ブラコンの姉とひねくれた弟の話を少しだけ書いてみた超短編
今回の登場人物
弟:・今回の主人公であり語り手
・大の姉嫌い(部活ではそう書いたが実際は淡白)
姉:・今回のヒロイン
・大の弟好き
僕の一日は両の手足首に拘束感を覚える事から始まる。
同時に冷たさも感じる点からして、恐らく僕は手錠でベッドに繋がれているのだろう。金属特有の冷たさが、目覚めを促す。
目蓋を開けると、視界のド真ん中に女性の顔が映った。そこら中にゴミ共が散らかっている僕の部屋が日差しに照らされている中、まるで汚れが何一つないような、恐らく美人の域に入るだろうその顔がこちらを見て微笑んでいる。
「お早う弟君」
「お早う、姉さん」
覚醒したての頭が、この女性を自分の姉だとすぐに認識した。同時に、僕をベッドと合体させた現行犯である事も確信した。
そんな監禁変態姉さんは今、僕の上に乗っている。俗に言うマウントポジションだ。加えて二人はジャージ姿。
「姉さん、そこから退いてくんない? 起きられないんだけど」
「その前にお早うのチュー……」
「は、後でにして。それとこの手錠も外してほしいんだ」
「ダーメ。そんな事したら弟君逃げちゃうもん」
「逃げないよ、ガッコに行くだけ」
「……ホントに?」
怪しそうに、なおかつ恨めしそうに僕を見つめる姉さんは、マウントポジションを解除して、覆い被さる形で僕を抱きしめた。
毎日同じ屋根の下で暮らしているからか、女性らしい匂いは感じない。
「ホントだよ。ほら、こんな事していないでガッコに行く準備しよ?」
「証拠は? 証拠はあるの?」
「今日は火曜日、勉強しなきゃいけない日だ。時計を見てごらん」
抱きつきながら、枕の傍にあった僕の携帯を開けて日付を確認する姉さん。開けるだけで日付が分かるのに、何故かボタンを押す音が彼女の手から聞こえてくる。後で友達に、メアドを教えて貰い直しとこうかな。
「どうだった?」
「火曜日だった」
「そっか。じゃあ今日もガッコに勉強しに行こう」
「その前にお早うのチュー……」
「は、後でにして。今は急がないと」
「むー、弟君、後でばっかり」
「後でちゃんとしてあげるから、早くこれを外して」
渋々と僕から離れ、手錠を外す作業に入った姉さんを尻目に、たった今解放されて自由になった右手で、僕は開かれっぱなしになっている携帯を取った。
うん、見事なまでに受信履歴と送信履歴と家族以外のメアドが抹消されている。やっぱりそうした方が良さそうだ。
ふと待ち受け画面の時計を見る。時刻は七時丁度。今日もいつも通りの朝だ。心の中でそう呟いてから、携帯を片手で閉じた。
「取ったよ」
取り外し完了の声に続いて、僕は試しに起き上がる。それが出来た事を確認してから床に足をつけ立ち上がり、姉さんの手元を見る。その手には、しっかりと手錠が握られていた。
「ありがと、姉さん」
「じゃあ早速、お早うのチュー「は、まだ駄目」……むー」
「膨れても駄目だよ。後でって言ったら後だ」
「な、ならご褒美のチューは「もちろん駄目」むー!」
どうしてもしてほしいのか激昂した姉さんは、立ち上がったばかりの僕に抱きつき自身の額で僕の胸板を擦りつけ始めた。全くこのダメ姉め……。
無理やり引き剥がすと余計に怒らせてしまうので、仕方なく左手のひらを、未だに駄々をこねている彼女の頭に置いた。二回くらい軽く叩いてから、なるべく髪が乱れないように撫でる。
すると、それで満足したのか、それとも妥協したのかは知らないけれど、姉さんは駄々こねをやめて今は抱きつくだけになった。
頭撫でをしばらく続けてからもう一度、右手にある携帯を開けて時刻を再確認する。大丈夫、家を出る時間までまだ時間はある。だけど、さっきからは、かれこれ十分は経っている。
