溶けない雪
――私たちって雪みたいに真っ白ね――
それが彼女の口癖だった。
――僕はともかく、スーウェンはほんとに真っ白だよ――
僕は彼女を上から下まで見てから言った。
彼女は言葉の通り真っ白だった。
長いロングヘアはまとめることもなく、風が吹くたびにさらさらと美しく舞い、膝丈のワンピースも一緒にたなびき、そのどれもこれもが白一色だった。
雪に埋もれたらわからなくなってしまうくらいに。
―白くて、清楚で、美しい―
しかし、左腕にある大きくて長い赤いリボンと首に小さな金色の鈴、そして丸くて大きなブルーの瞳。
彼女が唯一、白以外で特徴のある色。
――エンリ、そんなにまじまじと見られたら恥ずかしい――
彼女は白い頬を少し赤らめて僕に背を向けてしまった。
――ご、ごめん!――
僕は謝ってスーウェンの方へと近寄った。
――ふふふっエンリはわたしのこと好きなんでしょ?――
彼女は唐突に意地悪な笑顔で振り返った。
――そ、そんなの…わかってるくせに!――
僕は照れながら応えた。
――エンリ、大好きよ
あなたさえいればわたしはなにもいらない――
――あなたの全てはわたしのもの
そしてわたしの全てはあなたのものよ――
――エンリ、愛してるわ――
彼女はこのときから狂い始めていた。
当時10歳の僕は、それを普通のことだと思っていた。
大好きな1つ上の女の子が狂ってるなんて、思ってもいなかった。
最後の最後でそれに気づいて、手遅れだとわかったときには
彼女は僕の目の前から姿を消していた。
――わたしの愛しいエンリ
この世でわたしを支配できるのはあなただけ――
彼女はそれを言い残し、気づいた時には僕は保健室のベッドの上にいた。
先生は言った。
――スーウェンが君の右目を奪って逃亡した――
スーウェンはそんなことしない!
そう言いかけたとき、右目に激痛が走った。
先生がどうぞ、と鏡を持ってきた。
震える体で鏡の方に顔を向けると…
そこに僕の右目はなかった。
先生はこうも続けた。
――逃げていくスーウェンがこちらを見たとき、
彼女の目は赤かった――
と。
彼女の瞳は美しいブルーだったはず…。
まさか、そんな…。
なんでスーウェンが…。
鏡越しの僕の左目は…赤…。
僕は混乱で頭がいっぱいだった。
スーウェンの突然の逃亡。
僕の右目の強奪。
僕は目の前が真っ白になりそうだった。
――スーウェン…スーウェン!…――
僕はなにがなんだかわからなくなった。
恐怖、混乱、絶望
全てがごちゃごちゃになった。
永遠に一緒だと誓った彼女が…
なにがあったんだ…
僕はどうしたらいいんだスーウェン…
涙のでない右目をおおい、僕は左目の涙と声で泣いた。
スーウェン…スーウェン…
そして7年後、魔法使いとして17歳の
成人を迎えた俺は旅に出る。
スーウェンを追い求めて。
そして、スーウェンが奪った、俺の魔力の根源である右目を奪い返しに…。




