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システムキッチン。IHヒーター。フライパンに割り入れた卵に水を差す。じゅぅぅぅぅ……。
―――さくら。
―――なに?
―――あなた、ゆうべも夜中までネットでポーカーやってたでしょう。
―――あぁ、あの時間に帰ってきたの、母さんか。しかたないじゃん、ファイナルテーブルまで残っちゃったんだから。
―――ファイナルだかなんだか知らないけど、部屋中ポーカーの本で散らかってんのどうにかなさい! あなた、高校生になった自覚あるの?
―――ちゃんと起きて、こうして朝メシ作ってるじゃん! 娘の入学式に来ない上に、メシまで作らせてるとかさぁ、あんたも高校生の親になった自覚持ってくんない?!
───親に向かって『あんた』とはなんですか! いいかげんその悪い口をなんとかしないと、ろくなことにならないわよ!
―――おはよう、母さん、さくら。そのへんにしときなさい。
―――あ、父さん、おはよう。……何その格好? ゴルフウェア? ……信じらんない! 娘の入学式の日にゴルフとか!
―――しかたないんだよ、取引先のたっての希望でさ……。この埋め合わせは必ずするから!
―――高校の入学式は一生に一回だ! 埋め合わせが利くかぁーっ! うちの親はどうしてこうそろいもそろって!
狭い玄関。ブーツ。黒いローファー、大きいのと小さいの。正面に、扉。
―――さすがにつむじを曲げたねぇ、母さん。……靴べら取ってくれる?
―――はいどうぞ。……娘がしっかりしすぎてるのも考えもんですねぇ、お父さん。今からでもどっちか休みますか?
―――いいよ、もう。ひとりで大丈夫、子供じゃないし。さっさと仕事行け、せいぜい学費を稼いでくれ。高校は公立にしたけど、大学はカジノ合法な海外に留学してやんだから。
―――えー、それな、ととと父さんは反対だぞ。将来が見えてるのはすごくいいことだ、いいことなんだが、あー、一人娘が海外は、そのぉなんだ、……。
―――その話はまた今度ゆっくりしましょ。それじゃ、あとお願いね。
―――……待て。
―――?
―――?
―――ハグしてけ、バカ親ども。忘れてくれるな。
―――そうでした。
―――そうでした。
―――高校入学おめでとう、さくら。よくできた娘で、いつも本当に感謝してる。入学式、行けなくてごめんな。
―――忙しいのをいつも言い訳にして本当にごめんなさい。ときどきあさっての方に向いて迷惑をかけることもあるけれど、私たちの愛情はいつだって、かけがえのないあなたのためにある。それだけは信じて……。
―――うん。……うん。
―――高校生活、楽しんでね。友達をたくさん作って、もっとステキな女の子になって、きっと恋もして、そして、
幸せに、なりなさい。
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