【料理と勉強】
アザミの料理は町では大人気です。
安くて美味いからです。
しかし、アザミは無表情で淡々と仕事をこなします。
町の人々はアザミを変わり者と呼んでいます。
本人にも、平気で言います。
アザミは、何と言われようが無視をします。
町の人々はアザミの事を、よく知っているのです。
アザミが町に来て10年になるからです。
最初は、街中に住んでいましたがアザミを嫌う連中に追い出されました。
町から遠く離れた、古いボロボロの家を安い値段で買いました。
たくさんの苦労を、一人で乗り越えたアザミは強くなりました。
そして、今のアザミがいるのです。
ですから、町の人々が何て言おうが聞き流します。
アザミが、人嫌いになったのは辛い過去が原因です。
だから、オリーブの気持ちが手にとるように分かってしまうのです。
しかも、オリーブはまだ子供。
アザミは、オリーブを守ってやらねばと無意識に思っていました。
だから、町には決して連れてきません。
余計に、人嫌いになると考えたからです。
今日の仕事が終わると、急いで家に帰りました。
夕食時、アザミは聞きました。
「ねぇ、オリーブ。なぜ、新しい服を着ないの?」
オリーブは、ここに来た時の服装のままです。
アザミは続けて言いました。
「よそ行きの服じゃないんだから、着てみなさい。もし、汚れたら新しい服を買ってあげるわよ」
「でも、僕にとっては初めてのプレゼントだから、汚したくないです」
アザミは、心臓がズキッとしました。
純粋なオリーブに感銘を受け、自分が嫌な大人になったと恥じたからです。
「そうね。ごめんなさい、オリーブの服なんだから好きにしたら良いわね」
アザミは、昔の自分を思い出していました。
昔の自分も、オリーブのように純粋だったのに…、アザミは少し寂しくなりました。
オリーブが聞きました。
「アザミは、どうして町から離れた場所に住んでいるのですか?仕事は、町に行かないといけないのに」
「そうね。町から離れていないと住めなかったのよ。人嫌いなのもあるし、人に嫌われていたってのもある」
「僕と一緒ですね!僕も人嫌いだし、人に嫌われていました」
「やっぱり、同じね!でもね、オリーブ。悪い人なんて少ないのよ。ただ、流されやすいの。だから、皆が悪い人に見えるのよ」
「どういう事ですか?」
オリーブには理解できませんでした。
アザミは、少し笑いました。
「ごめんなさいね。変な事を言ったみたいだわ。そうね、簡単に言うと悪い人ばかりじゃないって事よ」
「アザミみたいな人がいますもん!知ってます!」
アザミは、笑ってしまいました。オリーブは不思議そうな顔です。
オリーブの真っすぐな気持ちに触れると安らぎを感じ、固まった頭が柔らかくなるような感覚になります。
「そうね。オリーブは頭が良いわ」
オリーブは少し照れながら笑いました。
ある朝、オリーブが言いました。
「字の書き方と読み方を教えてください」
アザミは、笑顔で頷きました。
「ええ、もちろんよ。でも、急にどうしたの?」
「本を読んでみたいのです。アザミが読んでる本が気になってるからです」
「たいした本じゃないわよ。でも、勉強をする事は大切よ」
そういうと、アザミは大きな紙に字を書いていきました。
それを、オリーブに渡して言いました。
「ここから始めましょう。まずは、書く練習よ」
一通り、やり方を教えます。オリーブは、飲み込みが早く説明も楽でした。
さっそく、字の練習をしているオリーブを見てアザミは思いました。
「学校に行かせてあげたい」
しかし、オリーブには保護者が居ません。
それに、アザミもオリーブの保護者になれないのです。
この時ほど、自分の過去を呪ったことはありませんでした。
「何か方法は、ないかしら…」
アザミは、オリーブを見ながら考えました。
今日も、町に出かけます。
アザミは、町で仕事をしながら子供達をみました。
「オリーブも、あんな風に普通の子供にしてあげたい」
アザミは、その事ど頭がいっぱいです。
「私が親になれれば良いのに」
「何か方法はないかしら」
「あんなに純粋な子を、あんな離れた家に置いとくべきじゃないのよ」
アザミは悩みました。
考えても良い案が、浮かばないからです。
「神様、オリーブの夢を叶えてあげて」
アザミは、心から祈りました。
アザミが家に帰ると、オリーブが嬉しそうに走ってきました。
「おかえりなさいませ。アザミ、全部覚えました!」
オリーブは、得意げに今朝アザミにもらった紙をみせ笑いました。
アザミは驚きます。
「一日足らずで、全部覚えたの?」
「はい。早く覚えたいからです」
「早く覚えたいってだけで、覚えられるものじゃないわ。オリーブ、あなたは頭が良いのね」
オリーブは恥ずかしくなり何て答えたら良いのか分からなくなりました。
アザミは続けます。
「オリーブの将来の夢は何?」
突然の質問にオリーブは戸惑いました。
今まで、夢について考えたことがなかったからです。
アザミは確かめるように聞きました。
「そうね、例えば学校の先生とか…」
言い終える前に、オリーブが目を輝かせて言いました。
「学校の先生になりたいです!」
アザミは、オリーブの表情を見て確信しました。
「必ず、学校に行かせてあげる」
アザミは思い、オリーブに言いました。
「学校の先生になるか…。良い夢ね!オリーブ、応援するわ」
オリーブは嬉しくなって言いました。
「いっぱい字を覚えて、絶対になります!」
アザミは嬉しい反面、少し緊張感を感じていました。
オリーブの夢を叶えるために、何としてでも学校に入れる必要があります。
しかし、一日中考えたにも関わらず良い案が浮かびませんでした。
もし、夢が叶わないと分かった時のオリーブを考えると恐くなるのです。
純粋なオリーブを傷付けるのが怖かったのです。
そんなアザミの思いが分かるはずもなく、オリーブは学校の先生になるために頑張ると決意しました。
自分が学校の先生になっている姿を想像すると、胸がワクワクします。
たくさん字を覚えて、たくさん本を読もうと決心しました。