挙動不審教師の謎
こちらは小野宮夢遊担当の文章ですっ。宜しくお願いしますっ。
「うぅ―――っ!なんでこんなことしなくちゃいけないのかなぁ――っ!」
私はそんなことをぶつぶつと呟きながらむすっとした表情で資料の山と睨めっこしていた。
「はいっ、ぶつぶつ言わないっ!ちゃんと仕事片付けないとサークル行かせないよっ!」
「うぅ―――っ。先生の鬼畜ぅ――っ」
「しょうがないでしょっ、君の仕事なんだからっ」
「そうですけどぉ――っ」
「ほらっ、さっそとやるっ!」
「うへぇ――っ」
私は先生にそう言われるとしょうがなく溜息を吐いて資料の山を片付け始めた。
今日の授業もすべて終わり、サークル活動に勤しもうと軽い足取りで教室を出た私を阻止したのは担任の若本先生だった。何でも明日配る資料をクラスの人数分束ねなくてはならないそうなのだが、何か学校内で事件が起こったらしく忙しくて出来ないようなのである。そう言うわけでジャンケンに負けて決まってしまった庶務係である私は面倒な仕事を押し付けられ、先生はさっさと去っていった。
「あぁ――っ、早くサークル行きたい――っ!サークル行って・・・・・・この前買ってきた冷蔵庫の中に入ってるプリン食べたい――っ」
あんたはサークルで何やってんだよっと、自分でも突っ込みたくなるような台詞を吐きながら早く終わらそうと必死に手を動かしていた。しかしまだ暫く作業は終わりそうにない。
「大体事件って何なんだよ――っ、みんな先生達忙しそうにしちゃってさぁ――・・・」
私はそう呟くながら淡々と資料を片付けていった。しかし、そこで手が止まる。
「・・・・・・事件?そう言えば何の事件なんだろ?」
そう考えると私の手は自然と止まってしまった。
「全学年の先生達が忙しそうにしてるってことは、警察沙汰かな?かといって万引きなんてものじゃ無くて、もっと大それたもの・・・・・・」
「・・・・・・殺人?」
私は一つの推測を立てて顔をしかめた。しかし次の瞬間ぶはっと独りでに吹き出した。
「な訳無いよねぇ―――っ!学校外ならともかく学校内で殺人なんてあるわけないかぁ・・・・・・」
しかしそこで私は一つの確信を見つけてしまった。
「・・・・・・事件って事は、・・・・・・絶対二人ともそっちに行ってるじゃん・・・・・・。うわぁ―――っ!私だけ仲間はずれぇ―――っ!」
それに気がつくと私の手はめっきり作業を始めようとしなくなってしまった。そこで思いつく。
「どうせ先生見てないんだし、ちょっとくらい抜け出したって良いよねっ!よしっ、そうと決まればちゃっちゃと何が起こったのか見てこよ――っ!」
そう声を上げると私は資料から目を背けると勢いよく教室を抜け出していった。
どうも事件が起こったのは体育館らしい。そしてそこへ向かう途中に知ったのだが、どうやら本当に殺人事件だったらしい。・・・・・・いやぁ、物騒な世の中だなぁ。
そして私は若本先生に見つからないようにコソコソと移動すると、やっと体育館までやってきた。
「おっ、やってるやってるっ、やっぱり居たなここに・・・・・・って、あれ?」
私が体育館を覗いてみると、やはり予想通り同じサークルの後輩である羽海野 渉の姿があった。しかし、私が必ずここに居ると踏んでいた斉藤 君亜の姿は無かった。それを見て私は考えつく。
「・・・・・・絶対外でなんかの事件があったんだぁ――、そっちにいったなぁ――、後藤さんに呼び出されてっ」
そう言って私はぶすっくれた。
「みんなしてそうやって私を置いてほいほいいろんなとこに行っちゃうんだからぁっ」
そう言って私は体育館の中に足を踏み入れようとした。
この事件に君亜が来てないと言うことからこの学校外で何らかの事件が起こった事は容易に想像出来た。おそらく、彼はこの事件が知らされる前に他の事件の情報を聞きつけてそちらへ向かったのだろう。彼は結構頑丈な方であるから風邪をひいたとは考えにくいし、事件がこんな身近なところで起きているのに飛びつかないでほいほいと何処かに行ってしまうような彼ではない。と言うことは、彼がこの事件を知る前に他の事件を嗅ぎ付けてそちらへ向かったと言う方が自然なのだ。
