FIFTHCASE 君亜への挑戦act1
遅くなりました。
これからは君亜の過去を……どんどん、はっきりさせていこうと思います。
『今月に入って、○○県で十代の学生が連続で誘拐される事件が……』
「物騒だな。ってか、ほとんど地元の事件かぁ。大丈夫かな、小野宮先輩……あの人、甘いものが餌となると幼児より簡単に連れ攫われるからな」
俺は自分の家から持ってきたコーヒーメーカーで作ったコーヒーを飲みながら一人言を言ってみる。
ついでにさっきのニュースは先生からもらったラジオから流れるものだ。
まあもっとも、小野宮先輩は若本先生を脅して、部室にテレビを置かせようとしていたが、俺たちは全力でそれを阻んだ。
何故って?
探偵紛いの事やってる奴が脅迫って……馬鹿らし過ぎるだろ?
と、誰に向けたものかわからない説明を脳内で繰り広げていた時、部室のドアが開き羽海野が入ってきた。
「あれ、小野宮先輩はどうしました?」
「さあ、俺も知らないぞ」
「また、佐々木さんあたりに拉致られてる……わけないな。事件協力を求める時には一報入れるよう、約束したし……まさかとは思うが、誘拐されたか?」
「ああ、最近流行りの……どうにもうちの県でしかやってないみたいですね」
「後藤さんとかも最近それにかかりきっりだったしな……どうも、嫌な予感しかしねぇ」
そう、俺がフラグとしか思えない事を口にした瞬間に、俺の携帯が鳴った。
その相手は一応、小野宮先輩だったといっておこう。
だが、声は全く違った。
『やあ、斎藤君亜くん。今日は君に用があってこんな手段をさせてもらったよ』
「誰だよ、アンタ……まさかとは思うが、連続誘拐犯さんか?」
『正解だよっ!でも、まだ半分かな。僕は君に恨みがある者だよ』
「それはミスったぜ、先輩を盾に取られるとはな……甘すぎた」
舌打ちをして、今までの行いを振り返る。
どう考えてもこんなことは普通に考えられる事をいろいろしている事に、今さらながらに気付く。と共に、思い出すのには少し数が多すぎたとも思った。
そう思ったときに、犯人の上擦った声が耳に入ってきた。
『くく、僕は君のそんな焦った声を聞くだけでも興奮してくるよ』
「良い趣味してるなチクショウめ。で、誘拐犯さん。アンタの望みはなんだ?」
『う~ん、そうだね。とりあえず、一億円を用意してくれないかな?あとは、逃走用の飛行機。まあ、それぐらいかな』
かなりどうでもいい、という感じで犯人は俺との会話をしている。その後ろでは羽海野が気付いてくれていたのか、電話しているのが窺える。
だから俺も少し落ち着きを取り戻しながら聞いた。
「少し待て、この件は警察に行ってもいいんだよな?俺たちじゃ揃えられないだろ?」
『もちろん!これは君と警察への復讐だからね!』
「そうかい……。いやそれよりも、先輩や、人質は大丈夫だよな?」
『ああ、声を聞かせてほしいのかい?』
「当たり前だ!」
だが、落ちついたのも束の間、再び激昂しかける。
それを犯人は笑った後に、了承してきた。
『いいよ、僕は優しいからね。ほら、後輩だよ。夢遊くん。『君亜ぁー!私を巻き込まないでよぉ!』』
「………その様子だと大丈夫そうですね、小野宮先輩」
『なにがぁー!おかげでせっかく朝に買ったプリンが台無しになったじゃん!責任とってよねー!』
「はいはい。無事に帰ってきたら奢りますよ」
『本当だね!約束だからね!ああ、あと、人質は無事だにょぉ!』はい、そこまで~、じゃあね、君亜くん』
それで電話は切れた。
俺は震える手で携帯を握りしめ、その後座ってたソファーに一気に叩きつけた。
「……先輩」
「羽海野、これは俺の問題だ。だから、他の事は頼む」
「わかってます……くれぐれも気をつけてください」
「ああ、ぜってぇ、捕まえてやる」
俺は叩きつけた携帯を拾いつつ、部室を出ていった。
◇
その頃、後藤たちのところにも君亜と同様。いや、それ以上に悪質でふざけている挑戦状が送られてきた。
『やぁ、後藤さん。それに結城さんだったけ?まあ、名前なんてあの子以外はどうでもいいか。とにかく、警察の皆さんこんにちわ。今、噂の連続誘拐犯です。とりあえず、僕の目的は三つ。一つは僕を捕まえた警察への復讐。二つ目は海外へと逃げること。三つ目は知っている人知っている、斎藤君亜くんへのリベンジかな?まあ、とりあえず、要求を良く聞いてね。まずは飛行機の用意。ああ、僕は一応操縦できるからね、パイロットはいらないよ。後は一億ぐらいでいいかなぁ?うん、それだけだよ。じゃあ、用意よろしくね。用意したら、もれなく人質は全員解放だよ』
それにはもう一つおまけがついていた。
それは被害者全員の写真。それにはもちろん小野宮夢遊の写真がついていて、佐々木は少し顔を歪めた。
だが、それは一瞬ことだった。なぜならば、彼女以上に嫌悪感を表に出している人物がいたのだ。
もちろん、後藤と結城の二人だった。
「あいつか……そういえば、出所したんだったな」
「ええ、ですが、彼にこれがバレれば……恐らく」
「ああ、絶対にこれに関わって来るだろうな。だが、彼には参加してもらうほかないな」
苦々しそうな顔で後藤はうめく。それに対し、結城は呆けた顔で問う。
「何故です?」
「あいつが本当に復讐したいのは君亜くんだ。なら、私たちがこれを伏せる前に彼は知ってしまうだろう」
「た、たしかに……」
しかし、結城は結城である。結局のところ、シリアスも長く続かないのだ。
だから、後藤の次の一言で他の所員は動きだす。
「よし、まずは金と飛行機の手配を!だが、金の半分は偽にしておけよ!どうせから金なんて出ないんだからな!あとは逆探知機械を!それ以外は連れ攫われたと思われているところをもう一回しらみつぶしにしてみるぞ!」
「「「はっ!」」」
そうして、この事件の幕は勢いよく挙げられた。