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銀の糸

【出会い】


今日は聖なる夜、クリスマス。

雪がフワフワと舞い、白く町が染まっています。

どの家も、オレンジの明かりを漏らし雪を照らしています。

暖かい家の中、美味しいご馳走、綺麗な紙に包まれたプレゼント…、幸せな時間です。


ただ、そんな幸せな時間を過ごしている傍ら1人雪の中を歩いてる少年がいました。


トボトボ歩き、行く宛てもない少年。


でも、止まると凍えるから歩くのです。


気が付いたら、街中から離れた場所まで来てました。


辺りは静かで、明かりもありません。


「なんだか…、眠たい…」

少年は、体の力が抜け倒れてしまいました。


だんだん視界が暗くなっていきます。


「もう…、いいか…」


少年は諦めてしまいました。


シンシンと雪が降る、凍える夜。

暗く明かりもなく、冷たい雪の上。

お腹は空っぽで、もう何も見えなくなっています。

そんな、悲しい少年が1人雪の上に倒れています。


年は10才前後、綺麗な銀の髪と白い肌が雪と交じって消えてしまいそうです。


12月25日、少年の運命の日、導かれる日です。「…」


「…ん」


「…あれ?僕、何してるんだっけ?」



ハッとして、少年は目を開け起き上がりました。


暖かいベッドの上、暖かい暖炉、椅子に机…、家の中です。


「夢?」


少年は、呟きました。

さっきまで、凍える雪の上にいたのに今はベッドの上です。


「…天国?」


少年は、また呟きました。

状況が理解できません。


すると、突然。


「起きたのね」


女性の声がしました。

少年は、急いで声がした方を見ました。

髪は少年と同じ銀色、肌も少年と同じく白色。でも、ちょっとだけ恐そうな顔の女性が立っていました。


女性は、特に何も言わず少年に近づきました。

少年は、呆気に取られています。

女性が聞きました。

「スープができたけど食べる?」


女性は笑顔も見せず、ごく当たり前のように聞いてきました。

少年は、頷く事しかできませんでした。


少年が頷いたのを、見ると女性はスープを取りに行きました。


1人になった少年は考えます。

「あの人は誰?」


しかし、いくら考えても分かりません。

見た事も無い人です。


「やっぱり、天国?」


少年が悩んでると、女性がスープを持って現れました。

女性は、また当たり前のようにスープを少年に渡しました。

そして、女性は近くの椅子に座り読書を始めたのです。


少年は、女性が気になりながらも美味しそうな香りに負けてしまいます。

久々の暖かい料理です。

少年は、一口食べました。


「おいしい…」


思わず声が出てしまいます。

しかし、女性は反応せず読書に集中しています。


少年は、必死でスープを食べました。

すぐに無くなってしまい、少し残念に思いました。


すると、女性が言いました。

「おかわりする?」


また、無表情で聞いてきます。

少年もまた、頷くことしかできませんでした。結局、スープを5杯もおかわりしました。

少年は、まだ食べたかったのですが「怒られるかも」と思い止めたのです。


すると、女性は無表情で聞きました。

「パンとソーセージもあるけど食べる?」


少年は、驚きましたが頷きます。

また、女性は静かに立ち上がり台所へ行きました。


「絶対に天国だ!」


少年は思いました。


「クリスマスに天国に来たんだ!」


少年は何故か嬉しくなってきました。


「あの人は、天使かな?それとも神様?」


少年が悩んでいると、女性が静かに現れました。

そして、パンとソーセージを少年に渡すと、また椅子に座り読書を始めました。


少年は、パンとソーセージに感動しました。

初めて食べるからです。

一口食べて、更に感動しました。

「おいしい」


また、声が出てしまいます。

しかし、女性は相変わらず無表情で読書に集中しています。


少年は、今度はゆっくりと味わいながら食べました。


ゆっくりと食べながら、女性を盗み見ました。


「神様?天使?」


少年は、聞こうか聞かないか悩みました。

しかし、気になって仕方ありません。

少年は、勇気を出して聞きました。


「神様ですか?それとも、天使様ですか?」


女性は、読書を止め少年を無表情で見ました。

少年は、顔をそらしてしまいました。

女性は、静かな落ち着いた声で答えました。


「私は、人間よ」


少年は心臓が止まるかと思いました。


「ここ、天国じゃないのですか?」


女性は、冷静に話しました。

「ここは地球よ。現実世界。貴方が、雪の上で倒れてたから拾ってきたのよ。あんな所で、寝てたら死ぬわよ」


少年は、一気に現実に引き戻されました。

辛くて苦しい現実に。

少年は、黙ってしまいました。女性は少年が止まっている事に気づきました。

「どうしたの?」


少年は、必死で涙を堪えながら言いました。

「現実はきらいだから」



