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【銀色の写真】

オリーブは、アザミを慰めています。

アザミは、消し去った過去を急に思いだし混乱してしまったのです。


御夫妻は優しく言いました。

「もし、良ければ明日の同じ時間に訪れても良いですか?」


アザミは頷きました。御夫妻は静かに帰っていきました。


アザミとオリーブは二人きりになりました。

オリーブは、黙ったままアザミの背中をさすってます。

「オリーブ、ごめんなさい」


「どうして謝るのですか?」


「分からない。でも、謝りたいの」


「僕もごめんなさい」


「何故、オリーブが謝るの?」


「僕の過去を黙っていたから」


オリーブの優しさに、アザミは落ちつきを取り戻していきます。

「この子は、必ず幸せにならないといけない」

アザミは決意を強くしました。

「まだ、チャンスはある。明日は必ず!必ずオリーブの夢を叶えてみせる」



アザミは、冷静さを取り戻しました。

「ありがとう。オリーブ、もう大丈夫よ」


アザミは立ち上がり、オリーブの頭を撫でました。

アザミは思いつきました。

「そうだ、オリーブの髪を整えてあげるわ」


「本当ですか!嬉しいです」


すぐに、クシとハサミを用意し庭に出ました。

まだ、少し肌寒いですが日光がさすと暖かく気持ちの良い天気です。

今までの騒動が嘘のように感じます。


アザミは、ゆっくり丁寧に髪を整えます。

オリーブは何だか嬉しそうにしています。

アザミが聞きました。

「どうしたの?」


「嬉しくて我慢できません」


「あまり期待しないでよ。美容師じゃないんだから」


「違います。アザミがお姉さんだからです」


アザミは、手を止めました。

そして、言いました。

「なら、お姉さんって呼びなさい」


オリーブは、照れ笑いを浮かべるだけで言いません。


アザミも笑いながら、それ以上は何も言いませんでした。


銀色の髪が、綺麗に整いアザミは満足げです。

オリーブは慣れない髪型に違和感を感じ、手でさわっています。

アザミが鏡で見せてあげると、オリーブは目を輝かせました。

「何だか男らしくなりました!嬉しいです」


オリーブは、鏡で何度も自分の髪型を見て喜んでいます。

アザミも、そんなオリーブの様子に満足げです。


二人は、最後の一日を大切に過ごしました。

翌朝、御夫妻がやってきました。


アザミは、笑顔で迎え入れました。

オリーブも、笑顔です。


アザミは言いました。

「昨日は、見苦しい所をお見せして申し訳ありませんでした」


アザミは、そう言い御夫妻に椅子に座ってもらいました。

アザミとオリーブも椅子に座ります。

ご主人が言いました。

「正直、とても驚きました。でも、貴女達を見て考えが変わったのですよ!貴女達二人は綺麗な心を持っていると分かりました」


アザミは、首を横に振ります。

「そんな大層なもの、持っていません。特に私は。ただ、オリーブの夢を叶えてあげたかっただけです」


奥様が聞きました。

「学校の先生、ですね。オリーブ君が昨日書いてみせてくれましたね」


アザミは頷きました。

「オリーブは頭が良いんです。学校に通い、ちゃんとした勉強をさせてあげたい。そうすれば、きっとオリーブの夢が叶うはずです」


奥様は笑顔で言いました。

「オリーブ君の字を見たら分かります。綺麗な字でしたわ。夢は叶いますよ」


アザミは笑顔になりました。御夫妻がオリーブを認めてくれた事が分かったからです。


すると、奥様が驚くことを言いました。

「主人は、学校の理事長なんです」



アザミは、驚きました。

そして、思いました。

「神様!お願いを叶えてくださったのね!!」


アザミはオリーブに言います。

「オリーブ!理事長っていうのは、学校の先生の中で1番賢い人よ!良かったわね!」


アザミはオリーブが喜ぶと思い言いました。


しかし、オリーブは無表情です。それ所か不安な雰囲気を出していました。


アザミは不思議に思いましたが、今は御夫妻との話しに集中する事にしました。

「素晴らしいです!まさか、ご主人が理事長だなんて…!夢のようですわ」


ご主人は笑いました。

「長く勤めてたからですよ。そんな大したことじゃない。オリーブ君の夢を見た瞬間、貴女達に運命を感じたんです」


アザミは喜びました。

「ありがとうございます!では、オリーブを…」


アザミの言葉をさえぎり、オリーブが言いました。


「嫌です」


御夫妻は、不思議な顔をしました。

アザミは慌てて御夫妻に言います。

「急に夢が叶ったから、混乱してるみたいです。すみません、オリーブを…」


また、オリーブは言います。


「嫌です」


御夫妻は、首を傾げてしまいました。

アザミは、慌ててオリーブに言いました。

「何言ってるの?オリーブ、貴方の夢でしょう。どうして、そんな事を言うの!」


オリーブは黙ったまま。


アザミは苛立ってしまいました。

「黙っていたら分からないでしょ。ちゃんと、言いなさい。御夫妻に失礼よ」


オリーブは、目に涙をためています。

しかし、黙って我慢しているだけで何も言わないのです。


アザミは呆れてしまいました。


ご主人がオリーブに言いました。

「うちに来るのが嫌なのかな?」


アザミが慌てて否定しようとすると、オリーブが言いました。

「嫌じゃないです」


アザミは訳が分かりません。

ご主人も首を傾げました。

オリーブは下を向いたまま、それ以上は話しません。

そんな様子をみて、奥様が言いました。

「オリーブ君は、アザミさんと離れるのが嫌なのよね?」


アザミは、驚きました。

しかし、オリーブは顔をあげ頷き言いました。

「はい。アザミと離れるのは嫌です」


アザミは「なんて馬鹿な事を!」と、オリーブを叱りました。

