血液だった。次いでその中に浮かぶ肉の残骸。

 上半身を失い、腰から下だけになった身体は一目見て人間のそれと分かる形状をしていたが、まるで無理やり千切られたかのような荒々しい切断面からは桃色の腸がずるりと顔を覗かせており、率直に言って直視をするに堪えない光景だった。

「無理するな。別に見られなくたって恥ずかしいことじゃない。当たり前のことだ」

「は、い……」

 覇切の隣に立つ百合は顔を真っ青にして両手を口に当て震えている。

 覇切とて無論全く平気というわけでもないが、長く用心棒をやっていればこういう光景に出会うこともないことはないので少しは耐性がついていた。

(上半身がないってことは……)

 軽く辺りを見回してもそれらしき物体はどこにも発見できない。

 そうなると考えられるのは持ち去られた可能性だが、それにしたって人ひとりの半身を抱えて逃げるなんて重労働過ぎるし、例え神巫であってもどの道目立つに過ぎる。

 ということは――

「……食われたのか」

 涅々から聞いていた土蜘蛛による街中での人的被害。また状況を詳しく訊こうと思っていたところだったが、図らずも現場を直接目撃することになってしまったようだ。

 見たところ地面に広がった血は乾いていない。身体の余熱で僅かに湯気が立っていることから考えてみても、おそらくまだ食われてからそう時間は経っていないはずだ。

「は、覇切さん……これ」

 呼ばれて振り向くと、百合が血溜まりにしゃがみ込んで何かを指さしていた。

 無理をするなと言ったのに……。

「どうした?」

「この右腕……黒業に侵蝕されてます」

 百合が見つけたのは下半身と同様に食い千切られた跡の残る右腕だった。

 食われた拍子に飛んだのか、少し離れた位置に袖ごと転がっている。

 パッと見ではわからなかったが、しゃがみ込んで袖をめくってみると確かに黒い火傷のような痕が螺旋状に這い回っていた。

 現状はその事実だけを受け止めることにして、めくっていた袖を元に戻し、いまだ顔色の悪い百合の背中をさすりながらもといた場所まで戻ってきたその時だった。

「なんだ、人が集まっているから何かと思えば……転がっているのはただの塵じゃないか。来て損をしたな」

 聞こえてきた心無い言葉に視線を向けると、そこには昨日黒化病の少女を恫喝していた用心棒たち二人が血溜まりに浮かぶ死体を蔑むように見下していた。

「積極的に塵掃除を買って出るとは。化物の癖に土蜘蛛も中々見どころがあるじゃないか」

「あなたたち……!」

 男たちの暴言に我慢ならないといった風に、自分の体調にも構わず噛みつこうとする百合を覇切は手で制して落ち着かせる。

「放っておけ百合」

「ですが……!」

「それより今はこっちが優先だ」

 覇切の指さした先、血だまりのすぐ脇に僅かだが足跡のような痕跡が残っていた。しかし、周囲には他にそれらしき跡は発見できない。

(となると……上か?)

 足跡の位置から距離を測って、一息に跳躍する。屋根の上に降り立つと、やはり先ほどの足跡と同じような痕跡が町の外へ向かって点々と延びていた。

「もう、覇切さん……いきなり何なんですか」

 遅れてやってきた百合は何やら文句を言っていたが、足元の痕跡を見て表情を変える。

「俺はこの跡を追ってみる。百合は念のためこの場に留まって、必要があれば町の中も見て回ってほしいんだが……大丈夫か?」

「問題ありません」

 そう言ってみせる百合はまだ少し顔色が悪いように見えたが、幾分か持ち直したようだ。

「というか流れで返事してしまいましたけど、この依頼は元々覇切さんの仕事なのでは?」

「ばれたか。ま、気が向いたらで構わないさ」

「……別に、やりますけどね。宿代、払わなきゃですし」

「ありがとな」

 ぶっきらぼうに返事をする百合に苦笑して、覇切は彼女の頭にぽんと手の平を乗せる。

 とりあえずは一旦その場で別れることにして、覇切は神威を脚部に集中させると一足飛びに町の外へと飛び出す。着地と同時に足跡を追ってそちらに向かって駆け出した。

 足跡は神威の森の中へと続いているようだ。

(森の中となるとこのまま足跡を追っていくのは難しいか……)

 そう判断した覇切は、先の跳躍の前と同じように自らの神威の流れに集中する。自らの神威を大気中の神威と結合させ、その範囲を一気に広げてみせる。

 神巫の神威操作技術の一つで、これにより神巫はその知覚範囲を広げることができる。

 知覚できる最大範囲は神巫によって個人差があるが、覇切の場合、一方向だけに集中すれば五十間程度先まで気配を探ることが可能だ。

「――見つけた」

 前方およそ二十間先に、標的と思しき気配を発見した。

 若干の方向修正をかけ一気に飛ばす。そうして徐々に前方を駆ける影が見え始めてきた。

 パッと見たところ、四足歩行の動物――とりわけ狼のように見えなくもないが、その体躯は通常のそれよりも二回りほども大きく、大地を掛ける四本の脚も丸太のように太い。

 これだけでも異常と言えるほどの見た目だったが、極めつけはその全身を覆い隠すように蠢く、黒い粘液にも似た体表だ。

 あれこそ間違いなく土蜘蛛。この神州に住まう人間たちの頭を最も悩ませる脅威である。

 一気に跳躍して土蜘蛛の前へと回り込む。見ると土蜘蛛の口元から着物の袖のような布がひらひらと翻っている。先の惨劇の犯人はまず間違いなくこいつだろう。

「■■■■■――――ッ!」

 と、いきなり目の前に躍り出た覇切に驚いたのか、土蜘蛛はこの世のものとも思えないような絶叫を上げた。鳴き声としての形を成さない耳をつんざく不快な音を放ちながら、土蜘蛛は速度を緩めることなく覇切に突っ込んでくる。