「私も教室で一人寂しく資料と睨めっこするよりも事件解決に一役買った方がいいに決まってるもんね――っ」
そう呟くと私も捜査に協力しようと体育館内に駆け込もうとした。しかし、駆け出そうとしたその瞬間に私は嫌な声を聞いてしまった。
「・・・・・・来ないなぁ。これじゃ俺の計画がぁ――・・・・・・」
体育館内に入ろうとした私の耳に飛び込んできたのはそんな声だった。それを聞いた私は直ぐさま反対方向へ駆けだし、体育館近くの倉庫の物陰に身を隠した。
紛れもない、先ほどの声は間違いなく若本先生の声である。毎日聞いている声だから間違える筈がない。そして私が彼の前へ姿を晒そうものなら、あの資料の山に追い返される事だろう。私は危なかったと息を吐いて彼の姿が覗ける位置に身を隠すと彼のことを見つめた。
しかしそんな彼は何か心配そうに体育館裏をうろうろと歩き回っては止まり、周囲に人の気配が無いかきょろきょろと確認していた。明らかに挙動不審である。
現在体育館内が大変賑わって居るために体育館裏を通るものは居ない。何か不穏な企みをするには案外灯台もと暗しで絶好の場かも知れない。逃げるときは他の教師に混じって忙しそうにそそくさと退散すれば怪しまれずに自然とその場を離れられるだろう。何をするかはその人次第だが。
私は彼のことを暫くじっと見つめていた。彼は何か迷っているらしく何度か深く溜息を吐いていた。
しかしその時、私の目には彼が背中に隠している手の中に握られていたものを見てしまった。それは四角く、白いもので、彼はそれを緊張の為にか手汗で少し湿らせながらも固くしっかりと握っていた。
私はそれを見るとハッとして、急いで物陰から飛び出し彼の元へと飛び出していった。
「若本先生っ!」
私がそう叫んで物陰から飛び出してくると、先生は喫驚し私の姿を見つけて声を上げた。
「おっ、小野宮っ!?なっ何でここに君がいるんだよっ!?仕事まだ終わって無いはずだろ?早く教室に戻・・・・・・っ」
「それは出来ませんよっ、先生っ」
私はそんな先生に向かって声を上げた。そして言葉を続ける。
「・・・・・・だって私、先生が今からやろうとしていたこと分かっちゃったんですもんっ。なのにそんな先生を放って置いて教室になんか戻れないですよっ」
「なっ!ばっ馬鹿を言え、そんなの分かるわけが・・・・・・っ」
「先生っ?」
私はそう焦りながらも私の事を軽く嘲笑おうとした先生に向かって告げた。
「私こんなんでも一応サークルθの一員なんですよ?」
そう言われると、先生は苦虫を噛み潰したような表情を見せた。私はそれを見ると先生に向かって一歩一歩歩みを寄せる。
先生はそんな私を見て観念したように再び深く溜息を吐いた。
「いつから気づいてたんだ?」
「決め手になったのはやっぱりその先生の手に握られているものですっ。それがあったから私は飛び出して来ましたっ。それが見えなかったら、私は先生の計画が分からなかったと思いますっ」
私はそう言いながら先生に近づき、そしてすぐ目の前まで来ると止まった。
そんな私を見ながら先生はその時反論するように声を上げた。
「でっ、でもまだ希望はあるっ!まだ俺の計画が終わった訳じゃ・・・・・・」
「いやっ、終わりですっ。少なくとも今日の所は・・・ね?」
私はそんな先生に向かって言い放った。そう断言した私を見て先生は驚く。
「なっ何故そういえるんだ?」
「だって、私は先生にそれを伝えるためにここに来たんですからっ」
私は先生に向かってそう言うと、さらに先生に近づいて背伸びをし、先生に耳打ちをした。
「安藤先生なら来ませんよ?」
私はそう告げた。すると先生は心底驚いたように目を見開いた。
「なっなんでそこまで知ってるんだっ!?」