「オリーブ!私といても夢は叶わないのよ?こんな、素晴らしい御夫妻に失礼な事を言って!わがままは止しなさい」


オリーブは下を向いてしまいました。

しかし、ぽつりと言いました。

「僕の夢は、アザミとずっと一緒にいることです」


アザミは呆れてしまいました。

オリーブを無視して、御夫妻に言いました。

「すみません。オリーブは頑固な所があって…。ですが、御夫妻の事は大好きなんです。どうか、オリーブの夢を叶えてあげて下さい」


アザミは必死でした。

こんな機会は二度と訪れないと分かっていたからです。


すると、御夫妻は笑い出しました。


アザミは呆気にとられてしまいます。


奥様が笑いながら言いました。

「やはり、似ているわ。頑固な所も。アザミさんとオリーブ君、私達の話しを聞いて頂けますか?」


アザミは、恥ずかしくなりました。

オリーブは、顔をあげました。

奥様は続けます。

「アザミさんは、オリーブ君と離れるのは平気なのですか?」


アザミは、ハッとしました。

また、自分の気持ちを考える事をしていなかったからです。

オリーブの夢を叶える事しか、頭にありませんでした。

アザミは、悩みました。

「オリーブと離れるのは寂しいわ…。でも、ここに私といてもオリーブのためにならない!」


アザミは決心し言いました。


「はい。オリーブの夢が叶うのなら平気です」


オリーブは、アザミを見ました。

アザミは、真剣な表情です。

しかし、奥様は言いました。

「嘘はいけません。寂しいと顔に出ています」


アザミは驚いてしまいます。

奥様は続けました。

「アザミさん、もっと自分の気持ちを考えてあげるべきですよ。我慢はしなくて良いのです」


アザミは、また恥ずかしくなり言い返せません。

オリーブは、奥様を見ています。

奥様は、オリーブに言いました。

「オリーブ君は、アザミさんと離れるのが嫌なのよね。アザミさんが、どう思っているか聞いてごらんなさい」



オリーブは、恥ずかしそうにアザミに聞きました。

「アザミ、僕と離れるの寂しくないのですか?」


アザミは戸惑いました。

素直に言ってしまって良いのか分からなかったからです。

しかし、アザミは正直に言うことにします。

「寂しいわよ。でもね、オリーブの夢が叶わない方が寂しいのよ」


オリーブは黙りました。


すると、ご主人が話してきました。

「すまないね。私の意見を言わせてもらうよ。昨日、妻と話し合って決めたんだ。オリーブ君は素晴らしい子供だ、是非迎え入れたいと」


アザミは安心し笑顔になりました。

オリーブは下を向いてしまいます。

ご主人は続けます。


「それに、アザミさんも素晴らしい女性だ、是非迎え入れたいとね」



アザミは時間が止まりました。

オリーブは、目を輝かせご主人を見ています。

ご主人は聞きました。

「二人一緒に、我が家に来てもらえないだろうか?アザミさんは仕事もあるが、私達の町でも必ず成功するはずだ」


アザミは固まったまま。

しかし、オリーブが答えます。

「はい!僕の夢が叶いました!」


御夫妻は笑いながら「オリーブ君の夢は、まだ叶ってないよ。これからだ」と、言っています。

しかし、オリーブは「叶った」と喜んでいます。


アザミは、徐々に冷静になっていきました。

そして、聞きます。

「本当に良いのですか?」


御夫妻は笑顔で答えます。

「勿論です」



アザミは、急に嬉しさが込み上げてきました。

まさか、自分までもオリーブと一緒に御夫妻に迎え入れられるとは思ってもいなかったからです。

自分達の過去全てを知っても尚、受け入れてくれる人間がいることに驚きました。

アザミは心から言います。

「ありがとうございます」


二人にとって、102日目は忘れられない一日となりました。

新緑が美しく暖かい陽射しの中、アザミとオリーブは正装で立っています。


二人とも、心なしか緊張しているようです。



オリーブは、胸に赤い花を飾っています。


御夫妻は笑顔で見つめています。


写真屋が言いました。

「緊張しすぎですよ!もっと笑って下さい」



アザミとオリーブは恥ずかしくて笑えません。


そんな様子に御夫妻は大笑いです。


写真屋が、また言いました。

「一生、残る写真ですよ!ほら、笑って!」



オリーブは、もじもじとしています。


アザミも恥ずかしさでいっぱいでしたが、オリーブを見て笑ってしまいました。


写真屋は言います。

「お姉さんは良い表情ですよ!僕もお姉さんを真似て!」



しかし、オリーブは顔が真っ赤になり下を向いてしまいました。


アザミは、オリーブに言いました。


「オリーブ、入学おめでとう」


そう言い、オリーブの手を握りました。


オリーブは初めて人と手を繋ぎました。

何故か、とても安心します。


そして、何故か涙が出てしまいました。


御夫妻は、そんな二人を優しい眼差しで見ています。


写真屋は笑ってしまいました。

「僕が泣いちゃったよ!まぁ、でも良い顔だ!撮りますよ!」



二人の記念写真は、アザミが笑い、オリーブが泣いています。しかし、強く手を繋いでいます。


オリーブの夢「アザミとずっと一緒にいる」は、叶ったんだ、と思わせてくれる写真です。



伝統ある奴隷一族。


親がどうであれ、一族がどうであれ、人は一人一人違うのです。



それに、気づけるかどうかで全てが変わります。


周囲の人達だけでなく、本人達が気づけるか、これも大切です。


アザミとオリーブは気づけました。


頑固なアザミとオリーブが気づけたのです。



気づければ、どんな夢でも叶います。



大切な夢を叶えましょう。


ローズブーケ

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