「はっ……」

 しかし覇切は僅かも怯むことなく、すれ違いざま流れるようにその身体に向かって一太刀浴びせてみせた。ぐちゃっという不快な音と共に土蜘蛛の脇腹から黒い血液が噴き出す。

「ち……きたねぇな」

 頬に飛んできた飛沫を舌打ちと共に拭いつつ、すぐさまもう一度土蜘蛛と向き合う。

 振り向いた直後に頭上から振り下ろされた爪の一撃を紙一重で躱して、前脚を一本斬り飛ばした。そして体勢を崩したところでもう一撃。

「さっさと終わらせてもらうぞ」

 がばりと大きく開いた口を前に冷たく呟くと、鋭い牙に臆することなく向かっていく。

「じゃあな」

 冷たく別れの言葉を呟きと共に開いた口目がけて刃を通すと、その勢いのまま土蜘蛛を一瞬で開きにした。

 どちゃりと湿った音を立てて地面に転がり痙攣する巨大な体躯は、やがてその動きを停止させると徐々に乾燥していく。

 そうして最後にその場に残ったのは塵状に積もった土蜘蛛の骸と、赤く不気味な輝きを放つ石だった。これは土蜘蛛の核とも言える部分で、一般に魂魄(こんぱく)と言われているものだ。

 詳しいところはまだ解明されていないが土蜘蛛の原動力となっているものではないかと推測されている。

「思ったより呆気なかったな」

 ともあれこれで涅々からの依頼は完了だろう。この程度の相手に涅々が自分へ依頼するというのも多少違和感があったが、天狼衆は余程忙しいのだろうか?

「……ん?」

 と、魂魄を拾ったところで、覇切は妙なことに気付いた。

 通常の魂魄は色こそ多少の淀みがあったり、透き通るような赤色だったりと純度が一定しないが形は総じて球形で統一されていたはずだ。

 しかし今覇切の手の内にある魂魄はところどころへこんでいたり、逆に出っ張っていたりとどうにも歪な形をしている。

「ま、念のためな」

 どの道涅々への報告に魂魄は必要なので、ひとまず懐に収めて町へと戻ることにする。

 

        ◇

 

 戻ってくると奉行所の役人たちが現場に駆け付けて事後処理をしているところだった。

「悪い、ちょっといいか?」

 役人の一人に声をかけ、先ほどの魂魄を見せた後、件の土蜘蛛を退治したことを告げる。

 いきなりの部外者からの報告に多少訝しがられはしたが、涅々の名前を出したらすんなりと話が通った。

 とりあえずはこれで一件落着だろうが、やはり先ほど拾った魂魄のことが気にかかる。

(後で義姉さんにでも訊いてみるか……ん?)

 そんな風に胸の内にもやもやとしたものを抱えていると、通りの向こう側から百合がこちらに向かって手を振っているのが見えた。軽く手を上げ、合流を果たす。

「よぉ、そっちはどうだった?」

「こっちには特に何も見つかりませんでした。怪しい人物も見当たりませんでしたし……そちらはどうでしたか?」

「ああ。こっちは例の足跡を追って森の中まで入ってったんだが――」

 事の顛末をざっと説明すると、百合はわかりやすく安堵の息を漏らした。

「よかった。それじゃあこれで涅々さんから話があったっていう事件の方は解決したってことでいいんですね? 安心しました」

 ほっと一安心といった風に表情を緩める百合。

 しかし、一方で覇切の方はというと顎に手を当て眉間に皺を寄せていた。

 やはり、どこかすっきりしない。

 状況的に見て、先ほど倒した土蜘蛛が標的だったことは間違いないはずだが、魂魄のことを抜きにしても奇妙な違和感がどうしても拭えない。

 明確な根拠も何もない、言うなればただの勘に過ぎない程度の違和感だったが、こういう時の直感ほど中々馬鹿に出来ないことも多い。

「覇切さん……? どうかされたんですか?」

 いつまでも難しい顔で黙りこくっていたら、百合が怪訝な顔で覗き込んでくる。

「ああいや、何でもない。それより俺は今から義姉さんのところに寄ってみるつもりでいるけど、お前はこれからどうする? もし一緒に行くなら……」

「いえ、私は遠慮しておきます」

「……だと思ったよ」

 予想通りの返答に苦笑いを浮かべた覇切は、その場で百合と別れ、涅々の屋敷へと足を向けることにした。

 

        ◇

 

「留守か……」

 百合と別れた後、そのままの足で涅々の屋敷を訪れた覇切だったが、目的の相手はどうやら外出中のようだった。何度か呼び鈴を鳴らしてみても返事がない。

 昨日久しぶりに会って会話をしたため若干忘れかけていたが、本来涅々は水無月最高戦力である天狼衆の筆頭として多忙な毎日を送っているのだ。

 いつも余裕の表情なのでわかりづらいが、本来なら覇切と会っている暇などないくらいに忙しいはずで、昨日も限られた時間の合間を縫って面会の機会を作ったのだろう。

 今更になって昨日待ち合わせに遅刻したことへの罪悪感が湧いてくる。

「どの道今日のところは見送るしかないな……」

 事件の報告も兼ねて先ほどの魂魄のことも訊こうと思っていたのだが、仕方がない。

 とりあえず用件だけを手紙に書き記し、玄関に残した後に帰宅の途に就くことにする。

 結局その日のうちに胸の内のもやもやは晴れることなく、これで終わりじゃないという漠然とした予感は、その日床に就くその時まで頭の中から消えることはなかった。



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