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勇者のいない世界で  作者: DA☆
第三部・「僕の役割、私の役割」
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 「話にならなかったよ。文字通りの意味だ。こちらの用意した論点に乗ってこなかった」大宅は憮然として、待っていた僕らに報告してくれた。「そもそも停学や退学の処分は、まず職員会議を通らなくてはダメなんだそうだ。校長はその決定に従っているまで、というワケだ。けれど職員会議を、ことに生徒の処分について決定権を握ってるのは、生徒指導のグラサンだ。わかってるだろうけど、あいつは同じ穴のムジナさ。校長の忠実なる部下なんだよ。


 ニヤニヤしながら言われたよ―――そう、飛鳥君みたいな笑い方でね。そんなに言うなら、停学にした二人の処分を、正当防衛を認めて撤回し、成績の素行記録からも削除するよう、職員会議で進言してやろう、とね。彼らは明日にも登校してくる。


 だがそれが、妥協点だそうだよ。オークキングの処分はない。魔王の寛大な慈悲を賜る代わりに、どれだけ彼の支配が強固で、どれだけ思い通りになるか、見せつけられたってわけだ」


 「みんなの証言や、飛鳥さんの撮った動画は?」僕は尋ねた。


 「証言だけではあてにならんし、動画は誰かわからん、と一笑に付された」まぁ、それが正常な判断か。オークキングが引っかかってくれただけ儲けもののクオリティだったもんな。「それに、あの動画が鮮明だったとしても、どうかな。暴力行為が認定されなければ処分には相当しない、校長はその一点張りだ。オークキングにも教育を受ける権利があってね、それを剥奪する処分は、慎重の上にも慎重を期さねばならんのだそうだ」


 「停学は即時出しやがったくせに……」飛鳥さんは鼻白んだ。


 「あれは、人ぶん殴ったところを大勢が見ているわけだから、しかたないな。逆に言えば、オークキングがいかに陰湿に事を進めてたか、って証左でもある」


 「だから、こっちが……」殴られてりゃ一発だったんだよ、と飛鳥さんは恨めしそうに僕を見たが、それは言いっこなし、と僕が目線を返すと、言い止めて肩をすくめてみせた。


 大宅が続けた。「したがって、要望書も完全に拒否された。いくらか食い下がってみたが、しまいには、『君は、校長の裁量権という言葉を知っているかね?』、ときたもんだ」


 裁量権とは要するに、城市先生も言っていた、校内のことがらはすべて校長に決定権があるって話で、誰も逆らえなくなる魔王最大の武器だ。これを攻略できない限り、僕らに勝ち目はない。


 校長は、おのが権力こそが絶対でありその前には倫理などどうでもいいと、堂々言ってのけたわけだ。なるほど魔王だ、なかなか手強いな。


 対してこちらの魔王様はといえば―――校長が君臨する学校内では、態度がでかい生徒の一人に過ぎない。無駄に盾突く、愚かな子供でしかないだろう。


 その飛鳥さんが、僕に振った。


 「どうすりゃいい。この先何か考えてるか、参謀?」


 「まぁね、おかげさまで、先の展開が少し見えたよ」


 僕は思考を巡らしながら答えた。不思議と、頭の隅まで凄く冴え渡っている。悪辣な策謀を練るのは、魔王の専売特許のような気がするんだけど。……いや、あれ? まさに参謀の仕事か、これは。……ともかく、飛鳥さんの思惑さえ超える何かが、僕の脳裏にいろいろ組み上がりつつあった。


 「つまり、職員会議の趨勢が逆転すれば、望みはあるんだ。もとよりオークキングの扱いは職員にも不満が多かったわけだし、部活動顧問会議みたいに形骸化させられれば」


 「まほちゃんの魅了チャームでなんとかなる?」


 飛鳥さんのその問いには、僕より先に、大宅が首を横に振った。「会議が何であれ、結果がどうあれ、校長が最終決定権を持つことに変わりはない。彼の権威に従う者の方が、人的魅力に従う者より多いから、今の状況になってるんだろう?」


 「だから、その権威が減ずれば……あるいは、そう錯覚させられれば、って話」僕は言った。「校長が炎属性を持つのは火炎地獄に住んでるからだ。火が消えたと思い込めば、向こうから勝手にこっちの手の届く場所に出てくる、って策だ。ただし、ブラフ込みの大バクチになるよ」


 「もしかして、今回の交渉は、そのブラフのための布石だったのか?」


 「一度は正攻法の交渉をして、校長が権力で突っぱねた、って事実が欲しかったんだ。それで勇と桐原さんの処分が撤回できたんだから、まずは上々の首尾じゃないかな」


 大宅が、ふっと笑って満足げに眼鏡の位置を直し、飛鳥さんはニンマリと笑った。「バクチ上等。なんか、あの魔王校長と渡り合えそうな気がしてきたぞ。このまま進めてくれ、参謀!」


 「うん。じゃあ大宅くん、ブラフのために、もう一段階布石を打っておきたいんだけど」


 「どんな?」


 「臨時の生徒総会を、招集してくれないか」


 「みなを集めてどうなる? 何とかなるのか?」大宅は首を傾げた。


 「逆だよ。どうにもならなくするんだ」僕は答えた。



 翌日の放課後、体育館兼講堂で開かれた緊急の生徒総会は、それはもうひどいものだった。


 建前としては、大宅の交渉の結果を報告し、オークキング問題について今後どのように対応すべきか、生徒の意見の集約と、解決の模索のため広く意見を募る、という名目だった。


 しかし、オークキングに怒り暴力解決を望む者、正義をかざして糾弾する者、茶化す者、ただただ持論をわめきちらしたいだけの者。詭弁と屁理屈の応酬が続き、みなが納得するまっとうな解決策を探る方向へは何ひとつ進展しなかった。


 そして大多数の、総会だからと集められたはいいが、魔王におまかせ、どうにでもなれ、まったく無関心といったスタンスの連中の、退屈やイライラが講堂内に充満して、爆発寸前にまで達した。よく殴り合いに発展しないな、と感心したくらいだ。良くも悪くも平和主義の日本人というべきか。


 どんなに話し合ったところで、校長に拒否されたら終わりなのだから、当然だ。ゴールも正解もないのにただ多人数を集める議論なんて、紛糾するに決まっている。議長に無能な生徒会長を据えたから、なおさら荒れる荒れる。可哀想だが、踊る会議の犠牲になっていただいた。


 もちろん、かくもグダグダな醜態をさらすのが目的だ。教師がいなければ何もできない、情けなくも自主性のない高校生の哀れな姿。生徒とは愚かでひ弱で、学校という社会の底辺にいて、魔王の支配がなければ生きていけない者たちだと、あらためて校長は確信しただろう。その慢心に、つけこむのだ。


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