「姉さん」
「んー、どったの弟君?」
「今から着替えるから、部屋から出てってくんない?」
「ヤダ。弟君の着替えはお姉ちゃんの仕事だもん」
「姉さんの仕事は無いよ」
「弟君を着替えさせる仕事ならある!」
「そんな仕事辞めてブラック企業に就職した方が良いよ」
撫でる作業を中断し、僕は姉さんを引き剥がしてから自室の外、廊下に押し出した。途中、姉さんが涙目になっていたような気がしたけれど、あくまでも気がしただけなので文字通り気の所為にしておく。
すぐにドアを閉め、鍵を掛けてから着替えを始める。
閉じた携帯をベッドの上に投げ捨てて、壁のフックに掛かっている制服付きハンガーを手に取ったところで、廊下側からドアを乱暴に叩く音が部屋中に響いた。問答無用で無視した。
不規則に鳴くドアの悲鳴を聞き流しながら、ハンガーから制服一式を剥いでワイシャツ、スラックス、ネクタイ、ネクタイピン、ブレザーの順で僕自身の身に着ける。勿論、ジャージは予め脱いで畳み、ベッド上の隅に置いてある。
着替え終わる頃には既にドアは鳴き止んでいた。むしろ、すすり泣く声がその裏から聞こえてくる。
僕はそれに、お構いなしにドアを開けた。目の前には、目を真っ赤にしながら涙を流す姉さんが、しゃくり声を上げて泣いている。
「弟君……」
自室から出てきた僕を、姉さんは女の子座りの状態で見上げている。けれど、僕にはもう時間がないので、これ以上姉さんと遊ぶ訳にはいかない。これからガッコに行って、そこで今日も、将来に必要な課程の一つを成し遂げるんだ。
上目遣いの姉さんから目を背けて、僕は玄関を目指し歩き始める。
「ごめん、もう行かなきゃ」
「待って弟君」
不意に呼び止められて、僕は半ば嫌気を表情に出しながら姉さんの方向へ振り向く。すると、視界のド真ん中に彼女の顔がドアップで映った。
「その前に、お早うのチュー……」
そう言ってキス魔の姉さんはドアップのまま目を閉じた。俗に言うキス顔だ。けれど自分からは決してしない。それは姉嫌いな僕を想ってのことだろうか。
正直な話、今にもなってまだ今朝のことを考えていたのかと思うと、なんとなく彼女が可愛く見えなくもなくなった。
「……ああもう、分かったよ。すれば良いんだろすれば」
「ん、ん」
目を閉じたまま、早くしろと唇を尖らせ抗議する姉さんを前に、僕はまず自分の精神を落ち着かせることに優先した。深呼吸を二回程繰り返し、最後は一息つきながら、よし、と締めた。
「じゃあ、行くよ。姉さん」
姉さんの両肩にそれぞれの手を置いて、ゆっくりと顔を近づける。少しずつ、また少しずつ、彼女の顔が近くなる。ふと視点を下げると、そこには相変わらず尖っている唇があった。
そして、僕はそれにそういうことを、……しなかった。
姉さんの肩から手を離し、彼女を放置し静かにこの場を去って家を出た。
もしかしたら、僕は案外、姉さんより汚れているのかも知れない。 END
部活で書いたものを上げる多分第1弾、いかがでしたでしょうか。
短いと思われますが、まあそれは原稿は2枚までしか書けない所為ですね、はい。部誌に載せたものそのまんまだから仕方ないね。変えたのはタイトルと前書きだけ。たいした事してないです。
また今度、近いうちにこうやってモノをカくかもしれません(意味深)。
もしこれの続きが読みたい、部活用ではない方に書き直してほしい、良いぞヤンデレもっとやれな方は是非是非感想まで。文章力の向上を目指しているのでアドバイスをしてくれる方もCome on!
最後までお読みいただきありがとうございました。 夕霞之