「私の情報量を嘗めないで下さいっ。そんなこととっくの昔に知って居ましたよっ」
私は一言告げると背伸びを止めて微笑みながらそう言った。
「安藤先生は来ませんよ?校長にこき使われていたので今日の内にここには来れないと思いますっ。私はだから先生の所に終わりを告げたんですっ。私は先生にそれを伝えようとここまで来たんですよっ」
私がそう告げると、先生はそれを聞いて突然肩を落として地面に膝をついた。
「・・・・・・本当に来ないのか?もしかしたらって可能性も・・・・・・っ」
「だから来ませんってっ。あの校長の人使いの荒さは先生の方が良く知っているでしょう?今日は絶対に来れませんよっ」
私はそんな先生に溜息を吐きながらそばに座り込み、そして先生の手の中のものにあったものをするりと抜き取った。
「だから今日は仕事に戻って下さいっ。こんなものなんか捨てちゃってっ」
私はそう言うと先生の目の前でそれをびりびりと破って見せた。それを見て先生が動揺を見せ、そしてその後落胆した。
そんな先生を見ながら、私は気の毒そうに言い放った。
「今日の所は終わりにしましょうっ。また明日がありますよっ。そう、先生にはその先だってあるんですっ。だからそんなに気を落とさないで下さいっ。こんな・・・・・・、手汗だらけでくしゃくしゃのラブレターなんて、安藤先生が喜ぶと思いますか?」
私がそう言うと、先生は諦めたように頷いた。
「・・・・・・そうだなっ、今日は日が悪すぎたんだ。また後にすればいいよな・・・・・・」
そう言って先生は空を見上げた。そして私に尋ねる。
「・・・・・・誰かにこのことを言うのか?」
そう問われた私はその質問に笑って見せた。
「そんなことしませんよっ!でも若本先生は安藤先生のことが好きらしいって噂が廻っていたからくれぐれも気をつけて下さいねっ?噂はいろいろと面倒でしょうからっ」
私がそう言うと先生も笑った。そして気を取り戻すとその場から立ち上がった。
「あははっ、そりゃ口止め料も必要かな?何が良い?」
そんな先生に私は微笑みながら答えた。
「私の口止め料は、それはそれは高いですよっ?」
そう言って私はそれを先生に伝えたのだった。
その場には肌を擦る冷たい風が吹く。そしてそんな風をも柔らかく包み込むように、優しく太陽の光が差し込んでいた。
「・・・・・・じゃっ、はいっ、口止め料のコンビニの季節限定苺プリンっ。頑張って学校抜け出して買ってきたんだからなぁっ!絶対言うなよっ!」
「はぁいっ!」
教室で待っていると、先生が息を切らしながら近くのコンビニで苺プリンを買ってきてくれた。後でいいと言ったのだが、先生はそれでも今すぐ行ってくると言って聞かずに学校を抜け出して買ってきてくれた。今学校が忙しいときだと言うのに御苦労な事である。まぁ、先ほどまでは校内で殺人事件が起こっているのに恋文を抱いていた女子教師を手紙で呼び出し、忙しくて来られないであろう事を知りながらもずっと待っていたのだが。
私はコンビニの袋を受け取ると嬉しそうに顔を輝かせた。ずっと食べたかったんだーっ!
しかし喜ぶのも束の間、先生は私に微笑みながらあるものを渡した。
「はいっ、じゃあ頑張って資料纏め解いてね―っ!」
「うっ!やっぱりそれやるのっ!?」
私は目を背けていた資料の山に仕方なく嫌そうに目を向けた。あぁ――っ、やっぱりこっちをお願いするべきだったかなぁ――っ。
私がそう後悔していると、先生がそんな私を見てにこやかに私に言った。
「じゃあ頑張るんだぞ――っ!」
そう言うと笑いながら去っていった。
「うわぁ―――っ!やっぱり鬼畜ぅっ!」
私はそんな先生の悩みの吹っ切れたようなさわやかな笑みに、資料の積まれた机に突っ伏しながら叫んだ。
なんで何の事件も起こらないんだーっとか、本当にこれは推理小説なのか?とか、くだらなすぎる等の苦情等感想はどんなものでもいいので頂けると嬉しいですっ。こんな作者ですが、これからどうか宜しくお願い致しますっ。