すると、急に女性が笑いました。

今まで、無表情だった女性が笑ったので少年は驚きます。

女性は、笑いながら言いました。

「貴方とは気が合いそうね。私はアザミよ。貴方の名前は?」


少年は、少し辛そうに言いました。

「名前は、その…無いのです」


すると、アザミが答えました。

「なら、オリーブって名前にしましょ。瞳がオリーブみたいだから」


少年は、生まれて初めて名前をプレゼントされました。

急に、生きているという実感が湧いてきます。

アザミは言いました。

「私も、現実が嫌いなのよ。特に人間が嫌い。オリーブは?」


「え!?僕も嫌い。だって、殴ってきたり汚い言葉で怒鳴ってきたり…」


オリーブは、思い出して辛くなったようです。


アザミは察しました。

「逃げてきたのね?でも、行く宛てもないと。オリーブなら良いわよ。ここに住んでも」


あまりの事にオリーブは声が出ませんでした。

こんな幸せな話しが有るわけないと思ったからです。


すると、アザミは言いました。

「人間嫌い同士、仲良くやりましょうよ」


オリーブは、声を出すと泣いてしまいそうなので小さく頷きました。その日から、人間嫌いの二人の生活が始まりました。


アザミは27才、料理が得意で町に売りに行き生活しています。

過去については分かりません。

性格は、冷静です。

笑う事もありますが、基本は無表情です。



オリーブは10才、洗濯や掃除などを担当しています。

三日三晩、歩きつづけ倒れた所をアザミに拾われました。

性格は、照れ屋です。

また、怒られる事を異常に怖がります。



こんな二人の生活ですから、賑やかになる訳もなく静かに暮らしていました。


しかし、オリーブは幸せでした。

大きな声で怒鳴られたり、殴られたりしない静かな生活。

こんな素晴らしい生活はないと思っていました。


アザミは、掃除や洗濯や薪割りもできるオリーブに驚きました。

それに、とても助かります。

生活のためには稼がないといけないので、そちらに力を入れられます。



オリーブは、頑張りすぎる所があるため、アザミが「もう、良いから寝なさい」と、言っても「まだ、洗濯が残ってます」と答え終わるまでやめません。


アザミは一度、真剣に聞きました。

「何故、そんなに必死なの?」


「ちゃんと、やらないと駄目だからです」


「できる範囲で良いのよ。無理しなくたっていいのよ」


「無理はしてません。僕は、とろいから時間がかかってるだけです」



アザミの見ている限り、とろいとは思いません。

アザミは、だいたいの検討がついていたのでハッキリと言いました。

「前にいた家とは違うのよ。ここはオリーブの家よ。もっと、ゆっくりなさい」


オリーブは、驚いた顔でアザミを見ました。

アザミは、オリーブに言い聞かすように話し出しました。アザミは、静かな声で話します。

「前の家では、厳しくされたみたいだけどココは違うわ。だって、オリーブの家よ」


「僕の家?」


「そうよ。オリーブの家なんだから、気楽にしなさい。遊びたかったら遊べば良いわ」


「そんな怖い事できません」


「相当、やられたみたいね。大丈夫よ、私は怒らないわ」


オリーブは、また泣きそうになりました。

しかし、我慢して頷きました。


オリーブは話しませんが、アザミは分かっていました。


オリーブは奴隷として働かされていた、という事を。

金のために小さい子供を売る親は、たくさん居ます。

売られた子供は、ほとんどが奴隷として扱われます。

しかも、一度でも奴隷になると一生奴隷です。

正確には、奴隷じゃなくなっても人々の見る目は奴隷を見る目なので、一生奴隷のように生きなければいけなくなるのです。


オリーブは、自分が奴隷だった事をアザミにばれるのが怖いのです。


もし、奴隷だとバレて放り出されたら嫌だからです。

オリーブは、叱られないように頑張りました。



ある日、町から帰ってきたアザミがオリーブを呼びました。

「オリーブ、いらっしゃい」


「はい」


掃除の手を止め、走ってアザミの所へ急ぎます。

オリーブはアザミの持っているものを見て驚きます。

カッコイイ洋服を手に持っていたからです。

「どうかしら?男の子の服って分からないから独断で選んだわ」


「すごい、かっこいいと思います…」


意外と反応の薄いオリーブに気づき、アザミは言い直しました。

「これはオリーブの服よ。どうかしら?男の子の服って分からないから独断で選んだわ」


「本当に!?僕のですか!?」


「本当よ。気に入った?」


「はい!ありがとうございます!!」


オリーブは目を輝かせて、服をみています。

アザミは、オリーブに渡してあげました。

オリーブは丁寧に丁寧に服を撫でたり顔をつけてみたり、本当に嬉しそうにしています。


アザミも嬉しくなりました。

まさか、ここまで喜ぶとは思っていなかったからです。

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