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勇者のいない世界で  作者: DA☆
第三部・「僕の役割、私の役割」
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   ○




   ○




   ○




 システムキッチン。IHヒーター。フライパンに割り入れた卵に水を差す。じゅぅぅぅぅ……。



 ―――さくら。


 ―――なに?


 ―――あなた、ゆうべも夜中までネットでポーカーやってたでしょう。


 ―――あぁ、あの時間に帰ってきたの、母さんか。しかたないじゃん、ファイナルテーブルまで残っちゃったんだから。


 ―――ファイナルだかなんだか知らないけど、部屋中ポーカーの本で散らかってんのどうにかなさい! あなた、高校生になった自覚あるの?


 ―――ちゃんと起きて、こうして朝メシ作ってるじゃん! 娘の入学式に来ない上に、メシまで作らせてるとかさぁ、あんたも高校生の親になった自覚持ってくんない?!


 ───親に向かって『あんた』とはなんですか! いいかげんその悪い口をなんとかしないと、ろくなことにならないわよ!


 ―――おはよう、母さん、さくら。そのへんにしときなさい。


 ―――あ、父さん、おはよう。……何その格好? ゴルフウェア? ……信じらんない! 娘の入学式の日にゴルフとか!


 ―――しかたないんだよ、取引先のたっての希望でさ……。この埋め合わせは必ずするから!


 ―――高校の入学式は一生に一回だ! 埋め合わせが利くかぁーっ! うちの親はどうしてこうそろいもそろって!





 狭い玄関。ブーツ。黒いローファー、大きいのと小さいの。正面に、扉。



 ―――さすがにつむじを曲げたねぇ、母さん。……靴べら取ってくれる?


 ―――はいどうぞ。……娘がしっかりしすぎてるのも考えもんですねぇ、お父さん。今からでもどっちか休みますか?


 ―――いいよ、もう。ひとりで大丈夫、子供じゃないし。さっさと仕事行け、せいぜい学費を稼いでくれ。高校は公立にしたけど、大学はカジノ合法な海外に留学してやんだから。


 ―――えー、それな、ととと父さんは反対だぞ。将来が見えてるのはすごくいいことだ、いいことなんだが、あー、一人娘が海外は、そのぉなんだ、……。


 ―――その話はまた今度ゆっくりしましょ。それじゃ、あとお願いね。


 ―――……待て。


 ―――?


 ―――?


 ―――ハグしてけ、バカ親ども。忘れてくれるな。


 ―――そうでした。


 ―――そうでした。




 ―――高校入学おめでとう、さくら。よくできた娘で、いつも本当に感謝してる。入学式、行けなくてごめんな。


 ―――忙しいのをいつも言い訳にして本当にごめんなさい。ときどきあさっての方に向いて迷惑をかけることもあるけれど、私たちの愛情はいつだって、かけがえのないあなたのためにある。それだけは信じて……。


 ―――うん。……うん。


 ―――高校生活、楽しんでね。友達をたくさん作って、もっとステキな女の子になって、きっと恋もして、そして、




 幸せに、なりなさい。




   ○




   ○




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